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Angel In Online  作者: 一狼
第11章 Night
53/84

49.竜の血と吸血鬼の血

10月14日 ――75日目――


「おお! あの『不死者の王』を倒して来たか!」


 俺達は再び夜の国に訪れていた。

 早速ミッドナイト王に『不死者の王』の討伐の報告をし、Nの王の証入手のための2つ目の条件を聞き出そうとしていた。


「いやぁー、あの生意気な骨野郎がくたばったのは気分がいいなぁ」


「折角のいい気分でいるところ悪いけど、Nの王の証譲渡の2つ目の条件って何?」


「少しは余韻に浸らせろよ。まぁいい。

 2つ目の条件も討伐系だ。あいつを倒してほしい」


 やはり思った通り2つ目の条件も討伐系だった。

 ミッドナイト王の話によれば『不死者の王』よりも強いと言う事だ。


「あいつって?」


 流石に討伐対象が不明のままでは対策も立てようがないので、鳴沢が訪ねる。

 ミッドナイト王は少し言いにくそうにしながらも、俺達の顔を見て意を決して答える。


「あー、あんた達の事だから尻込みするという事は無いと思うが、覚悟は決めて欲しい。

 倒してほしい相手は・・・ドラゴンだ」


 なんだ。勿体付けて話すからどんな強敵かと思えばドラゴンか。

 確かにドラゴンは手ごわい相手だ。

 俺達がたまにLv上げをしている竜の巣のドラゴンたちとは違い、多分ユニークボス系のドラゴンだとは思うが、今の俺達のLvにもなるとPTを組めば決して倒せない相手ではない。


 だがミッドナイト王の次に出てきた言葉は俺の予想を大きく上回っていた。


「それもただのドラゴンじゃない。吸血鬼の力を持ったヴァンパイアドラゴンだ」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 現王ナッシュ・ノル・ミッドナイトの父、前王ナパード・ノル・ミッドナイトは武力による支配を目指していた。

 その為、夜の国では人族の国に向けて数々の戦争を仕掛けては大勢の人族と吸血鬼(ヴァンパイア)が死んでいった。

 個々の力で勝る吸血鬼(ヴァンパイア)だったが、人族の英雄の武力や数の暴力には勝てず、夜の国の敗北は目に見えていた。

 ナッシュは争いを止め人族との停戦を提案したが、ナパードは一切耳を傾けなかった。

 ナパードはひたすら武力による支配を望み力を求め続けた。

 そしてある力を手に入れる。


 ――竜の血――


 吸血鬼(ヴァンパイア)の血を飲む特性を利用して、多種族の力を取り込む能力を発現させた。

 竜の血を飲み竜の力を手に入れようとしたナパードだったが、それは失敗した。

 逆に竜の血に呑まれて竜の力を制御できず暴走し、ナパードの体は吸血鬼(ヴァンパイア)の力を持ったドラゴンと化した。

 ドラゴンと化したナパードは理性を失い辺り構わず暴れるだけのモンスターとなったため、ナッシュ達吸血鬼(ヴァンパイア)は人族と協力してナパードを封印することに成功した。

 ドラゴンでありながら吸血鬼(ヴァンパイア)の力も持ったナパードを倒すのは容易ではなく、人族の英雄が聖剣グラムを竜の心臓に突き刺し動きを封じることで争いを終わらせることとなった。


 これがミッドナイト王から聞かされた地下深くに封印されているヴァンパイアドラゴンの正体だった。


「ちょっと待ってよ。ドラゴンと言えど吸血鬼(ヴァンパイア)の特性も持っているんでしょ?

 吸血鬼(ヴァンパイア)は心臓に杭を刺したら死ぬんじゃなかったっけ?」


 唯ちゃんが吸血鬼(ヴァンパイア)の特性上、聖剣を心臓に突き刺しているんだから死んでなければおかしいと言ってくる。


「まぁ、普通はそうなんだがな。

 竜の血と吸血鬼の血が変な風に混じり合ってしまっているんだ。

 そのせいか心臓に聖剣を刺しても死なずに、代わりに封印と言う形になったんだ」


 2つの血が変な風に相互作用を起こしてるってことか。

 厄介だな。確かにミッドナイト王が言う通り『不死者の王』よりも手強そうだ。


「そして何よりも厄介なのが、吸血鬼(ヴァンパイア)のとしての再生能力だな。

 奴に傷を入れても物の数秒で回復してしまう。奴を倒そうと思ったら余程の攻撃力じゃないと難しいだろう」


 再生能力か。AI-On(アイオン)で言えば毎秒HPが回復する治癒魔法のリジェネレートヒールがこれにあたる。

 確かにただでさえ倒すのが難しいドラゴンに吸血鬼(ヴァンパイア)の再生能力が加われば厄介なことこの上ない。


「銀の武器で攻撃は効果が無いの?」


「残念だが大した効果はないな。

 ドラゴンの特性が銀の武器の効果を阻害している。ミスリルの武器も同様だな」


 銀の武器が吸血鬼(ヴァンパイア)に有効なのは有名だ。

 鳴沢の言う通り銀の武器が効果があればいいが、既に試したことがあるのだろう。

 ミッドナイト王はヴァンパイアドラゴンに銀の武器、あるいはミスリルの武器も通じない事を言う。


「ふむ、ならば外ならどうだ?

 件のヴァンパイアドラゴンは地下に封印されているんだろ? 地下から外へ連れ出し日の光を浴びせればそれなりに弱体化が出来るんじゃないのか?」


「流石に太陽の光までは克服してないんだが、奴は暴走しているくせにちゃんと知恵があって闇属性魔法で太陽の光を遮るんだ。

 寧ろ外で大暴れで余計な被害が出るかもしれん。出来れば地下での決戦を頼みたい。

 下手に飛んで逃げられたら厄介だし」


 クリスの提案した太陽の光は有効手段だが、なまじヴァンパイアドラゴンに知恵があるせいで決定打にはならないらしい。


 と言うか、暴走しているくせに知恵があるというのはどういう状態なんだよ。


 考えてみれば吸血鬼(ヴァンパイア)達は自分たちの特性を知り尽くしてるのだ。

 ヴァンパイアドラゴンに対抗する手段は既に試しているに決まっている。

 その上で封印と言う手段しか取れなかったんだ。


 いや、待てよ。

 太陽の光は有効なんだよな。

 闇属性魔法で防がれるが、闇属性魔法を上回る太陽の光なら効果があるんじゃないのか?


「ミッドナイト王、もしヴァンパイアドラゴンに太陽の光を当てれればどうなるの?」


「ん? そうだな。死にはしないが、再生能力は失われ身体能力も弱体化するな」


「よし! それなら倒すことが出来るわ」


「おいおい、俺の話を聞いてないのか? 太陽の光は効かないんだよ」


 ミッドナイト王はちゃんと話を聞けよと言わんばかりに俺に言ってくる。


「闇属性魔法に防がれるからでしょ。だったら神の力を持つ太陽の光だったらどうかしら?」


 俺の作戦にみんなが思わず息を呑む。


「そっか! フェルの持つ神降しスキルのアマテラスなら効果があるかも!」


「そう、アマテラスは太陽の神と称されているわ。多分、神降しでアマテラスを使えばそれだけで太陽光の効果があると思うの」


「なるほど、神の力を使うのか。それならば効果があるかもしれないな」


 ミッドナイト王もこの作戦には納得する。

 流石に今まで神の力を使ったことは無いだろう。今回のこの作戦にはミッドナイト王もかなり期待しているのが目に見える。


「なぁ、だったらこれってユニーク職の神薙がいないと無理なクエストなんじゃないのか?」


「言われてみればそうね。

 ヴァンパイアドラゴンの再生能力を防ぐ手段がアマテラスだけだったら、ユニーク職に就いてないと難しいクエストって事よね。

 と言う事は、これって実はLv80クラスのクエストって事?」


 ヴァイ、ヴィオがそれぞれ疑問を口にする。

 確かに2人の言う通りだとしたら、『夜の国の王』のエンジェルクエストはLv80クラスの難易度になる。

 だが実はユニーク職以外、もう1つの方法に心当たりがあったりする。


「いや、これはそこまでのLv80クラスのクエストじゃないわ。

 多分こっちが正攻法でしょうね。

 太陽神サンフレアの神器・光の宝玉。これがあればヴァンパイアドラゴンを攻略できるわ」


「え? そんなのあるんだ。

 でもそれって結構レアな情報じゃないの? あたし聞いたことないんだけど」


 ヴィオの疑問同様、みんなも聞いたことが無いような情報だったみたいだ。

 まぁ、そりゃあそうだろう。

 サンフレア神殿、ルナムーン神殿、ブルブレイヴ神殿にそれぞれ祀られてる神器はそう簡単には表には出ない代物だ。

 俺はたまたま月神の巫女ルーナちゃんのクエスト関連でその存在を知ったのだからな。

 俺はその時の事をみんなに話す。


「まぁ、もっとも光の宝玉を借りに行くにしても、元プレミアム王国に行かなきゃならないし、そう簡単に借りれるものでもないからね」


 そう言えばサンフレア神殿はどうなっているんだろう?

 あの戦争イベントで王都ミレニアムも崩壊してしまっているので、神殿そのものも無くなっているのかもしれない。

 だとしたら神器を借りるのは不可能に近いのか?

 いや、パティアが太陽神の巫女だったはずなので、神器を確保しているのかもしれない。


 パティアと言えば『希望の女王』のエンジェルクエストも進めなければいけないな。

 と言うかどうやって進めるんだ?

 あの戦争イベントでうやむやになっているんだよなぁ。

 うーむ、一度元プレミアム王国に行って状況を確認しなければならないな。


「確かサンフレア神殿はプレミアム王国にあったのよね? 今のあの国の状態じゃちょっと借りるのは難しいかもね。

 まぁ良いわ。フェルがいればヴァンパイアドラゴンを攻略できるからそれで行きましょ」


 俺達は頷き合い、そのままヴァンパイアドラゴンの居る地下へと向かった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 王宮と称される地下部屋よりもさらに深く下へ降りていくと、巨大なドーム状の空間にたどり着く。

 巨大なドームの中は薄暗くはあったが、魔力と思われる光によって辺り一面を照らしていた。

 その中央には巨大な黒いドラゴンが心臓に聖剣を刺されて佇んでいた。


「あれがヴァンパイアドラゴンね」


「ああ、今は心臓に聖剣が刺されて封印状態――活動休止になっている。ちなみに俺にはあの聖剣は触れないからな」


 どうやら聖剣は吸血鬼(ヴァンパイア)には天敵らしく、ミッドナイト王には触ることが出来ないらしい。

 だからこそ封印することしかできず、俺達にヴァンパイアドラゴンの退治を依頼した訳だ。


「そうね、あの聖剣を引き抜くのは疾風にお願いするわ。

 あと、ミッドナイト王はこのドームから出てた方がいいわね。

 アマテラスを召喚すればミッドナイト王にもダメージがいくわ。下手をすれば死亡するかもしれないし」


 俺の指示にミッドナイト王は素直にドームの外で待機する。

 俺達はヴァンパイアドラゴンに近づき、戦闘の準備を始める。


 俺はボス用にお馴染みになった六芒星の盾(ヘキサシールド)に、ステータスを上昇させる四重加体強化(フォルスブースト)を掛ける。

 いつもならこの後に獣化スキルのベアアームとガゼルレッグを掛けるのだが、神降しスキルを発動すると何故か獣化スキルが解除されてしまうため掛けないでいる。

 まぁ獣化も神降しも憑依系なので、神の力が最上位で優先されるためだろう。


 みんなも各自Buffを掛け、仕上げに俺とヴィオとで蘇生魔法のプリザベイションを掛けておく。


 ちなみに再び夜の国に訪れる前に俺達は『不死者の王』のドロップで装備を一新している。

 『不死者の王』のドロップには俺達は目を疑った。


 英雄の遺骨×5、オリハルコンインゴット×5、オリハルコン鋼糸×5、英霊の聖鎧のレシピ、英霊の聖衣のレシピ、ここまではまだいい。

 ミスティルテイン(剣)、ゼウスケラウノス(斧)、グングニル(槍)、ケーリュケイオン(杖)、アイギス(盾)などのスケルトンロードが使ってたと思われる武器防具もドロップしたのだが、これらすべてがLEGENDARY ITEMだったりする。

 流石にこれには驚いた。何せ5つもの伝説級の武器防具が出てきたのだ。


 ミスティルテインは疾風が、グングニルは唯ちゃんが、ケーリュケイオンはヴィオがそれぞれ装備することとなり、残りのゼウスケラノウスとアイギスは取り敢えず使う人がいないので保管しておく。


 その後で朝霧さんのところでオリハルコンを元にした英霊の聖鎧と英霊の聖衣を作ってもらったのだ。

 聖鎧はインゴットが2つ、聖衣は鋼糸が2つ使うのでそれぞれ2つずつ造ってもらい、残ったインゴットと鋼糸は朝霧さんにプレゼントした。

 聖鎧は俺と疾風が、聖衣は鳴沢とヴィオがそれぞれ装備をした。

 もっとも俺は萌えスキルの所為で装備しても外見はコスプレ巫女のままだが。

 英霊系の防具はユニーク装備だったのでかなり防御力が上がったのだ。


 一通りの準備が整ったところで疾風がヴァンパイアドラゴンに刺さっている聖剣グラムを抜き放つ。


 抜き取った聖剣はそのまま使用することが出来るようで、疾風は聖剣グラムを構えてヴァンパイアドラゴンに対峙する。


 聖剣を抜かれたヴァンパイアドラゴンは心臓が活動し始めて、次第に鼓動が大きくなってくる。

 鼓動が大きくなるにつれてヴァンパイアドラゴンの体躯が蠢動し、翼を大きく広げた。


『グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ――――!!!』


 ヴァンパイアドラゴンの咆哮と共に戦闘が開始される。


 まずは検証の意味を込めて疾風が瞬動で一撃を与える。

 ヴァンパイアドラゴンのHPが少し削れるが、数秒もしないうちに回復して何事もなかったように俺達に襲い掛かってきた。


 ふむ、確かにこれは厄介だな。

 もし力押しするとなればHPが回復する暇もないほどの大ダメージの連続攻撃をしなければならなかったかも。


 ともあれ、俺は予定通り神降しスキルを発動する。


「神降し! アマテラス!」


 アマテラスをその身に宿すと同時に声が聞こえてきた。


『月読の加護を持ちし者よ。我が力を存分に発揮するがよい』


 なんだ!? 今まで神降しスキルを使ってもこんな声は聞こえてこなかったぞ?


 アマテラスをその身に宿すと同時に、俺から後光のような光が辺りを照らす。

 そしてアマテラスを宿した身体(アバター)は今まで以上に力が溢れていた。


 さっきの声はどうみてもアマテラスの声だ。

 と言うか、月読の加護って月神ルナムーンの加護の事だよな。

 薄々は気が付いていたけど、サンフレア、ルナムーン、ブルブレイヴの三柱神(みはしらのかみ)は天照大神、月読、素戔嗚の三貴神の事だったんだな。


 つまりこれは、俺がルナムーンこと月読の加護を持っていたからアマテラスが最大限の力を貸してくれているという事だ。

 神降しによるステータスの増加も、本来の神降しアマテラスよりも大幅に増大しているように思えた。


 ヴァンパイアドラゴンはアマテラスの後光を嫌がり闇属性魔法の呪文を唱えて光を遮ろうとする。


『ダークミスト』


 辺り一面に闇の霧が覆い光を遮り、辺り一面が夜のように暗くなる。

 だがそれも一瞬の事で、アマテラスの後光により闇の霧が消し飛ばされる。


「疾風!」


 俺の合図とともに再び疾風が瞬動で一撃を与える。


 ズドン!


 アマテラスの後光により、今度はHPが回復することなく確実にヴァンパイアドラゴンのHPを削りダメージを与えた。


「おっし! これならいけるぜ! 魔獣憑依! ワイルドベア!」


 HPバーを確認したヴァイは魔獣憑依により熊の獣人となり、ヴァンパイアドラゴンに接敵する。

 ヴァンパイアドラゴンは接敵してきたヴァイ目がけて前足の振り下しで攻撃をする。

 ヴァイは避けずに両手を頭上で交差してその前足の攻撃を受け止める。


 ワイルドベアの魔獣憑依はスピードは左程ではないが、ドラゴンの攻撃すら受け止めるほどのパワータイプの魔獣憑依だ。

 ヴァイはそのまま受け止めた前足に向けて拳スキル戦技を放つ。


「っらぁ! 爆拳!」


 前足に攻撃を受けてバランスを崩したところへ、唯ちゃんが後ろ脚に向かって槍スキル戦技を放つ。


「はぁぁっ! 旋風十字閃!」


 だが倒れるまでの攻撃とはいかず、その場にとどまったヴァンパイアドラゴンは体を旋回させ、唯ちゃんに向かって尻尾による薙ぎ払いを放つ。


 俺はプチ瞬動で唯ちゃんと尻尾の間に割り込み、二刀流スキル戦技・十字受けでヴァンパイアドラゴンの薙ぎ払いを受け止める。


 おお~! まさか受け止めきれるとは思わなかった。

 アマテラスの神降しはハンパないな。


 唯ちゃんはそのまま尻尾から背中を駆け上がり頭部に向かって槍スキル戦技を放とうとするが、ヴァンパイアドラゴンは一旦飛び上がり唯ちゃんを振り落す。


 跳びあがり一旦距離を取ったヴァンパイアドラゴンは、着地と同時に氷属性魔法の呪文を解き放つ。


『ダイヤモンドダスト』


 ヴァンパイアドラゴンを中心に周りの空気の部分部分が凍った瞬間に弾け、それが連続して放射状に広がって俺達に襲い掛かる。

 俺は太陽の神であるアマテラスの力を宿してるため氷属性魔法は左程ダメージを受けなかったが、みんなはかなりのダメージを受けた。

 くっ、元が吸血鬼(ヴァンパイア)だけあって魔法の力も威力がハンパないな。


「エリアエクストラヒール!」


「エリアハイヒール!」


 すかさず鳴沢と俺の唱えた範囲治癒魔法でみんなを回復していく。

 その隙を狙ったのか、ヴァンパイアドラゴンは息を吸い込む動作を見せた。


 やばい、ドラゴンブレスだ。


 だがブレスを吐く瞬間に、クリスと疾風の攻撃によって防がれる。


「チャージショット!×2」


「天牙一閃!」


 クリスの放つ弓スキル戦技がヴァンパイアドラゴンの両目を貫き、目標物を見失わさせる。

 そして疾風の放った刀スキル戦技がヴァンパイアドラゴンの首を斬り裂きブレスの方向をずらさせる。


 少しずつではあるが、確実にヴァンパイアドラゴンのHPを削っていく。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


『インフェルノ』


 ヴァンパイアドラゴンの放つ火属性魔法の獄炎により辺り一面が炎に包まれる。


 くそっ、さっきからヴァンパイアドラゴンの範囲魔法攻撃が止まらない。


 だが炎の攻撃は鳴沢には通じない。

 鳴沢は腰のレーヴァティンを抜き放ち纏わりつく炎を一塊にし、ヴァンパイアドラゴンへ弾き返す。

 そしてすぐさま治癒魔法で俺達のHPを回復する。


「エリアエクストラヒール!」


 そして少し遅れてヴィオの治癒魔法も飛ぶ。


「エリアエクストラヒール!」


 鳴沢とヴィオには俺達の回復に専念するようにお願いしている。

 それと言うのも、ヴァンパイアドラゴンの標的が俺に向いているからだ。

 ヴァンパイアドラゴンはアマテラスの後光を放つ俺を最優先ターゲットにして攻撃を仕掛けてくるせいで、回復よりも迎撃をする方が多くなっているためだ。


 どうやらこの後光、余ほど敵愾心(ヘイト)を稼ぐみたいだな。


 そんな訳で俺が攻撃の中心となってヴァンパイアドラゴンに波状攻撃を仕掛けてるのだ。


「天牙十字閃!」


 刀スキル戦技・桜花一閃の上位版の天牙一閃と二刀流スキル戦技・十字斬りを合わせたオリジナルスキルをヴァンパイアドラゴンに叩き付ける。


『グルアァァァァァァァ!!』


 度重なる攻撃に堪えたのか、ヴァンパイアドラゴンの咆哮が響き渡る。


 行ける! HPも残りわずか、このままいけば押し切れる!


 攻撃をし終わった直後にヴァンパイアドラゴンの前足が俺に襲い掛かるが、クリスの放つ魔法矢により弾き飛ばされヴァイの放つ拳スキル戦技でバランスが崩される。


 それと同時に唯ちゃんと疾風のそれぞれの戦技がヴァンパイアドラゴンのHPを削る。


 いよいよHPが残りわずかとなったヴァンパイアドラゴンは最後の攻撃とばかりに範囲魔法を解き放つ。


『サイクロトロン!』


 ヴァンパイアドラゴンの周りに光の輪が現れ、そこから大量の雷が迸り俺達に襲い掛かる。

 加速荷電粒子砲とも呼ばれるこの雷属性魔法はダメージの量が桁違いだ。

 サイクロトロンの一撃でみんなのHPが半分近く削り取られる。


 だがヴァンパイアドラゴンの攻撃はそれで終わらなかった。

 ヴァンパイアドラゴンの体が霧になって消えたかと思うと突如俺の背後に現れる。


 しまった! 吸血鬼(ヴァンパイア)の特殊能力か!


 ヴァンパイアドラゴンは咢を広げ牙の攻撃をしてくる。

 俺はステップで辛うじて躱すが、完全に躱しきれずに月読の太刀ごと左腕が食われる。


 このままでいけば左腕は欠損Buffが付き、欠損状態となるため左腕は消滅する。

 そして一緒に飲みこまれた月読の太刀は武器アイテムであるため、ヴァンパイアドラゴンの腹の中に入るという事は無くアイテムストレージに移動する形になる。


 だが今はまだ食われた段階――口の中に左腕と月読の太刀がある状態だ。

 つまり食われた月読の太刀はまだ武器として機能すると言う事だ。


 俺は左腕を伸ばしたイメージで左腕を振りぬき月読の太刀を起点に刀スキル戦技を放つ。


「神威一閃!!」


 刀スキル戦技の最上位ともいえる神の一閃をヴァンパイアドラゴンの口の中から放つ。

 使用している神降しアマテラスと月読の太刀に繋がりが有った為か、はたまた使用した戦技がアマテラスの力と作用した為なのか、月読の太刀が光を放ちヴァンパイアドラゴンの頭が吹き飛んだ。

 それと同時にヴァンパイアドラゴンのHPは0となる。


 ヴァンパイアドラゴンの体は灰となり、崩れ去って消える。

 後に残されたのは左腕と月読の太刀だけだった。


「ふぅ~、何とか勝てたわね」


 俺は妖刀村正を納刀し、残った右腕で月読の太刀を回収して左腕を治癒魔法をかけて治す。


「ふはー、流石にちょいきつかったな。

 つーか、最後の攻撃は何だよ。腕が食われて状態で戦技を使用するって規格外にも程があるだろ」


「いや、あれは『イメージ効果理論』の応用だろう。

 確かにゲームシステムとしてみれば欠損した状態ではスキル等は使えないが、消滅する前なので『イメージ効果理論』で強引に腕が繋がっているように操作して武器を使用できたのだと思う」


「それって都合よすぎない?」


「それは否定しないさ。そもそも『イメージ効果理論』自体が都合のいい解釈だからな」


 ヴァイが流石に最後の攻撃には無理があるんじゃと突っ込みを入れるが、クリスがわざわざ解説してくれる。

 まぁ、ヴィオやクリスの言う通り都合よすぎる解釈だが、何故か出来てるんだからしょうがない。


「『Angel Out』の諸君、よく我が父、いや、ヴァンパイアドラゴンを倒してくれた。ミッドナイト国の王としてお礼を申し上げよう。

 報酬等の話は取り敢えず上へあがってからにしようではないか」


 ヴァンパイアドラゴンとの戦闘が終わったのを確認したミッドナイト王が俺達に労いの言葉を掛けてくる。

 俺達はミッドナイト王に従い王宮の応接室へ戻ることにする。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「それではこれが約束のNの王の証だ」


 そう言ってペンダント型のNの王の証を俺に渡してくる。




 ――エンジェルクエスト・Nightがクリアされました――




 俺は渡されたNの王の証がPT用のアイテムストレージに格納されたのを確認する。


 Nの王の証

 『夜の国の王』を倒した、または認めてもらった証。

 ※QUEST ITEM

 ※譲渡不可/売却不可/破棄不可

 ※王の証を所有した状態で死亡した場合、王は復活します。

 ※特殊スキル「Night」を使用することが出来る。

 効果:24分間、全てのステータスが5倍になる。夜間時には更に2倍になる。

    特殊スキル効果終了後、24時間「Night」のスキルが使用不可能になる。

               24時間、太陽の光を浴びると死亡する。

               24時間、全てのスキルが使用不可能になる。


「・・・これはまた凄まじいスキルだね」


 鳴沢の言葉は俺だけではなく、みんなの気持ちも代弁していた。

 流石にこのスキルの効果には言葉を失ってしまう。


 ただでさえステータス5倍の効果は凄いのに、夜間時には更に2倍――つまり10倍にまで跳ね上がるのだ。

 俺の持つ極大魔力スキル並みのチートだ。


「それでこれはベルか疾風のどちらが持つ?」


 ヴァイはUの王の証で3つ揃ったので残った2人に聞いてみるが、2人はうーんと考え込んでしまう。

 まぁ、無理もない。

 強力なスキルだが、デメリットが大きすぎるのだ。

 24時間太陽光を浴びると死亡する上、スキルの使用が不可能と言うおまけ付だ。

 ここまで強力なスキルなのでデメリットも分からないわけではないが、死亡までするというのは流石にデメリットとしては初めてだ。


「俺が持とう。

 今後手に入れる王の証によっては有効な特殊スキルが得られるかもしれない。その時の為にベルザは枠を1つ開けておいた方がいい」


 確かに疾風の言う通り、今後の王の証を考えると鳴沢も疾風も残りの枠を開けておいた方がいいのだろう。


「そうね、それじゃあ疾風がNの王の証を持ってね。それと、その特殊スキルは余ほどの事が無い限り使わないでよね」


「ああ、分かってる。俺も流石にこの王の証は余ほどの事が無い限り使う気にはならないよ」


 太陽光を防ぐ方法としては、ヴァンパイアドラゴンがやったように闇属性魔法で防ぐことは出来るかもしれないが、完全に防げるとは限らない。

 一番いいのは特殊スキルを使用しないことだ。ステータス10倍の効果は惜しいが。


「さて、約束は『不死者の王』とヴァンパイアドラゴンの討伐だったが、ヴァンパイアドラゴンは夜の国の問題でもあったからな。

 ヴァンパイアドラゴンの討伐に対して夜の国から報酬を与えよう」


 ミッドナイト王はそう言って3つのコルクで栓をした試験管を取り出した。

 中に入っている液体は赤い色をしている。


「これはついさっきあんた達が倒したヴァンパイアドラゴンを作る原因となった竜の血(ドラゴンブラッド)と、我々吸血鬼(ヴァンパイア)吸血鬼の血(ヴァンパイアブラッド)、そして我が夜の国が秘蔵している悪魔の血(デモンブラッド)だ。

 これをあんた達に授けよう。俺達は失敗したが、あんた達なら上手く活用するだろう」


 渡された試験管はPT用のアイテムストレージに格納される。



 ドラゴンブラッド

 ※ユニークスキル。このスキルは一度サブスキルにセットすると取り外すことは出来ません。

  身体系のステータスが強化される。

  竜人化の戦技等が使えるようになる。


 ヴァンパイアブラッド

 ※ユニークスキル。このスキルは一度サブスキルにセットすると取り外すことは出来ません。

  日中時は全てのステータスが2/3に、夜間時は全てのステータスが2倍になる。

  ミストドライヴとブラッドサーヴァント等の戦技が使えるようになる。


 デモンブラッド

 ※ユニークスキル。このスキルは一度サブスキルにセットすると取り外すことは出来ません。

  魔力系のステータスが強化される。

  魔属性魔法等が使えるようになる。



 渡されたアイテムの詳細を見て再び俺達は絶句する。

 なんじゃこりゃ。

 ユニークスキルってここだけのスキルってことか。つまりどの職業にも使うことが出来ないスキルと言う事だ。

 ドラゴンブラッドの竜人化、これは竜属性魔法と被ってないか?

 ヴァンパイアブラッドはバランスが良さそうだけど日中のデメリットが痛い。

 デモンブラッドの魔属性魔法って初めて聞くぞ!?


「唯、ドラゴンブラッドが欲しい!」


 唯ちゃんが竜の血を欲しがる。

 確か唯ちゃんは『不死者の王』の時なんかは力不足を感じていたから、今回のこれは己時力を上げるのに最適だろう。

 だが少し心配があった。

 俺はミッドナイト王をちらりと見る。


「ああ、ヴァンパイアドラゴンのような暴走を危惧してるのなら心配しなくていい。

 あれは竜の血と吸血鬼の血がお互い拒否反応を起こしたからだ。2つの血を同時使用しなければ大丈夫さ」


 ふむ、なら問題は無いのか。

 唯ちゃんは喜んでドラゴンブラッドを受け取る。


「ねぇ、フェル。あたしこのデモンブラッドって言うのが欲しいけど、いい?

 あたしは大賢者(マギセージ)に転職の予定だけど、ユニーク職にも無い魔属性魔法ってのが気になって」


 む、鳴沢に悪魔の血か・・・

 うむむ、何か心情的には渡したくないなぁ。


「ミッドナイト王、何かリスクなんかはあるの?」


「いや、これと言って特には。ただ魔属性魔法は精神力じゃなく体力を使うから気を付けることだな」


 ふむ、MPではなくHPを消費して魔法を使うと言う事か。

 それ以外は普通の魔力系の強化と言ったところか。


「分かったわ。ただ魔属性魔法を使う時には注意してよね」


「了解」


「フェンリル、残ったヴァンパイアブラッドはどうする?」


 いくら脳筋とはいえデメリットが厄介なのを理解していて、流石にヴァイもこれには手を出さずどうするか聞いてくる。


「これは保留にしておきましょ。わたしが預かっておくわ」


 と言うか、ヴァンパイアブラッドとNの王の証を組み合わせれば夜の間は無双状態じゃねぇか?

 ステータス20倍なんて七つの竜の球を集めるマンガに出てくる界○拳20倍かよって突っ込みたくなるよ。


 まぁアイテムドロップやら報酬やらとんでもないことになったが、俺達は『不死者の王』と『夜の国の王』のエンジェルクエストを無事に終えることが出来た。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


生産に関するスレ20


102:ワーカーホリック

 朗報! ついにミスリル銀糸の上位ともいえるアイテムが登場したぞ!


103:ダードリック

 >>102 mjd!?


104:朱里

 >>102 詳細を詳しく


105:佐々やん

 >>102 kwsk!


106:シ者カヲルン

 ああ、それってオリハルコン鋼糸のことだね


107:ワーカーホリック

 >>106 うぉおい!? 俺のセリフを取るなよ!?


108:パパロバ

 おおお、オリハルコン製の糸か~


109:ダードリック

 どこからレシピを見つけて来たのか気になる・・・!


110:ワーカーホリック

 ああ、何でも朝霧さんがオリハルコン鋼糸を手に入れたらしいんだ

 で、ミスリル銀糸のレシピからパターンを読んでレシピを発見したみたいだよ


111:小悪魔

 うん、ミスリル銀糸のレシピが出てきてから他の鉱石をいろいろ試したけどついぞ見つからなかったんだよね

 そっか~、他の鉱石を吹っ飛ばしていきなりオリハルコンか~


112:ライト

 と言うか、朝霧さんもよくオリハルコン鋼糸何て手に入れられたな


113:シ者カヲルン

 ああ、彼女はソードダンサーとも繋がりがあるからね


114:バブルボム

 ってことはソードダンサーが鋼糸を手に入れたってことなのか?


115:ワーカーホリック

 ちなみに朝霧さんはオリハルコン鋼糸のレシピを公開するそうです


116:朱里

 >>115 本当ですか!?


117:佐々やん

 >>115 mjk!?


118:のぞみ

 朝霧さんも思い切ったことするなぁ


119:ダードリック

 つーか今の市場でそんなにオリハルコン鉱石って出てないよな?

 またミスリルの時みたいにオリハルコンが高騰するんだろうなぁ


120:リンドバーグ

 あの~大変申しにくいんだけど・・・


121:ワーカーホリック

 ん? なんだ?


122:朱里

 なんでしょうか?


123:小悪魔

 そう言えば120はミスリル銀糸のレシピを見つけた人でしたね


124:パパロバ

 ・・・なんか嫌な予感しかしないんだけど@@;


125:リンドバーグ

 えっと、オリハルコン鋼糸じゃなくオリハルコン神糸のレシピを見つけたりするんだよね、これが・・・


126:ワーカーホリック

 >>125 んなっ!!?


127:ダードリック

 >>125 ちょwww


128:小悪魔

 私は125が何を言っているのかわかりません・・・


129:バブルボム

 ・・・これ確実に市場は荒れるよね・・・






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