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Angel In Online  作者: 一狼
第9章 Death
44/84

42.死を与えるものと死を拒むもの

 俺は右手で右腰の妖刀村正を、左手で左腰の月読の太刀を逆手で引き抜き順手に持ち替える。

 そして王の証の特殊スキルを発動させる。


「スキル発動! Crescent! スキル発動! Start!」


 Cの王の証の特殊スキルでLUC値を大幅に増加し、『死を撒く王』の高確率の即死攻撃に備える。

 Sの王の証の特殊スキルで24分間以内に片を付けるため全てのステータスを2倍にする。


「さて、時間も限られてることだし一気に行かせてもらうよ!」


『ほほほっ、若い者はせっかちじゃのう。儂を倒したければのんびり構えることじゃ』


 生憎とそうもいかないんだよ。こっちは24分以内に『死を撒く王』(あんた)を倒さないとスキル不能で戦闘続行が難しくなるんでな。


 俺は新しく手に入れたダッシュスキルとステップスキルを同時発動してプチ瞬動を発動する。

 ここに来るまでに死霊系モンスター相手に実戦練習をしたが、疾風ほどの一瞬で移動するほどの瞬動は出来ずに目に映るくらいの瞬動が発動するくらいだった。

 それでも相手との間合いを詰めるのには今までの連続ステップよりは有効だ。


 一瞬で『死を撒く王』の懐に入り二刀流スキル戦技・三連撃をお見舞いする。


『ほほほっ!?』


 突然間合いを詰められて反応でずに攻撃を受けたが、すぐさま『死を撒く王』は反撃するべく大鎌を目の前の俺に振り下す。

 当然反撃を予想していたので『死を撒く王』の大鎌をターンステップで躱し、唱えていた呪文を解き放ち魔法剣を叩き込む。


「バーストフレア!

 アクアプレッシャー!

 サイクロンバースト!

 サンダーブラスト!」

――四元双牙!」


 ズガァァァァン!


 一度『死を撒く王』から距離を取り様子を見る。


『ほほほっ、なかなかやりおるのう。じゃが儂はこんなもんじゃ倒せないぞ』


 俺は『死を撒く王』のHPを見て愕然とした。

 『死を撒く王』のHPバーは5%くらいしか削れていなかった。

 伝説級の刀に極大魔力のチート、累計Lv80のスペックにステータス2倍の特殊スキル。

 これらを駆使して繰り出した魔法剣でのダメージが、僅か5%ってどんだけHPが有り余ってるんだよ。

 高確率の即死攻撃の恐怖に怯えながら化け物並みのHPをちまちま削っていくボス戦。

 これで『死を撒く王』を倒せとはAI-On(アイオン)の開発者は良い性格をしているよ。


 それでもやることは決まっている。

 出来るだけ最大の攻撃で『死を撒く王』のHPを削るしかないんだ。

 再びプチ瞬動で間合いを詰め、剣舞(ソードダンス)をお見舞いしながら魔法剣を叩き込んでいく。


 『死を撒く王』の高確率の即死攻撃は、大鎌を受けた時点で判定があるのでその全てを躱していく。

 もちろん大鎌を刀で防御しても判定があるので、全てをステップスキル又は短距離のプチ瞬動を駆使して躱す。


『ほほほっ、ここまで儂の攻撃を躱すものは初めてじゃのう。だがこれは躱しきれるかの!』


 『死を撒く王』は大鎌を横に薙ぎ払う。

 その動作は大ぶりだったため攻撃を予測できたのでバックステップで躱すが、『死を撒く王』の攻撃は大鎌ではなかった。

 大鎌を横に薙ぎ払うと同時に紫の光があたり一面を覆う。


 くっ! 範囲攻撃か!


 俺はピアスの特殊アビリティ流れ星の幸運を発動させる。

 一時的にLUC値がさらに2倍になる。よほど運が悪くなければ即死攻撃にはならないはず。

 だが次の瞬間、パキンと何かが壊れる音がする。


 ――祝福されしお守りが壊れました――


 どうやら今の範囲攻撃で即死判定が出たらしい。

 2個の身代わりアイテムの内1個が壊れて即死攻撃を防いでくれた。


 おいおいおいおい、どんだけ運が無いんだよ俺は。

 特殊スキルCrescentよるLUC値の大幅増加、特殊スキルStartによるLUC値の2倍、特殊アビリティ幸運の満月のLUC値2倍、それに加えて特殊アビリティ流れ星の幸運の2倍。計8倍以上のLUC値だ。

 これらをすべて使っても1/6が1発目で当たりやがった。


 身代わりアイテムを持っておいて運が良かったというか、1発目で当たり運が無かったというか。


『ほほほっ、お主運がいいの。当たりなのに外れとは。いや、当たりだから運が悪いのかの? ほほほっ』


 くそ、余裕かましやがって。

 だったらその余裕出せないくらい攻撃で押しつぶしてやるよ!




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「――桜花風雷十字!」


 二刀流スキル戦技・十字斬りに、刀スキル戦技・桜花一閃と風属性魔法の竜巻と雷属性魔法の雷嵐の魔法剣を加えたオリジナルスキルが決まる。


『がふっ!』


 今の一撃で『死を撒く王』のHPが3割を切った。

 特殊スキルの残りの時間はまだ10分もある。

 この調子でいけば押し切れる!


 だが、世の中そう簡単にはいかない。

 最早お約束ともいうべきか、『死を撒く王』の様子が変わっていく。


『ほっほっほっ・・・ほ―――――――――――――っ!!!

 貴様! 殺してやる! 儂をここまで追い込みやがって! 儂は追い込むのは好きだが追い込まれるのは嫌いなんじゃ!!

 虫けらは儂の前で恐怖に怯えながら死んでいけばいいんじゃ! 貴様もとっとと死ね!!』


 おいおい、余裕を出せないくらい攻撃で押しつぶしてやるって言ったけど、これは余裕なさすぎだろ。


 『死を撒く王』は滑るように間に間合いを詰め、大鎌を振るう。

 様子が変わったと言っても攻撃方法は変わってはいない。

 相変わらず手に持った大鎌で攻撃を振るうだけだ。

 ただ攻撃速度が先ほどとは違い、途轍もなく素早くなった。


 先ほどまでのゆったりした攻撃になれてしまっていた為、この突然早くなった攻撃には対応できなかった。

 仕方なしに特殊アビリティ流れ星の幸運でLUC値を2倍にし、二刀流スキル戦技・十字受けで『死を撒く王』の大鎌を受け止める。


 幸い即死判定は出なかったので『死を撒く王』に蹴り飛ばし一旦距離を取る。

 だが明らかに様子の変わった『死を撒く王』にはそれは一時しのぎにもならず、再びあっという間に間合いを詰めて大鎌の乱舞を振るう。


『ほ――――――――――――――っ!!』


 くそっ! 流石にこの乱舞は全てステップでは躱しきれずに何度か刀で大鎌を弾き返す。


 ――祝福されしお守りが壊れました――


 再び身代わりアイテムが壊れる。

 これで身代わりアイテムの残数がゼロ。

 次に即死攻撃が当たれば死ぬことになる。


 プチ瞬動のバックステップで距離を取り一度心を落ち着ける。

 幸い向こうも一度乱舞しての技後硬直の為か、こちらの様子を伺いながら佇んでいた。


 やばいな。これ以上攻撃を受けるのは拙い。

 ・・・いや、返ってこれが一番いいのかもしれない。

 余計な事は考えるな。ここから先は全て攻撃のみを考えろ。

 相手の先の動きを読んで、全てを躱しながらひたすら攻撃あるのみ。


 ――流水剣舞ラーニングソードダンス!!


 プチ瞬動で間合いを詰め、クロスステップで『死を撒く王』の背後に回りながら刀スキル戦技・桜花乱舞をお見舞いする。

 すぐさま反応した『死を撒く王』は俺の方に振り向き大鎌を振るう。

 俺はそれを半歩ステップしてスレスレで躱し、大鎌を振るう腕の軌道上に左手の月読の太刀を置く。

 『死を撒く王』自ら腕を月読の太刀に振り下す形となり、『死を撒く王』の腕が月読の太刀に触れた瞬間、刀スキル戦技・桜花一閃を発動する。


 桜花一閃により腕を跳ね上げれて隙だらけになった『死を撒く王』の体に、半歩前に踏み込んで右手の妖刀村正の突きを入れる。

 それと同時に突き技である刀スキル戦技・閃牙と火属性魔法の炎の槍の魔法剣を叩き込む。


『がっ!』


 突きを受けた『死を撒く王』はたたらを踏んで堪える。

 俺はすかさずステップで間合いを詰め、二刀流スキル戦技・二連撃を撃ち込みながら半歩ステップで横にずれる。

 さっきまで俺がいた空間に『死を撒く王』の大鎌が振り下される。


『ほ―――――っ! 何故じゃ! 何故攻撃が当たらない!』


 俺は『死を撒く王』の攻撃を読み、最小限の動きで躱しながら最大の攻撃を放ち続ける。

 その間にも『死を撒く王』は範囲攻撃の光も放つが、俺はそれを一切気にせずにただひたすら攻撃をし続ける。


『ほ―――――っ! 何故これだけ死の光を浴びて死なないんじゃ! 何故じゃ!』


 広範囲の即死攻撃を受けて死なない俺に苛立ちを感じたのか、『死を撒く王』の攻撃に焦りが生じ始める。

 俺はその隙を逃さずに最高最大の攻撃を放つ。


 二刀流スキル戦技・流星龍鳳牙による16連撃を、桜花一閃の上位版の刀スキル戦技・天牙一閃で放つオリジナルスキル――


 左右の刀から放たれる戦技が『死を撒く王』の体に吸い込まれる。

 そして最後の一撃に併せた魔法剣で止めを刺す。


「――インフェルノ!!」


 今俺が放てる最強のオリジナルスキル――流星龍天閃・鳳閃火――


 ズガァァァァァァァァァァァン!!!


『ぐぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁ!!!』


 最後の一撃を受けた『死を撒く王』は吹き飛び地面を転がる。

 『死を撒く王』のHPを見れば0になっていた。

 俺は特殊スキル残り2分ほどで見事『死を撒く王』を倒すことに成功した。




 ――エンジェルクエスト・Deathがクリアされました――




「ふぅ~~」


 俺は安堵のため息を漏らす。

 何とか時間内に倒せてよかったよ。

 特殊スキルCrescentはともかく、特殊スキルStartはデメリットがスキルの使用が不可だからな。

 その状態で王との戦闘は無謀の一言に尽きる。


 目的も果たしたことだしとっととこの場から去るか。

 そう思いながら入ってきた第2の冥界門に向かう。

 そこで地面に横たわっている『死を撒く王』の死体を目にする。

 『死を撒く王』の死体を見て違和感を覚えた。


 何故、他の王やモンスターのように光の粒子となって消えない――?


 エンジェルクエストクリアのアナウンスが流れたので『死を撒く王』の攻略は間違いない。


 なら何故『死を撒く王』の死体が残ってる――?


 そしてその答えは直ぐに出る。

 『死を撒く王』の死体が起き上がる。


『ふぅ~、やっと体を取り戻せたな。Deathのじーさんも人の体を勝手に使いやがってよぉ。

 お嬢ちゃんが俺を解放してくれたのか? お礼を言わせてもらうぜ』


 『死を撒く王』の死体と思わしき体は、骨だけの体の肩を回しコキコキと音を慣らし体をほぐす。


「・・・あんたはいったい何者?」


『っと、自己紹介がまだだったな。俺は『不死者の王・Undead』だ。死神のじーさんに体を乗っ取られたしがない王さ』


 ・・・ウソだろ・・・連戦なんて聞いてないよ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 『不死者の王』の体を纏っていた黒のローブは、『不死者の王』が腕を一振りすると漆黒の鎧に変化する。

 手に持った大鎌もグレートソードへと変わり、肩へ担ぐ。


 ・・・『死を撒く王』を倒したと思ったら、今度は連戦で『不死者の王』って・・・本当、AI-On(アイオン)の開発者は良い性格をしてるわ。


『さて、と。お嬢ちゃんにはお礼をしないとな』


 『不死者の王』の顔は骸骨のままだが、にやりとした表情をしているのが分かる。


「いえいえ、こっちの都合で動いただけだからお礼なんて必要ないよ」


 『不死者の王』が戦闘準備してる間に、特殊スキルの効果が切れて俺はスキル使用不能となってしまった。

 萌えスキルの効果も切れたのでいつものコスプレ巫女の姿ではなく、革の胸当てをしたごく平凡な冒険者の格好をしていた。

 髪型もポニーテールからストレートに変化しており、このままだと邪魔になるからアイテムストレージからヘアゴムを取り出して、とりあえず後ろで纏める。


『遠慮するなって。俺自らお礼をするんだ。受けておいても損は無いぜ』


 いや、あんただから尚更怪しんだよ。

 パティアやセントラル王のように人間の王ならともかく、骸骨の王からのお礼ってなんか嫌な予感がするんだよ。


『お嬢ちゃんには特別に俺の眷属の上席を与えるぜ。そうすれば永遠に死ぬことは無くなる。お嬢ちゃんも不死者の仲間入りだ』


 ふむ、不死身になるのであればデスゲームとなったAI-On(アイオン)にとって最高のお礼だが、そんなうまい話があるわけが無い。


「それって単純に死ななくなる・・・ってだけの話じゃないわよね?」


『ああ、お嬢ちゃんには一度死んでもらってから、アンデットの最高峰スケルトンロードに転生してもらう』


 それってプレイヤーとして死んでから、身体(アバター)だけがモンスターとして蘇るってことじゃないか!

 システムとしては死霊術師(ネクロマンサー)のフレンド召喚のようなものか。


 つまりこのお礼は受け取ったら最後、プレイヤー死亡でSとCとDの王がそれぞれ復活のおまけまでつく最悪の展開が待っていることになる。


「折角だけど、お礼は遠慮しておくわ。わたしはわたしのままでいたいからね。

 それにわたしが死んだらまた『死を撒く王』に体を乗っ取られるわよ」


『いや、お嬢ちゃんには拒否権はねぇよ。これは強制的に受け取ってもらう。

 まぁ、またじーさんに体を乗っ取られてもあんたが俺の手ごまになるのであれば損はないさ』


 そう言いながら『不死者の王』はグレートソードを構える。


 ・・・やばい、途轍もなくやばい展開だ。

 スキル使用不能状態でどうやって26の王と戦えってんだ。

 今の俺の使用できる武器と言ったら累計Lv81のステータスとLEGENDARY ITEMである月読の太刀と妖刀村正のみ。

 俺のチートの要の極大魔力スキルが使えない状態じゃ戦力が半減以下だ。

 おまけにHPも体力倍化スキルの効果が消えたせいで半分になってるし。


 『不死者の王』は俺の都合もお構いなしに接近してくる。

 くそっ、何とかこの場を凌いで逃げ出さないと。


『スラッシュストライク!』


 『不死者の王』は上段から剣スキル戦技を放つ。

 俺はスキルは使用不能となったが、何度も使ったことで体に染みついていた十字受けでグレートソードを受け、打点をずらしながら辛うじて躱す。

 そしてこちらも何十、何千と使い続けて使い体に染みついたステップで『不死者の王』の側面に回り込み、左右の刀を振るう。


『ぐぅう!』


 俺はその隙をついて踵を返し冥界門に向かってダッシュする。

 だが後ろから追いかけてきた『不死者の王』に一瞬で回り込まれる。


『おいおい、何逃げようとしてるんだよ。折角俺が直接相手してやってるってのによぉ。

 スクエア!』


 『不死者の王』は再びグレートソードを振り上げ剣スキル戦技を放つ。

 俺は2本の刀を盾にして直接ダメージだけは避けることが出来た。


 俺は慌てて距離を取りショートカットポーチからエクストラポーションを取出し飲む。

 くそ、このままじゃジリ貧だ。何か良い手は無いか・・・?

 そうだ! さっき倒した『死を撒く王』から手に入れたDの王の証は!?

 『不死者の王』の様子を伺いながらアイテムストレージを開いてDの王の証を見る。


 Dの王の証

 『死を撒く王』を倒した、または認めてもらった証。

 ※QUEST ITEM

 ※譲渡不可/売却不可/破棄不可

 ※王の証を所有した状態で死亡した場合、王は復活します。

 ※特殊スキル「Death」を使用することが出来る。

 効果:24分間、全ての攻撃に即死攻撃が付与される。確率はLUC値に準ずる。

    但し、26の王・ユニークボス・死霊系MOBには効果が無い。

    特殊スキル効果終了後、24時間「Death」のスキルが使用不可能になる。

               24時間、戦闘行為が不可能になる。


 使えねぇ!

 この王の証って雑魚相手にしか効果が無いのかよ!


『さて、そろそろ本気でいかせてもらうぜ。

 ――ネクロロード』


 『不死者の王』が呪文を唱えると、周りに5つの召喚陣が輝き5体のスケルトンタイプのモンスターが現れる。

 剣を持ったスケルトン、斧を持ったスケルトン、槍を持ったスケルトン、盾を持ったスケルトン、杖を持ったスケルトンだ。


『これが最強のアンデット・スケルトンロードだ。

 こいつらはかつての英雄だ。死してなお力を振るうことが出来るんだ。お嬢ちゃんには新たな6体目としてこの列に加わってもらうぞ』


 なるほど、これがスケルトンロードか。

 確かにスケルトンの上位種のデスナイトよりも遥かに強烈な威圧感を感じる。

 これがアンデット最強と言われればそうなのだが、俺は『不死者の王』にとって地雷であるとも知らずにある疑問を口にする。


「最強のアンデットって言うけど、普通はヴァンパイアとかじゃないの?」


 俺の言葉に『不死者の王』の肩が震える。


『ヴァンパイアだと・・・!? てめぇ! 俺様のスケルトンロードとあんな優男を一緒にするな!

 あんなジメジメした暗いところで悦に浸ってる顔だけのヤローよりスケルトンロードの方が骨があるに決まってるだろ!!

 なにが『夜の国の王』だ! 『根暗な国の王』の方がお似合いだよ!』


 あれぇ? どうやら同じ不死者でも吸血鬼とはそりが合わないらしいな。

 しかし『夜の国の王』・・・Nightか? 意外なところで26の王の情報が手に入ったな。

 だがそれもここから生きてでなければ話にならない。


 何とか無事に脱出するべく策を巡らすが、余計な一言のせいで逆上した『不死者の王』が猛攻に出始める。


『その女を潰せ! 二度と根暗ヤローの事を言えないように潰してしまえ!』


 それぞれの武器を構えたスケルトンロードが襲い掛かってくる。

 何とかステップもどきで躱しながら左右の刀を振るうが、盾を持ったスケルトンロードにことごとく阻まれる。

 そして要所要所に杖を持ったスケルトンロードから魔法が飛んできて、どんどんHPが削られていく。


 マジでやばい・・・!!


 囲いを突破も出来ず、攻撃は防がれ、剣と魔法が俺を襲う。

 じりじり削られるHPを見ながら流石に俺は死を覚悟した。


 ここまで、か。

 俺が死んだら3人の王が復活する。

 鳴沢を助けるつもりが、逆に迷惑をかけることになるとはな。

 せめてSの王が復活することでデスゲームが解除されればいいが。


 HPが1割を切り止めの一撃を食らう瞬間、あるはずのない声が聞こえた。


「エクストラヒール!」


 瞬時に俺のHPは全快する。


「ミラージュアロー!」


 無数に放たれた光の矢がスケルトンロードを襲う。

 盾のスケルトンロードが慌てて他のスケルトンロードのカバーに入り光の矢を防ぐ。

 俺はその隙をついてスケルトンロードから距離を取る。

 そして俺と入れ替わるように鎧騎士と革鎧の2人がスケルトンロードに斬りかかる。


 鎧騎士と革鎧の2人はよく見るとロックベルとブラッシュだった。

 俺は慌てて治癒魔法と光の矢が飛んできた方を見る。


 そこに居たのは鳴沢とクリス、七海だった。

 よく見れば『不死者の王』には鎧武者のリックと忍装束の景虎が斬りかかっていた。


「フェンリル! 急いでこっちに来て!」


 七海に言われるままに俺は鳴沢達の居る方へ駆け寄る。


「おらぁ! 26の王だか知らねぇがギルド『大自然の風』を舐めるんじゃねぇ!」


「リック、ここでギルド名を出してもなんの脈絡もないぞ」


「うるせぇ! ノリだよノリ!」


『ぐぅ! そっちこそ26の王『不死者の王』を舐めるなぁ!!』


 リックと景虎が『不死者の王』と切り結びながら足止めをしていて、ロックベルとブラッシュはスケルトンロードから撤退を始める。


「グラビティスラッシュ!」


 ブラッシュが斧スキル戦技・重力斬を放ち、盾のスケルトンロードごと吹き飛ばす。


「アポカリスブラスト!

 ――トライエッジ!!」


 そこへロックベルが聖属性魔法の黙示録弾を纏わせた剣スキル戦技・三爪斬の魔法剣を放つ。


 その間に俺は鳴沢達の元へたどり着く。


「フェンリルを回収したわ! みんな引いて!

 ダイヤモンドミスト!」


 七海が氷属性魔法の氷霧を目くらましに撒く。

 辺り一面に真っ白い霧が立ち込め一切の視界を塞ぎ、霧に紛れて俺達は撤退する。


『小癪な! スラッシュハウンド!』


 『不死者の王』は苦し紛れに剣スキル戦技の斬撃を放つが、ロックベル達もそれを予想していて霧に紛れながらうまく躱して冥界門から脱出する。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 まだ第2の冥界門の前でダンジョンの中だが、とりあえず26の王のエリアから脱出することが出来たので何とか一息を突く。


「ベル、ありがと。助かったわ」


 助けに来てくれた鳴沢にお礼を言うが、鳴沢は無言のままに俺に近づいていきなり平手打ちをされる。


 バチンッ!!


「ばかっ!! 何1人で無茶してるのよ! 死んじゃったらどうするのよ!!」


「ご・ごめん」


 突然の平手打ちに目を白黒させながらも俺は謝る。


「1人で『死を撒く王』に向かったって聞いて心配したんだから!」


「ごめん」


「死んじゃったかと思ったんだから・・・あたしを1人にしないでよぉ・・・」


 鳴沢が目に涙を溜めながら言う。


「・・・ごめん」


「うぁぁん! ばかばかぁ! フェルのばかぁ!」


 鳴沢は俺に抱き着いてきてそのまま俺の胸で泣き出す。

 俺より身長があるので俺によりかかる形になるが、俺は鳴沢を抱きしめ頭を優しくなでる。


 よく考えれば鳴沢は仲間を王により多く失っている。

 そのことがトラウマに仲間の死に敏感になっているのだろう。


「フェンリル、無事でよかった」


「クリスもありがと。お蔭で助かったわ」


 クリスは俺と鳴沢を温かい目で見ながら俺の無事を喜んでくれた。


「クリスがロックベル達を連れてきてくれたの?」


「いや、ベルザが彼らを連れてきてくれたんだ。

 目が覚めたベルザが君を追いかけると言ってね。流石に1人では行かせられないから止めたら彼らを護衛に雇うと言ってね」


「ああ、丁度町中で出くわしてな。話を聞いてこちらから申し出たんだ。

 フェンリルを『死を撒く王』にけしかけた責任も感じてな」


 ああ、そう言えばロックベルに『死を撒く王』を倒せるのはお前しかいないって言われてたっけ。


「そんなの気にしなくても良かったのに。でもお蔭で助かったから良かったのかしら」


「少なくともロックベルにもフェンリルをその気にさせた一端はあるわ。責任を取るのは当然よ」


 七海がロックベルに辛辣な言葉を吐く。


「そろそろ状況報告もそれくらいにして移動しないと」


 景虎に促されて俺達は頷き冥界ダンジョンからの脱出を図る。

 俺は24時間スキル使用不能状態なのでロックベル達のPTにおんぶ抱っこの状態だったが。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 無事に冥界ダンジョンから脱出した俺達は王都に戻り、『大自然の風』のギルドホームで休むことにする。

 『ELYSION』への報告は直ぐにでも行きたかったが、時間は既に午前0時を回っていた為朝になってから行くことになったからだ。

 『大自然の風』のギルドホームは元々人が住むためのものではなかったが、ロック達は快く俺達に部屋を貸してくれた。




9月21日 ――52日目――


 俺達はロックベル達と別れて朝一で『ELYSION』のギルドホームへ向かう。

 ギルドホームへ着いてから早速サブマスターの麗芳さんの部屋を訪ねる。


 既に『死を撒く王』の攻略を聞き及んでいた為か、部屋には麗芳さんの他にマキナも一緒に居た。

 俺の姿はいつもの巫女姿ではないので部屋に入った瞬間に麗芳さんに怪訝な目で見られたが、俺だと分かるといつもの落ち着きを取り戻していた。


「麗芳さん、『死を撒く王』を倒して来たわ。約束通りベルをギルドから抜けさせてもらうよ」


「はい、お約束通りベルザさんはフェンリルさんにお返しします」


 鳴沢をギルドから脱会させることを麗芳さんが認めてくれる。だがそこで待ったがかかる。


「あの、ちょっと待ってください。あたしまだ『ELYSION』に居たいです。

 あたしまだみんなに何も償いが出来ていないです。カンザキ達の事もあるし今のままじゃ出ていけません」


 鳴沢はまだカンザキ達への後ろめたさがあるのか、このままギルドに残ると言ってきた。


「悪いけど今日から『ELYSION』はあたしのギルドよ。

 あんたみたいな後ろ向きの気持ちでギルドマスターをやってもらってもこっちが困るのよ。あんたはとっとと元居たPTに戻りなさいよ」


「そうそう、ベルはわたしの物なんだから余所へなんかやらないわよ」


「マキナ・・・フェル・・・」


 以前よりは刺々しさが無くなったマキナが鳴沢を後押しする。

 そして俺はどさくさに紛れて鳴沢を俺の物扱いして顔を真っ赤にして言う。


「言っておくけどあたしはまだあんたを許したわけじゃないんだからね!

 いいこと? カンザキ達を見捨ててまで生き残った命を簡単に捨てたら承知しないんだから!」


 うーん、何か言ってることがツンデレっぽい。

 こんなこと言ってるけど実はあなたとのこ好きなんだからね! ・・・違うか。


「マキナ・・・ありがとう」


「ふん!」


 一通り落ち着いたところで鳴沢が麗芳さんに苦情を上げる。


「あの、それと麗芳さん。いくらギルドマスター解任の条件とは言え、『死を撒く王』をソロで攻略なんて無茶すぎますよ」


「え? ソロで攻略為されたんですか!?」


「え? ソロで攻略しろって条件を付けたんじゃないんですか?」


「いいえ、ただ『死を撒く王』を攻略してくださいとしか・・・

 私はてっきり疾風さんと他の風水師(フォーチュンテラー)や蘇生魔法を使える人と一緒に行ったとばかり・・・」


 鳴沢と麗芳さんはどういう事だとばかりに俺の方を見る。


 あれ? そう言えばソロで攻略してくださいって言ってないよな。


「えーと、『死を撒く王』には広範囲攻撃があるから他の人を巻き込んじゃわないように1人で行ったんだけど・・・」


 なんてことを思い付きで言ってみるけど、何で俺ソロで向かったんだっけ?

 確かに俺1人ならCの王の証もあるし身代わりアイテムもあるから早々死なないと思ったし、他のプレイヤーはCの王の証ほどLUC値を上げるアイテムなんて持っていないと思ったんだけど・・・

 よく考えれば麗芳さんの言うとおり蘇生魔法を使う人達とPTを組むのが普通だろうけど、考えれば考えるほどソロで向かう理由が見当たらない。

 あの時の俺は鳴沢の事を救うことだけしか考えられず、周りが見えてなかったのか? なにそれ自分の馬鹿さ加減が怖い。


「はぁ、いくらCの王の証があるとはいえ、普通は『死を撒く王』をソロで攻略なんて出来ないはずなんですけどね」


 麗芳さんは半ばあきれながら俺を見て言う。


「あはは、LEGENDARY ITEMの武器も持ってたし、Lvも80を超えてたからイケると思ったんだよね」


 うん、もう言い訳も意味不明になってきてるし。


「「「「は!?」」」」


 だけど俺の言葉にみんなが驚愕の表情になってこちらを見る。


「え!? ちょっと! 伝説級の武器って聞いてないわよ! て言うかLv80!?」


「累計Lv80を超えてるんですか!?」


「これがトッププレイヤー・・・あたしだっていつか・・・」


「くくくっ、これだからフェンリルの傍にいるのは面白い」


 鳴沢、麗芳さん、マキナ、クリスとそれぞれが思い思いの言葉を発する。

 あれ?食いつくところはそこですか?

 細かい事情は省いて大体のところを説明してみんなを落ち着けさせる。


「さて、それじゃあそろそろおいとまするわ」


 俺の合図とともに鳴沢とクリスが席を立つ。


「麗芳さん、いろいろお世話になりました」


「いいえ、ここは貴女のギルドでもあります。困ったことがあったらいつでもいらしてくださいね」


「ふん、困ったことがあったら手を貸してあげるわ」


 鳴沢がギルドにお世話になったお礼を言い、麗芳さんとマキナがそれぞれ今後の助けを約束する。


 俺達はギルドホームを出て朝日が照らす街道を歩く。


「ベル、お帰り」


 俺はそう言って鳴沢に手を差し出す。

 鳴沢は俺の手を取ってやや恥ずかしげにほほ笑む。


「フェル、ただいま」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 エンジェルクエスト攻略に関するスレ14


29:パウル

 『死を撒く王』が攻略されたってマジか!?

 いや、王の石碑を見れば一目瞭然なのは分かるが信じられん


30:独眼竜

 >>29 その気持ちはものすごく分かる


31:ジロウ

 だな、しかもソロ


32:マグナム77

 ありえねぇー

 一体どうやったら即死攻撃を掻い潜って倒せるんだ?


33:鏡子

 大鎌を全て躱せば即死攻撃を受けないはず

 死の光による範囲攻撃は運・・・しかないね


34:愚か者の晩餐

 それを全てやってのけるのが舞姫様♡


35:ジロウ

 >>34 いや舞姫様♡で済ますなよw


36:パウル

 >>32

 >>33

 実際問題、LUC値を上げるアイテムで固めてしまえば何とかなるんでない?


37:ユーディエット

 でもあり得無くね?

 話が出来すぎると思うんだけど


38:ブルースカイ

 んー、そんな感じはしないでもないが、それが出来るからトッププレイヤーなんだろ?


39:ユーディエット

 いや、俺が思うにチートを使ってるんじゃないかと

 ここでいうチートは本当の意味でのチートってこと


40:DRAGON

 >>39 どういう事?


41:ユーディエット

 ソードダンサーは死なないチートを使ってるんじゃないの?

 だから『死を撒く王』も簡単に倒せたと思うんだけど


42:ジロウ

 死なないチートって・・・それってどうやって手に入れるんだよ


43:シンクタンク

 >>41 それって・・・ソードダンサーはAccess社の関係者だって言いたいのか?


44:ユーディエット

 そう、ソードダンサーはAccess社の人間か運営の人間じゃねぇの?

 でなければ『死を撒く王』は倒せねぇよ

 もしかしたらこれまでの王すべてにチートが絡んでるんじゃねぇの?


45:鏡子

 それは無いと思うけど・・・


46:マグナム77

 話飛躍しすぎじゃねぇの?


47:独眼竜

 いや、でもあながち否定できないところもあると思うぞ


48:ブルーオーシャン

 違いますよ~

 ソードダンサーさんは間違いなく普通のプレイヤーですよ~


49:ユーディエット

 >>48 その根拠は?


50:ブルーオーシャン

 ソードダンサーさんのリアルを知ってるお友達に聞いたからです~


51:ユーディエット

 その情報の信憑性は?

 友達が目立つためにソードダンサーの知り合いだって嘘を付いてる可能性があるんじゃないのか?


52:ブルーオーシャン

 ん~、そこは信じてもらうしかないですね~


53:ユーディエット

 話にならないな


54:ブルーオーシャン

 そんなこと言って実は53さんがAccess社の関係者じゃないんですか~?


55:ユーディエット

 はぁ!?


56:パウル

 何か話がおかしな方向に流れてきたw


57:ブルーオーシャン

 自分がAccess社の関係者で注目を逸らすためにソードダンサーさんをAccess社の関係者だって言ったんでしょう~?


58:ユーディエット

 ンな訳あるか!

 俺はれっきとした普通の一般プレイヤーだよ!


59:ブルーオーシャン

 >>58 その根拠は~?


60:ユーディエット

 うるせぇ! 俺は一般プレイヤーだって言ったら一般プレイヤーなんだよ!


61:ブルーオーシャン

 は~い、信じますよ~


62:ユーディエット

 はぁ!?


63:ブルーオーシャン

 あたしも信じたんだから62さんもソードダンサーのお友達の言葉も信じてくださいね~


64:ジロウ

 wwwwwwwwwwwwwwwwww


65:マグナム77

 なんという きwりwかwえwしw


66:ブルースカイ

 これは62も信じるしかないねwww

 でなければ自分がAccess社の関係者www


67:独眼竜

 ちょっと強引だけど63さんの言う通り信じるしかないね

 もともとネットの中では情報の信憑性は無いに等しいからね


68:愚か者の晩餐

 要は自分が信じるか信じないかの違いしかないって事だな


69:ジロウ

 あれ~? 62さ~ん 返事は~?


70:マグナム77

 返事が無い・・・ただの屍のようだ


71:パウル

 逃げちゃったか


72:独眼竜

 まぁ、少なくともソードダンサーはAccess社の関係者じゃないよ

 26の王の攻略に関わり過ぎているからね


73:鏡子

 >>72 どういう事?

 普通関わってるなら関係者と思うけど?


74:独眼竜

 AI-Onがデスゲームと化しているからね

 ゲーム内に閉じ込めるつもりなら攻略を進めないし、デスゲームで何かの経過を見てるのなら直接王に関わるんではなく、それとなく遠巻きに援護するはずだからね


75:DRAGON

 なるほどね~

 積極的に攻略しているから関係者ではないと







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