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Angel In Online  作者: 一狼
第9章 Death
42/84

40.ベルザとELYSION

9月20日 ――51日目――


 俺はエレガント王国を飛び出した後、スノウで1時間ほど飛んでから砂漠で一夜を明かした。

 流石に夜間飛行は危険すぎるので、ヨシュア王からの追ってから逃れるために少し距離を取ってからのキャンプとなった。


 くそ、ヨシュア王の夜這いが無ければ豪華なベットで一夜を明かせたのに。


 次の日も1日中飛んでから一夜を明かし、今日の昼前にやっとのことでセントラル王国に戻ってきた。


 全く、砂漠の王国ではとんでもない目に遭いそうだったよ。

 あの国は今後近づかないようにしないとな。下手すれば指名手配とかなってそうだし。


 今日は気分を落ち着けるためにも消耗品などを補充してのんびり過ごそう。

 そう言えばポーション類がそこそこ減ってたっけ。

 露店で消耗品などを補充し、ポーション類の材料を購入していく。

 特にエクストラポーションやマジックエクストラポーションの素材は結構レア品だが、運がいいことに無事にそろえることが出来た。


 あ、そう言えば朝霧さんへのお土産もあったっけ。

 宿屋に籠る前に朝霧さんの店に寄っていく。


「こんちわー、朝霧さん砂漠の王国のお土産を持ってきたよ~」


「あら、フェンリルちゃんお早いお帰りだね。それで砂漠の王国はどうだった?」


 俺はお土産の素材を渡しながらエレガント王国での出来事を話す。


「あはは、それで王様に夜這いを掛けられたのね。いっそのことそのままお妃様になればよかったじゃない」


「そんなの冗談じゃないですよ。確かに顔は悪くなかったですけど、こっちの気持ちなんかお構いないですよ。

 朝霧さんだって自分の気持ちを組んでくれる人の方がいいでしょ?」


「うーん、あたしは強引なのもいいと思うけどね。俺に何も言わずについて来いみたいな。

 それが王様なら尚更ね。」


 ちょっと意外な答えだ。

 朝霧さんはワイルド系が好みなのかな?


「わたしは例え王様でも無理ですね。

 それにお妃はいくら生活が保障されてるかと言っても、自由までは保障できないですからね」


「あはは、まぁ王宮での生活って自由なように見えて不自由な暮らしだからね」


 そうなんだよなぁ。生活する上では何一つ不自由は無いけれど、王族ともなればいろいろしがらみが増えるからそれに縛られてしまうだろうし。


 俺は朝霧さんと砂漠の王国での雑談をしながら昼過ぎに分かれた。

 ちなみに昼食は朝霧さんのお手製のサンドイッチをご馳走になり一緒に食べた。残念ながら味の方はアーデリカには及ばず普通の味だったけど。


 朝霧さんと別れた後、宿屋に籠ってポーションを作成する為『極上のオムライス亭』に向かう。

 昼過ぎと言う事もあってか、宿屋の食堂はまだ混雑していた。


「いらっしゃい。

 あら、お嬢ちゃんじゃないか。随分早いお戻りだけど、砂漠の王国はもういってきたのかい?」


 おばちゃんが俺に気が付いて声を掛けてくる。


「ええ、昼前には戻ってきたわ。わたしにかかれば砂漠の王国まではひっとっ飛びだからね。

 それと残念だけど、砂漠の王国では王の証所持者の情報は得られなかったわ」


「そうかい。あんたには嘘の情報を教えちまったみたいだね、すまなかったよ」


「いいわよ。情報の真偽は行ってみなければ分からないしね。

 それにちょっと都合があって向こうには1日しか入れなかったから、ちゃんとした確認はとれてないのよ。まぁ、わたしはもう向こうに行く気はないけど、他の誰かが見つけてくれることを祈るわ」


「そうかい、そう言ってもらえると助かるよ」


 俺はそのままおばちゃんに1泊の申し込みをし、料金を払い部屋で1息をつく。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 悪い時の情報はいつも突然やってくる。


 リィィィン♪ リィィィン♪


 宿屋の1室でポチポチボタンを押しながらポーションを一通り作り終わったところに、左腕の携帯念話(テレボイス)が音を鳴らし振るえて念話の着信を告げる。


 携帯念話(テレボイス)を見ると小さなウインドウが現れクリスの名前が表示されていた。


 最近は携帯念話(テレボイス)の値段も下がってきており、大分他のプレイヤーにも浸透してきている。

 もっとも左腕に装着して腕輪の1つを犠牲にするため、あえて付けないプレイヤーもいるとか。


 鳴沢がギルドに入ったということは、クリスも多分一緒にギルドに入ったんだろう。

 ギルド間で連絡を取るために携帯念話(テレボイス)を買ったというところかな。


 左手を電話の形にしてクリスからの念話を取る。


「もしもし、クリス久しぶりだね。元気にしていた?」


 だが念話から聞こえてきたクリスの声はだいぶ落ち込んでいた。


『・・・フェンリル、すまない。君の要望には応えられなかった。

 ベルザを助けてやってくれ。彼女を助けられるのは君しかいない』


「どういこと? ベルに何があったの?」


 あのクリスがここまで落ち込んでいるのだ。嫌な予感が拭えない。


『詳しいことは会ってから話そう。取りあえず冒険者ギルドまで来てもらえるか?』


「わかったわ、すぐ行く」


 俺は片づけもそこそこに、すぐさま冒険者ギルドへ向かう。

 クリスは既に冒険者ギルドに来ていて俺を待っていた。


「クリス、お待たせ」


「ああ、フェンリルか。噂には聞いていたが、流石にカスタマイズされた巫女装束はインパクトがあるな。

 何はともあれ久しぶりだな」


 そういや特殊職に転職したのは鳴沢達と別れた後だったっけ。

 いや、そんなことより鳴沢の事だ。いったい何があったんだ?


「それでクリス、ベルを助けてくれって何があったの?」


「・・・まずはベルザに会ってくれ。今のベルザの状態はかなり拙い状態だ。もしかしたらフェンリルになら治せるかもしれない」


「ちょ!? 拙い状態ってそんなに酷いの!?」


 考えられるのは呪い状態、石化状態、混乱状態などなど。

 だけどそれは俺でなくても僧侶(プリースト)系なら治癒魔法等で治せるはずだ。


「・・・会えば分かる。フェンリルに会うことで治る可能性があるんだ」


 そう言ってクリスは席を立ち、自分の所属するギルドホームへ俺を連れて行く。

 クリスたちのギルドホームは、王都の住宅街にあるロックベル達のギルドホームより大きめの一軒家だった。


 クリスはそのままギルドホームに入り、ある一室を目指して進む。

 ドアをノックして部屋の中に入るが、執務室と思われる部屋の中には誰もいなかった。


「・・・おかしい、今日は休養日にしたはずだ。何故ベルザは居ない」


 クリスは踵を返し、他に居るギルドメンバーを探す。

 俺は慌ててクリスに付いて行く。

 ちょっと何が何だか訳が分からん。あのクリスがここまで慌てていることから事態はよほど切迫しているのは分かるのだが。


 休憩所と思わしきところにギルドメンバーの女性が1人居た。


「マキナ、ベルザは何処だ」


 マキナと呼ばれた女性はクリスの隣にいた俺を不審な目で見たが、特に何も言うでもなくクリスの質問に答える。


「ああ、ギルマスならいつものとこでしょ。今日は休養日ってみんなで決めたのに自分だけLv上げって何様のつもりなんだか」


 は!? 今こいつなんて言った?

 鳴沢を罵ってるのは置いておくとして(後でとっちめる)、鳴沢がギルドマスター!?

 Qの王の証を持ってることからギルドではかなりの地位にいると思っていたが、まさかギルドマスターとは。

 俺と別れてから2週間くらいしかたってないよな。それなのにギルド途中入会でギルマスまで上り詰めるなんていったい何があったんだ!?


 だが俺のそんな驚きを余所にクリスは慌てていた。


「馬鹿な、あそこへ1人で行ったというのか!? 何故止めなかった!?」


「一応は止めたわよ。でもギルマスが行くって聞かないんだもん。あたしには別にどうでもいいことだったしね」


「くっ! フェンリル! 急いでベルザのところへ向かう!」


 マキナとの言い合いさえ時間が惜しいのか、クリスは彼女には取り合わずすぐさま外へ出る。


「ちょっと、クリス! あそこって何処なの? 貴方が慌ててるからよほどの場所なんだろうけど」


「俺達は最近、飛龍の渓谷の先の竜の巣で経験値上げをしているんだ」


 俺は耳を疑った。

 魔の荒野のさらに南にある飛龍の渓谷には文字通り飛竜(ワイバーン)が闊歩しているエリアだ。Lvにしても40位とそんなに高くは無い。

 ただ単体ならともかく、群れで来るとそれなりに苦労はするが。

 そしてその渓谷を抜けた先には竜の巣――文字通りドラゴン種が無数いるエリアだ。

 火竜(ファイヤードラゴン)白竜ホワイトドラゴン地竜ガイアドラゴン風竜ウインドドラゴンなどなど。

 『始まりの王』にソロで挑んだ俺が言うのもなんだが、ドラゴン種はPTで挑むのが普通だ。


 鳴沢はそんな場所に1人で向かったというのだ。


「おまけにベルザはここ3日ほど碌に寝ていない」


 俺は更に頭を抱えた。

 いくらVRゲームとはいえ、体を動かさずとも脳は活動をしている。

 現実(リアル)でも睡眠と言う休息をして脳を休ませている。

 それはデスゲームとなったVRでも当然のように行われる。でなければ酷使しすぎた脳は活動が鈍くなり、最悪脳に異常をきたす。


「睡眠不足による体調不良に竜の巣をソロでLv上げ。――最悪。

 ねぇ、ベルにいったい何があったの? ギルドマスターになったから舞い上がってなんてことはないんだろうけど、いくらなんでもこの行動はおかしいわよ」


「・・・ベルザの今の精神状態は極めて不安定なんだ。鬱状態、心身喪失、廃人、そんな感じが入りまじってる状態なのかもしれん」


 ちょっと! 最後の単語シャレにならんぞ!


「詳しいことは後で話す。今はベルザを連れ戻すのが先だ」


「分かったわ」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 王都の転移門を抜けて、ウエストシティの南門から間の荒野へ向かう。

 時間を争うという事で俺が先にスノウで竜の巣まで向かい、PTを組んだ俺を目印にクリスが後から走竜(ドラクルー)で付いてくるとになった。


 魔の荒野と飛竜の渓谷を突き抜けるが、飛竜の渓谷を抜ける時に上空に居た飛竜(ワイバーン)にちょっかいを掛けられる。

 しかしこちらは戦闘は出来ないとは言え移動用の騎獣だ。飛竜(ワイバーン)などもものともせず振り切って竜の巣に向かう。


 鳴沢を竜の巣を上空から探すとすぐに発見することが出来た。

 竜の巣の入り口付近で火竜(ファイヤードラゴン)と対峙していた。


 ちょっ!? あんなの規格外な自分はともかく、僧侶(プリースト)系の鳴沢がソロで立ち向かうなんて無茶にも程がある。


 俺はスノウから飛び降りそのまま火竜(ファイヤードラゴン)の頭上に蹴りスキル戦技・流星脚を叩き込む。


 ズドンッ!


 上空からの落下速度+流星脚+地面に押しつぶされた影響で、火竜(ファイヤードラゴン)は目を回していた。


 俺はその隙に鳴沢に近づき左右の刀を抜いて構える。


「ベル! 何無茶なことしてるのよ! 説教は後よ、まずは先にこのトカゲを倒すわよ」


 俺の声が聞こえているのかいないのか、鳴沢はお構いなしに魔法を解き放つ。


「アイシクルランス、アイシクルランス、アイシクルランス、アイシクルランス――」


 ひたすら無心で呪文を唱えるように氷の槍を火竜(ファイヤードラゴン)にお見舞いする。


 火竜(ファイヤードラゴン)もお返しとばかりに火炎ブレスを放ってくる。

 俺は慌ててステップで避けるが、鳴沢は躱しもせずに携えていた赤い剣を構える。

 すると鳴沢が構えていた赤い剣に炎が纏わりつき、赤い剣を巧みに操り火炎ブレスを1つの巨大な炎球にまとめ上げる。

 鳴沢はそのまま赤い剣を振りぬき、巨大な炎球は火竜(ファイヤードラゴン)にぶち当たる。

 火竜(ファイヤードラゴン)の名前を携えるだけあって火属性には耐久があるが、流石に巨大な炎球はそれを上回る炎であったためかなりのダメージを与えることが出来た。


 鳴沢はそのまま赤い剣を持って火竜(ファイヤードラゴン)に突っ込んでいく。


 おいおい!? 鳴沢、あんた後衛職だろ!? 何で突っ込んでいるんだよ!?


 俺も慌てて鳴沢の後に付いて行き火竜(ファイヤードラゴン)に向かって二刀流スキル戦技・十字斬りを叩き込む。

 反対側では鳴沢が剣スキル戦技・スクエアを叩き込んでいる。


 ・・・しばらく見ない間に鳴沢が接近戦が出来てるようになってるよ。

 もしかして俺と同じように戦巫女に転職したのか?


 ともあれこの火竜(ファイヤードラゴン)はとっとと退場願わねば。

 俺は風と雷、火と水の空間一点発動型の魔法剣を解き放つ。


「バーストフレア!

 アクアプレッシャー!

 サイクロンバースト!

 サンダーブラスト!」

――四元双牙!」


 最初のころとは違い、一呼吸と行かないまでもかなりの時間短縮で輪唱呪文をスムーズに唱えれるようになった。

 当然威力の方も桁違いに上がっている。

 殆んどオーバキルで火竜(ファイヤードラゴン)を倒し、鳴沢の傍に行く。


「ベル、竜の巣をソロでLv上げって、何無茶なことしてるのよ。クリスも心配してるよ。

 取り敢えず詳しい話は戻ってから・・・」


 俺の話もそこそこに鳴沢は更に竜の巣の奥に進もうとする。


「ちょっと! ベル! 何先に進もうとしてるのよ!」


 とっさに鳴沢の腕をつかみその場にとどまらせる。

 だが鳴沢は俺の言葉に耳を傾けず、うわ言のように同じ言葉を繰り返していた。


「強くならなきゃ、強くならなきゃ、強くならなきゃ、強くならなきゃ・・・」


 よく見れば鳴沢の目の焦点は合わず、顔の表情には一切の感情が見られなかった。


 ・・・目の前にいる俺の事が認識できていない・・・?


 その事実に俺はぞっとする。

 クリスが言っていたのはこの事だったのだ。


 様々な外的要因により鳴沢の心は壊れかけていた。

 何があったのかは知らないが、普通ならここまで心に異常をきたすことは無い。

 よほど何か辛い思いをしたのだろう。

 クリスは俺なら鳴沢の事を助けることが出来ると言ったが、俺は精神科医じゃない。

 今の鳴沢を救うすべは持ち合わせてはいない。


 そんな俺の心配をよそに鳴沢は「強くならなきゃ」とつぶやきながら尚も先を進もうとする。

 ええい、ままよっ!

 俺は鳴沢の前に回り込み、ギュッと抱きしめる。


「鳴沢、助けに来たよ。だからもう無理をしなくていいんだよ。

 1人でなんでも抱え込まずに、俺に言ってくれよ。俺が鳴沢を助けるから。

 ううん、俺だけじゃない、クリスや舞子や天夜達だって助けてくれるよ。

 だから、何時もの笑ってる鳴沢に戻ってくれ」


 そうだ、俺は鳴沢の笑顔が好きだ。みんなと楽しくし遊んでる姿が好きだ。

 こんな虚ろな鳴沢は見たくない。だから戻ってきてくれ。


 どれくらい抱きしめていただろう。

 次第に鳴沢の表情に感情が見られ始めた。


「・・・あ・・・れ? 大神・・・くん? あたし・・・」


「鳴沢・・・よかった・・・戻ってきてくれたんだ」


「ぁぁ・・・大神君・・・ねぇ、あたし頑張ったんだよ。ギルドのみんなに認められようと頑張ったんだよ」


 鳴沢は俺の胸に顔を埋めながら肩を震わせる。


「ぐす、カンザキ達の頑張りを無駄にしないように、が・頑張ったんだよ」


「ああ、鳴沢は頑張った。だけどもう1人で頑張らなくてもいいんだ」


「ぅ、うぁ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 今までの積もり積もったものが溢れ出たのか、鳴沢は俺の胸で肩を震わせ泣きじゃくる。

 俺はただ抱きしめて頭を撫でて鳴沢思うようにさせる。


 あとで思い返せば敵地のど真ん中で大胆な事をしていたと思う。

 よほど運が良かったのか、この時には他のドラゴン種が襲ってくることは無かった。


 泣き疲れたのか、鳴沢は俺の胸の中で寝ていた。

 ああ、そう言えば3日も寝てないって言ってたっけ。

 今は思う存分休ませてやりたいのだが、流石にこのままここでとはいかない。

 俺は左腕の携帯念話(テレボイス)を操作してクリスを呼び出す。


「もしもし、こっちは無事にベルを確保できたよ。ベルは疲れが溜まってたせいか、今は寝てしまってるの。悪いんだけど急いで来てもらえるかな?」


『そうか、無事に確保できたか。分かった、急いでそちらに向かう』


 スノウで運べればいいのだが、残念なことに騎獣の2人乗りは出来ない。

 こんなことだったらタンデムスキルでも買っておけばよかったよ。もっとも特殊職である騎獣士(ライダー)のタンデムのサブスキルは値段がバカ高いから手が出せないんだけどな。

 ここはクリスと合流して、クリスが鳴沢をおぶって俺が露払いをして徒歩で戻るしかないか。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「それで、一体何があったの?」


 鳴沢を無事にギルドホームに連れてきて、今は鳴沢の部屋で休ませている。

 休憩所で一息ついたところでクリスにこれまでのいきさつを訪ねたのだ。


「そうだな。戦争イベントの後、俺達はもう1人前衛を加えて3人でLv上げをしていたんだ」


 クリスの話によると、狼御前と言う女性プレイヤーと3人PTで冒険者ギルドのクエストをこなしていたそうだ。

 その時にこのギルド『ELYSION』のギルマス・カンザキ達に助けられて、それが縁でギルドに加入したとの事。

 その時には狼御前はギルドヘは入らず別れることになる。


 ギルド加入後の働きを評価されて、鳴沢はカンザキのギルマス命令でサブマスターに任命される。

 当然、新参者である鳴沢がサブマスターになることは古参のメンバーにはいい顔をされない。

 そしてその状態のままギルマス・サブマスを含めたフルPTで『死を撒く王』に挑戦をし、鳴沢以外が死亡するという結果になった。

 サブマスター任命の不満に加えて、ギルマス達のPTを見捨てて生き残ったのが鳴沢1人と言うのが更に不満に拍車をかけた。

 その筆頭がマキナと言う女性プレイヤーだ。


 ギルマス死亡によりサブマスターである鳴沢がギルドマスターに繰り上げ任命され、『ELYSION』を引っ張っていくことになる。

 マキナ達が不満を募らせる中、鳴沢はギルマスとして頑張って『オークの女王』を再攻略するが、なかなか認めてもらえずにいた。

 鳴沢はそれでも何とかしようとして頑張るも、次第に感情が無くなってきてしまうことになる。


「こうなるまでベルザの様子に気が付かなかった自分に腹ただしく思うよ。

 ベルザは仕方がないとはいえ、カンザキ達を見捨てたことを悔やいている。加えてマキナ達の当たりの強さがベルザを追いこんでしまったんだろう」


 鳴沢は『リザードの王』の時に仲間を1人失っている。誰よりも人の死に敏感になっている。

 それが『死を撒く王』で大勢の仲間が死んで、1人だけ逃げ帰ったともなれば心の負担は計り知れない。

 加えてそのマキナ達の不満が、鳴沢の申し訳ない気持ちを加速させている。


 これでは心が壊れてしまうだろう。むしろ今までよく持っていた方だ。


 と言うか、鳴沢が『死を撒く王』の生き残りだったとは。

 流石にこれは情報を隠蔽されるな。

 もし鳴沢が生き残りだと知られれば、ギルドメンバーだけではなく、不特定多数のプレイヤーからも負の感情をぶつけられていただろう。

 そうなればとてもじゃないが鳴沢の心は持たなかったはずだ。


「でもクリスはわたしにちゃんと連絡をくれたわ。ベルを助けるためにね」


「フェンリルならベルザを助けれると思ったからだよ。ただそれだけだ」


 何故俺ならば助けられたのかその根拠が分からないが、鳴沢が感情を取り戻した今となっては別にかまわないか。


「さて、そうなると、ベルザと『ELYUSION』の今後をどうするかだね。特にギルメンとの確執はどうにかしないと」


「それってあたしの事を言っているのかしら?」


 いつの間にか休憩所に入ってきたマキナが俺を睨めながら言ってきた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 エンジェルクエスト攻略に関するスレ11


628:ジャックランタン

 ウエストシティの南西地区にある教会って今まで閉ざされていたよな?


629:光の王子

 何かあると思って調べたけど全然だったね


630:X-BLADE

 教会がどうしたん?


631:オルカ

 あれ? 教会って閉められてたの?

 俺この前入ったことあるんだけど


632:ジャックランタン

 いつの間にか開いていた


633:アイドルリマスター

 は? いつの間に!


634:囁きの旅人

 え? マジで?


635:ジャックランタン

 しかも教会の奥の部屋は『婚約の王・Engage』のダンジョンに繋がってるとか


636: サザーランド

 はぁぁぁぁぁぁっ!?


637:光の王子

 おいおいおいw いきなり26の王が出て来たよw


638:オルカ

 あれ? みんな知ってるかと思ったんだけど違うの?


639:シェリー

 教会の解放条件って何だったのかな?


640:光の王子

 あー、あれじゃね?

 ウエストシティの冥界門と東和都市の地獄門が対になってるように

 『恋愛の女王』と『婚約の王』が対になってるとか


641:朱里

 そう言えば最近『恋愛の女王』がクリアされたね


642:アイドルリマスター

 それが解放条件か


643:PERSONA

 恋愛を経て婚約しろとそういう訳かwww


644:スクランブルエッグ

 >>635 ちなみに『婚約の王』のダンジョンに突入した?


645:ジャックランタン

 残念ながらそのダンジョンは『恋愛の女王』と同じく男女PTじゃなきゃ無理


646:X-BLADE

 そりゃそうだw


647:ジャックランタン

 おまけに結婚を前提に攻略しなければならないw


648:囁きの旅人

 何じゃそりゃw


649:オルカ

 ちなみに『婚約の王』がクリアされるとAI-Onに結婚システムが更新されるらしいよ


650:シェリー

 何それ!? 詳細kwsk!


651:光の王子

 ふむ、結婚システムによるメリットは何だろう?


652:オルカ

 残念ながら結婚システムの詳細は不明

 詳細が知りたければ『婚約の王』をクリアしなさいだとさ


653:スクランブルエッグ

 予想されるところだと、アイテムストレージ・お金等の共有化とかかな?


654:サザーランド

 まー大体はそんなところじゃね?


655:PERSONA

 なぁ、ふと思ったんだが、結婚システムでもしかして子供作れるんじゃね?


656:光の王子

 え?


657:ジャックランタン

 は?


658:朱里

 え?


659:囁きの旅人

 え?


660:シェリー

 え? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?






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