表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Angel In Online  作者: 一狼
第9章 Death
41/84

39.砂漠の王国と噂

9月16日 ――47日目――


 昨日はあの後何もする気が起きずに宿に引きこもりをした。


 俺は思いのほかショックを受けていた。

 そりゃあ、もう一度PTを組もうと約束したわけではないので俺が怒るのは筋違いだ。

 それに約束である一緒にPTを組んで遊ぼうというのも、『リザードの王』や『王の中の王』などと戦ったことにより一応果たしたことになる。


 約束を果たしたからか、俺の行動が不快を与えたからかは分からないが、鳴沢は俺といることよりも他の仲間といることを選んだのだ。

 その事実が、鳴沢にとって俺はその程度の存在でしかなかったということが分かり、思いのほか動揺してしまっていた。


 そんな状態で戦闘など出来もせず、他人との会話も上の空になっていた。

 とりあえず気持ちを落ち着けるため宿に籠ることにしたのだ。


 気分も晴れぬままベットから起き、朝食を食べるため1階の食堂に下りていく。

 昨日に引き続き『極上のオムライス亭』に泊まった俺は、ぼーっと何も考えずに朝食を食べていく。


「なんだい、昨日から随分しょぼくれた顔をしてるね」


 よほど酷い顔をしていたのだろう。NPCであるおばちゃんにまで気を使われる始末だ。

 言葉で言われたわけじゃないけど、実際振られたのと同じようなもんだからなぁ。

 そりゃあ酷い顔をしてるわけだ。


「あー、うん。ちょっと色々なことがあってね」


「大丈夫かい? 折角26の王の情報を掴んだので教えようと思ったんだけど、そんな調子じゃ心配だよ」


「おばちゃん、それ本当!?」


 俺は思わずおばちゃんの顔を見る。

 前回の『水龍の王』の時といい、今回の情報といい、このおばちゃんはNPCの癖に優秀じゃないか。


「ウエストシティの西にある水の砂漠は知ってるよね。そこからさらに西に向かうとエレガント王国があるんだけど、その王国に王の証を持っている人がいるという話だよ」


 む、また王国関係の王の証所持者か。

 『王の中の王』や『希望の女王』のように王族が王の証を持ってたら厄介だな。

 と言うか、砂漠なのに水の砂漠とはこれいかに。

 そのことをおばちゃんに聞いてみる。


「十数年前まで砂漠にしては珍しいオアシスが無数点在していたんだけど、今じゃ干上がってしまってねぇ。

 エレガント王国はそのオアシスを中心に栄えた砂漠の王国だよ。セントラル王国や元プレミアム王国と同じく5大強国の内の1つだね。

 もっとも、今は水の砂漠のオアシスが無くなってエレガント王国との交易が無くなって久しいね」


 なるほど、元々はオアシスがあったから水の砂漠か。

 そのオアシスを中継点にしてエレガント王国との交易があったわけだが、今となっては元プレミアム王国を通っての北回り経由でしか行く手段が無いらしい。


 どのくらいの距離があるのかは知らないが、俺ならスノウでの飛行が可能なのでもしかしたら砂漠越えが出来るかもしれない。


「おばちゃん、いい情報ありがとう。折角だからそのエレガント王国まで行ってみるよ」


 そう、いつまでも鳴沢の事を引きずっていられない。

 俺にはエンジェルクエストを攻略するという使命があるんだ。

 ・・・と、そう思わなければやっていけるか!

 多少強引でも無理やり忙しくして気分を誤魔化していこう。うん、そうしよう。


 そう考えると、おばちゃんの26の王の情報はいいタイミングだったのかもしれない。


「そうかい。もし砂漠越えをするんだったら無理をするんじゃないよ。

 まだ僅かながらオアシスが残っている場所があるけど、砂漠の気温は変化が激しいからね」


「大丈夫よ。こう見えても優秀な冒険者なんだから。下準備だってしっかりしていくに決まってるじゃない」


 ぶっちゃけ、砂漠で夜明かしてもキャンピングセットを使えば安全は確保できるし。

 朝食を食べ終えた後、砂漠越え用のアイテムとしてクールポーションとホットポーションを購入し、一応日射防止と暖房を兼ねてマントを朝霧さんの店で購入する。


「ふ~ん、砂漠越えねぇ。フェンリルちゃんなら心配ないけど準備するには越したことはないからね」


 そう言って渡されたマントは相変わらずのスペックを誇っていた。

 巫女服に合わせた千早を模したマントには防熱・防冷・防刃まで兼ね揃えており、おまけに防御力まであった。


「朝霧さんいつもありがとね」


「いいのよ、フェンリルちゃんはお友達だからね。

 それにしてもエレガント王国ねぇ。まさか砂漠の向こう側に存在していたとは」


 朝霧さんの話によると、β時代にはその名前は出てきていたけど場所が分からず探せなかったとか。

 もっとも期間の短いβテストだとそこまでの攻略は難しいんだけどね。


「もし良かったら向こうの情報を優先的に教えてね。特に素材関係とか」


「そりゃあもちろん。ただ、砂漠の王国だから鉱石関係とかはあまり期待しないでくださいね」


 朝霧さんもその辺は分かっているので鉱石関係より織物類、革物類を期待しているそうだ。

 全ての準備を終えて転移門からウエストシティに移動して、ウエストシティの北西の門から出る。

 早速スノウを呼び出し西の砂漠に向かって飛び立つ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 水の砂漠はガチすぎた。

 少々大げさだがアフリカのサハラ砂漠か?と思うくらいの広い砂漠だった。

 なんせ移動に飛翔騎獣で1日半掛かったんだからな。


 ウエストシティから出発した時間が昼頃。とりあえず半日ほど飛んで夜にはキャンピングセットで1夜を過ごす。




9月17日 ――48日目――


 次の日も朝早くからスノウでひたすら西に向かって進んでいく。

 空を飛ぶことのできるスノウで高速で進んでいるにも拘らず、行けども行けども城らしきものや町らしきものが一向に見えない。

 流石に日が暮れ始めて今日の移動もここまでかな?と思ったときにようやく町の明かりが見えた。


 流石に町の真ん中に下りるわけにもいかず、町の近くに下りてスノウで地上を走っていく。


 アラビアンナイトに出て来そうな町並みに、奥にはそれらしい城がそびえたっている。

 町は城壁で囲まれており入口のところには王国の警備と思われる衛兵が居た。


「止まれ! ここはエレガント王国の首都エレミアだ。申し訳ないが町へ入るには簡単な入国審査を受けてもらう」


 これはちょっと予想外。まさか入国審査があるとは。

 俺はスノウから降りてマントを脱いで身なりを整える。


「飛翔竜の騎獣を持ってるとはお前は冒険者か?」


「ええ。やっぱり空飛ぶ騎獣を持ってる人ってそんなにいないのかしら?」


「そうだな。普通であれば国が管理して有事の際に運用するのが通常だ。個人で持つのは大抵が冒険者となるな」


 まぁ、普通はそうなるわな。

 あれ? でも騎獣って乗ったままだと戦闘が出来ないよな。国が管理しても伝達もしくは運搬くらいしか使い道が無いんじゃないか?

 伝達にしてもマジックアイテムがあるからさほど重要じゃないし。

 ああ、そう言えば特殊職に自騎獣に乗って戦う事の出来る騎獣士(ライダー)があったっけ。

 あれなら騎獣に乗ったまま戦うことが出来るから、空飛ぶ騎獣がいれば戦時には有利になるか。


「それで、この国に来た目的は?」


「え~と、観光?」


 馬鹿正直に王の証を探しに来たとは言えない。

 もしかしたら『王の中の王』みたいにこの国の王が持ってたりしたら一騒ぎどころじゃなくなるし。


「ふむ、怪しいところは特にないみたいだな。入国には500ゴルド必要だ」


 安いっちゃあ安いけど、普通の一般人にはちょっと高めじゃないのか?

 まぁ、他のNPCがこの王国に訪れているのかは分からないが。

 俺は言われるままに500ゴルドを支払う。


「これが入国許可証だ。くれぐれも町中で騒ぎを起こさないでくれよ。騎士団の出動とかで余計な手間を掛けないように。

 それでは、ようこそ砂漠の王国エレガントへ!」


 許可証を受け取り門を通って王都エレミアに入る。

 とは言っても、もう日も暮れてしまったので今日は宿を探して終わりだな。


「あ、そうだ、衛兵さん。この辺で食事の美味しい宿ってどこら辺にありますか?」


「ああ、飯の美味い宿だったら、この大通りにある『踊る舞姫亭』ってところが一番美味いぞ。

 飯が美味い以外にも有名な宿だがな」


 ぶっ!! 思わず吹き出しそうになった。

 何だその宿の名前!

 え? ワザとなのか? この衛兵さん、俺の二つ名を分かっててワザとその宿を紹介してるのか?


「えーと、この大通りの『踊る舞姫亭』だね。ありがと」


 取り敢えずお礼を言い、宿に向かう。

 目的地の宿はかなり大きく中から軽快な音楽が聞こえてくる。

 宿の扉を開けると、1階は宿屋としては定番の食堂になっているが、他の宿との違いステージ舞台があった。

 そして丁度ステージ舞台では、踊り子衣装を着た女性たちがダンスを披露していた。

 踊り子の軽快なダンスに食事を取っている男たちが異様な盛り上がりを見せていた。


 あー、なるほど。これが有名な理由か。

 そんな異様な盛り上がりを見せる客を眺めながら、受付で宿泊の申し込みをする。


「すいませーん、1泊お願いしたいんですけど」


「ようこそ、『踊る舞姫亭』へ。1泊でございますね。300ゴルドになります」


 宿としてはちょっと高めだな。有名な分高くなってるのかな? まぁその分食事に期待しますか。

 俺は300ゴルド払い部屋の番号を聞く。


「それにしても随分盛り上がってますね」


「ええ、特にこの後登場する剣の舞(ソードダンス)は必見ものですよ。

 セントラル王国で剣の舞姫(ソードダンサー)の二つ名で有名な冒険者の美しい戦闘を参考にしたダンスなんですよ」


 ぶっ―――――――――――――――――――!!!


 ちょ、おい、こんな遠くの砂漠の王国まで二つ名が轟いてるのかよっ!?


「へ、へぇ~、そうなんですか。た、楽しみですね・・・」


 内心の動揺を悟られずに何とか表情を取り繕うことが出来た。

 ここで俺がその本人だってわかったらどうなるか考えるのも恐ろしい。


 『踊る舞姫亭』の食事はNPCの宿にしては『極上のオムライス亭』とタメを張るくらい美味しかった。

 そして、この宿の目玉である剣の舞(ソードダンス)は凄く綺麗だった。

 俺の剣舞(ソードダンス)が戦いの為に対し、この宿の剣の舞(ソードダンス)は魅せるための舞だ。

 だけどその踊りはそのまま戦場でも通用するほどの高レベルの舞だった。




9月18日 ――49日目――


 翌日、早速王都エレミアを探索するために朝早くから町に繰り出した。

 第1目標として王の証の所有者の情報、第2の目標として朝霧さんに頼まれた素材の調査、第3の目標として他の王の情報収集と言ったところだ。


 聞き込みをするのは露店(NPCが出している)、商店、教会、魔術師協会を主に今日1日かけて回る予定だ。


 朝霧さんに頼まれた素材は順調に見つけることが出来た。

 艶やかな糸を吐き出すアクアキャタピラーから作られた高級シルクに、メタルタランチュラから取れる糸で作られる防刃性に優れたメタルクロース。耐久性と軽さを兼ね備えたサンドスコーピオンの甲殻に、防熱性・通気性に優れたレイクタートルの甲羅などなど。

 それらを朝霧さんへ渡すサンプルとして購入する。


 で、肝心の26の王の情報はこれと言って出てこなかった。

 おかしいなぁ。おばちゃんの話じゃこの王国に王の証所持者――つまり26の王の1人が居るはずなんだが。

 おばちゃんもガセネタを掴まされたのか?


 そして一番面倒なのが、時折声を掛けられるナンパ。


「お嬢さん、もしよろしければ我が主にお会いになられませんか?

 我が主に見初められれば一生幸せな人生を送れますよ」


「そこの麗しき姫、我が主の花嫁になってもらえないだろうか?

 我が主も貴女様に劣らずの美貌の持ち主です。貴方様の伴侶として相応しいお方ですので、是非我が主に嫁いでみてはいかかでしょうか」


「マドモアゼル、貴方は世界一の美しきお姿をお持ちだ。是非その美しさを我が主にお目通し願えないだろうか」


 などなど、そろいもそろって「我が主」にって声を掛けられる始末。

 ナンパするなら人を使わないで自分で来いっての。

 まぁ、本人が来てもお断りだけど。


 時には強引なナンパも出てきたが、ステップスキルを駆使してさっさとその場から逃れたりもする。

 それが1時間ごとに声を掛けられるのでウザったくて仕方がない。


 夕暮れ時まで何とかナンパを撃退しながら調査をしたが、結局26の王の情報は1つも出てこなかった。

 全く新しい国で1日やそこらで情報を掴もうとしたのが甘かったのか?


 取り敢えず今日は休むべく、昨日と同じ『踊る舞姫亭』に宿を取る。

 夕食まで時間があるので部屋のベットに横になり、一先ず休憩をする。


 30分くらいしただろうか。

 今日の情報を頭の中で整理して何か取っ掛かりが無いかと考えていたら、気配探知スキルに部屋の外の扉の前に3人ほど様子がうかがっているのが引っかかった。


 ベットから起き上がり扉の傍の壁に背を付け外の様子を伺う。

 扉の前に1人、その隣に1人、見張りの為か少し離れた場所に1人いた。


 カチャリ


 すると、部屋の扉の鍵が外された音が聞こえた。


 あり得ない。


 例え高Lvの罠スキルでも宿屋の宿泊部屋の扉は開けることが出来ない。

 ログアウトするために用意された宿屋の宿泊部屋は、ゲームを安全にプレイするための最低限の完全セーフティエリアだ。


 それが簡単に開けらている。

 そのことから考えるに、これはプレイヤーではなくNPCによる何かしらのイベントなのかもしれない。


 どこでフラグを立てたのだろう?

 休んでいる宿屋に進入って、明らかに厄介事だ。

 出来れば面倒事は避けたいんだがなぁ。


 そんな考えをお構いなしに、不審者は扉を開けて侵入しようとしてくる。

 俺は開けられようとした扉を思いっきり蹴飛ばす。

 当然不意を食らった不審者は扉を叩きつけられて廊下に転がる。

 すぐさま扉を開けて転がっている不審者の1人を部屋の中に引きずり込み、再び扉を閉めて刀を抜いて不審者の喉元に突きつける。


「動かないで。扉の前の人も動かないで」


 不法侵入をしようとしてた割には、このNPCの動きはイマイチだ。

 不意を突かれたとはいえ、こうも簡単に捕まるとはその手のNPCじゃないのかな?


「貴方達の目的は何? 乙女の部屋に不法侵入しようとしてお茶をしに来ましたとかじゃ済ませないわよ?」


 自分で乙女って言って鳥肌が立ちそうだったが、この国の風習か少なくとも彼ら(?)には有効だった。


「くっ、女性の部屋に無断で入るのは流石にやりたくなかったんだが仕方なかったんだ!

 俺達は貴女をある人のところへ連れて行かなければならないんだ。それが例え力づくでも」


「力づくとは穏やかな話じゃないわね。少なくとも話し合いとかの穏便な手段はとれなかったの?」


「・・・今日一日貴女にお誘いを申し込んだのだが、貴女は我々を歯牙にもかけなかったので仕方なくこのような手段に出たのだ」


「はぁ? 今日一日誘われたって、そんなこと全然・・・」


 そこまで言って気が付いた。

 あの数々のナンパの事かっ!!


「分かりにくいっつーの! 普通に話せよ! 何ナンパで連れ出そうとしてんだ」


「女性を誘うのはこの国ではあれが普通だが・・・」


「面倒くさい風習だな、それ!?」


 取り敢えずこれは何かしらのイベントなのでここで問答しても始まらない気がする。

 俺はこの人たちに連れられて、とある場所へと向かう。


 用意されていたのは立派な馬車。

 ええ、何やら貴族とかが乗るような豪華な装飾をされていて、馬車の扉には多分この国の紋章が描かれていた。


 えーっと、何やらとんでもなく面倒くさいことが待ってそうな気がするんだけど・・・

 と言うか、力づくで連れ出す場合もこの馬車を使おうとしたのか? ものすごく目立つんだが・・・


 馬車に揺られて付いた先は、この国の城。

 西洋の城と言うよりは、アラビアの宮殿と言った方がしっくりくる。


 ええ、ええ、予想通りと言うかなんというか・・・

 そうなるとあのナンパに出てきた「我が主」ってのは・・・


 宮殿についてから通されたのは、お約束通り謁見の間。

 お偉いさんが沢山並ぶ中、俺の前に玉座でふんぞり返っているのがこの国の王様。

 見た目は20代と若く、アラビア特有の日に焼けた肌にがっしりとした体つき、それでいて黒髪に顔は整っていて美系とどこまでもイケメンな王様だった。


「余がこのエレガント王国の国王、ヨシュア・エレクシア・ミア・エレガントⅢ世だ。

 そなたが剣の舞姫(ソードダンサー)・フェンリルか。剣の舞姫(ソードダンサー)の噂はこの国にまで聞こえておるぞ」


 あー、俺は何となくこのイベントのフラグが何だったのか分かった。

 ゲーム的にどこで判断してるのかは分からないが、NPCに二つ名の噂が広まったのがこのイベントの切っ掛けなんだと。


 多分、二つ名持ちのプレイヤーがこの国に入ると、この国王謁見の強制イベントが始まるんだろうなぁ。


「国王様、それでわたしは何故ここへ呼び出されたのでしょうか?」


「うん? 聞いてはおらんのか? そなたは余の妃になるのだぞ」


 そう言えばナンパでも言ってましたね。

 国王様の花嫁。そりゃあ一生ぜいたくな暮らしが出来るわ。


 って、出来るかっ―――――――――――――――!!!


「国王様、わたしは冒険者です。国王様が噂で聞いた二つ名は冒険者であればこそです。

 もし国王様の妃になるのであれば、冒険者でなくなったわたしはそこらの娘と変わらぬ存在になります。そうなれば国王様の妃には相応しくないかと思われます」


「ほう、冒険者であるからこその美しさだと」


 いや、別に美しいわけじゃないけど。


「はい、その通りでございます。ですので、国王様の御妃にはわたくしには荷が重すぎます」


「ますます気に入った。そなたは必ず余の妃になってもらうぞ!

 今日はもう日も暮れた、城の中でくつろぐがよい。誰か彼女の部屋を用意せい」


 ヨシュア王に言われ、お偉いさんの1人があれこれ指示をだし部屋から出ていく。

 うぉおい! これ強制過ぎるだろ!? え? 何? マジで結婚するの?

 やばい、どっかで必ず逃げ出そう・・・! イベントなんて知ったことか!


「お兄様! フェンリル様がお見えになっているというのは本当ですか?」


 お偉いさんの1人とすれ違いざまに入ってきたのは、ヨシュア王と同じく黒髪の美少女だった。

 背は同じくらいの150cmくらいだから、年は中学生くらいか?


「おお、我が妹よ、そこにいるのが剣の舞姫(ソードダンサー)だ」


「ああ、初めましてフェンリル様。わたくしヨシュア王の王妹のヨハンナと申します。

 お会いできてとても光栄です」


 ヨハンナはそのまま俺の手を取り感激の涙を流す。

 えーと、涙を流すまでの事か?


「我が妹はよくよくそなたの事を気に入っててな。

 そなたがもし男なら我が妹を嫁がせてもいいと思っていたくらいだ」


 どうやっても王家に取り込むつもりですか。

 だがそんな思惑とは裏腹に、ヨハンナの方はそうでもないみたいだ。


「お兄様、何度も申しあげたとおりわたくしには心に決めた人がおります」


「ならん。我が妹よ、お前をあ奴にくれてやるわけにはいかんのだよ」


「こればかりはお兄様に指図されたくありませんわ」


 えーと、何これ? いきなり目の前で兄妹げんか始めちゃったよ。

 どうもヨハンナには思い人が居て、ヨシュア王はそいつが気に食わないらしい。

 まぁ、王族の問題だ。そう簡単に血縁関係を結べるわけでもないしな。


「ふん、お前の相手は余が決める。あ奴等との婚姻は絶対認めないからな」


 そう言いながらヨシュア王は謁見の間から出ていく。


「お兄様の分からず屋!」


 ヨハンナも怒り心頭に反対の扉から出て行ってしまった。


「フェンリル様、お部屋の準備が出来ましたのでご案内いたします」


 取り残された俺はどうしたもんかと突っ立っていたところに、先ほどのお偉いさんが来て部屋に案内してくれた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「はぁ~、結婚マジ勘弁」


 用意された部屋は、いかにもと言った豪勢な部屋だった。

 調度品は見るからに高そうだし、ベットだって天井レース付きのダブルベットほどの大きさだ。

 部屋は高所にあるらしく、窓の外には王都エレミアの夜景が見渡せた。


 俺はベットに横になり、この後の事を考える。

 このままイベントを進めていけば、まず間違いなくヨシュア王との結婚が待っているだろう。

 だがこのイベントで得られるメリットは何だ?

 普通に考えれば、安全と不自由のない暮らしだろう。

 しかしこれがゲームである以上、ずっと王宮暮らしとはいかない。

 そう考えると他に何がある・・・? 26の王・・・?

 これは26の王関連のイベントなのか・・・?


 暫くの間、このイベントのメリット・デメリット、26の王の関連などを考えていると、部屋の外の扉に気配探知が引っかかる。

 その人物は部屋の鍵もなんのその、堂々と進入してきた。


「夜這いに来てやったぞ」


 俺は思わず突っ伏した。

 どこまで強制なんだこのイベント。

 侵入者はヨシュア王だった。そりゃあ、王様なら部屋の鍵は関係ないよな。

 つーか、堂々と夜這い宣言をするなよ。


「ええと、先ほども申しあげたとおり、わたしは妃になる気はありませんので遠慮します」


 俺はベットから立ち上がり、そのまま窓ににじり寄る。


「何、遠慮するな。一度抱かれてみればその気になるかもしれんからな」


「だから、抱かれる気がさらさら無いって言ってんだよ!」


 このまま貞操を奪われるくらいならイベントなんか放棄してやる。

 俺はアイテムストレージから騎獣の笛を取出し笛を鳴らす。


「じゃあね、王様」


 俺は窓から飛び降り宙を舞う。

 そしてタイミングよく地面に着く寸前にスノウが俺を拾い上げる。

 後はそのままこの国を離れるだけだ。


 結局、王の証所持者を調べることが出来なかったが仕方がない。

 誰か別のプレイヤーから調べてもらうしかないな。

 とは言っても、ここまで来るのに元プレミアム王国経由で来るから相当時間が掛かるだろうなぁ。

 誰か飛翔騎獣を持っていれば1日半くらいで着くんだけどなぁ。


 スノウに乗ってそのまま王宮から離れようとして下を見渡せば、王宮の中庭らしきところに王妹のヨハンナと騎士らしき男と抱き合ってる姿が見えた。


 おおー、あれがヨハンナの思い人か。

 ヨシュア王に反対されているみたいだが、俺は応援しているぞ。

 あの王様に一度ギャフンと言わせてやれ。

 もっともたった今から俺はこの王国から離れるから、遠くからの無責任の応援でしかないが。


 俺は抱き合う2人を見下ろしつつ、スノウを駆って砂漠の王国に別れを告げる。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 雑談スレ16


109:ミノ・タン・ロース

 誰かウエストシティの水の砂漠の向こうのエレガント王国に行ったことある人いる?


110:名無しのごん子

 え? 水の砂漠の先に王国なんてあったの?


111:はぐれてないメタル

 俺も初めて聞いた


112:独眼竜

 >>109 ちなみにソースはどこ?


113:ミノ・タン・ロース

 ソースはエバラ焼肉のたれ


114:AVENGERS

 あれは旨いよね


115:嵐を呼ぶ旋風児

 俺はどちらかと言うと黄金の味の方が好きだな


116:独眼竜

 って、ソース違いだよ!!www


117:ミノ・タン・ロース

 >>116 サーセンw

 NPCからの情報だよ


118:スクランブルエッグ

 そのNPCは信用できるの?


119:ミノ・タン・ロース

 信用できるっちゃ信用できる


120:はぐれてないメタル

 ほう?


121:独眼竜

 ふむ? 根拠は?


122:ミノ・タン・ロース

 だってセントラル国王の情報だもん

 冒険者ギルドで飯食ってる時に会ったwww


123:キャノンボール

 ぶっwww


124:名無しのごん子

 王様www 何してるのwww


125:光の王子

 王子の時と違い今は立場があるんだから王都の散策は自重しろよwww


126:独眼竜

 あーそれは確かに信用できるソースだな


127:ミノ・タン・ロース

 で? 誰か行った人いる?

 水の砂漠を越えるか、元プレミアム王国を経由してのルートしか行く方法は無いみたいだけど


128:嵐を呼ぶ旋風児

 いくらゲームとはいえ砂漠越えはきついぞ


129:はぐれてないメタル

 俺一度砂漠をひたすら西に進んでいったけど、いくら進んでも砂漠のみだった

 その時はここがゲームの境界なんだと思っていたけど、先があったんだ・・・


130:光の王子

 >>129 チャレンジャーだなwww


131:独眼竜

 まぁ空飛ぶ騎獣でも持っていればまた違うかもしれないがな


132:名無しのごん子

 飛翔騎獣を持っている人なんて稀でしょう


133:AVENGERS

 てことは元プレミアム王国経由のみと言うことか


134:光の王子

 そのルートだとメチャクチャ時間が掛かりそうだな


135:はぐれてないメタル

 そりゃあ、最短距離の砂漠でさえ1日やそこらじゃたどり着かないんだから、遠回りになる元プレ経由なんて何日かかることやら・・・


136:光の王子

 うーん、誰か行ってみるチャレンジャーはいないのか?


137:ミノ・タン・ロース

 ノ


138:名無しのごん子

  (≧∀≦)ノ


139:キャノンボール

 ノ


140:光の王子

 え? じゃあ俺もノ


141:ミノ・タン・ロース

 どうぞどうそ


142:名無しのごん子

 どうぞどうぞ


143:キャノンボール

 どうぞどうぞ


144:光の王子

 おい!www


145:独眼竜

 何にしても早いとこそのエレガント王国の情報が欲しいな






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ