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Angel In Online  作者: 一狼
第8章 Lovers
39/84

37.恋愛の女王とレベルオーバー

 第2の試練の間は先ほどの部屋と違い体育館位の広さだった。


『はーい、では第2の試練は強さを見せてもらいま~す。

 これから大量のモンスターを呼び出しますから、それらを全滅させて下さい。そうしたら第2の試練はクリアです』


 ふむ、戦闘能力だけで言ったら自分で言うのもなんだがトップクラスが2人もいるのだ。さほど問題は無いだろう。

 と言いたいところだが、さっきのセクハラクイズの件もあるからな。『恋愛の女王』が何を言い出すのかは不安だ。


『ただし! 戦うことが許されるのは男性のみです。女性は援護に徹してください。

 女性は戦ったらだめですよ? 戦ったら即失格ですので気を付けてください』


「ちょっと待ちなさいよ! 何そのいい加減な理由は!?

 女性が戦士(ファイター)系で男性が僧侶(プリースト)系だったらどうするのよ!」


『えー、そんなの知りませ~ん。

 男性は女性を守るものです。女性を守るだけの力を示してください。

 女性は男性を陰で支えるものです。なので男性を後方からサポートしてください』


 『恋愛の女王』(おまえ)はいつの時代の人だよ!?

 ってことは俺は後ろで治癒魔法を唱えることしかできないのか。

 まぁ、ドラゴンレザーの胸当てとミスリル銀糸で編んだ服が没収されて防御が低くなってるから後方の方が都合がいいのだが。


「そう言えば今さらだけど、疾風の職業って何? まさかそんななりして魔法系とは言わないわよね?」


「職業は見ての通り剣豪だ。

 何、心配するな。『恋愛の女王』の言う通り男が女を守るものだ。そこら辺のモンスターなんか蹴散らしてやるよ」


 何か頼もしいこと言ってくれるんですけど。


『はいは~い、じゃあモンスターを召喚しま~す』


 言い終ると同時に、部屋に無数の召喚陣が現れる。

 出てきたモンスターはデーモン、ガーゴイル、ゴーレム、シャドウストーカー、オーガ、トレント、ラミア、ハーピー、ロックタートル、etc.・・・

 え? 何? どんどん出てきてるんですけど・・・

 ざっと見た感じ50は超えてますよ、これ。


「ちょっと! いくらなんでも多すぎでしょ!」


『不可能を可能にする男! そんなのを見たくありません?

 あ、ちなみに棄権はいつでも受けて受けてますよ~』


 うわぁ、何、劇的な演出のつもりなのか? これ?

 つーか、流石に数が多すぎでしょ。範囲魔法でも使えればそれなりに対処できると思うけど・・・疾風は魔法なんか取っていなそうだ。


「フェンリル、何も心配しなくてもいい。これくらいはどうってことないさ」


 俺の心配をよそに、疾風は何とも頼もしい言葉を言ってくる。

 ええ? なにこれ? 疾風がかっこよく見えるんだけど。


『それじゃあ、第2の試練開始!』


 ドン!


 『恋愛の女王』の合図とともに踏込と思われる足音がし、隣にいた疾風が消え去る。


 は?


 俺は思わず目を見張る。

 ついさっきまで隣にいた疾風は、今はモンスターを挟んで向こう側に居る。

 そして1匹のモンスターが体を上下に斬られ崩れ落ちて光の粒子となって消え去る。

 その間にも疾風はまたもや一瞬でモンスターの傍まで近寄ると同時に叩き斬っていた。


 え? なにこれ?


 疾風の二つ名の『瞬動』。マンガやアニメなどでよくある技術だが、実際に目のあたりにすると凄まじいものがある。

 はっきり言っていくらVRがゲームとはいえ、実際にマンガやアニメのように超高速で移動するのには無理だ。

 だが疾風はそれをやってのけている。

 それに加え、あり得ないことにLvが低いモンスターとは言え1撃で屠っている。

 多分、体当たりの要領で刀ごとモンスターにぶつかっているのだろう。

 その凄まじい超高速も攻撃力に加算されて1撃で倒すほどの力を生み出している。


 そうこうしている間に、モンスターの群れはあっという間に10体も満たない数になっていた。

 だがその中には物理攻撃の通用しないシャドウストーカーや火の精霊のサラマンダー、水の精霊のウンディーネ、生命の精霊のプシュケーなどが居た。

 疾風の刀は見た感じ魔力の持たない普通の刀に見える。

 今のままだと精霊たちには攻撃が通じないと思いどうやって援護に回ろうかと思っていたが、何とそれすらもあっさり瞬動で斬り伏せていた。


 だが、よく見ると疾風のHPはじりじり削られている。

 よくよく考えれば超高速で移動しているとはいえ、その進路に障害物があれば自分から突っ込んでいるような形になる。

 多分避けきれなかった攻撃がHPを削っていったのだろう。

 俺は慌てて治癒魔法を唱えHPを回復させる。


 そうして全てのモンスターを倒すのに5分も掛からなかった。


「ふぅ、まぁこんなものかな」


 背中に刀を仕舞いながら疾風は俺の傍にやってくる。


『・・・・・・』


「・・・・・・」


 俺も『恋愛の女王』も今の光景に言葉も出なかった。


「え・・・っと、お疲れ様?」


「言ったろ? これくらいはどうってことないって」


 どうってことなさすぎるって。


「いくつか質問良いかな?

 疾風の今の瞬動ってどうやってるの? いくらゲームとはいえ流石にありえないと思うんだけど・・・」


「ああ、あれはスキルの同時使用だな。

 ダッシュスキル、ジャンプスキル、ステップスキル、この3つを同時に使用しながら滑るようなイメージで移動する。そうすれば今みたいな瞬動が完成する」


 ・・・『イメージ効果理論』だ。

 多分俺の提唱した理論は知らずに、疾風は独学でスキルの同時使用を思いつき実行し成功させたのだろう。

 まさかスキルの複合仕様でここまでの動きが出来るとは。


「えっと、もう1つ。精霊とかを刀で斬っていたけど、あれって物理攻撃が効かないよね。どうやって倒したの?」


「ああ、この刀は童子切と言って特殊アビリティの魔力斬りが使えるんだ。そのおかげで物理攻撃以外も出来るんだ」


 うぉ!? まさかの天下五剣の1つとは。

 普通の刀にしか見えなかったのに侮れなねぇ。


『・・・ええと、第2の試練クリアおめでとう?

 それじゃあ扉をくぐって第3の試練の間へ行ってちょうだい』


 『恋愛の女王』も流石にこの展開は予想外だったのだろう。

 何故か賞賛の言葉が疑問形になっている。


 俺達はそのまま扉をくぐり第3の試練の間へ赴く。

 第3の試練の間も第2の試練の間と同じく体育館位の広さだった。


「またここで戦闘でもするの?」


『まぁ、戦闘と言えば戦闘だけど、次に戦ってもらうのは誘惑と言う名のモンスターと戦ってもらうわよ!』


 そう言って召喚陣から出てきたのは、際どいほどのビキニアーマーを着た妖艶な女戦士と、まるで執事のようなイケメンな魔導師の男だった。


「うふ、貴女があたしの相手ね。いろいろ可愛がってあげるわ。ううん、むしろあたしが可愛がって欲しいわ。手取り足取りね」


「そこの麗しいお嬢さん、もしよろしければ私のお相手をしてもらえませんでしょうか」


 女戦士は体をくねらせながら疾風に抱き着いてきて、執事魔導師は俺の手を取り跪く。


 え? なにこれ? これが誘惑?


 男は色気で誘惑、女はイケメンで誘惑。

 そう言う魂胆なんだろうけど、生憎俺と疾風には何の効果もない。

 疾風は朴念仁だし、俺は男になびく要素が一つもない。


「フェンリル、この女は倒していいのか?」


 すり寄ってくる女戦士を強引に引きはがしながら疾風は訪ねてくる。


「うん、やっちゃっていいよ。この2人を倒すのが試練らしいから」


 俺も跪いている執事魔導師から手を引き(手にキスをしようとしてた)、左右の刀を抜いて身構える。


「ちょっとぉ、そんなことよりいいことしようよ」


「お嬢さん、貴女にはそんな野蛮なものは似合わないですよ」


 そんな2匹のモンスターを余所に、俺と疾風は問答無用に襲い掛かる。

 流石に攻撃を受けると2人は反撃に出るが、先ほどの疾風の戦闘力と俺の戦闘力を見ればこの2匹は相手にはならない。


 疾風の瞬動の連続攻撃により女戦士はあっけなく消え去り、執事魔導師は俺の剣舞(ソードダンス)と魔法剣によりなすすべもなく光の粒子となって消え去る。


「『恋愛の女王』、終わったわよ」


『・・・第3の試練もクリアよ。第4の試練の間へ行ってちょうだい』


 『恋愛の女王』は何を考えてこの試練を出したのだろう? あまりにもあっけなさすぎるんだが。

 ああ、そうか、お互いの浮気性のところを見せ付けあい仲違いさせるのが目的だったのかな?

 まぁ、だとしたら俺達にはまるっきり通用しない試練だったな。

 俺達は引き続き扉をくぐり第4の試練の間へ向かう。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「あれ?」


 気が付くとそこは俺の通っている高校の教室だった。

 俺は机から顔を上げて周りを見渡す。


 どうやら今は放課後らしく、教室には誰もいない。

 いや、俺の他に鳴沢が目の前にいた。


「ああ、やっと起きた。大神君寝過ぎだよ」


「しょうがないだろ、昨日も夜遅くまでネトゲーやってたんだから」


 そう、俺は昨日遅くまでネットゲームをやってたんだ・・・よな・・・?

 なんか、昨日の記憶がはっきりしないんだが。


「もう、ネトゲーもほどほどにしないと体壊すわよ」


 鳴沢はしょうがないと言った表情で俺の机に腰を掛ける。

 俺の目の前にはスカートからはみ出した鳴沢の太ももがあらわになる。


「あれ? 大神君、もしかしてあたしの太ももで興奮した?」


 俺の視線に気が付いた鳴沢がからかい口調で言ってくる。


「ばっ、おまっ、何言ってるんだよ」


「ふふ、何だったらこの奥までみて見る?」


 そう言いながらスカートの端をつまみ上げる。


「遠慮しなくていいんだよ? あたし達付き合ってるんだから。今ちょうど教室には誰もいないし、ね?」


 あれ? 俺達付き合ってる・・・んだっけ?

 ああ、そうか。昨日鳴沢が告白してきて俺がオーケーをしたんだっけ。


「大神君、こんな風になってみたいって思ってたんでしょ?

 誰もいない教室であたしとイチャイチャする。あわよくばエッチな事もしてみたいって」


 まぁ、そりゃあ男だからな。エッチな事もしてみたいよ。それが好きな女なら尚更だ。


「いいよ。大神君にだったら何されても。あたし一生懸命頑張って大神君の理想の女性になるから、ずっと一緒に居ようね」


 ああ、何されてもいいんだ。俺の思った通りの理想の女性になってくれるんだ。

 それはどんなに幸せな事なんだろうなぁ・・・


 鳴沢は制服の上着を脱いで下着姿になり、俺の胸元に手を当て弄る。


「いいのよ、あたしに任せて・・・ね?」


 鳴沢は妖艶な微笑みを見せて唇を重ねようとする。

 このまま鳴沢に身も心も任せて・・・




 ・・・って、そんな訳あるか―――――!!


 俺は左右の刀を鳴沢の体に突き刺す。


『グギャァァァァァァァ!!』


 その瞬間、教室だった部屋は何もない試練の間へと変わり、鳴沢だったものは妖艶は蝙蝠の羽を持った男性型モンスターに変わる。


 淫魔(インキュバス)――女性に淫らな夢を見させ精気を吸い取る悪魔だ。


 どうやら俺はこの淫魔(インキュバス)に夢を見せられ、そのままHPとMPを吸われ死に至るところだった。


「はぁ、最悪。まさか鳴沢を斬ることになるなんてな。悪いけど覚悟してもらうよ」


 淫魔(インキュバス)は刺された腹を押さえながらこちらを睨みつける。


『何故わたしの淫夢が効かなかった』


「わたしの惚れた人は訳分かんない理由でどっか行っちゃったきりなんだよね。残念なことに夢のように都合のいいような展開はあり得ないから。

 もしそうだったら今頃ここには来ていないよ」


『馬鹿な、現実なんかより理想通りの方がいいに決まっている。何故それを蹴る』


「まぁ月並みなセリフだけど、思い通り行く理想より思い通りにならない現実の方が面白いでしょ?」


 俺はそのまま左右の刀で淫魔(インキュバス)を斬りつける。

 ――二連撃、三連撃、四連撃、剣舞六連――!!


『ガァアァァ・・・』


 淫魔(インキュバス)はそのまま光の粒子となって消える。


 俺は疾風の事を思い出し慌てて彼の方を見る。

 疾風の方には淫魔(インキュバス)と対になる女淫魔(サキュバス)が憑りついていた。

 だが次の瞬間、背中から抜いた刀により女淫魔(サキュバス)は斬り伏せられる。


『ギャァアァアァァァッァ!!』


「ふぅ、随分と面白い夢を見せてくれたな。お礼にたっぷり魔力をくれてやるよ」


 疾風は童子切に思いっきりMPを注ぎ込み女淫魔(サキュバス)を斬り伏せる。

 魔力斬りにより女淫魔(サキュバス)が光の粒子となって消える。


「悪趣味な試練だな」


「そっちも随分な夢を見されたみたいだね」


 お互いのプライバシーの為に夢の内容は聞かないが、流石に疾風でも気を悪くしたのか女淫魔(サキュバス)には容赦しなかった。


『信じられないけど第4の試練もクリアしたみたいだね。この試練をクリアできたのは6人もいないのに』


「今のが第4の試練? 第3の試練の誘惑とどう違うの?」


『理想と現実の違いを見せる試練よ。

 理想を追いかけてれば現実を疎かにする。現実を再認識する為のね』


 あー、その理想を追いかけ続けてれば淫魔に搾り取られてるって訳か。


『まぁいいわ。そのまま第5の試練の間へ行ってちょうだい。第5の試練は今までとは違い貴方達の愛の絆を見せてもらうわ』


 愛の絆って・・・俺達にはそんなのないんだけどなぁ。


 『恋愛の女王』の言葉に従って扉をくぐり第5の試練の間を見て俺は固まってしまう。

 部屋の中央には丸い回転するベットに、ピンクの壁。部屋の壁の1面はガラス張りになっており、その向こうにはお風呂場が設置されている。


 ラブホじゃねぇか!!!


『さぁ!! ここで貴方達の愛し合う姿をあたしに見せるのよ!

 これが第5の試練よ!!』


 うおぉぉぉい! なんてこと言い出すんだこの女!

 ここでセックスをしろと言うのか!? しかも見せつけろと!? どんな羞恥プレイだ!!


「ふむ、ここで愛し合えばいいんだな?」


 そう言いながら疾風がこっちに近づいてくる。

 ちょ!? マジでするつもりか!?

 俺の身体(アバター)は女だから男とやろうと思えば出来ない事は無い。

 が、中身は男なんだ。出来るわけねぇだろ!!!


 装備を没収されたままなので、俺の上半身は下着姿のままだ。

 ここにきて疾風が野獣に目覚めたのかと、思わず胸元を腕で隠す。


 そんな俺の行動をさして気にした様子もなく、そのまま俺を抱きしめる。


「フェンリル、愛している。

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・

 どうした? フェンリルも愛してると言わないと」


「あ、愛してる・・・?」


 疾風の行動に戸惑いながらも俺は言われた通り言葉を紡ぎだす。

 疾風は俺の言葉に頷いて満足する。


「『恋愛の女王』、俺達は言われた通り愛し合う姿を見せたぞ。これで第5の試練はクリアだな」


『・・・は? いやいやいや! まだ何にもしてないじゃないですか!

 ちゃんとベットで絡み合いなさいよ! そしてその行為を見られてると思って羞恥に悶えてる姿を見せてくれないと! でないとあたしのおか・・・ゲフンゲフン、正式な判断が出来ないじゃない!』


 おい、今ちょっと本音が漏れかけてたぞ!


「何を言う。あんたは「愛し合う姿を見せろ」と言ったんだ。俺達は言われた通りにした。何か問題があるのか?」


 あ、そこで俺は気が付いた。『恋愛の女王』はセックスをしろとは言っていない。

 部屋の様子と『恋愛の女王』の言葉で、セックスしなければならないと勘違いしていたのだ。

 『恋愛の女王』はセックスをしろと言いたかったのだろうけど、疾風の言う通り「愛し合う姿」を見せればいいので、今の俺達のようにお互いの愛の囁きも十分「愛し合う姿」になる。


「ぷっ、くっくっくっ! あははははははっ! 確かに! わたし達は「愛し合う姿」を見せたね!」


 俺は思わず笑い出してしまった。

 まさか疾風の朴念仁がこんなところで役に立つとは。

 多分疾風はこの部屋の使用目的は分かってないんだろう。

 雰囲気でそれっぽいことは感じてたかもしれないが、ただ単純に『恋愛の女王』の言葉に従っただけだ。


『・・・今の愛し方、おざなりすぎるわ。偽りの愛じゃないの?』


「『恋愛の女王』様は今のが「愛し合う姿」じゃないと? わたし達の第5の試練までお互い協力してここまで来た姿が十分証拠になると思いますけど。お互い喧嘩もしない、浮気もしない、ちゃんと現実を見つめてる。

 これで「愛し合う姿」じゃないというのなら『恋愛の女王』様の目が曇ってるとしか言いようがないですね。それとも『嫉妬の女王』に名前を変えます?」


 まぁ、確かに俺達は即席PTなのでお互いに愛があるわけじゃない。

 ここは多少強引でも押し通すしかない。少しばかり挑発も混ぜて『恋愛の女王』に第5の試練のクリアを認めさせる。


『・・・いいわ。貴方達の愛し合う姿を見せてもらったわ。第5の試練はクリアよ。

 さぁ、最後の扉を潜り抜けてあたしの所へいらっしゃい。

 あたしと戦い見事勝ったら貴方達に祝福を授けてあげるわ』


 よし! 何とかなった!

 第5の試練まで『恋愛の女王』の思惑通りにならずに喧嘩とかをしなかったのが大きいな。

 そう考えると疾風の朴念仁と俺の中身が男の女身体(アバター)の威力は凄いのかもしれない。


 俺達はそのまま部屋を素通りし、最後の王の間へ赴く。


 最後の王の間も戦闘を想定してるらしく、体育館位の広さだった。

 奥には玉座があり、巫女姿の『恋愛の女王』が座っていた。

 玉座の左右には鎧武者が2体控えている。


「数々の試練を乗り越えて良くここまで来れたわね。

 最後にあたしと戦い貴方達の愛を見せて見なさい。

 と、言いたいところだけど、貴方達にはペナルティを与えるわ」


 次の瞬間、俺と疾風の足下に魔法陣が現れる。

 魔法陣によって固定されてるらしく、その場を動くことが出来ない。


「ちょっと! ペナルティってどういう事よ!? わたし達はちゃんと試練を乗り越えて来たじゃない!」


「うん、良く考えたら第1の試練、全問答えてないじゃない? 確かに目的はお互いの仲違いだけど、質問にはちゃんと全部答えないとねぇ~。

 それに第5の試練でセックスを見れなかったのが面白くなかったし」


 うわっ! さらっと私情も入ってるよ!


「という訳で、ペナルティルームへ強制転移! ペナルティルームのモンスターを全滅させてください。モンスターはランダムで決まるからあたしには手が出せないので自力で帰還してくださいね。

 あ、棄権はいつでも受け付けますので。ではアデュー♪」


 俺達の足下の魔法陣が光りだし、ペナルティルームへ強制転移されてしまう。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 クギュ!


 強制転移された俺は上から落とされたらしく、下に居たモンスターを下敷きにしていた。

 慌てて避けてあたりを見回すと緑色のリス型モンスターが俺を睨みつけていた。

 どうやらペナルティルームに飛ばされるのは1人に付き1部屋らしく、疾風は俺と一緒にはこの部屋には来ていない。


 部屋に居た緑色のリス型モンスターはよく見ると、子犬くらいの大きさで額に真紅の宝石が付いていた。

 俺は『月下美人』の言葉を思い出す。


 ・・・カーバンクル?


 1匹倒すごとに1LvUpのモンスター。

 超激レアモンスター。

 え? なにこれ? 20匹くらいいるんですけど。全滅させなきゃ出れないって言われてるんですけど。

 本当にランダムなのかよ!? ここまで都合がよすぎると余計な警戒をしてしまうよ!


 ピギィッ!


 俺を睨んでいたカーバンクル達は額の宝石を光らせそこからレーザー光線みたいなのを放ってくる。

 慌てて避けるも無数の光線の内の1つが躱しきれずに右手に当たり弾き飛ばされる。

 HPバーを見ると2割ほど削られていた。


 ・・・そう言えば弱いなんて一言も言ってないよね。


 俺は無数に降り注ぐ光線をステップを駆使しながら避ける。

 流石に全部を躱すことが出来ないが、治癒魔法を唱えながら左右の剣を奮いカーバンクルを屠っていく。


 カーバンクルは弱くは無いが、強くもない。

 Lv的に言えば50位かな。累計Lv60の俺からすれば大したことのないモンスターだ。

 一番厄介なのが例のレーザー光線のみで、それ以外は攻撃力も防御力もそこそこだ。

 そのレーザー光線も数が纏ってれば脅威だが、1匹ずつ倒していくごとに数が減るので全滅させるのにそんなに時間はかからなかった。

 ただ倒していくごとにLvが加速度的に上がっていくのはある意味一種の恐怖だったりする。


 ペナルティルームのカーバンクルを全滅させた頃には俺の累計Lvが81になっていた。


 ありえねぇ。ほんの数分でLvが20も上がるなんてありえねぇ。

 これは美刃さん達が引きこもる気持ちがよく分かる。


 そうこう考えてるうちに再び魔法陣が現れ俺を転送する。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「・・・・・・驚いた、まさか本当に戻ってくるとは」


 俺が王の間に現れると『恋愛の女王』は驚きの表情でこちらを見る。


「まぁ、私は運が良かったから罰則と言うよりご褒美が貰えたけどね」


「ご褒美・・・? けど貴女だけ戻ってきてもしょうがないわよ。彼氏の方は今頃・・・」


 『恋愛の女王』の言葉を遮って俺の横に魔法陣が現れる。

 当然魔法陣から出てくるのは疾風だ。


「よう、どうやらお互い無事に出てこれた見たいだな。

 もっともフェンリルの事だから心配はしてなかったが」


「ここは嘘でも心配だったって言うべきところじゃないの? 「愛する彼女」がモンスターの群れに放り込まれてるんだから。

 まぁ、こっちもそれほど心配してたわけじゃないけどね」


「ならお互い様じゃないか」


 疾風はこちらを見て笑いながら言う。

 不覚にもその疾風の笑顔にドキッとしてしまう。

 ・・・もし俺が本当に女だったらいい恋人同士になってたかもしれないな。


「・・・流石はここまで来れたカップルってところかしら。いいわ、貴方達の相手をしてあげる。

 善鬼! 護鬼! 戦闘開始!」


『『御意』』


 左右に控えていた鎧武者が腰の刀を抜いて俺と疾風に向かって来る。

 その間に『恋愛の女王』は呪文を唱えてくる。


 疾風は瞬動を駆使して善鬼を切り刻む。

 流石に1撃で倒すことは出来ないが、確実に善鬼のHPを削っていく。

 善鬼も反撃しようとするが、超高速で跳びまわる疾風を捉えきれずになすすべもなかった。


 もう1体の護鬼は俺の攻撃であっさり片が付いた。

 右に炎の槍の魔法剣、左に雷の槍の魔法剣。それに加え刀スキル戦技の桜花一閃を使った、二刀流スキル戦技十字斬り。

 俺のオリジナルスキル・桜花雷炎十字によってHPを半分削る。

 続けざまに唱えていた呪文を解き放つ。


「バーニングフレア!」


 巨大な炎弾を受けた善鬼はそのまま光の粒子となって消える。


 うん、Lv81パネェ。


 俺はそのまま『恋愛の女王』が放った爆炎の範囲魔法を斬りつけて、余波でダメージを受けながらも無視してハイステップで『恋愛の女王』に接敵する。


「悪いけど、わたしの勝ちよ。出来ればこのまま降参してくれるとありがたいんだけど」


 俺は右手に持った妖刀村正を『恋愛の女王』にビタッっと突きつけて降参を促す。


「・・・護鬼をほぼ一撃って・・・貴女いったい何者なのよ・・・いくらなんでもあり得ないでしょ」


「まぁ、そこは愛の力と言う事で」


「はぁ、いいわ。貴方達の事認めてあげる。

 善鬼! もういいわ・・・よ・・・」


 いろいろあり過ぎたせいか、『恋愛の女王』がため息交じりに負けを認める。

 そして善鬼に戦闘中止命令を出そうとしたが、既に善鬼の姿は無く疾風がこちらに歩いてくるところだった。


「何なのよ、貴方達2人は・・・こんなカップル見たことないんだけど・・・」


「そうだろうな。トッププレイヤー同士のPTだ。そこら辺のPTよりは優れているはずだ」


 いや、疾風。あんたは単に実力の事を言ってるんだろうけど、『恋愛の女王』は俺達の恋人としての規格外に呆れてるんですけど。


「まぁいいわ。はいこれ。あたしが認めた王の証よ。それでこっちが対の証」


 『恋愛の女王』が寄こしたLの王の証はいつものペンダントではなく、金の指輪だった。

 対の証も同じデザインで色違いの銀の指輪だった。


 Lの王の証

 『恋愛の女王』を倒した、または認めてもらった証。

 ※QUEST ITEM

 ※譲渡不可/売却不可/破棄不可

 ※王の証を所有した状態で死亡した場合、王は復活します。

 ※特殊スキル「Lovers:念話」「Lovers:転移」「Lovers:同期」を使用可能。

 効果:念話:対の証所有者といつでも念話をすることが出来る。

    転移:対の証所有者の場所へ転移することが出来る。

    同期:24分間、対の証所有者のスキルを使用できる。

    特殊スキル同期効果終了後、24時間「Lovers:同期」が使用不可能になる。

                 24時間、全てのスキルが使用不可能になる。


 対の証

 『恋愛の女王』を倒した、または認めてもらった証。

 STR+5%、DEX+5%、AGI+5%、VIT+5%、INT+5%、LUC+5%

 ※QUEST ITEM

 ※譲渡不可/売却不可/破棄不可

 ※特殊スキル「Lovers:念話」「Lovers:転移」を使用可能。


 Lの王の証は疾風に持ってもらって、俺が対の証を持つこととなった。




 ――エンジェルクエスト・Loversがクリアされました――




「それとこれが祝福ね。あ、それと装備を返しておくね」


 装備を返してもらい、祝福として渡されたのは2つの腕輪と4つの人形。


 祝福の腕輪

 『恋愛の女王』から祝福された証。

 全属性増加、全ステータス+10、魅了無効、混乱無効。

 ※UNIQUE ITEM

 ※譲渡不可/売却不可/破棄不可


 祝福されたお守り

 『恋愛の女王』に祝福を与えられたお守り。

 異性に贈ることによって、受け取った者は1度だけ死を肩代わりしてもらえる。

 ※UNIQUE ITEM

 ※譲渡可能/売却不可/破棄不可


 祝福の腕輪、ハンパないくらい高性能なんですけど。

 この腕輪1つで指輪とブレスレットの両方の性能を備えてるってどんだけだよ。

 お守りの方もそうだ。

 いわゆる身代わりアイテムだ。HPが0になってもそれをお守りが身代わりになってくれる。

 ただ発動条件が異性から贈られなければならないがな。

 まぁ、これは俺と疾風がお互い交換し合えばいいことだが。


 にしても破格なクエスト報酬だな。


「確かにこの祝福だと試練が難しいのが頷けるわ。

 そう言えばわたし達が試練をクリアしてしまったけど、『恋愛の女王』はこの後どうするの?」


 『恋愛の女王』はエンジェルクエストがクリアされたので一応お役目は終えた。

 普通であれば倒されているはずだが、俺が降参を促したので今後もここに残ることになるのだが。


「ああ、うん。この後も26の王の役目とは別に祝福の試練は続けるわよ。

 この後も祝福を求めて試練に挑む恋人たちの痴態・・・いえ、痴話げんか・・・じゃない、愛を見守っていくのよ」


 あー、うん。本音が駄々漏れだね。

 一応、祝福の試練は続けているって掲示板に載せておこう。

 この祝福は持っているだけでも生存率がかなり上がるしな。

 まぁ、上手くいくかは喧嘩別れをするかはそのカップル次第という事で。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 恋愛の女王に関するスレ2


676:究極の遊び人

 おい! 『恋愛の女王』が攻略されたぞ!


677:マリエクレール

 本当ですか!?


678:ジャックランタン

 こっちでもアナウンス確認したよ

 マジみたいだな・・・


679:天使な小悪魔

 うそ!? あの試練を突破したって言うの!?


680:プリンちゃん

 あり得ない・・・あの嫌がらせをクリア出来るなんて・・・


681:素晴らしき世界

 それで誰が攻略したんだ?


682:究極の遊び人

 石碑を見るに疾風が攻略した見たいだな


683:東京四郎

 うお?! あの瞬動の疾風か!?


684:とろろてん

 え? あのトッププレイヤーの1人の!?


685:マリエクレール

 確かあの方はそう言う恋愛事情には疎いと聞いてるけど・・・


686:アメリア

 いわゆる鈍感系ってやつ?


687:ジャックランタン

 待て待て待て! 一緒に行った相手は誰なんだ!?


688:マグナム77

 あ、俺知ってる

 一緒に行ったのソードダンサーだよ

 王都の冒険者ギルドでナンパされてたの見た


689:ジャッジメント

 マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???


690:愚か者の晩餐

 嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!


691:囁きの旅人

 俺の! 俺の嫁がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


692:Dインパクト

 あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!(血涙)


693:みくみん

 ウワァァ━━━━━。゜(゜´Д`゜)゜。━━━━━ン!!


694:ジャッジメント

 >>691 待て! 誰がお前の嫁だ! 俺の嫁なんだよ!!


695:オーバードラゴン

 >>694 お前こそ待て! 舞姫は俺の嫁だ!!!


696:究極の遊び人

 おい! 舞姫信者は余所いってろ!


697:素晴らしき世界

 でもトッププレイヤー同士が手を組んだらそりゃ攻略できて当然じゃね?


698:プリンちゃん

 真面目な話をすると、いくら実力があってもあの試練は即席PTじゃ無理ですよ


699:究極の遊び人

 だな、あれはお互いの愛が無ければクリアが難しい

 当然実力も必要になってくるが


700:みくみん

 ということは・・・本当に2人は恋人同士・・・・??

 ガガーン ΣΣ(゜д゜lll)


701:フェンリル

 待って! それ違うから! 恋人同士じゃないから! アタヽ(д`ヽ彡ノ´д)ノフタ


702:マリエクレール

 え? 本人登場・・・?


703:究極の遊び人

 うおっ!? 本人降臨した!


704:愚か者の晩餐

 舞姫ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇ!!!

 良かった!!! 誤報だった!!!


705:みくみん

 良かった! 舞姫は永遠にあたし達のアイドルです!!


706:オーバードラゴン

 舞姫は俺の嫁!!! (*´Д`*)ハァハァ・・


707:囁きの旅人

 舞姫さん! 恋人同士じゃないって本当ですか!?


708:マグナム77

 >>706 よく本人を目の前にしてそれを言えるな・・・


709:究極の遊び人

 とりあえず舞姫信者は落ち着こうか


710:フェンリル

 >>706 ねぇ、一度死んでみる? (#^ω^)ビキビキ


711:オーバードラゴン

 ガクガク((( ;゜Д゜)))ブルブル


712:ジャックランタン

 それで恋人同士じゃなくても攻略できたのか?


713:フェンリル

 ああ、うん。あれは男女のPTなら誰でもOKだからね

 疾風に協力してクリアしたんだ

 疾風が朴念仁だから攻略できたところも大きいし


714:マリエクレール

 え? どういうこと?


715:フェンリル

 うーんと、言っちゃっていいのかな?

 あの試練ってワザとお互いを怒らせるように仕向けてるんだよね

 疾風が鈍かったのとわたしが協力者だったから全然通じなかったけど


716:天使な小悪魔

 な・・・に・・・わざと怒らせてたって言うの!?


717:ジャックランタン

 うわぁ、縁切りの女王と言われるわけだ


718:フェンリル

 ああ、ちなみに『恋愛の女王』は生きてるから試練はまだ受けること出来るよ

 受け取れる祝福は、全属性増加と全ステータス増加と魅了無効、混乱無効の腕輪と身代わりアイテムだよ

 これだけでも破格なアイテムだから再挑戦する人は行ってみれば?


 ・・・喧嘩の他に痴態を見られても良ければね ァハハ・・(´▽`)






ストックがなくなりましたので暫く充電期間に入ります。


                          ・・・now saving


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