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Angel In Online  作者: 一狼
第8章 Lovers
38/84

36.瞬動と5つの試練

 俺達はムシの森で火武斗武士(カブトムシ)とついでに六武士(ムシ)の長の亜芸覇(アゲハ)を倒して東和都市へ戻ってきた。


 ギルド『月下美人』の人たちとフレンド交換をし、ここで別れる。

 まぁ、その際にはギルド勧誘を受けたが丁重にお断りした。

 始めから断れるのを承知らしくあっさり引き下がり、『月下美人』の人たちは他のギルドメンバーと合流する為ギルドホームへ向かった。

 深緑の森でLv差が付いてしまった為、お互いそれぞれ別行動をしていたとの事。


 俺達はそのまま転移門をくぐり王都に戻ってきて、冒険者ギルドへ討伐報告をして報酬を受け取り臨時PTを解散した。

 別れ際にはアイちゃんに「また一緒に遊ぼうね」と、リムには「また今度よろしくお願いします」と言われ、再び一緒に遊ぶことを約束した。


 丁度その時だった、あのアナウンスが流れたのは。




 ――Qの王の証の所有者が死亡したことにより、エンジェルクエスト・Queenがリセットされました――




 俺は慌てて初心者広場にある王の石碑を見に行って呆然とした。

 石碑にはQueenの欄に書かれていたカンザキの名前が消えていた。


 数秒ほど呆然としていたが、すぐに気を取り直しもう1つの事を確認する為踵を返してサンオウの森へ向かった。


 サンオウの森の目的地にはすぐに見つかった。

 ただ、騎獣として大きくなったスノウでは森の中を飛ぶことも出来ず徒歩での移動だったため、目的地への到着には時間が掛かった。

 その為か、目的地の『オークの女王』の広場には既に先客のPTが戦っていた。

 Queenの復活のアナウンスからそんなに立っていないのに、すぐさま『オークの女王』に挑むあたりそれなりに有能なPTなんだろう。


 俺は『オークの女王』の復活を確かめたかっただけだから、俺の目的は達成された。

 まぁ、巨大な豚がボンテージ姿でSMの女王様のように鞭を振るってるのは流石に直視したい現実だとは思わなかったが。


 しかしよく見ると、そのPTは苦戦していた。

 確かサンオウの森の『トロールの王』や『オークの女王』を倒したのは大体累計Lv30前後のはず。

 なのに、見るからに累計Lv50台のPT達が明らかに苦戦していた。

 これは王が復活した時に何かしらの補正が掛かっているのだろう。

 まぁ、『リザードの王』のようにAIからして普通じゃないからあり得ることだ。


 俺は躊躇なく広場に突入して『オークの女王』の気を引き付ける。


「ファイヤージャベリン・クアドラプルブースト!」


 4重に重ね掛けした炎の槍を『オークの女王』に放つ。


「わたしが気を引き付けるから早く撤退して!」


「た、助かる! おい! 今のうちに逃げるぞ!」


 突然の俺の突入に戸惑っていたPT人たちは慌てて逃げはじめる。


『逃がしはしないわよ! 新しく現れた子猫ちゃんともども可愛がってあげるわ!』


 『オークの女王』は手に持った鞭を地面にピシリと叩き付ける。

 鞭はAI-On(アイオン)には無い武器だ。スキルも動きも予測しづらい。

 『オークの女王』はどすどすと巨体を揺らしながら近づき鞭を振るうが、俺の立て続けに放つ魔法にすべて阻まれる。


「マテリアルシールド!」


 『オークの女王』の放つ鞭を無属性魔法の絶対防御の盾で防ぐ。


「バインド・トリプルブースト!」


 立て続けに土属性魔法の拘束の魔法で『オークの女王』の動きを封じる。

 このころには他のPTの人たちはあらかた撤退していた。

 周りに人がいないのを確かめてから、俺も撤退の準備に入る。

 どれくらい復活補正が掛かってるのか分からない状態でこの豚とは戦いたくない。

 ただでさえ、見てるだけでもおぞましい姿なのに。


「ファイヤーアロー・クインタブルブースト!」


 5重の重ね掛けの炎の矢をぶち込みながら連続バックステップで距離を取り、『オークの女王』の追撃が無いのを確認して踵を返して脱出する。


 広場から脱出すると、先に対比していたPTのリーダーの男からお礼を言われる。


「改めて助かりました。まさか『オークの女王』があそこまで強いとは」


「まぁ、普通ならLv30くらいで倒せる王なんだけど、多分復活したことにより何かしらの補正が付いてるんじゃないかな?」


「なるほど、あり得そうですね。下調べなしに無策に突っ込んでいった俺達がおろかでしたね」


「この事は掲示板にでも載せておいた方がいいわね。矢鱈無闇に『オークの女王』には突撃しなくなるでしょ」


 改めて助けたPTにお礼を言われた後、俺は王都へ戻ってQueen復活の情報を調べた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


9月14日 ――45日目――


 昨日調べた結果によると、Qの王の証を所持していたカンザキはのギルド『ELYSION』のメンバーと冥界門のダンジョンに居る『死を撒く王・Death』に挑戦したとの事。

 結果としては1人を残してPTは壊滅。

 生き残った1人が辛うじて『死を撒く王』の情報を持ち帰ったと。


 俺は少なからずショックを受けていた。

 心のどこかで王の証所持者は死なないんじゃないかと思っていた。

 王を倒すほどの強者が物語のヒーローのごとく難題を解決してデスゲームをクリアする。――そんなことを考えていた。


 だが現実は残酷だ。

 掲示板の『死を撒く王』の情報。王の石碑の名前の消滅。『オークの女王』の復活。

 上記の情報の通り、王の証所有者であったカンザキは間違いなく死亡している。

 他のプレイヤー同様、王の証所持者も死んでしまうのだ。

 そしてそれは俺にも当てはまる。


 ならこれ以上の犠牲を出さないよう引きこもってしまうか?

 答えは否。

 LEGENDARY ITEMを2つも所持したうえ、チートスキルを持ったプレイヤーが引きこもるなんてありえない。

 ならばそれらの武器、スキルを他人に譲渡して攻略を任せてしまうか?

 それも答えは否。

 以前、鳴沢が言ってたように他の26の王を倒すため、王の証所持者が戦闘に駆り出される可能性は否定できない。

 俺にできる最善の方法としては、死なないように他のプレイヤーと一緒に王を倒さなければならないのだ。


 そのためにはどうするか――そんなことをぼーっと考えながら冒険者ギルドで食事を取っていた。

 そこへ冒険者ギルドでナンパをしている男を見かける。

 いや、誘っている本人にしてみればナンパなどではなく、PTの勧誘なのだろう。

 話の内容としては一緒にとあるダンジョンを攻略しないかと言う事なのだが、そのダンジョンが問題だった。

 彼の攻略しようとしているダンジョンは、縁神社のダンジョン。

 つまり『恋愛の女王・Lovers』を攻略しようとしてるのだ。

 『恋愛の女王』は男女2人のPTにしか挑戦できない。

 なので、彼のPT勧誘はナンパをしているようにしか見えないのだ。

 実際、『恋愛の女王』を理由にナンパしている男が他にもいるのだとか。


「えー、やだー、悪いけどほか当たってくれる?」


「そうそう、ナンパするならもっとマシな理由をしてよね」


「いや、ナンパとかではなく『恋愛の女王』を一緒に攻略してくれと頼んでるのだが」


「だからそれがナンパなんでしょ。見た目もふつー、装備もふつー、魅かれる要素がどこにもないんですけどー」


 ナンパをしてる男は身長165cmくらい、黒髪の中肉中背、装備も普通の冒険者の服に革鎧と革の籠手、革の脚当て、背中には刀とどこからどう見ても普通すぎるくらい普通だった。


「確かに装備は良いとは言えないが、『恋愛の女王』を攻略するのに見た目が必要なのか?」


「当たり前でしょ。どうせダンジョンに入るならせめて見た目もそれなりじゃなきゃね~」


「ダサい格好の奴と一緒に入って変な噂を立てられても困るもんね」


「むぅ、そこを何とかお願いできないか?」


「もう、あんまりしつこいと『軍』を呼ぶよ」


「ナンパするならもう少し見た目も気にすることね~」


 そう言いながら言い寄られてた女2人は冒険者ギルドから去っていく。

 振られたナンパ男はため息をついてから再び辺りを見回しテーブルで食事をしている俺を発見しこちらへ向かって来る。

 え? もしかして次のターゲットは俺?


「なぁ、あんた、俺と一緒にPTを組んで『恋愛の女王』を攻略しないか?」


「あー、悪いけどパス。あれって恋人同士が挑むダンジョンでしょ?」


「ん? そうなのか? 俺は男女2人のPTでしか挑めないとしか聞いてないが」


 あれ? そう言えばそうだよな。誰も恋人同士とは言っていない。

 『恋愛の女王』とか縁結びとかで恋人でなければと言う先入観が入ってしまっていたのか?


「確かに男女2人のPTってだけで、恋人同士とは一言も謳われてないね。

 とは言え世間一般では恋人同士で挑むものと言われてるから、わたしとしてはあまり見ず知らずの人といきたくないんだけど」


「そこを何とか頼めないか? 俺はあいつらを見返さなきゃならないんだ」


 ん? こいつナンパ目的じゃないのか?

 確かにさっきの女2人に話しかけてたのを見ると、随分下手くそなナンパしてる風にしか見えなかったな。


「ねぇ、何か『恋愛の女王』に挑まなければならない理由でもあるの?」


「ああ、いつもPTを組んでる仲間から、俺は朴念仁だから恋人なんてできないし、『恋愛の女王』も攻略できないだろと言われてな。

 朴念仁と言うのはよく分からないが、戦ってもいないのに『恋愛の女王』を攻略できないと言われてつい反論してしまって倒してきてやると豪語してしまったんだ」


 あぁ、こいつ色恋沙汰に疎いやつなのか。そのことを仲間内でからかわれてむきになってしまったと。

 ついでに、戦ってもいないのにって反論してるところを見ると戦闘(バトル)脳っぽいな。いや、戦闘脳だから恋愛に疎いのか。


「それで『恋愛の女王』の事を調べたら男女2人PTしか入れないと分かって、一緒に入ってくれる人を探してたんだ」


 こいつの仲間も『恋愛の女王』のダンジョンの事を分かってて、こいつをからかったんだろうなぁ。


「ああ、うん。事情はよく分かった。

 ただ見ず知らずの女性に『恋愛の女王』の攻略を持ちかけたらそれはナンパになっちゃうよ」


「それがよく分からないのだが。何故ナンパになるのだ?」


「さっきもわたしが言ったけど、あのダンジョンは恋人同士で挑むのが一般的になってるのよ。

 つまりあのダンジョンに一緒に行こうって言うのは、恋人同士になってくださいって言ってるようなのもなの」


「ふむ、そう言うものなのか」


 うわぁ、本気で分からないって顔してるよ。この人。


「まぁ、そんなのはどうでもいい。それで俺と一緒に行ってくれるのか?」


 ふむ、『恋愛の女王』は恋人同士でしか挑戦できないと思い込んでいたから攻略対象から外していたが、男女2人PTでいいなら挑戦してもいいかもしれないな。

 しかもこいつは恋愛の機微に疎いから、男と女2人きりと言うのを意識しなくてもいい。

 ただ問題は、『恋愛の女王』と言われてるだけに、ダンジョンで恋人らしいことを求められたら困ることだな。

 まぁ、そこは適当に誤魔化すか。こいつには悪いが駄目なら駄目で『恋愛の女王』の情報だけを集めて掲示板に載せて他の人に任せればいいか。


「そうね、恋人同士でなくてもいいなら一緒に行ってもいいわ。ただし、ダンジョンの中で恋人らしいことを求められてもわたしには期待しないでね」


「助かる。恋人らしいことは俺もよく分からないから心配しなくてもいい」


 そりゃあそうか。こいつにそんなことを求めても理解できないか。


「そうと決まれば早速行きましょう。わたしはフェンリル。貴方は?」


 俺が自己紹介をすると、彼は驚いた表情で俺を見ていた。


「そうか、あんたが剣の舞姫(ソードダンサー)か。確かに刀を左右に2本差してるな。

 噂じゃAI-On(アイオン)で5本の指に入るほどの実力者と聞いている」


 ・・・いつの間にか2人増えてトップ5に収まっちゃってるよ。


「あんたには劣るかもしれないが俺もそれなりに力はあると自負している。

 俺の名は疾風だ」


「・・・って、あんたも5本の指に入ってるじゃないの!!

 瞬動・疾風がこんなところで何でナンパまがいのことしてるのよ!」


 うわぁ、まさかこんな形でトッププレイヤーと出会うとは。

 と言うか、瞬動の名前を出せば簡単に『恋愛の女王』の討伐のPTが組めたんじゃないのか?


「ちなみに、5本の指の内、わたしと貴方と豪鬼・GGは聞いたことあるけど、他のあと2人は誰なの?」


剣の舞姫(ソードダンサー)・フェンリル、俺の瞬動・疾風、豪鬼・GG、月狂化(ルナティック)・月牙美刃、死神・アルゼ=ブエノスの5人だな」


「美刃さんも5人の内の1人なのか・・・しかし月狂化(ルナティック)とはまた物騒な二つ名だな」


 昨日一緒に戦ってた時はそんな感じはしなかったのだがな。


「俺もよくは分からないが、ギルド内でそう呼ばれてるのが外に広まったって話だな」


「あともう1人の死神もまた物騒な二つ名だね」


「こっちはプレイヤーキラーだからつけられて当然の二つ名だ」


「!? そんな人が5本の指に入るの!?」


「それだけやばくて強いってことだ。出会ったら逃げることをお勧めする。

 こいつの戦法は人情に訴える卑怯な方法と物量で押し切る方法を取るからな。詳しく知りたければ掲示板で調べることだな」


 死神に関しては初めて聞く名前だから後でよく調べておこう。

 もしかしたら最近頭角を現してきたのかもしれないな。


「さて、自己紹介も済んだし、早速『恋愛の女王』のいるダンジョンに行こう。

 トッププレイヤーの2人が挑むんだ。かなりいいところまで行くと思うんだがどう思う?」


「そんな単純なものじゃないでしょ。ましてや挑むのが『恋愛の女王』のダンジョンなのよ。戦闘面に関しては余裕かもしれないけど、その他の面が不安すぎるんだけどね」


 相変わらずの戦闘(バトル)脳だな。トッププレイヤー同士が組むのは胸熱なのは分かるけど、疾風の朴念仁っぷりが足を引っ張らなければいいけど。


 それと、ここでのやり取りは冒険者ギルドに居る他のプレイヤーに丸見えだから、変な噂にならなければいいなぁ。

 トッププレイヤー同士の熱愛発覚!とか掲示板に載りそうだ・・・




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 俺と疾風は東和都市の縁神社へ赴いた。

 肝心の『恋愛の女王』のダンジョンの場所が分からなかったので、とりあえず俺の知っている転職NPCの綾女さんに声を掛けた。


「あら、お久しぶりですね」


「と言ってもまだ一週間くらいしかたってませんよ」


「そう言えばそうでしたね。

 ところで今日はどのような御用で? 戦巫女まで転職を済ませたのでここにはもう用が無いかと?」


「用があるのは『恋愛の女王』の方なの。場所が分からなくて綾女さんに聞きに来たんだけど」


 俺がそう言うと、綾女さんは一緒に居た疾風を見てニヤニヤする。


「『恋愛の女王』の試練の扉はこの奥ですよ。案内しますから付いて来て下さい。

 しかし、転職の時には彼氏なんかいなかったのに、ちょっとの間で見つけるなんてやりますね」


 やりますねって、あー、やっぱり勘違いされるか。

 まぁ、いちいち訂正するのも面倒だからそれでいいか。

 どうせ疾風は何の事だか分かってないんだし。


 俺達は神社の奥の社に案内される。

 その社はただ扉が付いてるだけの簡単な建物だった。


「これの扉が『恋愛の女王』の試練の扉です。

 この試練はお互いの相性を見るだけではなく、実力を見るために命を掛けることもあるのでお気を付け下さい」


 綾女さんの言葉に俺と疾風は頷いて扉を開いて中に進入する。


 扉の中には少し広めの何もない部屋があり、奥には入口の扉と同じ形の扉があった。


『ようこそ、『恋愛の女王』の試練の間へ。

 貴方達はこれから5つの試練を乗り越えて、あたしの所まで来てもらいます。

 そしてあたしと戦い見事認められると、貴方達にはベストカップルの称号とあたしの祝福、王の証を授けましょう』


 『恋愛の女王』らしき人物の声が部屋に響き渡る。

 うん、ベストカップルの称号も祝福も要らないから王の証だけをくれ。


「5つの試練ってことは1部屋ごとに試練があるってことなの?」


『その通りです。1つの試練をクリアしていくごとに1つ部屋を進んでもらいます。

 あ、もし試練がきつければ棄権することも出来ますので』


「分かったわ。早速試練を始めて頂戴」


 隣では疾風も試練に対しての心の準備が出来ているらしく頷いている。


『はいは~い。それでは第1の試練を始めま~す。

 第1の試練はお互いの相性を見る試練です。

 これから10の質問をしていきますので、質問に答えてください。これによりお互いの相性を図りますのでしっかり受け答えをしてくださいね。あやふやな答えは却下です!』


 ふむ、恋人の試練らしく最初は相性診断か。


『それでは第1問! 男性の方が答えてくださいね。

 彼女のこれまでのセックスをしたことのある男性の人数は?』


 ぶ―――――――――――――――――――――――――――!!!!

 セクハラクイズじゃねぇか!!!


 ああ、道理で『恋愛の女王』に関する情報が少ないわけだ。

 以前にも『恋愛の女王』に関する情報を調べたが、挑戦した人からの情報が集まらないのだ。

 原因はこのセクハラクイズだろうな。

 女性にしてみればこんな情報は出まわってほしくない。しかし男性からしてみれば面白がって話してるかと思うんだが・・・


「ふむ、普通は男性経験のある人数は0人か1人じゃないのか? 女は複数の男と経験することが出来るのか。嘆かわしいな」


 あ、流石にセックスの事は知ってるか。

 しかし、疾風の言う通り嘆かわしい事ではあるが、今の時代そこまで堅物じゃなくても。


『何言ってるんですか、女は魔物なんですよ。貴方の知らないところで女は男を食い漁っているのですよ?』


「そうなのか?」


「や、それを答えたらこの問題の答えになってしまうよ?」


 疾風が思わず俺に聞いてくるが、今は試練の問題の最中だ。

 下手な受け答えは試練の妨害になってしまうかもしれない。


『そうですよ、答えは自分で考えてください。さぁ、彼女の男性経験は何人!?』


「ふむ、フェンリルの誠実さを信じて0人だ」


 まぁ、普通はそうだろうな。もしくは彼氏(自分)の分を加えての1人か。

 と言うか、俺の場合は男性経験があるわけねぇよ。

 現実(リアル)はもちろんの事、AI-On(アイオン)でも女の身体(アバター)になったからと言って男とする気はさらさらねぇよ。


『ぶ――! 残念! 悲しいことに彼女は8人もの男性とセックスしています。

 だけど彼女にとってみれば8は末広がりで縁起のいい数です』


 ちょ!? こいつ何言ってるんだ!?


「フェンリル・・・お前そんなに経験があるのか・・・?」


 疾風が信じられないようなものを見る表情で問いかけてくる。


「無いから! って『恋愛の女王』! 何嘘を付いてるのよ!」


『え~~、あたしは嘘はついてませ~ん。信じる信じないは貴方達次第で~す。

 あ、そうそう、間違ったペナルティで相方の装備を1つ没収しますね。

 試練が終わったらちゃんと返してあげるので心配しなくても大丈夫ですよ』


 『恋愛の女王』が言い終ると、俺の装備のドラゴンレザーの胸当てが消えてしまった。

 萌えスキルの影響で胸当てが消えても外見は変わらなかったが。


 何か一気に『恋愛の女王』が胡散臭くなったんだけど。

 セクハラクイズに大嘘。これの何処に恋愛の要素があるんだ?


『はいは~い、続けて第2問! 今度は女性の方が答えてください。

 ズバリ! 彼氏の1日のオナニーの回数は!?』


 ぶ―――――――――――――――――――――――――――!!!!

 ちょ! おま、なんて質問をぶっこんでくるんだよ!?


 疾風の方を見ると首をかしげている。

 どうやら今回は質問の意味が分からなかったらしい。

 まぁ、疾風の態度を見ている限り答えは決まっているのだが・・・


「・・・答えは0回よ」


「ぶ――! 残念! 答えは7回です!

 何と彼は野獣のごとく性欲を持て余しているのです。

 そして彼にとってはラッキーセブン! やったね!』


 何がやったね!なのかは分からないが、7回ってどんだけ絶倫なんだよ・・・

 明らかに嘘だってバレバレじゃねぇか。

 いったいどういうつもりだ?


『はい、ペナルティで男性の方の装備を没収しますね』


 今度は疾風の革の胸当てが消え去った。


『ではでは第3問! 今度は男性が答えてくださいね。

 彼女の一番の性感帯は?』


 ちょ!? どこまでセクハラクイズを通すつもりなんだ!?

 疾風の方を見るとこれまたよく分からないのか首をかしげてる。


「性感帯とはよく分からないのだが?」


『エッチに敏感なところですよ~』


「なるほど。それなら胸だな」


 疾風は至って真面目な顔で答える。


『ぶ――! 残念! 彼女の一番の性感帯はク○○○スですよ~。

 彼氏は今度じっくりそこを虐めてあげてくださいね』


 虐めてあげてくださいじゃないだろ!!

 そんなところが性感帯なわけないだろ!

 確かに今は女の身体(アバター)だけど、元の体は男だ。はっきり言ってこの答えは見当違いもいいところだ。


『はーい、ペナルティ! 女性の方の装備を没収ー!』


 今度は上着が没収されたらしく、コスプレ巫女の白衣が消え去り巨乳を包み込むブラジャーだけが残った。

 萌えスキルも無い装備を萌えさせることは出来ず、上半身はほぼ裸の状態だ。

 流石にこれは恥ずかしいのでささやかながら腕を交差して胸を隠す。


 しかし、このいい加減なクイズはどういう事だ?

 お互いのプライバシーをさらけ出した上に、出鱈目な答えでお互いを誤解してしまうじゃないか。

 そこで俺はふと気が付き納得する。

 そうか、お互いを喧嘩させるのが目的なんだ。

 『恋愛の女王』の情報を集めて居る時に、別名・縁結びの女王と呼ばれてることを聞いたが、実はもう1つ縁切りの女王とも呼ばれていた。

 最初は相反する2つの別名があるのでよく分からなかったが、ここでようやく納得がいった。

 今みたいに女性プレイヤーの装備を奪い裸にしていくことは、男性プレイヤーを喜ばせ尚且つ女性プレイヤーの怒りを煽る1つの要素にしてるのだろう。


 そうと分かればこんな茶番に付き合う必要は無い。

 俺は問題を出そうとしている『恋愛の女王』を無視して奥の扉へ向かって行く。


『では第4問! じゃじゃん!

 って、そこの彼女さん、何してるのかな~? ちゃんとクイズに答えてくださいよ』


「悪いけどセクハラ相性診断はもう終わりよ。

 この試練の目的はお互いを仲違いさせることなんでしょ? 目的さえ分かってしまえば喧嘩なんかしないわよ。

 それにそもそも何問正解したら次の試練に行けるとか言っていないよね?

 つまりこのクイズ自体に相性診断は関係ないのよ。

 あ、開いた」


 そう言いながら俺は扉を開ける。

 クイズの正解数は関係ないのだから扉自体には鍵も掛かっていなかった。


『・・・よく分かったね。一応の理由としては喧嘩した状態から仲直りしてお互いの愛を育むってことだったんだけど。

 こんな序盤で見破られたのは面白くないけど、まぁいいわ。次の試練の間へどうぞ』


 疾風は事情が呑み込めていないのか首をかしげている。


「一体どういう事だ?」


「第1の試練はクリアしたってこと。次の試練に挑むから早くこっちに来てよ」


 俺のクリアしたという言葉にあっさり納得して、俺の後に続いて次の試練の間に向かう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 恋愛の女王に関するスレ2


92:ジャックランタン

 いい加減『恋愛の女王』に関する情報を流してほしいよ


93:究極の遊び人

 あー、無理だと思うよ?

 あれは挑んだことのある人じゃなければ分からない・・・ガクガクブルブル((;゜Д゜))


94:天使な小悪魔

 え? なになに? そんなに怖いところなの?


95:マリエクレール

 あれは最低な女王です

 あんなところ二度と行きませんヽ(`Д´)ノ


96:究極の遊び人

 まぁ女性ならそうなるだろうね


97:天夜

 下手に下心を出すと火に油を注ぐよね


98:究極の遊び人

 うんうん


99:マリエクレール

 ・・・最低ですね


100:究極の遊び人

 あー、言い訳させてもらうけど、これは男のサガだからしょうがないんだよ


101:ジャックランタン

 いや、だから何のことかさっぱりなんだが


102:ジロウ

 まったくだ

 少しは情報を公開してもいいと思う


103:究極の遊び人

 う~ん、知りたければ自分で言ってみるのが一番だと思うよ?


104:東京四郎

 行きたくても相手がいなければどうしようもないんだが・・・


105:ジャックランタン

 そうだそうだ><ノ


106:ジロウ

 そうだそうだ><ノ


107:究極の遊び人

 だったらこれを理由に女性を誘えばいいじゃん

 何だったらナンパ指南するよ?


108:ジャックランタン

 いや、待て、これは罠だ!

 これまでのログを見るに、このままいけば女性に嫌われるではないか!


109:ジロウ

 はっ!? 確かに!


110:天夜

 いやいや、上手く乗り越えればお互いの中が深まるよ?


111:舞子

 そして次の試練で嫌われるんですね

 上げてから落とすんですね


112:天夜

 おわっ!? 舞子!? 何でここに!?


113:舞子

 何でって随分面白そうなお話をしてるな~って思って^^

 よかったらあたしも混ぜてくれない?


114:究極の遊び人

 >>112

 >>113

 痴話喧嘩は余所でやってくれー

 それとも惚気か? 惚気なのか? それは俺に対するあてつけなのか?


115:ジャックランタン

 いやだから説明してくれよ・・・orz




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 知りたければ自分で言ってみるのが一番だと思うよ? 言ってみる→行ってみる
2020/11/21 19:59 退会済み
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