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Angel In Online  作者: 一狼
第8章 Lovers
36/84

34.アイとリム

主人公、転職クエストを受ける

主人公、妖刀村正を手に入れる

主人公、戦巫女に転職する

スノウ、白銀騎竜に転生する

主人公、十二星座守護者獅子座を倒す

主人公、豪鬼GGと共闘する

主人公、天秤座と蠍座を倒す

主人公、『十二星座の王』を倒す

                       ・・・now loading


 『十二星座の王』討伐後、俺達はスタシートの町に帰還する。

 町に着くなりグレアースが声を掛けてくる。


「よう! 無事に『十二星座の王』を倒した見たいだな。流石と言ったところだな」


 だけど俺達は微妙な表情をしていた。

 だって、なぁ。あれを倒したと言っていいのだろうか?


「あん? どうしたんだ? 変な顔して。『十二星座の王』を倒したってのに何かうれしそうじゃないな?」


「ああ、ここじゃなんだから取りあえず冒険者ギルドへ行こう」


 アッシュがグレアースを連れて冒険者ギルドへ行く。

 まぁ、別に隠すことではないから話しても問題は無いしな。

 俺達もアッシュに続いて冒険者ギルドへ向かう。


 冒険者ギルドで簡単な昼食を取り、グレアースに『十二星座の王』との事を話す。


「なんっじゃそりゃ!? え? てか何か? 別にお前たちじゃなくても俺1人でも『十二星座の王』を倒すことが出来たってのか?」


「そういう事じゃの。

 あれは十二星座の守護者を倒した時点から早い者勝ちのルールだったようじゃの」


 ルーベットの言った通り、『十二星座の王』の討伐は早い者勝ちだった。

 つーか、『十二星座の王』が守護者に守られ最弱だなんて誰が分かるかっ!!


「まぁともあれ26の王を倒したことには間違いないっすよ。

 後はドロップアイテムの分け前なんすけど・・・」


 『十二星座の王』のドロップはただ1つ。Zの王の証のみだった。


 Zの王の証

 『十二星座の王』を倒した、または認めてもらった証。

 ※QUEST ITEM

 ※譲渡不可/売却不可/破棄不可

 ※王の証を所有した状態で死亡した場合、王は復活します。

 ※特殊スキル「Zodiac」を使用することが出来る。

 効果:24分間、十二星座守護者の特性を使用できる。

    特殊スキル効果終了後、24時間「Zodiac」のスキルが使用不可能になる。

               24時間、戦闘行為が不可能になる。


「26の王のドロップアイテムが王の証1つだけだなんてあり得ないよ~」


「ですが、『十二星座の王』は守護者によって守られてました。守護者のドロップアイテムこそが『十二星座の王』のドロップアイテムと言えるのかもしれませんね」


 千代女が『十二星座の王』のドロップに文句を言っているが、志乃の言葉に納得する。


「うーん、守護者を全てを含めて『十二星座の王』ってことだったら分からないでもないかなぁ~」


「それで、このZの王の証は誰が持つ? あたしは既に2つ持ってるからパスね」


「ま、普通に考えればギルドマスターのアッシュが持つべきじゃろうな」


 もともと俺は臨時PTメンバーで『十二星座の王』の討伐のお手伝いに過ぎない。

 おまけに複数の王の証の所持はなるべくなら避けたいところだからだ。

 ルーベットの提案通りZの王の証はギルドマスターのアッシュが持つこととなった。


「さて、それじゃわたしはPTを抜けさせてもらうね」


「なんじゃ、もう行ってしまうのか? もう少しゆっくりしていけばいいものの」


 俺のPT離脱にルーベットは呆れながら言う。


「そうだよ~。折角フェンちゃんと仲良くなったのに。ねぇ、もう少し一緒に居ようよ~」


「そうそう、別に急ぎの用事でもあるわけじゃないでしょ?」


 千代女とマキが引き留めようとするが、俺は丁重にお断りしてPTを抜けることにする。


「ありがと。そう言ってくれるのは嬉しいけど、他の王の攻略にも力を入れたいからね。

 まずは情報収集から始めないといけないから、なるべく時間をかけて情報を集めたいし」


「まぁ、無理に引き止めはしないよ。

 フェンリルさんのお蔭でオレ達はだいぶ助かったよ。そのお礼って訳じゃないけど、何か有力な情報が入ったら知らせるね」


 俺はそのままアッシュ達と別れの挨拶を済ませ、スタシートの町を後にした。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


9月13日 ――44日目――


 アッシュ達にああは言ったものの、ここ3日ほどはこれと言った26の王の情報は入らず王都をぶらぶらする羽目になっていた。


 今現在判明している王は以前と変わらず3人の王のみだ。


『恋愛の女王・Lovers』

 東和都市の(えにし)神社の奥にあるダンジョンで男女2人PTのみでの攻略をしなければならない。


 『幻影の王・Mirage』

 幻惑の霧で霧の谷の進入を阻み、現在攻略困難な状況。


 『廃棄の王・Junk』

 瓦礫の塔の最上階にて待ち構えているも、現在低Lv者の為のLv上げの塔としているため攻略は見合わせている。


 『恋愛の女王』は俺には攻略は無理だし、『幻影の王』に至っては俺も試してみたけど霧の谷の中に入る方法すら見つかっていない。

 『瓦礫の王』はエンジェルクエストのクリア終盤まで手を出せないし。


 ああ、そう言えば『リザードの王』が居たっけ。あれはまだ誰も攻略できていない。

 透明化の対処方法が見つかっていないので、今では誰も挑戦する人が居なくなってしまっている。


 うーん、それと深緑の森の奥にある廃墟の都市に何かありそうな感じはするけど、『十二星座の王』を倒した後も見に行ったけど何も見つからなかった。


 後はウエストシティの冥界門が開いたので、ダンジョンの奥にはDeathが控えているのではないかと言う噂だ。


 ここは冥界門のダンジョンに入って、とりあえず中にいる王を確認でもしようかと考えながら王都の冒険者ギルドで食事を取っていると、見知った人物から声を掛けられた。


「あー! フェンリルお姉ちゃんだ! 久しぶり~!」


「あ、アイちゃん! 久しぶりだね」


 そこには最初のころと比べるとずいぶん立派になったアイちゃんが居た。

 フルプレートといかないまでも青と水色の鎧を着ていて、腰には2本の剣を差していた。

 傍には僧侶系の格好をした女の子と一緒だった。

 見た目はアイちゃんと同じ年くらいで、水色のロングヘアを赤色のチェックのリボンで纏めていた。


「お姉ちゃん、随分活躍してるみたいだね。あちこちでいろんな噂を聞くよ。

 プレミアム王国の戦争イベントを止めたとか、白霊山のユニークボスを倒したとか、見たことのない銀色の竜の騎獣を手に入れたとか、『十二星座の王』を無傷で倒したとか」


「あー、随分と詳しいね。まぁ、確かに事実なことは事実なんだけど・・・」


「それはお姉ちゃんのファン第1号だからね!」


 そう言えば一番最初に魔法少女の格好を褒めてくれたのはアイちゃんだったっけ。


「あ、ところでお姉ちゃん今暇? もしよかったらあたし達のクエスト手伝ってほしいんだけど」


「ちょ、ちょっと! アイちゃん! フェンリルさんに失礼だよ!」


「え? そうかな? 友達と一緒にクエストに行くのが駄目な事なの?」


「だって、AI-On(アイオン)でもトッププレイヤーのフェンリルさんと一緒だなんて・・・! しかもこんなクエスト!」


 アイちゃんと一緒に居た僧侶の子は、アイちゃんの突然の俺との一緒のクエストの誘いに大慌てでいた。

 あー、そりゃあ普通のプレイヤーにとっては俺は雲の上の人だからなぁ。

 一緒にプレイするのは畏れ多くもなるか。


 そう言えばアイちゃんとはいつか一緒にプレイしようって約束してたっけ。

 別に冥界門は今すぐに攻略しなければならないわけじゃないし、たまにはこういった息抜きも必要なのかもしれないな。

 しかもよく考えれば俺は冒険者ギルドのクエストを1度もこなしたことが無い。それに彼女の言っていたこんなクエストってのも興味があるな。


「あー、大丈夫よ。アイちゃんは友達だし、アイちゃんの友達の貴女とも一緒に遊びたいしね。

 それにわたしは1度もクエストをしたことが無いから、ちょっと興味があるし」


「えっ、あたしも一緒にクエストをしてくれるのは嬉しいんですけど・・・このクエストはちょっと・・・」


「えー、そんなに変かな? このクエスト」


 よほどのクエストなのか僧侶の子は申し訳なさそうにおずおずしている。

 アイちゃんは何がそんなに変なのか分からないで首をかしげている。


「どんなクエストなの? そこまで言うからにはよほどクエストなのかな?」


「ええっと・・・東和都市の南の森でカブトムシの討伐のクエストなんですけど・・・」


 ぶっ!!

 俺は内心噴いていた。

 東和都市の南の森と言えば、ムシの森の事じゃねぇか!

 ムシの森で出てくるモンスターはその名の通り昆虫系のモンスターだらけだ。

 見た目の気持ち悪い蛾やムカデや蜘蛛なんかがうようよいる。

 聞いた話によると巨大なゴキブリまでいるとか。

 当然、女性プレイヤーにはものすごく評判が悪い森だ。


「あー、確かにそれは誘う相手によっては失礼になるクエストだね・・・」


「ですよね・・・すいません、アイちゃんが考えなしのばかりに」


「ああ、大丈夫大丈夫。さっきも言ったでしょ、誘う相手によってはってね。

 わたしは別に虫嫌いって訳じゃないから、一緒にクエストを受けてあげるよ」


「ええ!! いいんですか!?」


「わ! やった! ありがと、お姉ちゃん!」


 僧侶の子は信じられないといった顔をしていて、アイちゃんは純粋に喜んでいた。


「フェンリルさんが付いてきてくれるなら心強いです。

 アイちゃんがこのクエストを受けるって聞かなくて、あたしと2人だけでムシの森に行くの凄く不安だったんですよ」


「まぁ、普通の女の子にはムシの森はきついからねぇ」


 僧侶の子に俺は激しく同情する。

 てか、そんなとこに平気でいこうとしているアイちゃんは虫は大丈夫なのか?


「何かあたしが普通の女の子でないっていう風に聞こえるのは気のせい?

 ・・・そんなに虫のモンスターは怖いのかなぁ?」


 どうやら平気そうだな。何気にアイちゃんってどこかずれてるっぽい?

 そう言えば前にはクールビューティーの魔法剣士になりたいって言ってたっけ。

 何か一緒に居る僧侶の子が苦労してるのが目に見えるよ。


 俺達はそのままPTを組みクエストを受けて、転移門を通って東和都市の南の森――ムシの森に向かった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 アイちゃんは丁度転職したばかりで闇騎士(ダークナイト)になっていた。

 前に会ったときに宣言してた通り、どこで手に入れたのか水蓮氷河の魔法剣士と呼ばれるために水属性の水鳳の剣と氷属性の氷月の剣と言った魔剣を持っていて、さらにはその2つの剣を扱うための二刀流スキルを持っていた。


 一緒に居た僧侶の子はリム・リリカルと言って、こちらも武装法師(アーマービショップ)に転職したばかりだった。

 武器の役割をした棍と魔法の役割をした杖を合わせた武器、バトルスタッフを装備していて、防具にはアイアンタートルの甲羅を細工した胸当てと籠手と脚当てを装備していた。


 俺は『十二星座の王』の守護者や王を倒したため累計Lvが60になっていた為サブスキル枠が1つ増えてはいたものの、セットできるサブスキルが無かったため今まで空いていた。

 そのことをアイちゃんに話すと、余ってるからと体力倍化スキルのスキルブックを譲ってくれたので(もちろん買取りました)、今ではHPが2倍になりさらに前衛面が強化された。




「アイシクルランス!」


 アイちゃんの放った氷の槍がウォーリアアントに突き刺さり光の粒子となって消滅する。

 そしてそのままもう1匹のウォーリアアントに近づいて左右の剣を奮う。


「剣舞六連!」


 一瞬にして6回切り刻まれたウォーリアアントは、大ダメージにより一時的に動きを止める。

 俺はその隙をついて右手の妖刀村正で刀スキル戦技・一閃を放ちウォーリアアントのHPを削りきる。


後方ではリムがウォーリアアントの亜種・ウィザードアントに向かって風属性魔法の広範囲魔法トルネードを放ち動きを牽制していた。

 前衛のウォーリアアントを片づけた俺達はそのままウィザードアントに近づいて、アイちゃんは剣スキル戦技を、俺は魔法剣を放ち片づける。


「ふぅ、アイちゃんもリムもなかなかやるじゃない。

 特にアイちゃんは騎士(ナイト)系なのに盾を持たずに二刀流で戦うから防御面でちょっと心配だったけど、上手く2本の剣で捌きながら攻撃してるからそれほど心配いらなかったわね」


「えへへ、スゴイでしょ。ここまで来るのに苦労したもん」


「いいなぁ、アイちゃん。フェンリルさんに褒めてもらえて」


「リムも上手く援護出来てるわよ。アイちゃんとずっと2人でPT組んでたんでしょ?

 2人とも阿吽の呼吸で動いてるから、わたしはアイちゃんの取りこぼしを片づけるくらいで出番がほとんどないわよ」


「あ、はい! ありがとうございます!」


 2人の連携はオーソドックスながらしっかりしていて、アイちゃんが前衛で戦ってる間、リムが後衛の牽制・アイちゃんの回復、又はリムが魔法で前衛を牽制している間、アイちゃんが水と氷属性の魔法で後衛を倒すと言った戦術を取っていた。


 なので俺は2人の連携をなるべく崩さず、アイちゃんの援護又は魔法でリムの援護をしていた。

 最初のころは俺とアイちゃんとで前面に出ていたのだが、ほとんど俺1人で片付いてしまうのでアイちゃんに全然面白くないと怒られてしまったのだ。


「それにしてもカブトムシってどこにいるんだろ?」


 アイちゃんの言っているクエスト目標のカブトムシだが、このモンスターはこの森のユニークボスの上、特定の居場所に居ないで徘徊するモンスターらしいのだ。

 なので、ムシの森をしらみつぶしに探さなければならない。


 ムシの森に入ってからかなり探し回っているが、未だに見つかる気配が無い。

 今まで遭遇したモンスターはウォーリアアント、レッドアイビー、キャタピラクロウラー、ビートシカーダと言った見た目はまだましな方だったが、流石に1mクラスの大きさともなると結構グロいものがある。


「ムシの森を巡回してるらしいから、ルートさえ分かれば待ち伏せとかも出来るんだけどね。残念ながらそこまでの情報は見つけれなかったわ」


 リムは事前にしっかり対象モンスターの情報を集めていたけど、流石に居場所までは分からなかったみたいだ。

 俺もそれなりに少し調べたけど、この森にはカブトムシだけでなく複数のユニークボスが居るらしい。

 もしかしたらユニークボス達の間で縄張りがあり、お互いが牽制し合いながら移動してるのかもしれない。

 だとしたらそこに捜索するポイントがあるのかもしれないな。


「大丈夫よ。あたしにかかれば簡単に見つかるわよ。なんたって運と勘がいいからね!」


「もう、アイちゃんったら。いっつもそんなことばかり言って。

 そう言いながらこの森でどれだけ動き回ってると思ってるのよ。全然運と勘が当てにならないんだけどー?」


 アイちゃんが根拠のない自信を見せるも、リムはいつもの事なのか呆れながら言う。

 そんな2人を微笑ましく見ていると、気配探知スキルに新たなモンスターの気配が現れる。

 数は2匹。今までの傾向を見ると昆虫系モンスターは数で押し寄せてくるが、今回はたった2匹。

 それなりの強さのモンスターなのだろうか。


「2人とも、新しいお客さんだよ。おもてなしの用意をして」


 俺の言葉に2人は即座に戦闘態勢を取る。

 そして現れたのは、巨大な2匹のギガントコックローチ――ゴキブリだった。


「で・出た・・・うえぇぇ、気持ち悪い・・・フェンリルさん、これはおもてなし出来ませんよ・・・」


「うっわぁ・・・だよね~~出来ればここはお客様にはお引き取り願いたいね・・・」


 3mはあろうかという巨躯に、ファンタジー要素をまるっきり排除した現実世界(リアル)そのままのゴキブリだった。

 先ほどまでのモンスターが可愛く見えるくらいだ。


「え? あれがどうかしたの? ただ大きいだけのモンスターじゃない」


 あの巨大なゴキブリを見てもアイちゃんは平然と構えていた。

 ええ~~? 男の俺でも引いてるのにアイちゃんはどんな神経してるんだよ。


「出来れば相手したくないんですけど・・・」


「うん、わたしも流石にあれには刀で斬りつけたくない。何か刀が腐りそう」


 俺とリムの言葉にアイちゃんが「じゃああたし1人でやるよ」と言いながらギガントコックローチに向かって行く。


「ハァァ! スラッシュストライク!」


 流石にアイちゃん1人でと言う訳にもいかず、俺とリムは後方から魔法で援護する。

 とりあえずアイちゃんが1匹を相手しているので、もう1匹を足止め・・・いや、始末してしまおう。


「リム、アイちゃんには悪いけどもう1匹のアレをさっさと片付けてしまうよ」


「分かりました。見ているのも気持ち悪いので速攻で片づけましょう!」


 俺とリムは同時に頷いて魔法を撃ち続ける。


「インフェルノ!」


「アポカリプスブラスト!」


 俺の火属性魔法の獄炎とリムの聖属性魔法の黙示録弾を受けてギガントコックローチは光の粒子となって消える。

 お互いがお構いなしに範囲魔法を放っていたので、当然アイちゃんを巻き込んで余波でもう1匹の方もダメージを受けていた。


「四連撃!」


 止めはアイちゃんが差し、もう1匹のギガントコックローチも消えていく。


「ちょっとー! あたしを巻き込んでどういうつもりよー! お蔭で余計なダメージを受けたじゃない」


「うん、気のせい気のせい。

 それよりもフェンリルさんもああいうの駄目なんですね。ちょっと普通の女の子らしくて安心しました」


「あはは、普通の女の子ね~。

 まぁ、でもあれは女の子じゃなくても普通に気持ち悪いと思うよ?」


 リムが「それもそうですね」と言って頷いている。

 後ろではアイちゃんがぶーぶー文句を言ってるが俺達は無視している。

 あれに平然と立ち向かえるアイちゃんの方がおかしいのだ。うん、俺達は間違っていない。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 あの後も蟻や蜂のモンスターの他にイービルバタフライ、エッグスパイダー、ファングセンチビートなどのモンスターを倒して回っていた。

 幸いなことにギガントコックローチは現れなかった。1匹見かけたら30匹は居ると言うのでそれなりの遭遇を覚悟はしていたのだが、ちょっと拍子抜けだ。

 まぁ、今度見かけたら相手せずに逃げようと思ってるけど。


 そして暫く進んでいるとようやく目標のモンスターに出会えた。

 見た目はカブトムシを模した鎧を着ている武者。

 完全な人型で、鎧に見えるのは昆虫特有の甲殻だ。

 まぁ、昆虫には無い肩当や腰垂の甲殻があるので鎧武者に見えるのは仕方がない。

 背中には普通の刀より大きい野太刀と呼ばれる刀を背負っていた。


『ほう、どうも森が騒がしいと思ったら侵入者か。

 拙者はこの森の六武士(ムシ)の一角、火武斗武士(カブトムシ)

 この森を守るものとしてお主らを排除させてもらおう』


 えーと、武士と虫を掛けてるのか? これ?

 六武士ってことは他の6匹のユニークボスも武士ってことなんだろうか?


「あんたには恨みは無いけど倒させてもらうわよ!」


 俺の考えを余所に、アイちゃんが火武斗武士に突っ込んでいく。

 アイちゃんが間合いを詰める間、リムが無属性魔法の力の槍で牽制を行う。


「エネルギージャベリン!」


『ぬんっ!』


 火武斗武士は背かなから野太刀を一瞬で抜き取り、力の槍を叩き斬る。

 その間にアイちゃんが間合いを詰め剣スキル戦技を放つ。


「スクエア!」


 火武斗武士は野太刀を上手く使いアイちゃんのスクエアを捌く。

 アイちゃんも捌かれることを想定していて、すぐさま反対の剣で剣スキル戦技・トライエッジを放つ。

 戦技終了と同時に今度は二刀流スキル戦技を放つ。


「ハァァ! 剣舞六連!」


『ぬうぅぅ!』


 流石に連続攻撃までさばききれずに火武斗武士はダメージを受ける。

 その隙をついてリムが風属性魔法の風の槍を放ち、アイちゃんに次の戦技の準備を与える。


 ユニークボスと言えど、2人は上手く連携を取り戦っているので、俺はとりあえず様子を見ていた。

 すると気配探知スキルに1匹のモンスターが近づいてきたのでそちらを対応することにする。


 現れたのは背中に白黒黄の蝶の羽を持ったイケメンの優男だった。

 頭をよく見れば昆虫特有の触角を持ったりしていた。


『火武斗武士殿、どうやら苦戦している様子ですね。もしよろしければお手伝いいたしましょうか?』


武士長(ムシチョウ)殿、それには及ばぬ。これしきの事拙者1人で十分だ』


『その2人はともかく、そこの巫女までも相手をするとなると火武斗武士殿には荷が重すぎると思うが?

 それとも相手の実力を見極めれないほど火武斗武士殿は目が曇られておるのか?』


 突如現れた新たなユニークボスの言葉に火武斗武士は言い淀んでしまう。


『よろしい。火武斗武士殿はそのままその2人を相手していてください。私はこの巫女の方を片づけます。

 さて、自己紹介が遅れましたね。私は六武士の長、武士長の亜芸覇(アゲハ)。貴女のお相手は私です。覚悟してください』


 そう言いながら亜芸覇は杖を構えて俺と対峙する。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 PKに関する情報スレ4


334:MaxHeart

 新しいPK情報です

 プレイヤー名:アルゼ=ブエノス

 職業:死霊術師

 アルゼはPKする時、自分とフレンド登録をすれば助けると言って見逃してくれようとしますが、それは罠ですので決してフレンド登録をせずに逃げてください


335:チキンオブハート

 >>334 情報乙


336:メガMAX

 うわー、死霊術師がPKか

 最悪な組み合わせだな


337:Dインパクト

 >>336 え? なになに? どういう事?


338:メガMAX

 あー、死霊術師に死霊召喚魔法があるのは知ってるよな?

 その中にフレンド召喚魔法ってのがあるんだ


339:はぐれてないメタル

 え? 何そのスキル? フレンドを呼び出せるってこと?


340:メガMAX

 そのフレンド召喚魔法ってのが曲者でな

 フレンドリストでログアウトしてるフレのアバターを呼び出して戦わせることが出来るんだが、平時ならともかく今はデスゲームだろ?


341:キャノンボール

 ああ、そうか

 ログアウト=死亡だもんな


342:光の王子

 文字通り死者を操るスキルだな


343:Dインパクト

 うっわ、何その性悪スキル!


344:アルフレット

 それデスゲームじゃなくても立ち悪いスキルじゃないか?

 自分がログアウトしてる時に勝手にアバターを使われてるようなものだろ?


345:メガMAX

 ああ、だから死霊術師は評判がよくない職業なんだよ

 まぁ死霊術師もそれが分かってるからフレンド召喚魔法なんて使わないんだけどな


346:はぐれてないメタル

 でもアルゼはお構いなしに使ってるってことか


347:キャノンボール

 あーだからフレンド登録をすれば助けるって嘘の救いの手を差し伸べてるのか


348:チキンオブハート

 そうやって己の戦力を整えて新たな犠牲者を生む、と

 こうして改めて見ると確かに最悪な組み合わせだな


349:メガMAX

 ちなみにフレンド召喚魔法はログアウトした時点のLvで召喚され、思考は単純なAIを組み込まれるから、高Lvプレイヤーだったらそれほど苦戦はしないはず


350:光の王子

 だけど一番の対応の難しさはその召喚の数だろ?


351:チキンオブハート

 死霊術の名に相応しく大量のフレンド召喚ができるからなー


352:MaxHeart

 何よりも厄介なのがPKしようとしてるプレイヤーのフレンドを召喚して戦わせるという悪質なPKを取っているという事です


353:メガMAX

 うあー、立ち悪いどころの話じゃないな


354:はぐれてないメタル

 だな。下手すればこいつの討伐組織とかできるんじゃねぇか?


355:メガMAX

 いや、もう出来てるかもな

 ここまで最悪なプレイヤーは『軍』がとっくに動いてる可能性もあるよ


356:Dインパクト

 上手く捕まえることを願うよ


357:光の王子

 しかし死霊術師の立場が尚更悪くなりそうな話だな


358:はぐれてないメタル

 だよねー。折角蘇生魔法スキルで立場が向上してきているというのに・・・




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