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Angel In Online  作者: 一狼
第7章 Zodiac
35/84

33.蠍座と十二星座の王

 天秤座を中心とした爆発により、俺達は吹き飛ばされる。

 巻き上げられた砂煙があたり一面の視界を遮っていてみんなの姿が確認できない。

 視界の隅にあるHPバーを見てみると、俺だけではなくみんなのHPも削られていた。


「エリアハイヒール!」


 視界が遮られて仲間の位置が確認できないが、追撃があると拙いので範囲回復魔法を掛ける。


「エリアハイヒール!」


 ほぼ同時に別の方角からもマキの範囲回復魔法が飛び、俺とマキの魔法でみんなのHPがほぼ全快する。

 次第に砂煙が晴れてお互いの姿の確認が取れると、天秤座を警戒しながら体勢を立て直す。

 追撃があると予想された天秤座はその場で動かず、先ほどと同様の右手を付きだし左手で盾を掲げた構えをしていた。


「まいったね、まさか受けた攻撃をそのまま返してくるとは」


 アッシュは若干悔しそうに呟く。

 相殺バリヤーが消えたのを好機と見て指示を出したのが、かえって裏目に出たのだ。


「しかもあの構え、どこぞの大魔王の天地魔闘の構え見たいっすね」


「あー、見えなくもないけど、あっちは攻撃・魔法・カウンターの3つが備わってるけど、こっちはカウンターのみだよ」


 ハヤウェイと千代女が言うように、天地魔闘の構えに見えなくはないな。

 とは言えカウンター攻撃の為か、天地魔闘の構えのように力をためているかは分からないが、徹底した不動の構えで天秤座は佇んでいる。


「しかしどうするんじゃ? 向こうが攻撃してこないとは言え、こちらからも攻撃が出来ない状態じゃ」


「まさに振出しに戻るといった状況ですね」


 ああ、振出しに戻る――志乃の言う通り、最初の攻撃が通じない状態に戻ったようなものだ。

 だが攻略手段が無いわけじゃない。ただその場合それを実行できる度胸があるかどうかだが・・・。


「まぁ、手が無いわけじゃないけどね。

 少し危険な方法だけど、カウンターしきれないほどの攻撃をぶつければいいんだ。

 反射できる攻撃が100までだとしたら、100以上の攻撃を与えればいい。上手くすればその一撃で終わるよ」


 そう、アッシュの言う通り反射できる限界以上の攻撃量を与えればいいのだ。

 リスクはどこまでが限界かわからないので、下手をすればその攻撃がこちらに跳ね返り全滅しかねないことだ。


「そしてもう一つ。

 あの反射攻撃を地面、もしくはオレ達に攻撃を向けた時に攻撃すればいい。盾の防御が無くなるので、その瞬間にこちらから攻撃をぶつけれるはずだ」


 おお、なるほど。確かに天秤座が攻撃を仕掛ける瞬間には盾の防御が無くなる。

 その作戦ならリスクが少ないし、確実性がある。

 俺は反射の限界突破しか考えてなかったから、アッシュの作戦には反論の余地もない。


「ふむ、攻撃の瞬間を仕掛けるのは良い手じゃ。じゃが、あのカウンター攻撃をどう防ぐのじゃ?

 わしらに攻撃を向けてくれればまだやりようはあるが、先ほどのように地面にぶつけての範囲攻撃だときついのぅ」


「あのさ、一回こっきりだけならあの攻撃を防ぐ手はあるよ」


「一度だけと言うと・・・無属性魔法の盾の事?

 だがアレだと防げないかもしれないよ? 天秤座のカウンター攻撃は物理攻撃とも魔法攻撃ともどちらにもつかないからね。いや、どっちも交じってるってい行った方がいいのかな?

 マテリアルシールドでもマジックシールドでも防げないと思うよ」


 俺の提案する攻撃を防ぐ手段は、まさにアッシュが言った通りの無属性魔法の盾の事だ。

 待機時間(ディレイ)が1時間と長いため1度の戦闘じゃ1回限りの魔法だ。

 だが、俺の唱える呪文は1つだけじゃない。


「じゃあ、物理と魔法の2つ同時の盾だったら?」


「そっか、フェンちゃんの輪唱呪文があるじゃない。あれならあのカウンターを防げるかもしれないじゃん」


「となると、その1回で天秤座を倒してしまわなければいかんの。

 フェンリルが攻撃に回れないのは痛いが、天秤座のカウンターと同時に全力攻撃じゃな」


 ルーベットの言葉にみんなが頷く。


「よし、フェンリルさんは準備に入ってくれ。みんなは攻撃して天秤座のカウンターを誘導しつつ、全力攻撃の準備をしてくれ」


 アッシュの指示に従い一斉に行動を開始する。

 俺はマテリアルシールドとマジックシールドの呪文を輪唱する。

 アッシュ、ルーベット、マキは遠距離から魔法を。

 千代女、ハヤウェイ、志乃は近距離から戦技を。


 みんなの攻撃を盾で防いでいた天秤座は、右手に巨大なエネルギーの塊が出来るや否や、それを地面に叩き付けようとする。

 だがそうはさせない――!


「マテリアルシールド!

 マジックシールド!

 ――理魔の盾(デュアルシールド)!」


 俺の放った理魔の盾(デュアルシールド)は、天秤座の叩き付けようとしていた地面に展開する。

 盾に弾かれ不発に終わった瞬間を狙い、みんなの一斉攻撃が天秤座を狙う。


「天牙一閃!」


「桜花乱舞! 五月雨!」


「スラッシュインパクト!」


「シャイニングフェザー!」


「サラマンダー、ファイヤージャベリン! ウンディーネ、アクアランス!」


「グラスブラスター!」


 刀スキル戦技、剣スキル戦技、光属性魔法、精霊召喚魔法、無属性魔法のそれぞれが天秤座に降り注ぐ。

 ・・・よく見るといつの間にか両手に刀を持った千代女が、左右別々に刀スキル戦技を放ってるよ。

 流石にその発想は無かったな。・・・それを難なくこなしている千代女って何者なんだ?


「・・・やったか?」


 天秤座のカウンター攻撃同様、複数の人数の一斉攻撃により天秤座の周りには砂煙が舞い上がっている。

 アッシュの呟きにみんなは気を抜かずに警戒態勢を取り続ける。


 砂煙が晴れるとそこには天地魔闘もどきの構えをした天秤座が立っていた。


 くっ! 倒しきれなかったのか!?


 次の瞬間、天秤座はそのまま崩れ落ちて光の粒子となって消えてしまう。


「・・・ビビらせないで欲しいっすね」


 まったく同感だ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ふぅ、天秤座はフェンちゃんが居なかったらやばかったね」


「ああ、フェンリルさんが居てくれたから攻略もかなり楽にすんだよ」


 俺が居なくても天秤座は攻略することは出来る。が、千代女とアッシュの言う通り楽に攻略できるんならそれに越したことはない。


「ふむ、折角じゃからこのまま蠍座も攻略してしまうかの」


「いいっすね。幸いと言うか、フェンリルさんの無毒のネックレスLv5があるから蠍座の毒は効かないっすからね」


 ルーベットの言う通り、蠍座はこの近くだ。

 そして情報によると蠍座は毒攻撃を使う。俺の持っている無毒のネックレスLv5なら全ての毒攻撃を防ぐので、攻略に関しては楽になるはずだ。

 まぁ、今までの例にもれず蠍座も2段階・3段階の変身?があると思うが。


「そうだな。フェンリルさんやみんなさえ良ければこのまま蠍座の攻略に向かおうと思うが、どうかな?」


「わたしは構わないわよ」


 俺が同意すると、みんなも攻略に賛同する。

 アクセサリーの付け替えや、HPとMPの回復等のPTの体制を整えてから、俺達は蠍座の居る天蝎宮に向かう。


 だが、天蝎宮で待ち受けていたのは蠍座ではなく、左右に細剣を構えて佇んでいる1人の女性と全滅しかけている6人PTだった。


「グレアースさん!? おい! しっかりしろ!」


 アッシュが倒れている侍の男に駆け寄る。

 どうやらアッシュ達の知り合いらしい。

 まぁ、スタシートの町は十二星座を攻略しようと集まったプレイヤーが居るわけだから、その過程で知り合いが出来るのは当然の事か。


「エクストラヒール!」


「キュアポイズン!」


 俺とマキは倒れているグレアースのPT達に治癒魔法を掛けていく。

 出来れば範囲魔法を掛けて一気に治していきたいところだが、範囲回復はPTでしか効果が無い。


『ふむ、新手か。まぁいいであろう。

 貴方たちの相手は私だ。そこの這いつくばっている輩よりはマシな事を期待しているぞ』


 左右の細剣を構えた女性が言ってくる。

 金の髪に黄金の鎧、そしてお尻には金の蠍の尻尾が生えていた。

 細剣は鍔の部分が蠍の鋏みを模していた。

 鎧もよく見ると蠍の殻を思わせる形をしている。


「もしかして、あれ、蠍座?」


「ああ、HPを3割まで削ったらあの姿に変わりやがった」


 俺の質問になんとか起き上がったグレアースが答える。

 少なくともグレアースのPTは蠍座を3割まで削ることのできる実力を備えてることになる。

 女体化した蠍座はそのPT全員地に伏せるだけの実力があるという事か。

 もっともグレアースのPTは3割まで削るのに力を使い果たしたのかもしれないが。


「ちなみに5割まで削った後の変化はなんじゃ?」


「炎を纏っていたわ」


 ルーベットの質問に盾役らしき騎士の女性が答える。

 と言うことは、この女体化した蠍座の女も炎を纏って攻撃するかもしれないのか。


「あんた達ほどのPTがここまでやられるとは、あの蠍座はそこまで強いのか?」


「アッシュ、俺達はそこまで強いわけじゃねぇよ。まぁ、蠍形態の時はそこそこ戦えていた。

 だが、あの姿になってからは全然手が出なかった。毒や炎の攻撃に加えて速さがべらぼうに違う。

 こっちの攻撃を1回当ててる間に2回3回平気で当ててくる。とてもじゃないが追いつけなかった」


 殻を破り捨てて身軽になったからなのか?

 何にせよスピードタイプの敵に対抗できる仲間は俺と千代女、後はハヤウェイか?


『何をごちゃごちゃ言っている。来ないならこちらから行くぞ!』


 痺れを切らした蠍座の女は、左右の細剣を構え向かって来る。

 速い! だが追いつけない速度ではない。

 ただの偶然かPTリーダーを狙ってかは分からないが、アッシュに接敵しようとしていた蠍座の女は突如進路上に割り込んできた志乃の盾に塞がれる。


「悪いが通させない」


『残念だが貴女では私を止められないよ』


 そう言いながら左右の細剣を奮うと、志乃の構えた盾がバラバラに切り刻まれる。


「何っ!?」


 盾を切り刻まれた志乃は剣を盾代わりに構えるが、その剣すらもバラバラにされてしまう。

 おいおいおい! ウソだろ!? 耐久力無視の武器破壊って何だよ!?

 蠍座の女の細剣をよく見ると刀身が鋼ではなく炎の塊で出来ていた。

 あれか? 超高温で焼き斬るヒートセイバーか何かか?


「ちょっ! 何っすか、あれ! あんなのどうやって防げばいいんすか!?」


 パニックになりながらもハヤウェイはアッシュの前に立ち蠍座の女の攻撃に備えていた。

 切り刻まれる志乃にすかさずマキからの治癒魔法が飛ぶ。


 鎧すらも切り刻まれ防御力がダウンした志乃は、悔しながらもその場を下がる。

 今の状態で前衛に立っていても足手まといにしかならないのが分かっているからだ。


 志乃の下がった瞬間にアッシュからの水属性魔法とルーベットの召喚していた水の精霊から魔法が放たれる。


「アクエリアスファング!」


「ウンディーネ、アクアランス!」


 竜をかたどった水流と水の槍が蠍座の女を襲うが、余裕を持って躱されてしまう。


「それと見て分かる通り、あの細剣の攻撃はどうやっても防げない。武器や防具は簡単に壊されてしまうんだ」


「「「「「「「もっと早く言え!!!」」」」」」」


 今さらながらグレアースが蠍座の女の細剣の性能を言ってくる。

 彼らのPTをよく見ると武器は無し、防具もボロボロだった。


「なるほどね。耐久力無視の攻撃って訳ね。

 だったらこれならどうかしら!?」


 俺は再び突進して来ようとした蠍座の女に向かって左右の刀を振るう。

 そう、俺のチート武器――LEGENDARY ITEMには耐久力が存在しない。つまり破損が無いということだ。

 これならばあの細剣に対抗できる。

 ・・・これで簡単に破壊されたら涙目ものだよな。


 お互いの武器が十字にかみ合い動きを止める。


『なっ!? 鋏炎(きょうえん)の剣で破壊できないだと!?

 貴女その刀、LEGENDARY ITEMだな』


「正解。この武器ならあなたの細剣に対抗できるわよ。

 ついでにその動きも少し封じさせてもらうわ」


 俺は素早く呪文を唱える。

 呪文を唱えてる間に蠍座の女は下がって距離を開けようとするが、鍔迫り合いになった直後に千代女が蠍座の女の背後から攻撃を仕掛け移動を阻害する。

 細剣による反撃があるため千代女はすぐさまその場を離れるが、それだけで十分時間稼ぎになる。


「バインド・トリプルブースト!」


 俺の放った土属性魔法の拘束の魔法により、地面から蔦が伸びて蠍座の女を拘束する。

 5秒間ほどしか効力が無いとはいえ、素早い蠍座の女を攻撃できるチャンスだ。


『くっぅ! こんな戒めごときでっ!!』


「みんな今だ! 全力で叩き込め!」


 奇しくも天秤座と同じような全力攻撃の展開になった。

 天秤座の時の経験が役に立ったのだろう。アッシュの突然の全力攻撃命令にも拘らず、すぐさま各々の戦技・魔法が蠍座の女に降りかかる。


 攻撃が終わり砂煙から現れたのは、拘束から解き放たれた蠍座の女だった。

 天秤座と同じようにそのまま崩れ落ちる展開を期待したのだが、そうは甘くは無かった。


『くっくっくっ、まさか私がここまで追い込まれるとはな・・・

 せめて物の道連れだ。1人くらいは屠って見せよう』


 僅かばかりのHPが残っていたようだ。

 次の瞬間、俺の背後に左右の細剣を振りかぶった蠍座の女が現れる。

 どうやら大ダメージの原因を作った俺を目標に定めたようだ。それともLEGENDARY ITEMを持つ俺を脅威と見たのか。

 どちらにしろ俺を狙うのなら大歓迎だ。

 蠍座の女に対抗できる武器・速度を持つのは俺しかいないからな。


 細剣が振り下される瞬間、ハイステップとターンステップで蠍座の女の背後に回る。

 そしてそのまま刀スキル戦技・五月雨と二刀流スキル戦技・十字斬りの合わせたオリジナルスキル・五月雨十字を放つ。

 五月雨はその戦技の特性上、縦斬りに固定されている。だが『イメージ効果理論』により他の戦技との合わせを持ったため斜め斬りが可能になった。

 結果、剣スキル戦技・トライエッジと十字斬りのオリジナルスキル・二天六爪閃よりも上の、十字斬りで左右併せて十の斬撃が繰り出される五月雨十字が出来上がる。


『無念・・・最後の一太刀も叶わぬのか・・・』


 五月雨十字を食らった蠍座の女は今度こそ残りわずかのHPが0になり光の粒子となって消えていく。

 伝説級の武器の戦技を食らったのだ。これでまだ生きていたらそれこそチートMOBだよ。


「はぁ~、助かった~。もうだめかと思ってたよ。

 アッシュありがとな。お前らが来てくれたおかげで助かったよ」


 グレアースがお礼を言う。

 まぁ、こっちとしても蠍座の攻撃を初見で対応するとなると難しかっただろうからな。彼らには悪いがいい梅雨払いが出来たので、こちらが礼を言いたいくらいだ。・・・調子に乗ると面白くないので言わないが。


 それにしても、俺がこうやってピンチの時に助けることが多いのは気のせいだろうか?

 初日のころのロックベルに始まり、鳴沢と鳴沢の元PT、この間の呪われた落ち武者に襲われていた如月たち。・・・何かフラグでも立てたのだろうか?


「いや気にしないでいいよ。困ったときはお互い様でだろう。

 それよりも今日はもう町に戻った方が良さそうだな。HP的には大丈夫なんだろうけど、精神的には疲労感がハンパないはず」


「そうじゃな。わしらは天秤座と蠍座の二連戦だし、グレアース達に至っては全滅の直前だったわけだしの。

 今日はもう帰ってゆっくり休んだ方がよかろう。

 十二星座も残り牡牛座と射手座の2つだけじゃからな」


「なっ!? お前ら天秤座を倒してきた上に蠍座まで倒しに来てたのかよ!?

 ・・・って、そう言えば剣の舞姫(ソードダンサー)が居るんだったな。そりゃあそこまで無茶が可能なわけだ」


 あー、よく見ればグレアースは俺の加入を断って掌を返してPTに勧誘してきた人物の1人だな。


「ねぇねぇ、早く町に戻りましょ。キミたちもだけど、志乃んの装備を何とかしてあげなくちゃね」


「そうですね。流石に装備なしの状態は心許ないです」


 そういや志乃だけでなく、グレアース達も装備なし状態だったな。

 俺達はグレアースを護衛する形でスタシートの町まで戻った。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 俺達は町に戻り、今回のドロップ品等について配分をする。

 そこには何故かグレアースのPTも一緒だったが。


「あー、結局蠍座はアッシュ達が倒したようなもんだからな。俺達がドロップ品を持っていくのはどうかと思ってさ」


 グレアース曰く、経験値はファーストアタックした自分たちに入ってしまったからどうしようもないが、せめてドロップ品やお金はお礼に渡したいということだ。


「別にそんなのはいいのに。むしろそのお金で損壊した装備品を買いなよ」


 アッシュがそう言うものの、グレアースもお礼がしたいとお互いが譲らない状態が続いたが、最終的には何かあった時に協力を取り付けることでグレアースが折れた。


「あ、そうそうついでだからこれも上げるよ」


 俺はアイテムストレージから、すっかり忘れていた獅子座のドロップ品である黄金の爪――武闘士(グラップラー)が装備するような籠手の先に爪が付いた武器――をトレードウインドウに乗せてグレアースに渡す。


「え!? いいのか?」


「いいの、いいの。どうせわたしが持ってても使わないしね。

 自分たちで使ってもいいし、お金に換えて装備をそろえ直してもいいし、好きなように使って」


「・・・すまねぇな」


「まぁ、フェンちゃんにはその刀があるしね。蠍座の女が言っていたけど、あたしの聞き間違いじゃなければその刀LEGENDARY ITEMってホント?」


 アッシュ達には俺の装備一式についての詳細は言っていない。

 今までは俺の二つ名が有名すぎて武器の方まで注目されてなかったからな。

 だが、先の戦闘で蠍座の女が呟いていたセリフを千代女が聞き取っていたらしい。

 あの時は近くには居なかったような気がするが・・・聞き耳スキルか?

 まぁ、聞かれたならしょうがない。今はもう隠すつもりはないし。


「あー、うん。両方ともLEGENDARY ITEMよ。

 白い方が月読の太刀、赤黒い方が妖刀村正。

 村正は妖刀だけあって呪いが掛かってるけど、月読の太刀がそれを打ち消す力を持ってるから両方セットで持ってないと村正は使えない状態ね」


 俺の説明と同時にみんなの息が飲むのが分かる。

 特に千代女やハヤウェイは羨ましそうに俺の腰にある村正を眺めている。

 妖刀村正と言えばゲームでは有名どころだからな。


「はぁ、そりゃあそこら辺の武器は必要ないわけだ」


 グレアースはため息交じりに「そういう訳なら黄金の爪はありがたくもらっておくよ」と言ってくる。


「じゃあこっちもついでに天秤座のドロップの黄金の棍もあげちゃう?」


「いや、それはこっちで使おうよ。何でもかんでも渡せばいいってものじゃないだろ?」


 千代女がついでと言わんばかりに天秤座のドロップ品も渡そうとするが、アッシュがそれを諌める。

 アッシュの言う通り何でも渡せばいいって言うものじゃない。やり過ぎはかえって毒になることもある。


「いや、気持ちだけで十分だよ」


 グレアースはお礼を言い、新しく装備を揃えるために町の武器屋に向かう。

 俺達はそのままアイテム配分を終え、今後の予定を計画していく。

 残りの十二星座の牡牛座と射手座の攻略についてだ。


 だがその計画は必要なかった。

 俺達が冒険者ギルドで計画を練っていると、残りの2星座が攻略されたと吉報が飛び込んできたのだ。

 俺達が天秤座と蠍座に挑戦してる間、他の2組のPTがそれぞれ牡牛座と射手座の攻略にいそしんでいたのだ。

 つまり今日1日で4つの星座が倒され十二星座全てが攻略されたのだ。

 残すは『十二星座の王』のみ。


「よし、今日は王との戦闘の準備をしてゆっくり休み、明日十二星座の王に挑戦しよう」


 アッシュの言葉に俺達は頷きそれぞれ準備の為に街に繰り出す。

 ちなみに十二星座の王に挑戦するのは今のところ、ギルド『桜花伝』のアッシュ達と俺のみだ。


 他にも有力なPT――十二星座を倒したPTが居るのだが、十二星座の強さは強大なものだったらしく、犠牲者の数は少なくなかったらしい。

 先ほどの牡牛座と射手座を攻略したPTも犠牲者を出していたとの事。

 つまり『十二星座の王』に挑戦できるPTは今の段階で1つか2つしか居ないのだ。


 そんなわけでスタシートの町の冒険者ギルドに集まっているプレイヤー達は、俺達のPTの動向に注目していた。




9月10日 ――41日目――


 俺達は朝一で『十二星座の王』のいる居城に向かう。

 襲い掛かってくるモンスター達を一蹴しながら問題なく十二宮の中央に存在する居城にたどり着く。

 以前は居城の正面の扉には巨大な南京錠が掛かっていたが、十二星座の守護者全員を倒したためその鍵は掛かっていなかった。


「じゃあ開けるわね」


 一応扉に罠が仕掛けてないか、千代女が確認してから扉を開ける。

 居城の中は赤の絨毯を敷き詰めた奥まで伸びる一本道だった。


「ふむ、『十二星座の王』へ続く一本道のみのようじゃの。罠は無いとみてよいか・・・?」


「・・・多分無いと思う。セントラル城に進入した時もそうだったけど、こういう城内の廊下にはいちいち罠を仕掛けないと思うよ。通るのは敵だけじゃないからね。

 ああ、王へ続く扉には罠が仕掛けてあったっけ。最後の扉だけ警戒すれば大丈夫かな・・・?」


「現実なら確かにいちいち廊下に罠を仕掛けないですが、ここはゲームの中です。罠があって然るべきと思うのですが」


 志乃の言う通り現実とゲームでは扱いが違うからなぁ。

 ルーベットや俺の言葉通りに罠が無いとは限らない。


「まぁ、あくまで多分ってことだから。千代女は罠を警戒しながら先頭をお願いできる?」


「了ー解ー」


 フォーメーションは罠を見抜く千代女といざという時の防御力のある志乃が先頭に立ち、次に俺とアッシュ、その後ろはルーベットとマキ、最後尾はバックアタックに備えハヤウェイ。


 だが俺達の心配をよそに罠どころかモンスターの1匹すら出てこなかった。

 最後の『十二星座の王』へ続く扉にも罠すらない。


「どうなってるんだ・・・? モンスターの1匹すら出てこないなんて」


 余りの障害の無さにアッシュは不安そうに呟く。


「考えられるのは、十二星座の守護者が扉を守ってくれてるから城の中には兵は必要ないってところかな?」


「だとしたら『十二星座の王』はかなりの自惚れ屋っすね」


 もしくは自分の力に自信があるか、だな。

 最終扉にも罠が無いことを確認したので、各自戦闘準備の魔法やアイテムを使う。

 俺も六芒星の盾(ヘキサシールド)四重加体強化(フォルスブースト)、獣化スキルのベアアームにガゼルレッグを使用する。


「じゃあ開けるわよ」


 千代女が最終扉を開き、俺達は部屋の中へ入っていく。

 部屋の中はセントラル城の時と同じく謁見の間のようになっていた。

 奥には玉座があり、『十二星座の王』が座っていた。


 ただその姿はどう見ても子供の姿だった。

 見る人が見ればショタ心をくすぐられる容姿はしていたが。


「ええっと、『十二星座の王・Zodiac』?」


『うん、ボクが『十二星座の王・Zodiac』だよ。

 よくボクの守護者を退けてここまで来ることが出来たね。褒美にボクが直々に相手をしてあげるよ』


 俺の思わず呟いた言葉に『十二星座の王』は見た目通りのソプラノボイスで答える。

 そう言いながら玉座から降りて身の丈ほどある剣を取出し、よたよたと頼りない構えを見せる。

 えーと、女身体(アバター)の所為か何か母性本能くすぐられるんですけど。

 他の女性メンバーを見てみると同様に何かうずうずしていた。


『さぁ! ボクの力を見せてあげるよ!』


 『十二星座の王』は構えた剣を振りかぶり、こちらへ突進してくる。


 そして、その場でこけた。

 それも、つるべたんと擬音が聞こえるような派手な音を立てて。


 一同気まずい沈黙のまま成り行きを見守っていたが、よく見ると『十二星座の王』が光の粒子となって消えていくところだった。


 え? なにこれ?


『ぐす、よくボクが『最弱の王』と分かったね』


 いや、何もしてませんが。


『ボクは26の王どころか、全てのモンスターの中で最弱なんだ』


 いくらなんでもこけただけでHP全損とかありえないだろう。HPの設定間違っていないか?


『だからボクは十二星座の守護者に守られていた。十二星座の守護者を失った時点でボクの命は無くなったと同じなんだ』


 そう言いながら『十二星座の王』は光の粒子となりながらも場に立ち上がる。


『せめて最弱ながらも1撃でも入れたかったんだけどなぁ。』


 その言葉を最後に『十二星座の王』は消えてしまう。




 ――エンジェルクエスト・Zodiacがクリアされました――




「え? 何これ?」


 最後に呟いたのは誰のセリフだったかよく覚えていなかった。

 目の前の現象があまりにも過ぎて俺達は暫くの間呆けていたのだから。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


職業に関するスレ6


221:独眼竜

 だれか特殊職のアイドルに転職した人いる?


222:ビターチョコ

 それネタ職業だろ?www


223:天然夢想流

 アイドルでどうやって戦闘するんだよwww


224:独眼竜

 いや、ネタ職業って分かってるけど、ちょっと気になってな


225:マリエクレール

 アイドルは結構使える職業だよ


226:一福神

 え? マジで?


227:ビターチョコ

 >>225 いやいや、どう考えてもネタ職だろ?w


228:マリエクレール

 あたしのフレがアイドルに転職したんだけど

 役者スキルって言うのがメチャクチャ使える


229:光の王子

 ふむ、名前からするに演技関係のスキルか?


230:ビターチョコ

 >>229 それでどうやって戦闘するんだよ


231:マリエクレール

 で、役者スキルってのは他の職業を模倣することが出来るんだよ

 つまり剣豪にもなることも出来るし、大司教や古式魔導師にもなることが出来る

 もちろん本家よりは性能は落ちるけどね


232:独眼竜

 はぁ!? 何だそれ! メチャクチャ使えるスキルじゃないか!


233:ビターチョコ

 ・・・全員でアイドルやればPTバランスとか関係なくなるな


234:一福神

 でも何にでもなれる分覚えることが多そうだね


235:マリエクレール

 あ、そうそう、ソードダンサーの持ってる萌えスキルもアイドルにはあるね

 だからアイドル時には装備はアイドル衣装に変化するし

 役者スキルで古式魔導師とかになったら魔法少女に変わるねw


236:究極の遊び人

 ぶっwww まさかの萌えスキルがここで登場とはwww


237:天然夢想流

 アイドルやる人は萌えスキルを覚悟でってことか?w


238:マリエクレール

 まぁフレはアイドルをやりたかったからノリノリだけどねw

 あ、あともう1つ使えるスキルがあるんだけど

 謳歌スキルっての


239:独眼竜

 ん? バードの呪歌スキルとは違うのか?


240:マリエクレール

 呪歌スキルとは違ってSTRアップとかHP回復とかの効果は全然ないよ

 簡単に言えばただのカラオケが出来るスキル


241:フリーザー

 ぶっw それこそネタスキルだろwww


242:マリエクレール

 何を言ってるの!!!ヽ(`Д´)ノ

 戦闘中BGMがあるのとないのとではノリが全然違うのよ!!!!

 今ではもう音楽が無いと味気ないったら・・・;;


243:光の王子

 あー、確かになー

 戦闘中の士気の高さは馬鹿にしちゃいけないからなぁ


244:ビターチョコ

 いや、でもカラオケだろ?




ストックがなくなりましたので暫く充電期間に入ります。


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2020/11/21 19:41 退会済み
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