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Angel In Online  作者: 一狼
第7章 Zodiac
34/84

32.九尾と天秤座

 大きな石――殺生石の前に出来た空間の渦から1人の女性が現れる。

 着物を着流した妖艶な銀髪の女だった。

 頭部には獣耳、お尻には九本の尾が生えていた。


「なぁフェンリル、さっき殺生石って言ったよな。ってことはあの女は・・・」


「ええ、玉藻前で間違いないと思う。つまり白面金毛九尾の狐――ゲームとかでよくある大ボスよ」


 GGの問いに俺は答えたように、九尾の狐は大ボスだ。

 俺達は今目の前に立っている妖狐から放たれるプレッシャーに気圧されている。

 いや、ゲームだから気配とか殺気とかは無いから、実際は経験則や第六感などの嫌な予感を感じているのだろう。


『ほう、わらわの名前を知っておるのか。

 ふむ、お主らはそこそこの力があると見える。わらわは目覚めたばかりで体が鈍っておるのでの、目覚めの準備運動に付き合ってもらおうか』


「目覚めたばかりって・・・GG何かした?」


「いや、何もしてない・・・と思う。多分、高LvのPTが来たら目覚めるようになってたんじゃないのか?」


「うぁ最悪。これ勝てると思う?」


「・・・無理だろう。ただでさえ今いる場所はモンスターのLvが高いんだ。九尾の狐なんて大ボスはLv80は必要なんじゃないのか?」


「だよねー。わたしの感も逃げろって言ってるもん」


 九尾が構えを取ると同時に、俺達は背を向け逃走する。


『む、いきなり逃げるとは何事じゃ。

 チェーンバインド!』


 九尾の唱えた魔法により、GGの体が地面から生えた鎖に絡み取られ動きを封じられる。

 無属性魔法のチェーンバインドは5秒ほど動きを封じる土属性魔法のバインドとは違い、3分間動きを封じる魔法だ。

 その効果上、成功率は限りなく低い。

 それを難なく成功させるとは、流石伝説の妖狐と言ったところだろうか。


「くそっ、フェンリルお前だけでも逃げろ!」


「冗談でしょ。ここで見捨てるほど薄情じゃないんだけど。

 それに王の証所有者が死亡したら、デスゲームクリアにまた時間が掛かるじゃない」


 確かGGはGの王の証を所有していたはず。

 ここで見捨てる選択は無い。

 何も九尾を倒すわけじゃない、3分間攻撃を凌げばいいのだ。


 俺は左右の刀を抜いて獣化スキルの戦技・ベアアームとガゼルレッグを発動させ、縛られているGGの前に立つ。


『逃げるな。お主たちはわらわの準備運動の餌だ。さぁ、まずは火属性から行くかの。

 ファイヤーアロー!』


 九尾の前に無数の炎の矢が現れる。

 ち、いきなり範囲攻撃かよ。

 降り注ぐ炎の矢を二刀を持って薙ぎ払っていく。

 背後にはGGが居るのでステップで避けることは出来ない。

 当然すべてを薙ぎ払うことは出来ず、何発か体で受け止めることとなる。


「お返しよ!

 ファイヤーアロー・トリプルブースト!」


 輪唱呪文で3重に掛けた炎の矢を、お返しとばかりに九尾に向けて放つ。


『メイルシュトローム!』


 しかし水属性範囲魔法の水の竜巻により、俺の放った炎の矢はかき消される。


『ウインドランス!』


 間髪入れず風の槍が俺達に向かって来る。

 ちょ、呪文の詠唱が早いよ! どんだけ詠唱速度を上げてるんだよ!


「エネルギージャベリン!」


 戦巫女の(ジョブ)スキルの無属性魔法で、攻撃用に唱えていた魔力の槍を風の槍の迎撃に使う。

 お互いにぶつかり合った槍は爆風を撒き散らし対消滅する。


「フェンリル、俺の事は庇う必要は無い。お前よりHPは高いんだ。お前の動きはその機動力だろ? 好きに動いて時間を稼いでくれ」


 言われてみれば戦巫女の俺よりGGの閃撃士(クリティカルブロウ)の方がHPがある。ある程度の攻撃ならHPも耐えられるだろう。


『ほう、存外やるおるの。まぁ簡単にくたばってしまっては準備運動にもならぬからの。もうしばらく耐えてくれよ。

 ライトニング!』


 九尾から放たれる雷の閃光が俺達を襲う。

 そろそろ大技系の魔法が飛ぶと予想していた俺は、切り札の一つを唱える。


「マジックシールド!」


 無属性魔法のマジックシールドは無属性魔法のマテリアルシールドの物理攻撃を防ぐのと同様、どんな魔法でも1.5秒間防ぐことが可能だ。

 もちろん待機時間(ディレイ)が長いため1回の戦闘に仕えるのはほとんど1回のみだ。


 だが九尾の放つ雷の閃光は2秒間ほど放出し続けるため、マジックシールドで防ぎきれなかった攻撃を受けることになる。

 くそ、魔法攻撃の威力がハンパねぇな。

 自分のHPを見ると3割を切っていた。

 慌ててショートカットポーチからエクストラポーションを取出し、飲んでHPを回復する。


「GG、あとどれくらい?」


「あと1分くらいだ」


 あと1分か。

 ふむ、今のところ九尾の攻撃は魔法がメインだ。上手くいけば凌ぎ切れるかもしれない。

 俺は急いである呪文を唱える。ブーストは五重にして、効果を限界まで引き上げる。


『ひぃふぅみぃ、ふむ、今のライトニングで4つか。よし次は土属性だな。

 ゲヘナストーン!』


 九尾の前に巨大な六角形の石柱が現れる。

 あ、やばい。今は呪文の詠唱中だ。魔法での迎撃は無理だし、刀であの巨大な石柱を斬るのはちょっと無理がある。


「マジックシールド!」


 声は後ろから聞こえた。GGだ。

 どうやらサブスキルに無属性魔法スキルを持っていたみたいだ。

 GGの唱えたマジックシールドにより石柱は防がれる。

 そして呪文を唱えきった俺はここぞとばかりに九尾に向かって魔法を放つ。


「サイレント・クインタブルブースト!」


『むぐっ! ・・・・・・!』


 無属性魔法のサイレントは言葉を1分ほど封じる魔法だ。つまり魔法を封じるのと同じになる。

 言葉を封じられた九尾は口をパクパクしてる。

 当然この魔法も成功率は低いが、五重(クインタブル)ブーストにより確実に九尾の魔法を封じた。


「よし、後はGGの拘束を解けるのを待つだけ・・・!?」


 なんて考えは甘かったみたいだ。

 魔法攻撃を封じられた九尾は物理攻撃に切り替えてきたのだ。

 伸ばした九本の尾が槍のように俺達に襲い掛かる。


「おおおお!?」


「ちょ! これさっきの魔法攻撃よりきついよ!?」


 絶え間なく降り注ぐ尾の攻撃をステップで躱しながら、又は刀で弾きながらGGの拘束が解けるまで防ぎきる。


「拘束が解けた! よし! 脱出!」


「了解!」


 拘束が解けた瞬間、俺とGGはステップスキルを駆使してその場から瞬時に脱出する。

 それより少し遅れて九尾の沈黙が解け、後方から怒鳴り声が聞こえる。


『――お主ら! 次会ったときは容赦はせぬからな!』


 それはこっちのセリフだ。次会ったときは確実に仕留めれるようにLvを上げてから再挑戦してやるよ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「はぁはぁ、流石に九尾の狐はやばかったな」


「うん、あれはやばかった。しかもあの姿は多分第1形態で、大型の妖狐姿の第2形態が存在すんじゃないかな」


 第1形態が魔法攻撃がメインだったので、第2形態が物理攻撃がメインになると予想される。


「うぁ、あり得そうで怖いな。次に挑むときにはもっとLvを上げておかないと勝てないな。

 はぁー、この後どうする?」


 流石に疲れたのかGGがこの後の事を聞いてくる。


「・・・今日はもう帰ろうか」


「・・・だな」


 とりあえずお互いの実力派確認しあったので、俺達はそのまま深緑の森を抜けて、東和都市へ帰還する。

 GGとフレンド交換をしてPTを解散し、俺は転移門で王都へ向かう。

 GGはそのまま東和都市に残り、また明日深緑の森でLv上げをするそうだ。

 まさか再び九尾に挑むわけじゃないだろうな・・・?


 今日はもう疲れたのでアーデリカの宿で宿泊をし、翌朝スタシートの町へスノウに乗って移動する。




9月9日 ――40日目――


 待ち合わせの冒険者ギルドに向かい、アッシュ達を探す。


「おはよー」


 俺の挨拶に気が付いたアッシュ達も思い思いに挨拶をしてくる。


「うむ、おはよう。アクセサリーは無事手に入れられたみたいじゃな」


 ルーベットは俺の装備しているアクセサリーを見て頷いている。

 そこに俺のアクセを興味深く見ていた千代女が声を掛けてくる。


「ねぇねぇ、フェンちゃんはどんなアクセを手に入れたの?」


「どんなって、普通・・・じゃないね。ちょっと変わったアクセよ」


 そう言いながら、夕闇から買ったアクセの効果を説明する。


「うわぁ、まさかの二重エンチャント品とは。フェンちゃんやるぅ。

 ねぇ、まさかとは思うケド、毒と麻痺の無効化のペンダントのLvは5だったりする?」


「え? Lv?」


 思わず聞き返す。


「えーっとね、毒や麻痺なんかは1から5までの効果があるじゃない。Lvはそれに対応した効果を発揮するの。

 例えば毒無効化Lv5だったら毒1から毒5まで全部無効化になるのよ」


 そう言われて改めてペンダントを見てみると、全てがLv5の品だった。

 ・・・指輪やブレスレットがとんでもない品だと思っていたら、実はペンダントもとんでも品だったよ。


「・・・ペンダント全部Lv5よ」


「・・・とんでもないっすね。と言うか、そんだけの品簡単に集めることなんてできないもんなんすけどね~」


「この人にかかればもうそんなレベルの話じゃないのかもね」


 ハヤウェイとマキがそれぞれ呆れたように言う。

 そんなこと言われてもなぁ。運よく朝霧さんの紹介で手に入れただけの品なのに。

 まぁ、人によってはコネも実力の内とか言いそうだけど。


「いいアクセサリーを手に入れて来たんだ。その分オレ達の負担も軽くなる。この後の天秤座の戦闘も期待していいだろう。

 フェンリルさんも準備はいいか? 良ければ早速出発したいんだが」


「大丈夫よ。それよりわたしはみんなと連携の練習をしていないけど、どうするの?」


 そう、今回俺は彼らとは一緒に戦闘をしていない。

 せいぜい昨日の朝に天秤座に行く途中に2・3PTのモンスターと戦っただけだ。


「ああ、それは大丈夫。フェンリルさんには遊撃をしてもらうから。状況を見て前衛・後衛・回復、好きなように動いていいよ。

 もっとも天秤座に関しては連携とかはあまり関係なさそうだけどね」


 なるほど、アッシュは俺に遊撃役をやらせるつもりか。遊撃ならどの立ち位置でも問題ないからな。

 いくら遊撃とは言え多少の連携は必要になってくるが、自由に動ける分融通が利くので、戦闘の数をこなすうちに連携が出来てくるだろう。


「さて、では行こうかの」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 十二星座宮の周りの出現モンスターは、十二星座そのままだ。

 ホーンバイソンにアンドロスコーピオン、フレアライオンにサンドフィッシュなどなど十二星座を模したモンスターだけが出現する。


 俺達はサンドキャンサーとケンタウルスのPTを突破して、天秤座の前で中の様子を伺う。

 俺は気配探知と魔力探知で探ると、パルテノン神殿を簡略したような天秤宮の中央に反応がある。


「んー、間違いなく真ん中に反応があるね。天秤座は近づいても大丈夫なんだっけ?」


「ああ、天秤座は一切攻撃してこないからね。と言ってもHPを半分を切ったらどうなるか分からないから油断はできないよ」


 アッシュの言う通り油断は禁物だ。どうも十二星座には攻撃パターンが3つ備わってるみたいだからな。全ての攻撃パターンが全く違うこともあり得る。


 天秤宮の真ん中には1.5m位の黄金の天秤が佇んでいた。

 俺達が天秤宮の中に入っても何も反応を示さない。

 試に触ってみたが、普通に触ることが出来た。

 情報の通り攻撃の瞬間のみに反応し、同質の攻撃をぶつけで迎撃する見たいだな。


「よし、まずは同時攻撃を試してみよう。

 ハヤウェイさん、志乃さん、千代女さん、3人同時でやってみてくれ」


 なるほど、2人同時より3人同時の方が、2人のどちらかと同時になりやすいからか。

 俺は3人が攻撃している間に、念のため六芒星の盾(ヘキサシールド)を唱えておく。


「はぁぁぁ!」


「ハッ!」


「いやぁあ!」


 3人同時攻撃に天秤座は一瞬光って反応はしたが、それだけで難なく3人の攻撃は天秤座に届いた。


「おお~、アッシュの予想通り同時攻撃は有効なようじゃの」


「うん、今度はフェンリルさんの魔法剣だね。こっちも効果があれば魔法剣を攻撃の主体にしようと思う。

 フェンリルさんには悪いけどその時は頑張ってもらうよ」


 まぁ、そうなるよな。いちいち2人もしくは3人同時攻撃をしていたらタイミング合わせが面倒だ。

 だったら俺の魔法剣でどんどん攻撃していった方が楽でいい。


「了解」


 俺は左右の刀を抜き放ち、呪文を唱える。

 とりあえずは通じるかを試すため、炎の球を妖刀村正に掛ける。


「ファイヤーボール!」


 そしてそのまま刀スキル戦技・桜花一閃を放つ。

 先ほどと同様、天秤座は一瞬反応はするが問題なく攻撃は通じ、俺の魔法剣を受けた黄金の天秤は斬撃と同時に火炎を受ける。

 攻撃を受けた天秤座は天秤宮の外にはじき出される。


「よしっ! 魔法剣も有効なことが判明した。

 フェンリルさんはそのまま天秤座のHPが半分になるまで攻撃してくれ。

 志乃さんとハヤウェイさんはフェンリルさんの左右に展開。千代女さんは天秤座の反対側。俺とルーベットさんとマキはフェンリルさんの後ろで待機」


 それぞれアッシュの指示を受けて隊列を展開する。

 俺は警戒しつつも、炎の槍と雷の槍を纏ったオリジナルスキル・桜花雷炎十字や、二刀流スキル戦技・三連撃にトリプルブースト応用したオリジナルスキル・三連魔斬撃を叩き込んでいく。


 天秤座のHPが半分を切ったところで、俺は一旦距離を置いて様子を見る。

 すると黄金の天秤は変形をし始めた。

 天秤の台座から足が出てきて、上部からは頭と腕が。そして皿を下げていた棒は棍の武器に、皿はそのまま腕に装備され盾になっていた。

 そう、天秤座は武器を持った人型のモンスターに変わっていた。


 どこぞの黄金聖闘士か!!


 思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。


「くっ! 志乃さんは挑発スキルでタゲを取ってくれ! フェンリルさんはそのまま攻撃を、千代女さんとハヤウェイさんはフェンリルさんの援護を!

 マキさんは志乃さんの回復を第一に、ルーベットさん俺達は隙を見て攻撃を!」


 人型に変形した天秤座を見て、アッシュは直ぐさま指示を出す。

 黄金の棍をぶら下げた天秤座は、その棍を俺に向かって振りかぶる。


「ハイタウント!」


 志乃が挑発スキルで天秤座のタゲを俺から取ろうとするが、一瞬動きが鈍っただけで天秤座の攻撃目標は俺のままだった。

 動きが無いから分かりにくいが、前半の魔法剣での攻撃で敵愾心(ヘイト)をたくさん稼いでしまっていたのだろう。

 多少の挑発スキルではターゲットを奪い取ることは出来ないようだ。


 振り下される棍をターンステップで躱し、天秤座の背後に回り込み後ろから蹴りを入れて態勢を崩させる。


「フェンリルさん! 悪いがそのまま天秤座を引き付けておいてくれ!

 志乃さんはそのまま挑発スキルを、千代女さんとハヤウェイさんは攻撃をメインに!」


 アッシュはすかさず役割を変更する指示を出す。

 しかし、千代女とハヤウェイの繰り出す攻撃は弾かれてしまう。

 正確には不可視の同程度の攻撃で相殺されていた。


「ちょっ! 人型になってもバリヤーは健在っすか!?」


「っ! これはちょっときついねー。流石に動きながらだと同時攻撃はムズいよ」


 となると、動いている天秤座相手に攻撃となると俺がメインとなるだろう。

 すかさず輪唱呪文を唱え魔法剣を繰り出す。


「アイシクルランス!

 サンダージャベリン!

 ――桜花雷氷十字!」


 氷の槍と雷の槍の桜花十字で相殺バリヤーを突破し、天秤座にダメージを与える。


「わたしが引き付けながら攻撃のメインになるから、千代女とハヤウェイは防がれてもいいからどんどん同時攻撃をして!

 志乃は多少強引でもいいから天秤座の攻撃に割り込んで防いで!」


 先ほど桜花雷氷十字でダメージを与えたと思ったら、天秤座は両腕の盾で攻撃を防いでいた。

 天秤座はすかさず反撃に出て棍の突きを繰り出す。

 俺はみんなに指示を出していたせいで、反応が一瞬遅れていた。


「グラスシールド!」


 志乃が瞬間的に防御力を高める盾スキル戦技を使い、俺の前に割り込み天秤座の攻撃を防いでくれた。


「ありがと、ちょっと油断しちゃってた」


「問題ありません。仲間を守るのが騎士の役目です」


 攻撃寄りの闇騎士(ダークナイト)と言えど、流石は騎士だ。防御力は高い。

 先のどの天秤座の攻撃のダメージはそんなに無いようだ。


「アッちゃん! ルーちゃん! 防がれてもいいからどんどん攻撃して!

 あたしがそれに合わせるから!」


 千代女が後衛の2人に援護を要請する。

 合わせるって、敵も自分も動きながらの同時攻撃だぞ。難易度は天秤座が動いていない時より高いんじゃないのか?


 千代女の意図を察したアッシュとルーベットは、呪文を唱えて天秤座に向かって魔法を降り注ぐ。


「召喚・サラマンダー! ウンディーネ!

 サラマンダー、ファイアブラスト! ウンディーネ、アクアランス!」


「シャイニングレイ!」


 ルーベットは火の精霊と水の精霊を召喚し、それぞれ魔法を放つ指示を出す。

 アッシュは光属性魔法の光の球を天秤座に向かって放つ。


 俺は降り注ぐ魔法攻撃からバックステップで距離を取る。

 逆に千代女はその魔法攻撃を受けようとしている天秤座に向かって突き進む。


 複数の魔法攻撃を相殺しているタイミングを見計らって、千代女は攻撃を繰り出す。

 千代女が繰り出した攻撃は相殺されることなく天秤座にダメージを与える。

 そう、千代女は複数の魔法攻撃の中から同時に攻撃できるタイミングを見計らっていたのだ。


 その後も複数の魔法攻撃の中からタイミングを見極め、確実にダメージを与えていった。

 終いには、ハヤウェイの繰り出す攻撃にはタイミングを合わせ始めていた。

 

 おーい、あんたさっきまで動きながら同時攻撃はムズいとか言ってなかったっけ?

 とてつもないタイミングの良さだ。集中力が高いのか、それとも感がいいのか。

 まぁいいや。攻撃手段が出てくるのなら、俺は志乃と連携して防御に回る。


 順調に天秤座にダメージを与えHPを削っていると、急に動きを止めてきた。


「みんな、警戒して! HPが3割を切った!」


 順調に言っていたせいで気が付かなかったが、アッシュに言われて天秤座のHPを見ると3割を切っていた。


 天秤座は右手を付きだし、左手は盾を構えて動かない。

 警戒しながらもハヤウェイは刀スキル戦技・居合一閃を放つ。

 だがそれは左手の盾に阻まれる。


「どういう事じゃ? 相殺バリヤーが消えた・・?」


 ルーベットの呟きの通り、盾に防がれたもののハヤウェイの単体の攻撃が通じたのだ。

 アッシュはこのタイミングを逃さないとばかりに、みんなに追撃の指示を出す。


「多分攻撃パターンが変わったことにより、相殺バリヤーの効果もなくなったんだ。

 千代女さん、ハヤウェイさん、志乃さん、フェンリルさん、そのまま畳み込むんだ!」


 ハヤウェイと志乃の攻撃と、アッシュの魔法攻撃が天秤座を襲う。

 千代女も感じたのか、俺は嫌な予感がして距離を置いて様子を見る。


 みんなが繰り出した攻撃のほとんどは盾に防がれてしまっていた。

 それと同時に、突き出していた右手にエネルギーの塊があふれ出していた。

 それは盾で攻撃を受けると同時に膨らんでいく。


「――っ! みんな攻撃を中止! 急いで離れて!」


 俺は慌ててみんなに避難するように促す。

 あれは盾で受けた全ての攻撃と同値のエネルギーを返す攻撃だ。

 つまりとてつもないカウンターだ。


 俺の声にみんなが避難すると同時に、天秤座は右手のエネルギーの塊をそのまま地面に叩き付ける。


 次の瞬間、辺り一面が爆風によって吹き飛ばされた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 幻影の王の攻略に関するスレ


756:ジャンハワード

 だぁぁあぁ! どうなってんだよ! 霧の谷!

 どうやっても入口に戻ってきてしまうよ!


757:チキンオブハート

 同感、あの谷はいったいどうなっているんだ!?

 無限ループ仕様なんてふざけてる


758:光の王子

 俺は霧の谷に行ってないから分からないが、中に入っても戻ってきてしまう状態なのか?


759:フレッシュマン

 >>758 そのとおり

 まっすぐ進んでると思っても戻ってきてしまう

 壁伝いに歩いても何故か入口に戻ってきてしまう


760:光の王子

 うーん、何か条件があるのかもね


761:ジャンハワード

 うん、それはいろいろ試したよ

 この幻影の王スレが立ってからいろいろとね


762:オーバードラゴン

 けど全部失敗


763:エルリック

 そ、男PTだけとか忍者PTだけとか、いろいろ検証したけど今のところ効果なし


764:光の王子

 そういや何で霧の谷に幻影の王が居るって分かったの?

 霧からMirageを連想されるのは分かるけどさ


765:S・M・T

 あーそれはウエストシティの魔術師協会で情報が出て来たんだっけ?


766:チキンオブハート

 ああ、そう言えばそうだったけな


767:エルリック

 霧の谷の霧は人の心を惑わす幻影の王の作り出す霧なり

 って情報が本に載っていたって話だ


768:光の王子

 じゃあその魔術師協会にまだ幻影の王の情報が隠されてるんじゃないのかな?

 そっから霧の谷の攻略情報が出て来るとか


769:ジャンハワード

 うーん、そのあたりはもう既に調べつくしたんだけどなぁ


770:S・T・M

 あ、ウエストシティの魔術師協会だけじゃなく、王都とかの魔術師協会とかにも情報があるんじゃない?


771:ビターチョコ

 そういや他のところは調べてなかったっけ


772:エルリック

 んー、そうなると王都とかだけじゃなく、近隣の村とかもくまなく調べた方がいいかもな


773:チキンオブハート

 そこまで必要か? 王都とかだけで十分じゃないのか?


774:ジャンハワード

 いや、ここまで進展が無いんだ

 王都だけじゃ調査しきれないとみていいと思う


775:オーバードラゴン

 だな、しらみつぶしに情報を集めた方がいいだろ


776:ビターチョコ

 まぁ王都で一発で情報が出てくればそれはそれでいいんだけどね


777:ラッキーボーイ

 777ゲト





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