28.戦巫女と白銀騎獣
白霊山に出現するモンスターは雪山だけに、雪に関するモンスターが大半だ。
スノーウルフ、スノーベア、スノージャイアントラビット、魔法生物のアイスマン、氷雪を泳ぐアイスフィッシュなどなど。
「二連撃!」
俺の放った二刀流スキル戦技・二連撃でスノーウルフが光の粒子となって消える。
続けざまに襲い掛かってくるスノーウルフを左右の剣で弾き飛ばす。と同時にHPが0になり消滅する。
「ファイヤージャベリン!」
炎の槍の一撃を受けたスノーベアはあっさり倒される。
戦闘開始ものの数分でモンスターの群れは全滅する。
妖刀村正と月読の太刀はチート武器の名に相応しく、剣を2・3回振るえばそこら辺のモンスターはあっさり倒すことが出来る。
魔法に関しても極大魔力スキルに加え、2つの刀の魔法攻撃力の威力も加わり、ありえないほどの殲滅力を誇っていた。
何よりいくら魔法剣を使っても壊れないということだ。
流石伝説級と言ったところかLEGENDARY ITEMには耐久力が付いてない。
なので、耐久力のないLEGENDARY ITEMは魔法剣が使いたい放題だった。
もともと月読の太刀はチートすぎるが故に、アイテムストレージの肥やしになっていた武器だ。かと言っていつまでもストレージに仕舞いっぱなしとはいかない。
どうせなら妖刀村正を手に入れたのを機に表に出すのも悪くはない。
「はぁー、チートすぎるだろ、これ。俺達の出番ほとんど無し」
「だね。フェンリルには申し訳ないんだけど、後ろで控えててもらう?
いざという時に助けてもらうということで」
「わたしは構わないわよ。みんなこの後転職するんだからLv上げしても意味ないし、時間を節約できるんならそっちの方がいいでしょ?」
如月と理里香が、俺の無双っぷりに驚き半分呆れ半分でいた。
「まぁ、転職すればLv1になるから、ここでのLv上げは意味ないしね」
リリーナが俺の意見に同意する。
「にしても勿体ねぇな~。それほどのチート武器を2つも持ってるのに戦巫女に転職とはなぁ。
なぁ、今からでも考え直さねぇか? 剣豪か武将なら間違いなく攻撃力No1になれるぜ」
如月が勿体ないとばかりに何度も侍系に転職を持ちかけてくる。
俺はさっきの自己紹介の時の事を思い出す。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あのさ、戦巫女はやめた方がいいぞ」
「そうよ、なにも好き好んで地雷職にならなくても」
妙な落ち込みから立ち直った如月とターナーが俺の戦巫女への転職に待ったをかける。
え? と言うか戦巫女が地雷職?
「あ、あのー戦巫女って地雷職なの?」
「ああ、地雷職と言うより中途半端職と言った方が正確だけどな。
魔術剣士と同じで、前衛での武器の攻撃なら侍系の方がいいし、魔法なら魔導師系だろ、回復なら大司教になるからな。
一見オールマイティーに見える戦巫女は、それぞれの専門職に劣ってしまうんだよ。故に中途半端職ってわけだ」
俺と同じ魔術剣士のギャレオンが戦巫女の概要を説明してくれる。
魔術剣士のせいで中途半端職と言われ続けたのだろう。ギャレオンの説明には妙な迫力があった。
「そうそう、折角の村正が生かしきれないぜ。そんな伝説級の武器を2つも持ってるんだから剣豪か武将だろ」
「あー、心配してくれる気持ちは嬉しいんだけど、侍系に転職すると今度はチートスキルが宝の持ち腐れになるから」
如月の村正=刀=侍という気持ちも分からなくはないが、そうなると今度は極大魔力スキルを生かしきれなくなる。
俺はみんなに極大魔力スキルの説明をする。
「えー、なにそのチートスキル。魔法使い系にとって夢のようなスキルじゃねぇか。
剣の舞姫が魔術剣士でもやっていけるのって、そのスキルがあるからなのかよ。何かずりぃな」
「羨ましいわね。そのチートスキルがあれば古式魔導師の威力も桁違いに上がると思うと、尚更ね」
「それ、回復職にとっても喉から手が出るほど欲しいわね。
確か回復魔法の回復量って、攻撃魔法力がそのまま回復量になるのよね。そうなると極大魔力スキルって回復職にも十分役に立つのよね」
ギャレオンは魔術剣士の苦労もあったせいで、場違いな恨みを俺にぶつけてくる。
リリーナとターナーは転職後の自分の職を考えると、俺の極大魔力スキルは垂涎の物だろう。無論譲る気はないが。
「そうなるとフェンリルの言う通り、前衛・後衛・回復と3拍子揃った職となると戦巫女が妥当になるのね」
「そう、なるんだろうな。
前衛は二刀のLEGENDARY ITEMで補えるし、魔法・回復は極大魔力のチートスキルで底上げできる・・・うむむ、戦巫女を否定できる理由が見当たらない」
理里香と如月が、他の特殊職と比べて俺が戦巫女を選択する理由に納得する。
「次善の策として、四属性の魔法を使う事の出来る武将に転職して、サブスキルに治癒魔法スキルを選択するという方法はあるが・・・」
そう言いながら如月は俺の方をちらりと見る。
「お察しの通り、治癒魔法スキルは高くてとてもじゃないけど手が出せないからね。
サブスキル構成もほぼ固まっちゃってるからって、そう言えば累計Lv50超えてるからサブスキル枠1つ増えてたわね」
サブスキル枠が増えてたことをすっかり忘れてた。
うむむ、今控えに寄せてるサブスキルで使えるのは蹴りスキルと火属性付与魔法くらいだ。
魔法系スキルとステップスキルはダブってるし、短剣・斧スキルは必要ないし、既に職スキルにある魔力量増加スキルは意味ないし、魔力量増加スキルの下位の魔力量強化スキルは尚更必要ないし。
とりあえず、接近戦の手数を増やすため蹴りスキルをサブスキル枠にセットしておく。
「まぁ、治癒魔法スキルを持ってたら戦巫女になろうなんて思わないわよ」
「だよなぁ。治癒魔法スキルをサブスキルで持ってるやつなんて数えるほどだろ?
そう考えると、やっぱり戦巫女がベストなのか~」
如月は諦めきれないのか何度も勿体ないと呟いている。
そんな彼をターナーが諌める。
「もう、如月、諦めなよ。
どの職を選ぶのはフェンリルさんの自由なんだから。他人があれこれ口出しするもんじゃないよ」
「頭では分かっちゃいるんだが、な。最強に憧れる男としての癖みたいなものだよ。自分が出来ない分、他人に期待するという」
まぁ、俺も中身は男だ。如月の言い分も分からないわけではない。
俺TUEEEをやりたいわけではないが、最強プレイヤーと言うのは憧れる。その可能性がある人物が最強への道を進まないというのを勿体ないと思うのは仕方がない。
「ターナーの言う通り、自分の意見を強要してもしょうがないわよ。
それより、いつまでもここに居ないで早く白竜の巣へ行きましょ。何時またさっきみたいなユニークボスが現れないとも限らないし」
リリーナの言葉に同意し、俺達は白竜の巣へ向かう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
白竜の巣を目指して迷子になっていた俺だが、ここで臨時PTに入れたのは幸運だ。
まぁ、如月たちも全滅するかもしれなかったピンチに俺が現れたのは幸運だったともいえるが。
如月たちと頂上の白竜の巣をめざし、白霊山を登る。
頂上付近に来たところで、空を飛ぶ竜の姿がちらほら見えてきた。
「そろそろだな。みんな準備はいいか? 油断はするなよ。
まぁ、フェンリルが居ればよほどのことが無い限り大丈夫だろうけど。なんてったってミス・チートだからな」
「やめて、変な二つ名増やさないでよ」
よほど諦めきれないのか、道中ずっと如月は俺に絡みっぱなしだ。
その極めつけがミス・チートの二つ名だ。
チート武器に、チートスキル。確かに納得の二つ名だがこれ以上の二つ名は勘弁してもらいたい。ただでさえ剣の舞姫の二つ名は恥ずかしいのに。
「それより、白竜討伐は1匹だけでいいの? 人数分狩る必要は無いのかな?」
「うん、その点は大丈夫だよ。PTで白竜を倒せばクエスト受注分、鱗がドロップするようになってるから」
理里香の説明に俺はホッとする。流石に人数分の竜を狩るとなると大変だ。
白竜の巣付近に来たところで白竜の群れを確認し、その内の1匹をリリーナが弓で釣ってくる。
『グルゥァァァ!』
群れでいるといっても転職用モンスターらしく、他の白竜とはリンクしていない。
リリーナの矢に射られた白竜はターゲットを彼女に定め、こちらに飛来してくる。
まずは挨拶とばかりに、空中から火炎ブレスが襲い掛かる。
俺達は火炎ブレスを避けざま空中に向かって攻撃する。
と言っても、空に対して攻撃手段を持っているのは魔法職の俺とギャレオン、弓を持っているリリーナくらいだが。
「翼を狙え! 完全に潰さなくてもある程度のダメージで飛行が難しくなり、地上に落ちてくる!」
如月の指示に従って俺は白竜の翼を狙う。
唱える魔法は姿勢制御を崩す影響を考え、ブーストの掛けた風の槍を放つ。
「ウインドランス・トリプルブースト!」
『ガァァァァァ!』
俺の放った槍は一撃で白竜の翼を粉砕し、そのまま地上に叩き付けられる。
「「「「「・・・・・・」」」」」
なぜかみんな無言で俺の方を見る。
翼にダメージを与えれば落ちるって言われたから攻撃したんであって、俺も一撃で地上に落ちるとは思わなかったよ
「えーと、このまま白竜をタコ殴りする。俺と理里香とフェンリルで前衛を務めるから、ギャレオン、リリーナは援護を頼む。ターナーはまた回復の呪歌を歌ってくれ」
如月の指示に従い白竜に向かってステップを刻む。
片翼をもがれ、欠損Buffの付いた白竜は空を飛ぶことが出来ない。なので、このままフルボッコ決定なのだ。
ちなみに、プレイヤーにも腕などを斬られ欠損状態になることはある。
その場合は治癒魔法のリジェネーションを使うか、治癒アイテムのリジェネートポーションを使うかである。
この中で一番回避能力が高いということで、回避型の盾として俺が白竜の正面に立つ。
俺がひきつけている間に、如月と理里香が攻撃を仕掛ける。
回避型の盾と言っても、攻撃を仕掛けてはいけないわけではない。
白竜の攻撃を躱しつつ、如月と理里香の攻撃の合間を縫って魔法剣を放つ。
「バーストフレア!
フリージングバースト!
サンダーブラスト!
サイクロンバースト!
――四元正方閃!!」
4つの属性を纏った剣スキル戦技・スクエアが白竜を切り刻む。
『グルゥァァァッーーーーー!』
ズズン
白竜は叫び声とともに地に伏せる。
あれ? ほぼ一撃で倒しちゃった・・・?
「・・・はぁ、これだからチートは・・・」
如月は白い目で俺を見てくる。
よく見れば他のみんなも若干呆れ顔でこちらを見ていた。
「ええっと、いいじゃない。速攻で倒せたんだから」
俺の言い分けじみたセリフに、半ば納得した表情をする。
「そうね。余計な時間が掛からないのはいいことだわ。それに矢の消費を押さえられたし。ああ、転職することを考えればそんなの気にしなくてもよかったのかしら」
「まぁ、これが剣の舞姫の魔法少女クオリティなんだろ。
ああ、戦巫女に転職するんだからもう魔法少女じゃなくなるのか。ちょっと勿体ねぇな」
「如月もいつまでも突っかからないの!
フェンリルさんのお蔭で殆どダメージが無かったんだからいいじゃないの。あたしの呪歌はほとんど意味が無かったんだけど」
・・・みんなフォローはしてくれるんだけど、若干嫌味が混じってないか?
「はいはい、無事転職クエストクリア出来たんだから、フェンリルをあまりいじらないの。
みんな、PT用のアイテムストレージから白竜の鱗を1枚ずつ取ってね。
って、何これ? 白竜の肉? レアアイテムなのかな?」
PT用のアイテムストレージを見ていた理里香の言葉に、白竜の宿木亭のクエストの事を思い出す。
そういや、白竜の肉を頼まれてたっけ。
「あ、それ、わたしのクエストアイテム。なんでもこれですごくうまい料理を作ってくれるってクエストを受けてね」
「へぇー、竜の肉で料理か~。さぞ美味いんだろうなぁ。俺も食ってみてぇな」
「そう言えば王都にもすっごい美味しい料理を出す、プレイヤー経営の宿屋があるって聞いたことあるけど。もしかしてそれくらい美味しいのかな?」
「ああ、そこの宿屋に俺行ったことあるよ。あれは別格だね。アレに匹敵する味はそうないだろうよ。
フェンリルの受けたクエストの料理はそれほど美味いのか?」
おお、アーデリカの宿の噂は広まってるみたいだな。
ターナーはまだ噂しか聞いたことないみたいだけど、ギャレオンは行ったことがあるのか。もしかしたら俺が宿に泊まってるときすれ違ったことがあるかもしれないな。
「クエストを受けただけだから、まだ料理は食べてないよ。味に関しては何とも言えないね。ただ店員さんが言うには、生まれ変わるほどの味らしいよ」
「生まれ変わるって・・・どんな味よ」
俺の生まれ変わる味発言にリリーナが突っ込みを入れる。
まぁ、気持ちは分かる。
PT用のアイテムストレージから白竜の鱗と白竜の肉を受け取り、俺達は白霊山を下山する。
下山中も何度か戦闘になったが、ほとんど俺が無双状態で決着を付けるため何の問題もなく王都に着くことが出来た。
「ふぅ、無事に何とか転職クエストをクリアすることが出来たな。これもフェンリルのお蔭だよ。」
「そう言ってもらえると、遭難していた甲斐があったかな? まぁ、だから道案内してもらったからこっちも助かったわよ」
「は? フェンリルお前、迷ってたのかよ!?」
「ぷっ、フェンリルさん迷子って」
「くくくっ、これもまた魔法少女クオリティか?」
「意外と抜けているところもあるのね」
「あははは、もう、フェンリル、最後の最後で笑わせないでよ」
あれー? 思いのほか受けてるよ。笑わせるつもりはなかったんだけどね。
「ははっ、何かあったら呼んでくれよ。助けてくれた礼はするからよ」
如月はそう言って、俺とフレンド登録をして別れる。
他のメンバーも俺とフレンド登録をして、みんなそれぞれ自分の転職用のNPCに向かっていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
王都から転移門で東和都市に移動し、転職NPCの綾女さんのいる神社へ向かう。
白霊山に行って戻ってくるだけのクエストだったけど、登山を舐めちゃいけないね。
出発が朝だったけど、今はもう夕方だ。
プレイヤー・NPCのいない神社は夕日を浴びて幻想的な空間になっていた。
俺は神社の奥に進んでいき、転職NPCの綾女さんを探す。
「綾女さん、転職クエスト用の白竜の鱗を取ってきました」
「はい、確かに白竜の鱗ね。それでは貴女を戦巫女へ転職させますね」
綾女さんは俺から受け取った白竜の鱗を両手で包み込むように持ち、転職のための言葉を紡ぐ。
「生まれ変わる竜の力を持ちし欠片よ、この者に新たな道を授けたまえ。
――汝、これより戦巫女の道を進む者なり――」
綾女さんの言葉が終わると同時に、俺の体が光に包まれる。
光が消えた後には姿の変わった俺が居た。
自前の巨乳を程よく収めた、何故かコスプレ風の袷のない巫女の白衣。
緋袴ではなく腰にリボンのついた赤いミニのプリーツスカート。
白いニーハイソックスの上に、白のラインの入った赤色のニーハイブーツ。
ツインテールだった髪は金のかんざしで留めたポニーテール。
巫女だけど巫女じゃねぇ!!
「何これ――――――――!!」
萌えスキル! 萌えすぎだろ!!
もうちょっと、こう、普通の巫女さんをイメージしてたのに!
思わず現実じゃないけどリアルにorzのポーズを取ってしまった。
「あら? 随分と可愛い巫女さんになりましたね」
「可愛く見えます? 見えるんだったら、それだけでもせめてものの救いですねー、あはは」
もう乾いた笑いしか出てこないよ・・・
せっかく魔法少女の格好から脱したと思ったら、コスプレ巫女かよ・・・
戦巫女に転職したのは間違いではないから、この際姿かたちは諦めよう。
萌えスキルを持っている時点でこの結果は決まっていたんだ。
俺は綾女さんに別れを告げて今度はもう1つのクエストの報告の為、白竜の宿木亭に向かう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「お姉さん、白竜の肉持ってきたよー」
白竜の宿木亭は夕食時もあってプレイヤー・NPCともに食事をしていて賑わっていた。
「あら、1日で取ってきたの? 凄いわね。
早速調理するからちょっと待っててね」
「あ、ついでに1日の宿泊と夕食もお願いします」
「はい、承りました」
宿泊の手続きをし、俺から白竜の肉を受け取った店員のお姉さんは、調理場の方へ行き作業を開始する。
俺は空いている席に座り料理が出来るのを待つ。
30分くらいしてからお姉さんが夕食の料理を持ってくる。
その中で一回り大きな皿にたくさんの唐揚げが乗った料理が出てきた。
「・・・お姉さん、もしかしてこれが生まれ変わる料理?」
「ふふふ、そうよ。竜の肉を用いた竜田揚げ。ま、騙されたと思って食べてみて頂戴」
どんな料理かと思えば、まさか唐揚げとは。
期待していただけに肩すかしだ。まぁ、ここまで上げたんだ。味の方に期待しよう。
唐揚げを1つ取り、口に入れる。
うん、美味しい。
だが、NPCの出す料理としては美味しいが、アーデリカの料理と比べるとやはり劣る。
そう思っていたが、食べた後にわずかながら体に異変が生じたのに気づく。
「お客様、お体に変化はございませんか?」
店員のお姉さんの言うとおり体が軽くなったように感じる。もしやと思いステータスを見てみると、転職時に確認した戦巫女のステータスの数値がわずかながら上昇していた。
「! これ・・・!?」
「うふふ、凄いでしょ? 生まれ変わる竜の肉を用いることで、身体能力を上昇させることが出来るのよ」
一時的にBuffなどでステータスを上昇させるアイテムや魔法はあるが、恒久的にステータスを上昇させるアイテムは今現在存在しない。
簡単にステータスを上げることのできるこの料理の価値は計り知れない。
「ただし上昇は1日に数個食べて1度だけ。残念だけど、あとはいくら食べても上がらないわ」
そりゃそうか。唐揚げの食べた数だけステータスが上昇するのであれば、この一皿を食べればかなりの数値になる。
そんなバランスブレイカーを起こさないための処置なのだろう。
食べる必要数もランダムらしく、1個で上がるときもあれば10個食べても上がらないこともあるとか。
店員のお姉さんは、お土産として竜田揚げ10個を俺に渡してくれる。
わずかばかりの上昇とは言え、これはいいアイテムを手に入れたな。
9月7日 ――38日目――
昨日は転職しただけで、まだ体の動きに慣れていない。
なので、戦巫女の戦闘スタイルに慣れるため、東和都市近くの深緑の森へ向かう。
今までは魔術師系のステータスだったが、それらはリセットされて僧侶系のステータスに組み替えられる。
とは言っても魔術剣士と戦巫女は方向性が同じなので、ステータスもさほど変わらないはず。
これが侍から古式魔導師に転職したりすると、力が極端に下がったりして戸惑ってしまうだろう。
そう考えると、理里香たちは今までの自分のスタイルを変えたので慣れるのに時間が掛かるのだろうな。
深緑の森は瓦礫の塔と同様にLv上げに持って来いという話だ。
瓦礫の塔は転職までのLv50くらいが適正Lvらしいが、深緑の森はそのワンランク上らしいので、戦巫女の慣らしには丁度いいだろう。
東和都市の北門から出て深緑の森に向かうためスノウを呼ぼうとしたが、何故か既に門の外に居た。
「あれー? スノウ、何で呼んでもないのにここに居るの?」
『グルゥ』
近寄ってきたスノウは俺に体を寄せて、鼻をスンスン鳴らしてくる。
「わっぷ、ちょっと、どうしたのよ。もしかしてお腹すいてるの?」
俺のアイテムストレージに入っている料理は、昨日貰った竜田揚げだけだ。
まさかと思い、唐揚げを取出しスノウの前で左右に動かしてみる。
俺の腕の動きと同じようにスノウの頭も動く。
・・・どうやらこれが目当てらしい。
基本、騎獣はフィールドに放つため世話をしなくていい。
なのに餌を求めてくる騎獣なんて聞いたことが無いぞ。スノウはレア種だから他の走竜とは違うんだろうか?
俺は勿体ないとは思いつつも、唐揚げを求めてくるスノウの瞳に負けて苦笑いをしながら差し出す。
10個あった唐揚げは見事に全部食われました。
おおおい、全部食っちゃったよ。そんなに腹が減っていたのだろうか?
と、その時スノウに光に包まれる。
光と共にスノウの体は大きくなり、姿かたちを変えていく。
光が収まった後には、純白の竜が居た。
走竜の大きさが約2m位だが、今目の前にいる竜の大きさは約5m位だ。
最初は飛竜かと思ったが、四足の翼のあるドラゴンだ。
しかもよく見ると、純白と思っていた鱗は銀色だった。白銀の竜だ。
「お前、スノウなのか?」
『グルゥゥ』
スノウは顔を寄せてきて、俺の体にこすり付ける。
メニューを開き騎獣の欄を確認すると、種族が走竜から白銀騎竜に変化していた。
「ははっ、まさか、騎獣まで生まれ変われるのか。あの唐揚げ」
俺は驚きを通り越して、ぐうの音も言えなくなっていた。
ステータスUpの手段が無くなってしまったが、スノウが騎竜に生まれ変わったのは嬉しい誤算だ。
そんな俺を気持ちを余所に、スノウは背中に乗れと合図する。
ここで呆けていてもしょうがない。折角手に入れた騎竜だ。みんなが羨むくらい乗りこなしてやるよ。
俺はスノウに跨り、合図をする。
俺の合図に応え、スノウは空高く羽ばたく。
見渡す限りの大空に、眼下には東和都市や深緑の森、彼方には王都や白霊山まで拝むことが出来る。
ゲームの世界とは思えないこの景色に、俺は大はしゃぎする。
「うっわ―――――――! 最っ高―――――――――!!」
それに応えてスノウも雄叫びを上げる。
『グゥオオォォォゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――――!!』
俺は、いや俺達は最高の気分のまま深緑の森を目指して飛翔する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
騎獣に関するスレ3
553:フェンリル
あるアイテムを騎獣のドラグルーに食べさせたら銀色の竜になった
誰か他にも騎獣が変身したってことある?
554:エルリック
は? 待て待て待て待て! 何だそれは! 聞いたことないぞ!
555:みくみん
同じく
っていうか舞姫様がなんかとんでもないことしているw
556:心音
>>553 詳細をお願いします
557:ジロウ
手に入れた騎獣が変化するなんて聞いたことないぞ?
558:フェンリル
とあるクエストで竜田揚げの料理を手に入れたんだけど
外に出たら呼んでもないのに騎獣が居て、竜田揚げを食べさせたらドラグルーから白銀騎竜〈シルバードラゴン〉に変化した
559:エルリック
>>558 尚更訳が分からなくなったよ!
竜田揚げを走竜にあげたら白銀騎竜になった?
ありえねーよ!w
560:XYZ
普通は騎獣って餌とか必要ないよね?
ソードダンサーの騎獣が特別だったのかな?
561:心音
>>558 もしかしてその竜田揚げって東和都市の白竜の宿木亭のクエスト報酬?
562:フェンリル
>>560 うーん、特別って言えば特別かも
わたしのドラグルーは純白の走竜だったからね
でもドラグルーは色以外は性能はみんな同じはずだよね?
>>561 そう、白竜の肉を入手せよってクエストの報酬
563:朝比奈さん
あ、あたしそのクエスト受けたよ
あの竜田揚げは食べたらステータス上がるんだよね
それを考えると、よく騎獣にあげたね
564:ジロウ
>>563 mjd!?
ステータスが上がるって、何そのクエスト
565:心音
まぁ、生まれ変わるような料理ってことだかね
プレイヤーにはステータス上昇の恩恵があるみたいだけど
フェンリルさんの言う通りなら、騎獣にも効果があるみたい
566:みくみん
うーん、でも舞姫様の騎獣が特別だってこともあるかも
純白の走竜なんてみたことないよ
567:朝比奈さん
早速自分のドラグルーに竜田揚げを食べさせてみた
・・・何の変化もない。竜田揚げが無駄になったorz
568:XYZ
>>567 チャレンジャーだなwww
ちなみにドラグルーの色は?
569:朝比奈さん
普通の緑色
570:フェンリル
わたしが思うにもしかしたら白色が関係しているのかも
例えば白馬の騎獣に竜田揚げをあげるとペガサスになるとか
571:XYZ
!! それだ!!
572:みくみん
それです! 舞姫様!
573:朝比奈さん
!! それか!!
574:心音
検証してみる必要がありそうですね
そう考えると他にも可能性のある騎獣が居そうですが
575:ジロウ
つーか、ステータスが上がるアイテムをほいほい騎獣にあげるのも勿体なくね?
576:エルリック
うーん、そこは悩みどころだな
己の力にするか、移動力を向上させるか・・・




