25.王の中の王と流水剣舞
ギギィン!
俺の左右の剣が、水の騎士ウォルスイの体を斬る。
土の騎士ドラン程ではないが防御が堅い。
「ふむ、流石陛下。守陣の効果はバッチリだね」
どうやらウォルスイはワザと攻撃を受けて、セントラル王の掛けたBuffの効果を確かめたみたいだ。
うーむ、これはちょっと拙いかな。
「さて、今度はこっちの番だ!
三連閃!」
ウォルスイが槍スキルの戦技・三連閃を放つ。
俺はその三連撃をステップと左右の剣で捌いて躱す。
「やるね! これならどうかな!
二連旋風閃大斬!」
槍スキルの範囲攻撃戦技の二連旋風閃を放った後、そのまま一回転し縦斬りの打ち下ろしを放つ戦技だ。
範囲攻撃ではあるが、体を回転させた上、大振りの攻撃になるので回避しやすい。
だが範囲攻撃そのものは回避が難しいので、十字受けでタメージを減らし、二回転目の旋風閃と縦斬りをバックステップで躱す。
そしてその戦技直後の大振りを狙い、反撃する。
右手で片手突きを繰り出した後、右手の剣を引くと同時に反対の左の剣で横薙ぎをし、そのまま一回転し再び右の剣で薙ぎ払う二刀流スキル戦技・閃牙剣舞を放つ。
だが最初の突きは槍の柄で弾かれ、その後の左右の剣も彼女の槍捌きに上手く受け流される。
剣を受け流された直後、クロスステップでウォルスイの視界から外れサイドに移動し、二連撃を放つ。
しかし隙をついたはずの二連撃も円のように回転させた槍に受け流される。
――これも受け流すのか!?
俺がステップとかで体を動かして回避を得意とするのに対し、どうやら彼女は槍を上手く使って攻撃を受け流す回避を得意とするようだ。
しかも受け流す回避は必要最小限の動きの為、体全体で回避するより隙が少ない。
まずいなぁー、これ。攻撃しても受け流されるし、攻撃が当たってもBuffで防御力上がってるしなぁ。
俺は一旦距離を取り、深呼吸をする。
こういう時は焦らず落ち着いて相手をよく観察する。そうすると攻略する鍵が見えたりするのだ。
よし、攻撃が受け流されるのなら受け流されない角度から攻撃する。又は受け流されなくなるほどの連続攻撃をする。そしてこちらの回避も必要最小限で回避、又は受け流しをする。
攻撃プランを組み立て直し、再びウォルスイにステップで接敵する。
お互い一合、二合、三合と打ち合い、受け流し、回避をする。
最初は余裕で受け流していたウォルスイが、段々余裕がなくなってきたように感じる。
どうやら上手くいってるのかと思いきや、俺の攻撃は相変わらず上手く受け流されている。
あれ~?
だが、彼女の焦りは段々強くなっていく。そして堪らず俺から距離を取る。
「・・・貴女、一体なんなの? まさかこの短時間であたし並みに受け流しの技術が上達するなんて」
そう言われて打ち合いの後半、ダメージの量が減ってきたのに気が付く。
なるほど、言われてみれば受け流しの技が上手くいってたな。目の前に受け流しの達人が見本を見せてくれてるんだから上手くなるのも道理か。
「そうね、何も打ち合いだけで決着を付ける必要は無いわね。あたしには魔法もあるんだから」
ウォルスイは何も槍にこだわる必要もないと、四元騎士一の魔力を誇る魔法で俺に攻撃をしようとする。
あー、残念。回避の技術は彼女が上だったのかもしれないが、魔力に関しては俺の方が数倍上だったりするんだよね。
チートスキル万歳。
水の騎士よろしく水の槍を放ってくるが、俺は詠唱の短い石の散弾で迎撃する。
「アクアランス!」
「ストーンブラスト!」
普通であればLvの高い水の槍が石の散弾を弾き飛ばして俺に向かって来るのだが、俺の石の散弾は極大魔力のチートスキルで威力が高い。
なので、逆に水の槍を吹き飛ばしウォルスイに散弾がお見舞いされる。
「え!? なんでっ!? くぅぅうっ!!」
そう言えば彼女の言う通り、何も物理攻撃にこだわる必要もないんだよね。
俺には魔法剣がある。剣と魔法を同時に使えばウォルスイの受け流しを破るのは簡単だ。
俺は輪唱呪文で呪文を唱えつつ、ステップでウォルスイに接敵する。
「ファイヤージャベリン!」
まずは右の始源竜の剣に炎の槍の魔法剣を纏わせ、ウォルスイを斬りつける。
ウォルスイは槍で受け流そうとするが、当然俺の剣が触れた瞬間魔法剣が発動しウォルスイの槍を弾き飛ばす。
「なっ!?」
その驚いてる隙をついて残りの魔法を発動し、オリジナルスキル三元疾爪を放つ。
「ウインドランス!
ストーンジャベリン!
サンダージャベリン!」
「がっ!? 貴方なんなの!? こんな攻撃見たことないよ!」
ウォルスイは今までと違う攻撃に驚きを隠せないでいる。
そりゃあ、システムから外れた攻撃だからねぇ。
「うー! もうめんどくさーい!!」
その時、単発攻撃に飽きたのか、援護に飽きたのか、エリザの我慢の限界が超えて範囲攻撃をぶちかました。
「サンダーストーム!」
放たれた雷の嵐は、セントラル王を巻き込んで辺り一面に降り注ぐ。
PTである俺達はダメージを受けないが、受けないのはダメージだけであって衝撃は当然ある。
俺は慌てて回避に移り、出来るだけ降り注ぐ雷を回避する。
雷の嵐が終わり、辺りが煙で視界を遮る。
視界が塞がれている今がチャンスと思い突撃しようと思ったが、考え直しその場に炎の矢を出現させただけの状態にしてバックステップで下がる。
案の定、ウォルスイは煙の中から俺の居た場所に突撃してきて、自ら炎の矢に突っ込む。
思った通り、俺と同じことを考えていたのでそれを逆手に取らせてもらったのだ。
「バーストフレア・トリプルブースト!
サンダーブラスト・トリプルブースト!
――二天六爪閃・トリプルブースト!」
自ら炎の矢に焼かれてるウォルスイにハイステップで一気に近づきオリジナルスキル・二天六爪閃を放つ。
まともに受けた彼女のHPは一気にゼロになる。
「陛下・・・、申し訳ございません・・・」
そう言いながら彼女は光の粒子となって消えていった。
うーむ、モンスター扱いとは言え、データの塊のNPCではあるがこうして倒れるところを見るとあまり気分のいいものではないなぁ。
俺は一旦下がり、ショートカットポーチから各ポーションと研ぎ石を取出しHPとMPの回復と、剣の耐久力を回復する。
丁度その時、天夜の方でも火の騎士を倒したようで、そのままセントラル王に向かって行った。
他の2人を見てみると、舞子はお互いの防御力が高すぎてじり貧の状態で、紺碧さんはお互いの速度が速すぎてとらえきれない状態だった。
「クリスとエリザは紺碧さんを援護して! ベルは舞子のHPも注意して見てて!
あとエリザ! さっきのようなのはもうやらないでよ!」
後衛に指示を出しながら俺も天夜に続き、セントラル王に接敵する。
2人の近衛騎士が倒されたにも関わらず、セントラル王は余裕を持って俺達を迎え撃つ。
それもそのはず、セントラル王にはまだ手札が残っていたのだ。
「ふむ、よもや近衛騎士を倒すとはな。貴様らの攻撃の要は魔法か? ならばそれを奪ってやろう。
敵の軍勢よ、魔の理を縛られ咎人となれ。――魔封の縛陣!
ついでだ、我が軍勢よ、進撃の力を持って突き進め。――怒涛の功陣!」
セントラル王を中心に光が奔る。
俺達には魔法封じのBuffが。
セントラル王と四元騎士には攻撃力増加のBuffが。しかも防御力増加のBuffと重ね掛けが出来ていた。
「なっ!?」
俺は言葉を失った。
基本的に味方へのBuffも重ね掛けが出来ず、ステータス系が1つ、属性魔法系が1つずつとなっている。
だが、セントラル王はステータス系である攻撃力と防御力のBuffを同時にかけている。
これは状況がやばい。ただでさえ魔法を封じられベルとエリザの援護が無くなってるだけではなく、敵の力も増した状態だ。
ここは一旦引いて、先に四元騎士を倒してから全員でセントラル王に向かった方が得策か?
「フェンリル! こっちは俺達で何とかする! だから構わずセントラル王を頼む!」
「はい! お姉様、ここはあたし達が押さえておきます! だから早く王を倒してください!」
俺の考えを読んでいたかのように、紺碧さんと舞子から標的の指示が飛ぶ。
ここはお言葉に甘えさせてもらおう。魔法を封じられた俺がどこまでセントラル王のHPを削ることが出来るかわからないが、天夜と協力して一刻も早くセントラル王を倒してやる。
「攻撃の中心は天夜お願い。わたしは得意の剣舞でセントラル王の動きを攪乱するわ」
「了解!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
天夜が刀スキルで戦技を放ち、俺はその隙を埋める形で左右の剣を奮う。
だが、セントラル王も26の王の1人だ。そう簡単にはいかない。
セントラル王はBuffの効果で攻撃力の上がった剣で容赦なく俺達に襲い掛かる。
「ワイドスラッシュ!」
俺はセントラル王の範囲攻撃を十字斬りで受けるダメージを減らす。
天夜は範囲攻撃を無視してダメージを受けながら、攻撃直後の隙をついてセントラル王に刀スキル戦技・桜花乱舞をお見舞いする。
桜花乱舞は連撃とは違い、斬撃軌道をランダムにし標的にダメージを与える戦技だ。また、範囲は狭いが範囲攻撃も出来て使い勝手が良い戦技だ。
今度は逆に天夜の戦技直後を狙いセントラル王が剣を奮おうとするが、今度は俺が反対から攻撃を仕掛ける。
「スクエア!」
天夜に攻撃を仕掛けようとしたセントラル王は俺の攻撃を受けて動きを止める。
その隙に天夜は距離を取り態勢を整える。
同じようなやり取りが数分続いている。
セントラル王の攻撃を片方が受けてる間、もう片方がその隙をついて攻撃する。
だが、セントラル王の攻撃力、防御力がBuffの効果で高くなっており、受けるダメージをポーションで回復、かつ与えるダメージが少なくて状況はジリ貧の状態だ。
おまけにそろそろ30分経とうとしていて、突入前に掛けたBuffが切れそうになっている。
他のメンバーはそうでもないが、俺の六芒星の盾が切れたら防御力が格段に落ちてしまう。
掛け直そうにも魔法が封じられている状態ではどうしようもない。
丁度その時、紺碧さんが風の騎士を倒して俺達に加勢する。
紺碧さんは隠密スキルでセントラル王の背後を取り、二刀流スキル戦技・四連撃を叩き込む。
忍者の職スキルには二刀流スキルがあるが、実は二刀流スキルは癖があり扱いづらいこともあって、紺碧さんは普段は刀一本で戦闘をしている。
だが今回は風の騎士が二刀流ということもあり、対応するために小刀を二刀流にしていたみたいだ。
これで紺碧さんが加わって3対1だ。最初のBuffの効果が切れたが、状況はこちら側に有利になった。
「ふん、また小蠅が1匹増えたか。これ以上うろちょろされるのも目障りだな。どれ、少しは大人しくしてもらおうか。
敵の軍勢よ、己に枷を付け地に伏せよ。――速縛の呪陣!」
セントラル王から光が奔る。
なっ! まだ重ね掛けが出来るのかよ!?
今度はステータスダウン系の呪1AのBuffが掛かっていた。
Aはアジリティ(敏捷)の頭文字だ。つまり速度を封じられたことになる。
だがおかしい。
呪1のステータス呪は、各ステータスを5~10%くらいの割合で下げるものだ。
しかし、セントラル王の掛けた速縛の呪陣は明らかにそれを上回るほどのダウンだ。
俺達の動きが目に見えて落ちているのが分かる。
「これで貴様らの動きは半分になった。大人しく我が剣の錆となれ」
ちょ!? 半分って50%ダウンかよ!?
「・・・下々の者相手にちょーとやり過ぎなんじゃないのかなぁ?」
「ほほう、余の命を狙う者に手を抜けと? 面白いことを言う」
「・・・ごもっとも。命を狙われたら手加減なんてできませんよねー」
俺はセントラル王に軽口を叩きながら状況の打破を模索する。
これは流石にやばすぎる。
魔法を封じられ動きも封じられたらOutだ。
毒や麻痺はアイテムで解除できるが、呪いは解除アイテムが存在しない。
唯一の解除法は僧侶系の持つ聖属性魔法のリムーブカースのみ。
考えろ。動きを封じられたといっても完全に封じられたわけじゃない。
速度が半分に抑えられたのなら、半歩先を読んで動けばいいんだ。
要はさっきのウォルスイの動きの応用だ。
流石に速度を抑えられては紺碧さんと天夜の動きが遅い。
何とか攻撃をしようとするが、ことごとく迎撃される。
セントラル王にステップで近づく。うぁあ、ステップの速度も遅い。
俺の接敵に気が付いたセントラル王は剣を振り上げる。
王者の余裕か攻撃は大ぶりだ。これは俺にとってもチャンスでもある。
そうだ、相手は「感情」のある「人間」だ。相手の思考すらも取り込んで先を読め!
セントラル王が剣を振り下す。先を読んで半歩だけ体をずらして避ける。
俺の目のスレスレに剣が振り下される。
同時に剣が振り下され体が前のめりになる場所に左の飛翔竜の剣を置く。
そう、何も剣を振り回す必要は無い。置いておくだけでセントラル王が自ら剣に突っ込む形にしておくだけでもダメージになる。
セントラル王は剣のダメージを無視したまま、右手のバックブローを俺の顔面目がけて放つ。
俺はその動きを読んで半歩下がって避ける。
目の前の鼻先をセントラル王の拳が過ぎる。
同時にバックブローの軌道上に右の始源竜の剣を置く。
剣と腕がぶつかる瞬間に剣スキル戦技・トライエッジを発動してセントラル王の右手を弾く。
王の動きの先を読め、そして俺の動きを最小限に、余計な力を使わず攻撃を受け流す。
後で聞いた話によると、この時の俺の動きは今までとはかけ離れていたそうだ。
今までの剣舞が『動の剣舞』とするなら、この時の剣舞は『静の剣舞』だ。名づけるなら流水剣舞。
紺碧さん達は、俺とセントラル王の1対1の戦闘を静観している。
動きの封じられてる状態では、今の俺の援護はかえって邪魔になると判断したのだろう。
そして、セントラル王の動きにも焦りが見えてきた。
「馬鹿なっ、魔法も素早さも封じているのだぞ!? 何故余の攻撃が当たらぬ!
貴様っ、本当に人の子か!?」
失敬な。これも立派な技術の1つだぞ。
「くそっ! ならば今度は攻撃力を封じてやろう!
敵の軍勢よ、力の源を封じられ咎人となれ。――撃封の縛陣!」
くそっ! まだダウン系Buffを掛けれるのか!?
しかしよく見ると攻撃力減衰のBuffが掛かっていたが、変わりに魔法封じのBuffが消えていた。
魔法封じのBuffの効果はまだ30分経っていないはず。
もしかして攻撃力減衰と魔法封じは重ね掛けが出来ないのか?
セントラル王の陣スキルにもルールがあるのかもしれない。だが王は焦ってBuffを重ね掛けしてしまったのだ。
だとしたらこれはチャンスだ。
「ベル!」
俺の声と共にBuffの状態を確認したのだろう。
鳴沢はここぞとばかりに詠唱破棄による連続解呪を行う。
「リムーブカース! リムーブカース! リムーブカース! リムーブカース! リムーブカース!」
鳴沢は前衛4名とクリスを含めた5名分のステータス呪を解除する。
そして先ほどまで魔法を封じられ鬱憤が溜まっていたエリザが爆発する。
「ライトニング!!」
直径1m程の太さの雷の閃光がセントラル王を襲う。
よし、悪いがここからは魔法による力押しだ。
セントラル王がまた魔法を封じる前にごり押しで倒す。
「紺碧さん! 天夜! 連続魔法で押し切るから援護お願い!」
「「了解!」」
俺とエリザで魔法を交互に叩き込む。
呪文の詠唱中に紺碧さんと天夜でその間をフォローする。
当然セントラル王は必死に抵抗するが、俺の極大魔力とエリザの雷属性特化の前にはなすすべがなかった。
「バーニングフレア・トリプルブースト!」
ズガァァァァァァァン!!!
遂にセントラル王が仰向けになって大の字で倒れる。
「・・・ふん、まさか余が小童どもに敗れるとはな。
カイ・キングダム・セントラル、お前がたった今から新たなセントラル王だ。
お前の思うがままに国を治めて見せよ」
「・・・はい、父上」
セントラル王はそのまま光の粒子となって消えてしまう。
――エンジェルクエスト・Kingdomがクリアされました――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「すごいすごいすごーい! フェンリルちゃん凄すぎ!」
いつの間にか近づいていたエリザが背後から抱きついてくる。
「あ!? マズイ! フェンリル、エリザから離れろ!」
紺碧さんの注意の意味を悟る暇もなくエリザの顔が近づく。
「もう最高ー! んー」
「んんー!?」
いきなりエリザの唇が俺の唇を塞ぐ。
え? は? あれ? 俺、今キスをされてる!!?
「んー! んー! んー!」
エリザを押そうが引こうがしっかり抱きついて俺の唇から離れない。
俺には長い間キスをされてたように感じたが、実際には30秒ほどだっただろう。エリザは満足気に俺の唇を開放する。
「ぷはぁ。うふふふふ♪ 小っちゃくって、可愛くって、強いなんて、もう最高♪ 食べちゃいたいくらい♪」
そう言いながら舌を舐めずさりする。
うおぉぉぉい! エリザ! あんたそっち系の人かよ!?
そう言えば7騎士に捕まっていた時、エリザは暴食に捕まっていたっけ。暴食ってそっち系の暴食かよ!!
「おい! そういう事を外でやるなといっただろう!?」
「あいたっ!?」
気が付くと紺碧さんがエリザの頭をぶん殴っていた。
「はぁ、すまんな、フェンリル。こういう事は普段はギルド内だけで抑えてるんだが、ちょっと興奮しすぎたみたいでな」
「え゛!? 『9人の女魔術師』って実はそう言うギルド!?」
紺碧さんのセリフに思わず2人から距離を取る。
「違う! こいつの暴挙を抑えてるって意味だ!
はぁ、それよりルージュに連絡を取ってくれ。早く向こうにPの王の証を持っていかなければならないだろう」
「ああ、そうね、うん」
エリザの突拍子のない行動にみんなは引いている。
いや、引いているというより興奮している?
舞子に至ってはキャーキャー騒いでいるし、鳴沢は何故か俺を睨んでいる。
そう言えば肝心のPの王の証はちゃんとあるのだろうか?
PT用のアイテムストレージを確認してみる。
Pの王の証
『希望の女王』を倒した、または認めてもらった証。
※EVENT ITEM
現在、継承者の手を離れているため証としての力はありません。
継承者の手に戻ることにより証としての力を取り戻します。
※譲渡可/売却不可/破棄不可
なるほど、今はQUEST ITEMとしてではなくEVENT ITEMとしての効果しかないのか。
ならばPandoraをクリアするにはパティアに王の証を渡し、改めて倒す必要があるのか。
あ、いや倒す必要は無いか。認めてもらうのでもクリアにはなるし。
だがそうするとパティアはプレミアム王国を再建できないし・・・
まさか、プレイヤーがプレミアム王国を再建して国王になるフラグじゃないだろうな。
・・・パティアに王の証を渡してから考えよう。
携帯念話を操作してルージュさんを呼び出す。
「ルージュさん、こちら無事にセントラル王を倒しました」
『こちらでもKingdomクリアのアナウンスを確認しました。今現在、セントラル王を倒したことを告げ、奇襲軍との戦闘を停戦中です。至急Pの王の証を持ってきてもらえますか?』
「はい、了解しました」
王の証を取り戻すまでは奇襲部隊も完全には戦闘解除できないだろう。
早く持っていかなければ。
と、そう言えばKの王の証はどうしようか。
Kの王の証
『王の中の王』を倒した、または認めてもらった証。
※QUEST ITEM
※譲渡不可/売却不可/破棄不可
※王の証を所有した状態で死亡した場合、王は復活します。
※特殊スキル「Kingdom」を使用することが出来る。
効果:24分間、各功陣、各守陣、各縛陣、各呪陣が使用できる。
特殊スキル効果終了後、24時間「Kingdom」のスキルが使用不可能になる。
24時間、戦技魔法が使用不可能になる。
「ねぇ、Kの王の証はどうしよう?」
「あー、エリザちゃんはパース。もともと助っ人できたからね~」
「俺も同じくパスだな」
ギルドからの助っ人の2人は受け取りを拒否する。
「あ、あたしも要らないです。もともと臨時で入っているんだし」
「だったら、俺も受け取れないな」
舞子と天夜の2人も受け取りを拒否する。
そうすると残った俺達3人なのだが、俺は既に2つも持っているので権利はない。
「僕も遠慮しておこう」
クリスも拒否となると・・・
「必然的にベルが持つことになるね」
「え!? あたし!? あたしには荷が重いわよ! クリスが持てばいいじゃない」
「いや、特殊スキルの効果から見てもベルザの方が相性がいいと思うよ」
鳴沢は渋ってはいたものの、最終的には王の証を持つことに納得した。
「さて、皆さん。僕はここで別れて戦後の事後処理をします」
カイ王子、いやカイ国王が俺達に別れを告げる。
そばには四元騎士の生き残り、土の騎士ドランが控えていたりする。
あー、セントラル王が倒されたから四元騎士も消えるわけじゃないのか。そうなるとカイ国王の為になるべく倒さない方がよかったのかな。
「ああ、王位簒奪なんて無茶な事をしたんだ。この後が大変だと思うが頑張れよ」
紺碧さんの言葉にカイ国王が大きく頷く。
俺達はカイ国王と別れ、サンオウの森を目指して騎獣を走らせる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
現場に到着すると、奇襲部隊とギルド連合との睨み合いが続いていた。
「ルージュさん、お待たせしました」
「いえ、着いて早々で申し訳ませんが、早速女王に王の証を返却してください」
俺がギルド連合の前に進み出ると、奇襲部隊の方からもパティアが進み出てきた。
「女王! 何も貴女が前に出なくても・・・!」
将軍が前に進み出たパティアを押し止めようとした。
「将軍、大丈夫です。彼女には敵意はありません。
フェンリル様、やはり貴女との出会いはわたくしにとって良縁だったようですね」
「あー、今回はたまたまですよ。
あの、パティア様、王の証です。確かにお返ししました」
パティアにペンダントの形をした王の証を返却する。
「確かに受け取りました。
・・・これでプレミアム王国を再興することが出来ます」
王の証を受け取ったパティアは奇襲部隊を纏め、退却の準備を始める。
北の大手軍には狼煙で退却の合図をする。
「フェンリル様、いつかまた我が国に来てください。誠心誠意をもっておもてなしをいたします」
プレミアム王国の奇襲部隊の退却を見届けた俺達はやっとの思いで一息を付く。
「ふぅー、Pandoraのクエストはクリアできなかったけど、何とか戦争イベントは片付いたね」
「フェンリルさん、大変お疲れ様でした。お蔭で戦争イベントが無事終わらせることが出来ました」
ルージュさんが俺達に近づいてきて労いの言葉をかけてくる。
「いえ、ルージュさんもお疲れ様でした。わたし達の力がお役にたてたみたいでよかったです」
「今後何か困ったことがあったら『9人の女魔術師』を訪ねてきてください。きっとお力になれると思います」
「丁度いいから俺達はここでPTを抜けるぜ。マスターの言う通り何か困ったことがあったら頼ってこいよ。いつでも力になるぜ」
紺碧さんがルージュさんと並んで俺に声を掛けてくる。
そう言えば一緒にPTを抜けるはずのエリザの姿が見えないと思い、周りを見渡すと突然後ろから胸を揉みだされる。
「ひゃうん!?」
思わず声を上げてしまうが、後ろから抱きつくエリザはお構いなしに胸を揉み続ける。
「ねぇねぇ、フェンリルちゃん。あたしと一緒にうちのギルドに来ようよ。この世とは思えない快感を教えてあ・げ・る・よ♪」
そう言いながらエリザの片方の手は俺の太ももの内側を触っていく。
あ、ん、ちょ、さ・流石にそれはやばいって!!
ゴンッ!!
「きゅう!」
あとちょっとと言うところで紺碧さんの拳が入る。
「バカやってないで行くぞ!」
「フェンリルちゃん~、エリザはいつでも待ってるからね~」
そのままエリザは紺碧さんに襟首を掴まれて引きずられていく。
俺達はルージュさん達が引き上げるのを呆然として見送っていた。
「あー、随分過激なアプローチだったな」
「・・・まぁ、衣装からして過激だったからね」
天夜の言葉に相槌を撃つ。
過激と言うより変態の言葉の方が合ってるのかもしれないが。
「さて、お姉様。あたしもここらでPTを抜けますね。
今回の事で力不足を感じました。お姉様のお役にたつためにももっと修行して力を付けて来たいと思います」
あー、確かに援護が無かったとはいえ舞子だけが四元騎士を倒しきれてないんだよな。
防御主体の騎士とはいえ、己の力不足が悔しいのだろう。
「そんじゃ、俺もPTを抜けますか。
なんせ俺は舞子のお守り役なんでね」
そう言いながら天夜は舞子の頭を撫でる。
舞子は「子ども扱いしないでよ」と叫んでいるが、いちゃついてるカップルにしか見えないぞ、お前ら。
・・・まさかそういう関係じゃないだろうな? 次に会う時には「付き合ってます♪」とか言いそうだな。
そう言って2人はPTを抜けていく。
さて、これからは俺と鳴沢とクリスの3人で今後の方針を決めていこうと考えていたが、突然鳴沢がとんでもないことを言い出す。
「あたしもPT抜けるね」
「は!? え? 何? どういこと?」
「あたしとなんかより、エリザとPTを組んだら?
――何よ、鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって! そんなにえっちぃのが好きなんだったら彼女と一緒に居ればいいじゃない!」
ええ~~~~~~!? ちょっ、俺がいつデレデレしたんだ!?
あ、いや、さっきのは傍から見るとデレデレしてるように見えたのか!?
俺の葛藤を余所に、鳴沢はPTを抜けて1人で行ってしまう。
マジか!? ここで引き止めないと拙い!? ああ、いやでも下手なことを言ったら余計に火に油を注ぐようなものか!?
ええい、仕方がない!
「クリス! 悪いんだけどベルについて行ってもらえる? 流石に1人じゃ心配だし」
「引き止めた方がいいんじゃないのか?」
「あー、多分今の状態だと何を言っても無駄だと思うから・・・」
クリスは暫く考える仕草をして「分かった」と言って鳴沢の後を追いかけていく。
「何かあったら連絡頂戴ね。すぐに駆けつけるから」
そう言いながら俺は2人を見送る。
・・・あれ? 気が付けば何故か再びソロプレイヤーに戻っていたりする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エンジェルクエスト攻略に関するスレ5
554:アッシュ
ふー、やっと5つ目の星座を倒すことが出来たよ。
555:光の王子
>>554 ん? 星座って26の王のZodiacを守護するボスだっけ?
556:アッシュ
>>555 そうそう、Zodiacのボス部屋に入るには十二星座の守護者を倒さなきゃ入れないんだよね
557:はぐれてないメタル
おいおいおいw 今王都が大変な時に何をしてるww
558:アッシュ
あー、そうは言ってもこっちもエンジェルクエストで大事な事なんだ
王都の守護は君たちに任せた><b
559:クリスタル
まぁ王都の戦争イベントは強制じゃないからね
560:浜田浜口浜崎さん
それより十二星座ってまるで一昔前の某星座のセイ○トみたいだね
561:フリーザー
ああ、それ俺も思ったwww
562:アッシュ
セイ○トみたいに順番に十二星座宮を巡るんじゃなくて、バラバラに散ってる星座宮を撃破していくからそこは楽だけどね
563:光の王子
守護者はセイ○トみたいに黄金の聖戦士たちが守護してるのか?
564:アッシュ
>>563 いや、それぞれ星座をモチーフしたMOBが守護してる
牡羊座だと羊型のMOBとか
565:はぐれてないメタル
おいおい、それだと天秤座とかはどうするんだ?ww
566:アッシュ
んー、まだそこまでは確認取れてないよ
567:クリスタル
そう言えば瓦礫の塔の王はどうなっているのかな?
568:光の王子
あー、あそこは今Lv上げに使われてるから王の攻略はまだ先だと思うよ
569:はぐれてないメタル
ああ、あそこのMOBは王が生み出してるって話だから王が攻略されたらLv上げできないもんな
570:アッシュ
まぁ、そういう訳で十二星座の攻略頑張ってきます(≧д≦)ゞ
571:光の王子
がんばてら
572:クリスタル
頑張ってください
573:はぐれてないメタル
がんば
574:浜田浜口浜崎さん
頑張って~ノシ
575:アッシュ
誰か手が空いてたら手伝いに来てください
人ではいくらあっても足りませんので
ストックが切れました。
再び充電期間に入ります。
・・・now saving




