23.協力者と七つの大罪
「ぎぅ!」
「がっ!」
「ごふっ」
「ぐぁ!」
「うぁ!」
俺に襲い掛かってきた5人はうめき声と共に地面に倒れこむ。
正面から堂々と襲い掛かってきた3人の内2人は、舞子の盾に押しつぶされて地面に転がる。
もう1人は天夜の刀に脳天から斬られて地面に叩き付けられる。
屋根に隠れていた2人の内1人はクリスに足を射られて屋根から転げ落ちる。
もう1人は背後から忍び寄られた紺碧さんに首筋を叩き斬られ、何故か一緒にいたエリザに蹴られて屋根から落とされた。
「なっ!?」
突然の出来事に軍曹は慌てふためく。
3人を正面において油断させておいて2人を屋根から狙撃させる手筈でいたみたいだが、俺には丸分かりだった。
セーフティエリア内では攻撃系の戦技・魔法は使用できないが、気配探知のような非戦闘系スキルは使用可能である。
なのでこいつらが待ち伏せていたのは分かっていた。
軍曹が俺を連れだす前に、みんなに会議でのことを話して俺を狙って来るやつが居るかもしれないことを伝えていたので、もしもの時の対処をお願いしていたのだ。
まさか言った直後に対処する出来事があるとは思いもしなかったが。
にしても俺のLvの低い気配探知に引っかかるということは隠密スキルを持っていないかLvが低いかのどちらかだろう。
暗殺を仕掛けるくらいだからそれくらい用意しとけよ。
「貴様・・・! 仲間を呼んでいたのか!?」
「そりゃあ命が狙われるって分かってて、仲間を呼ばないわけないでしょ?」
丁度その時、鳴沢が『軍』のギルマス・サイレスとギルドメンバー2人を連れて現れた。
そうか、SA内で攻撃魔法の使えない鳴沢は『軍』と連絡を付けていたのか。
「・・・! サイレスさん・・・!」
「軍曹、残念だ。君はもう少し良識のある人だと思っていたのだが」
「くそっ! くそっ! 何でだっ! 何でどいつもこいつも俺の言う事を聞きやしないっ!
俺の言うことを聞いていれば出られるって言うのにっ! 何でだよっ!」
あー、こいつまだ自分の正義を信じているのか。
自分がどれだけ独りよがりの正義をかざしているのか気が付かないんだな。
はぁ、これ以上こいつの正義には付き合ってられん。周りの人にも迷惑かけてるみたいだしとっとと退場願おう。
「いいわよ、あんたの言う通りPKされてあげる。
ただし、SA内で1対1で私に勝てたならね。あんたの言う正義を実行したいんなら少なくとも実力で証明してみなさいよ。
正義無き力は暴力。力なき正義は無力ってね」
「は・・・はははっ! そうだ! 俺の実力を示して貴様を殺してみんなを救ってやるよ!」
そう言って軍曹は背中の両手剣を構える。
「ちょっと、フェル。大丈夫なの?」
心配した鳴沢が声を掛けてくる。
俺の実力を知ってる人から見れば心配はないのだが、万が一と言うこともあり得る。
「大丈夫。すぐに終わらせるからちょっと待ってて」
俺も左右の剣を抜き、逆手から順手に持ち替える。
「そうそう、何でわたしが剣の舞姫って呼ばれてるか教えてあげる」
「ぬかせっ!」
軍曹にとっては渾身の一撃だろう、縦斬りの攻撃を放つ。
俺はそれをステップで躱す。躱しざまに横斬りの一撃を放つ。
軍曹は衝撃を無理やり押しとどめ、俺を追いかけるように横薙ぎに剣を振るう。
当然俺はその横薙ぎすらもステップで避ける。
左右からの二連撃を叩き込む。二連撃と言っても二刀流の戦技ではなくただの戦技の模倣だ。
軍曹は無理やり剣を振るい続けるが、俺はその都度ステップで躱しつつ倍の斬撃を与える。そして軍曹の斬撃よりもステップの数がどんどん多くなっていく。
当然俺の2本の剣から繰り出される斬撃も多くなり、軍曹は自然と防御に回る回数が多くなる。
俺はその両手剣での防御も2本の剣を巧みに使い弾き飛ばしながら斬撃を振るうので、軍曹はほとんど棒立ちの状態でタコ殴り状態だった。
「ぐっ! がっ! ぐごっ! ま、まぶっ! わ、わるぐあ! ぢょどがっ! や゛め゛でぇっ! がぁ!」
軍曹が何か言いたそうだが俺には聞こえない。口を開こうとすればそこを攻撃して無理やり黙らせる。
倒れてやり過ごそうとしても、無理やり下からの斬撃を与えて棒立ちの状態を維持する。
「うわぁ、えげつねぇな」
紺碧さんが何か呟くが、聞こえない。そもそもこれは軍曹が望んだことですよ?
もうほとんど攻撃の意思が見られなくなったので、止めとばかりに脳天に十字斬りもどきを撃ち込み軍曹を地面に叩き付ける。
「あら、本当に気を失ってるわね」
エリザが地面で伸びている軍曹が気を失ってるのを確認する。
軍曹の言った通り必要以上の衝撃を与えれば気を失うのは本当だったようだ。
「すまんな、フェンリル殿。余計な手間を掛けさせた」
「いえいえ、世の中にはいろんな人がいますからね。こんなのも予想の範囲内ですよ。
にしても『軍』もいろいろ大変みたいですね」
「ああ、変にエリート意識の強い者ばかりの集まりだからな。デスゲームがそれに拍車をかけているみたいだ。
「俺はデスゲームの物語の主人公だ」ってな」
ああ、ネット小説とかであるデスゲーム物の主人公の気分でいるわけか。エリートだから自分は特別と思い込んで我が物顔でいるのと。
「まぁ、人間だれしも特別だって思いたいですからねぇ」
「それは否定はせんが、だからと言ってそれで周りに迷惑をかけていいわけではないからな」
俺とサイレスさんの話している間にも『軍』のギルメン2人が軍曹が縛り上げていた。
サイレスさんはあとでお礼をするといって軍曹を連行していった。
『軍』を見送った後、仲間を見ると鳴沢、舞子、天夜、紺碧さん達はドン引き状態だった。
クリス曰く「参ったも言わせない、倒れることも許されない、ある意味拷問だ」との事。
ちなみにエリザは「本当に踊ってるみたいだねー」と何故か大喜びしてた。
8月29日 ――29日目――
俺達は今王城の門の前にいる。
朝起きてから昼前まで魔の荒野で7人の連携を確認した。
11時になるころ、北に展開していた元プレミアム王国軍とセントラル王国軍が動いたと連絡があったので、急いで王城の前まで来たのだ。
今回の緊急PTの要員として参加したエリザだったが、彼女の力は二つ名通りの実力者だった。
何故ならモンスターと対峙するも、雷属性の範囲魔法のサンダーストームで一気に薙ぎ払ってしまうのだ。
よくよく話を聞けば、エリザは職スキルの雷属性魔法を切っていて、サブスキルの雷属性魔法を伸ばしているとか。
確かに職スキルのLvは職Lvに準じているからどんなに魔法スキルを使用しても職Lv以上に上がらないが、サブスキルは使えば使った分だけLvが上がる仕組みになっている。
なのでエリザはサブスキルの雷属性魔法を使っているのだ。そのおかげで彼女の雷属性魔法スキルはLv66にもなっているらしい。
おまけにどこから手に入れたのか、聞いたことのないスキルの雷属性増加とかも持っているらしい。
ちなみに俺の二刀流スキルとステップスキルもLv60を超えてたりする。
俺の戦闘のメインスキルのなのでLvの上がり方もハンパない。
経験値稼ぎや資金稼ぎならエリザの魔法で薙ぎ払いでもいいのだが、今日は連携をしに来ているので単体魔法で後方から援護をお願いした。
それでも十分エリザの実力は発揮されて、お互いの連携を密にすることが出来た。
「さて、北では戦闘が開始されているので、こちらも王城に突入して『王の中の王』を倒しに行こうか」
紺碧さんの合図とともに王城の正面門の前まで来る。
正面門の前には槍を携えた衛兵が2人居た。
彼らは俺達の姿を捉えると、お互い槍を交差し俺達の進入を防ぐ。
「待て、ここは立ち入り禁止だ。速やかにこの場を立ち去りなさい」
衛兵の言葉に紺碧さんが俺に目で合図を送る。
俺はアイテムストレージからペンダント状のCの王の証を取出し衛兵に見せる。
「! これは資格者の方でしたか。申し訳ございませんでした。どうぞお進みください」
彼らはすぐさまその場から引き下がり、門を開けて俺達を歓迎して受け入れる。
「もしかしたら王の証って王城に入る他にも使い道があるのかもね」
一連のやり取りを見ていた鳴沢が、王の証の別の使い道の可能性を言ってくる。
確かに、エンジェルクエストクリアや特殊スキルだけではなく、こういった何かの証明にもなるのかもしれない。
王城に進入すると来客を受け入れるための玄関として大広間のようなホールになっていた。
左右には別の部屋へ通じてる扉があり、正面奥には城の深部へ続く廊下が伸びている。
正面奥の廊下へ続く道を挟むように左右に2階へ続く階段が設置されている。
その左右の階段の間、正面奥の廊下に行く道を塞ぐように何故かピエロが居た。
「・・・? 何でピエロ? もしかしてあれが協力者なの?」
「いや、違う。あんなのが居るなんて俺も聞いてないな」
困惑気味の俺の質問に、紺碧さんも困惑しながら答える。
「紳士淑女の皆様方、ようこそセントラル城においで下さいました。
わたくし、城のお勤めの方には心の清涼を、皆様のようにおいで頂くお客様には新しき道を示させていただく、世界一の道化のセンタと申します。以後お見知りおきを」
俺達の困惑を余所にピエロは自己紹介を始める。
どうやら城の来客の案内人っぽい感じだが、それがピエロとはどうなんだろう?
ピエロの言葉の中の新しき道と言うのが気になったので聞いてみることにする。
「ねぇ、わたし達に新しき道を示すって言ったけどどういう事?」
「それは強き者の証を3つをわたくしに見せていただければ、新しき道をお教えいたします」
いや、だからその新しき道ってのが何なのか聞きたいんだが。
「フェンリル、ピエロの相手は後にしてくれ。まずは協力者と合流しよう」
紺碧さんの言う通りだな。今はピエロを相手している場合じゃない。
紺碧さんの案内の下、俺達はその協力者が居るという部屋を探す。
紺碧さんは事前に協力者から城の見取り図を渡されていて、落ち合う部屋を指示されていた。
つーか普通城の見取り図なんて簡単に手に入らないもんじゃないのか?
やっぱりその協力者ってのは普通の人じゃないんだろうなぁ。
紺碧さんが目的の部屋を見つけドアを開ける。
すると部屋の中には豪華な衣装を纏った男性が居た。
しかも無駄にイケメン。
「お待ちしておりました。紺碧殿」
「いや、こっちこそ待たせた。カイ王子」
はい、王子です。俺の予想通り王族関係者だったよ。
国王陛下討伐後の影響の対処、王城の見取り図、これらはそう簡単に出来るものではない。それなりの権力が無ければならない。
「こちらの皆様が父上を抑えるための協力者なのですね。
始めまして、僕はカイ・キングダム・セントラル。この王国の王位第一継承者です」
「初めまして、わたしがこの一応PTのリーダーのフェンリルよ。
王子と紺碧さんの具体的なやり取りは聞いてないけど、わたし達の目的はセントラル王を倒しプレミアム王国の王の証を取り返すことよ。王子にはわたし達がセントラル王を倒した後のフォローをお願いできると聞いたのだけど」
一応このPTのリーダーとなってる俺が代表して王子に挨拶をする。
仮にも一国の王が倒されるのだ。いくら王子とはいえ、その後の対応が出来ることと出来ないことがあるのかもしれない。その辺を聞いておかなければこちらも対応が変わってくる。
「はい、そのことなら大丈夫です。
父上には倒してでも王位を退いてもらい、その後僕が王位を継ぎますので皆様にはこの国での不自由はさせません」
ちょ!? この王子イケメンの上に強かだ!
にしても、王位簒奪イベントとか、今回イベントが重なりすぎてるだろう!?
いきなりのクーデター宣言に俺は紺碧さんを見る。
「ああ、王子は本気だ。そのために前準備として冒険者ギルドにいろいろ依頼してきていたんだ。その依頼を受けたのが俺だってわけだ」
「はい、父上は軍事主義者です。ここ数年は大人しかったのですが、近年周辺国を狙う動きをしていました。そして僕の懸念していた通りプレミアム王国が滅ぼされてしまいました。
ですが父上はそれだけでは収まらないでしょう。周辺国だけではなく、自国さえも滅びに突き進む道を選んでしまいます。僕はこの国の王子として父上を止めなければなりません。
プレミアム王国が滅ぼされたことにより、以前より計画していた作戦を前倒しして王位を手に入れなければならなくなりました。なので皆さん僕に力を貸してください」
そう言って王子は頭を下げる。
おいおい、いくらゲームとはいえ王族が簡単に頭を下げていいのかよ。
「まぁ、僕たちの目的は王の証を手に入れ、この戦争を止めることです。お互いの目的が一致してるのであれば協力し合うのが当然です」
クリスが言うようにお互いの目的が一致してるのだ。おまけに王討伐後のフォローもしてくれるのだ。こっちにとっては王子の協力は願ったりかなったりだ。
「ねぇ、ちょっと質問してもいい?」
そこに鳴沢が手を上げ王子に質問をしてくる。
「まず1つ。プレミアム王国では王の証は王位継承に必須みたいだけど、セントラル王国ではどうなの? セントラル王も王の証を持っているのにあたし達がそれを奪うことになるけど。
2つ目、王位継承者は王子1人なの? 複数いたりすると王位簒奪した王子と他の継承者と争いになるんじゃ?」
うーむ、言われてみれば鳴沢の言う通りだ。そのためにパティアはセントラル王国に戦争を仕掛けてきてるのだし。
「王の証については大丈夫です。
プレミアム王国は王の証を王位継承者の証としていますが、セントラル王国では26の王に選ばれたという意味しかありません。まぁアレを手に入れてから父上が変わったとも言えますが」
「え? セントラル王が持つ王の証って代々継承されてきたものじゃないの?」
「ええ、プレミアム王国では大昔26の王に選ばれた証として代々王族では王の証を継承されてきたとされてますが、セントラル王国の王の証は父上がどこからともなく手に入れてきたものです」
プレミアム王国の王の証は代々継承で、セントラル王国の王の証は1代限りのものなのか。相変わらずややこやしい設定をしているなAI-On。
「王位継承者についてですが、第二王位継承者として弟のクウがいます。
クウは今、父上に従い北に展開したプレミアム軍を迎撃するセントラル軍の指揮を執っています。表向きはですが」
「表向きは? と言うことは裏では?」
「はい、クウも僕の意見に同調し父上を討つことに賛同してくれてます。なので北での迎撃も殲滅ではなく、撃退の方向で指揮を執ってくれています」
なるほど、第二王子も戦争は反対って訳か。
これは上手い具合に王位簒奪イベントが進んでよかったのかもしれない。結果として戦争イベントの防衛となりえたのだからな。
「よし、王子側の事情も把握したことだし、セントラル王のところへ向かおう。さっさとこの戦争を止めないとな」
紺碧さんの言葉に俺達は頷く。
早速王子の案内の下、俺達は王城の中を駆け抜けていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
物語やゲームなどでよく使われる城の中で一番有名な謁見の間。
その扉の前に俺達は居るのだが。
「なぁ、何かおかしくないか? ここに来るまで誰1人として会わないなんて」
天夜の言葉にみんな黙り込む。
それは俺も気にしていたことだ。いくらイベント中とはいえボスに会うまで敵1人として会わないなんて。
「これは何かの罠・・・なのかもな」
「確かにおかしいですね。いくら北の軍隊に兵が徴収されてるとは言え、城の中全てが徴収されてるわけではありません。
これは父上の張った罠の可能性があります」
紺碧さんと王子の言う通り罠の可能性も拭いきれない。
だからと言ってこのまま引き返すわけにはいかない。
「とりあえず扉に罠が無いか調べて・・・」
「罠があっても全部突破していけばいいじゃん。何難しく考えてるのー?」
紺碧さんが忍者の職スキルを使って扉に罠が無いか調べようとしたが、その前にエリザが遠慮なしに扉に手を掛ける。
その瞬間、床に魔法陣が展開して光始める。
うおぉい! エリザ! あんた何やってんのーーー!?
俺の文句を余所に魔法陣の光は強まり、辺り一面光に包まれる。
気が付くと広い部屋に俺1人で居た。
部屋と言っても少し小さめの体育館位の広さがある部屋だが。
部屋には出入り口と思われる扉が1つのみ。
「うわー、最悪。転移トラップじゃないか。
しかもメンバーバラバラに飛ばされるとは」
マップを確認するとPTメンバーは表示されず、この部屋も別空間にあるのか城のマップは表示されなかった。
このままバラバラで居るのは拙い、早くみんなと合流しなければ。
とりあえず、この部屋唯一のオブジェクトである扉に手を掛ける。
「あー無駄無駄。その扉は俺を倒さなければ開かないぜ」
突然の声に振り向くと部屋の隅には騎士が1人座っていた。
壁には剣と盾を立てかけてフルヘルムを脇に抱えている。金髪のイケメンなのだが気怠そうな表情が何故かおっさん臭さを漂わせていた。
「なら、あんたを倒してこの部屋を出るまでよ」
俺はそう言いながら左右の剣を抜く。
封じ込め系のトラップにはありがちの展開だ。奴を倒さなければ出られないというなら倒すまで。
「はぁー面倒くせぇ。なぁ、大人しくしててくれないか? 命までは奪わないからさ」
「何言ってるの、だったらわたしは一生ここから出れないじゃん」
「だよなぁ、そう言うよなぁ。はぁ面倒くせぇ。よっこいしょ。しょうがねぇから相手してやるよ」
そう文句を言いながら騎士はフルヘルムを被り剣と盾を構える。
悪いがそう時間もかけてられないので、一気に片を付ける!
「サンダージャベリン!」
雷の槍を放つが、騎士の盾に阻まれる。
だがその隙をついてハイステップで一気に間合いを詰める。
「はぁぁぁ!」
ステップを駆使した剣舞を繰り出しつつ、合間合間に魔法剣で騎士を攻撃する。
「うぉおぅ、容赦なぇな、あんた。しょうがねぇな、これでもくらって大人しくしてくれよ」
俺の攻撃の間合いから距離を取った騎士は一度剣を収め、指を俺の方へ向ける。
「ピュア・マインド」
俺は慌てて身構えるも攻撃魔法が飛んでくる様子もない。
名前から察するに精神攻撃系の魔法か?
俺の疑問を余所に騎士は再び剣を抜き攻撃してくる。
鮮麗された攻撃とは言い難い大ぶりの一撃を俺はステップで軽くよける。
『あー、避けるの面倒くせぇ』
突如俺の頭の中に声が響く。
思わずあたりを振り返るも誰もいない。
気を取り直し二刀流スキル戦技・三連撃を叩き込む。
『あー、剣を振るのも面倒くせぇ』
再び俺の頭に声が響く。
思わず動揺してしまい、三連撃は盾に防がれる。
『なぁ、戦闘なんて面倒なことはやめてしまおうぜ。
どうせPTの誰かがセントラル王を倒してくれるって』
三度響く声。
よくよく聞けば俺の男の時の声だ。
「あんた、何をした? この声は何だ?」
俺は自分に向けられる声に戸惑いながらも向かいの騎士に訪ねる。
「別に何もしてないさ。ただ自分の心に素直になるようにしただけ。
ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は7騎士の1人、怠惰の騎士ナナケリウス。出来れば戦闘なんかやめてだらけていたいんだが」
騎士の自己紹介に思い当たるものがある。ゲームや漫画ではよくある題材だ。
「七つの大罪・・・!」
「おや、よく知ってるな。そう、俺は七つの大罪の1つ、怠惰を司る騎士だ。
あんたのお仲間も他の7騎士が相手してるぜ。
巫女のお嬢ちゃんは色欲が、弓のあんちゃんと王子は傲慢が、盾のお嬢ちゃんは憤怒が、侍のあんちゃんは強欲が、忍者のあんちゃんは嫉妬が、魔女のお嬢ちゃんは暴食が相手をしてる。
つーわけで、暴れるだけ無駄無駄。大人しくしててくれよ。そうすれば俺にも面倒が掛からなくて済む」
やばい・・・! 他のメンバーにも騎士が充てられている。しかも精神攻撃のおまけつきだ。
一刻も早くここを抜けださなければ。
俺は再び間合いを詰め剣戟を怠惰の騎士ナナケリウスに打ち込む。
「はぁ、やっぱやるのかよ。面倒くせぇ。大人しくしてくれればいいのに」
『あー無駄無駄。頑張れば頑張るだけ損するんだぜ。こいつの言う通り大人しくしてようぜ』
「・・・うるさい、黙れ」
俺は頭に響く声を無理やり無視する。
剣を振るう。
『何真面目に剣を振ってんの? 面白おかしく生きればいいじゃん』
「・・・黙れ」
魔法を放つ。
『チートスキルがあるんだし、もっと楽な戦闘だけしてようぜ』
「黙れ」
ステップで避ける。
『避けるなんてしないでさ、いっそのこと攻撃食らって死んだ方が楽なんじゃね?』
「黙れ!」
魔法剣で攻撃する。
『どうせ誰かがこのデスゲームを解除してくれるさ。
だから鳴沢と2人でのんびりこの世界でイチャラブしてようぜ』
「黙れって言ってんだよ!!」
だが放った魔法剣は発動せず、ただの斬撃はナナケリウスの盾によって防がれる。
しまった! 呪文失敗した――!?
その一瞬の動揺の隙を突かれ盾スキルの戦技・シールドバッシュを食らい地面に転がされる。
「頼むから大人しくしててくれよ」
態勢を立て直そうとする俺に向かってナナケリウスの剣が振り下される。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦争イベントに関するスレ
732:ヴァルハラ
ついに両軍激突なう
733:Dインパクト
セント軍劣勢なう
734:まほろば
元プレ軍の士気高すぎ
ビビッて戦場迷走なう
735:ジエンド
待て待て待てw
お前ら戦争中に何やってるの?!w
余裕あるなwww
736:ヴァルハラ
いや、こうでもしてないと気が狂いそうなんだよ
737:Dインパクト
同じく
マジ戦争怖ぇよ!
738:まほろば
ゲームとして割り切ればいいんだろうけど、微妙にリアルなんだよねぇ
俺は忍者スキルを生かして戦場をかき回してるw
目的は殲滅じゃなくて撃退だからね
739:るるぶる
戦場現場のるるぶるです
今現在元プレ軍の士気の高さにセント軍が押されているようです
740:沙羅諏訪帝
現場の指揮を取っているのってセントラル王国の第二王子って聞いたけどホント?
741:Dインパクト
あーそう言えば指揮を執っているのそれっぽかったな
742:ジエンド
王族自ら指揮を執ってるのか
そういやセント軍の目標はどうなってるんだ?
俺達と同じように撃退なのかな?
743:ヴァルハラ
ああ、俺達と同じく撃退だな
なんでも別の作戦が同時展開していて時間稼ぎが目的らしい
744:るるぶる
元プレ軍は義勇兵もいるもののよく統制のとれた動きをしています
対してセント軍は防衛を主として遊撃に冒険者を使っております
745:沙羅諏訪帝
ねね、その第二王子ってイケメン?
746:ヴァルハラ
>>745 おま、それここで聞くか?
747:るるぶる
はい、指揮を執っている第二王子ことクウ・キングダム・セントラルはとてもイケメンです
748:ヴァルハラ
>>747 ちょw お前も答えるなよ!w
749:Dインパクト
いや待て待て! 今聞き捨てならない言葉が出てきたぞ
キングダムって26の王のKingdomか!?
750:まほろば
え? なに? じゃあこの王子様を倒せばKingdomクリア?
戦場のどさくさに紛れて殺っちゃう?
751:ジエンド
いや、第二王子ってことは第一王子もいるんだろ
そいつもキングダム・セントラルじゃないのか?
752:沙羅諏訪帝
普通ミドルネームって家族でもバラバラじゃないの?
753:まほろば
ここはAI-Onだぜ。外の世界の常識を当てはめない方がいいかも
754:るるぶる
国王陛下 キリング・キングダム・セントラル
第一王子 カイ・キングダム・セントラル
第二王子 クウ・キングダム・セントラル
国王陛下のキリング・キングダム・セントラルが『王の中の王・Kingdom』と判明しております
755:ジエンド
>>754 おい! 分かってるならサッサと言えよ!!w
756:ヴァルハラ
はぁ、こんなイベントこそさっさと終わらせたいよ
757:まほろば
そしてよく見れば元プレ軍にもプレイヤーが参加してるというΣΣ(゜д゜lll)
758:Dインパクト
>>757 mjd!?
759:ジエンド
あーそういえば、ちょっと前に廃墟のプレ王国で義勇兵のクエストが出てたっけ
760:ヴァルハラ
>>757 ちょw お前こそそういう重要なこと早く言えよ!!w
なおさら戦闘には気を付けなければならないじゃないか!!w




