表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Angel In Online  作者: 一狼
第5章 Pandora
24/84

22.戦争前夜と夜襲

「ちょっと待って!」


 俺は慌てて待ったをかける。

 確かに俺は剣の舞姫(ソードダンサー)の二つ名を貰うほどの強さを持ってはいるが、こんな重要な役割をギルドではなく一介のプレイヤーが背負うのは重すぎる。


「王の証奪還はギルドでやった方がいいんじゃないの?

 流石にわたし達だけでってのはきつすぎると思うんだけど・・・」


「いいえフェンリルさん、貴方達でなければ駄目なのです。

 何故なら王城の進入方法は王の証を持つプレイヤーを含むPTのみだからなのです」


 なっ!?

 ルージュさんの言葉に俺は絶句する。

 今現在王の証を所持してるのは俺、ヴァイオレット、ローズマリー、『オークの女王』を倒したカンザキ、『深緑の王』を倒した月牙美刃の5名。

 つまりこの5名のPTしか王城に進入することが出来ないということだ。

 そしてルージュさんは俺達でなければならない理由を追加する。


「そしてこれは協力者から得た情報です。

 Pの王の証を奪ったセントラル王キリング・キングダム・セントラルも26の王の1人『王の中の王・Kingdom』なのです」


 はぁ!? どうなってんだよこの戦争イベント!?

 26の王が他の王を攻撃してるのかよ!?

 いや待て、26の王を全て倒す――26の王の証をすべて集めることによって神へ至る道が拓ける。まさかセントラル王はそれを狙ってるのか!?

 AI-On(アイオン)のNPCは普通じゃないのは知っていたけど、NPCでありながらクエストに挑戦するなって既にNPCの枠を超えてるぞ!?


「なので、今現在王都に居て王の証を所持しつつ『王の中の王』を倒すことのできる可能性があるのは剣の舞姫(ソードダンサー)のPTと言うことになります」


「いや待った。何も剣の舞姫(ソードダンサー)じゃなくとも、その王の証を他の奴に渡せばいいんじゃないか。26の王に挑むならそれなりの戦力を揃えて行くべきだろう」


 ルージュさんに待ったをかけたのは『SilverSoul』のギルマス・ファルクだった。

 そうか、彼らはまだ王の証の詳細を知らない。ルージュさんは紺碧さんから聞いていたのだろう。


「いいえ、残念ながら王の証は譲渡不可アイテムなのです。一度手に入れてしまえば二度と他のプレイヤーに渡すことは出来ません。

 なので今の現状では彼女がセントラル王に挑むのが最適かと思います」


「ふむ、その情報が本当ならそれしか選択肢が無いな」


「だね。悔しいけど剣の舞姫(ソードダンサー)にセントラル王を任せるしかないね」


 『神聖十字団』のギルマス・ランスロットと『CIRCLE』のギルマスがため息交じりに言う。


「しかし、剣の舞姫(ソードダンサー)殿もセントラル王を倒せば王の証が3つか。

 譲渡不可になるほどの性能を秘めたアイテムを3つも所持とは羨ましくもあるな」


「いえ、王の証はそれほど優れたアイテムではないのです。むしろ呪われたアイテムと言っても過言ではありません」


 『軍』のギルマス・サイレスの放った一言はただの羨望だったのだろう。だが事情を知るルージュさんはフォローを入れてくれる。


「グランドクエストクリアに関わるアイテムが呪われているとはどういう事なのですか? 流石にこれは聞き捨てなりませんわ」


「それは・・・」


 黒猫さんの言う通り比喩表現ではあるが、グランドクエスト関わるアイテムが呪われているともなればこれからの攻略に影響が出てくるだろう。

 ルージュさんは俺を気遣ってか、流石に全部の詳細までは明かせず言い淀んでしまう。


 王の証の詳細を隠すのもそろそろ限界かな。

 他のプレイヤーも王の証を手に入れ始めてるし、何も情報を知らずに王の証を手に入れるのは過酷すぎるのかもしれない。

 「王の証を手に入れた貴方は死ぬことが許されません。」って言われたら普通ならビビってしまう。


「ルージュさん、わたしの方から王の証の情報を説明しますよ」


「ちょっと!? フェル!?」


 俺の後ろで鳴沢が待ったをかける。

 他の王の証とは違い、俺の持つSの王の証は事情が違うからなぁ。


「いいのよ、ベル。いつまでも隠し通せるわけでもないし、情報開示は他の王の証所持者の「保護」にもつながると思うの」


 そう、26の王が復活しエンジェルクエストクリアが遠のくとなれば王の証所持者を死なせるわけにはいかず、自然と護るだろう。


「でも、フェル・・・」


「ベル、心配してくれてありがとう。でも私は大丈夫よ。なんたって剣の舞姫(ソードダンサー)だからね」


 ここで俺は努めて明るく振る舞う。暗い顔をして鳴沢を不安にさせては駄目だ。

 俺はギルマス達に王の証のスキルによるメリットデメリット、そして所持者死亡によるエンジェルクエストと王の復活を説明する。


「むぅ、なるほど・・・確かに呪われたアイテムと言っても過言ではないな」


「ああ、気軽に王を倒そうとは思えなくなってくるな、これは」


 2大ギルドの『神聖十字団』と『軍』のギルマスは唸りを上げる。

 他のギルマスも同様だった。

 ただ、『SilverSoul』のギルマス・ファルクは違ったようだった。俺の懸念していたことを質問される。


「なぁ、気を悪くするかもしれないが、剣の舞姫(ソードダンサー)の持つSの王の証を持つあんたが死ねば『始まりの王・Start』が復活する。つまりデスゲームが解除されることになるんじゃないのか?」


「いいえ、『始まりの王・Start』が復活してもデスゲームが解除されることはありません」


 俺が苦慮していたことをルージュさんが真っ向から否定する。

 どういうことだ?


「このデスゲームを仕掛けてたAccess社が王が復活したくらいでデスゲームを解除するとは思えません。むしろそうやって私たちが踊らされてる様を見て笑っているのかもしれません。

 それに皆様はPKをしてまで現実世界に戻りたいと思いますか?」


「くくく、確かにAccess社がこんな簡単にデスゲームを解くわけないか。でなければこんな大がかりな仕掛けなんかしねぇな」


「そうですわね。『病院』を準備してまでデスゲームを仕掛けてきたのです。簡単に解除できるはずがありません。

 ましてや、PKをしてまで戻りたいと思うほど堕ちてはいませんし」


「だな。そこまで堕ちてるのは心に余裕が無いやつか、PKを楽しんでるやつらだけだろう。

 心に余裕が無いやつは注意してみるとして、この情報を公開されてもPKをしてるやつらはフェンリルを襲ったりしないだろうよ。

フェンリルをPKしてデスゲームを解除されれば困るのはそいつらだからな」


 ルージュさんの言葉にファルク、黒猫さん、ロックベルがPK否定の言葉を述べる。

 他のギルマスも同様に頷いている。

 人間はそこまで簡単に堕ちたりはしない、と思いたい。あとはロックベルの言う通り心に余裕のないプレイヤーを注意するべきだろう。

 そう思うと幾ばくか心が軽くなった気がする。


「うちのギルマスが王の証を呪いのアイテムと言ったが、そうでもないと思う。

 王の証を手に入れたプレイヤーの1人が「死ななきゃいいんだろ。生きてAI-On(アイオン)を出るつもりだし」と言ってたが、その通りだとは思わないか?」


 ルージュさんの後ろに控えていた紺碧さんが口を開く。

 そう言えばヴァイがそんなことを言ってったっけ。


「そりゃあ、確かに生きてAI-On(アイオン)を出れば関係ないな」


「そいつもいいこと言うじゃねぇか」


「流石は王の証所持者と言ったところか?」


 ギルマス達が思い思いに頷く。先ほどまでの暗い雰囲気が消えていく。

 おお、ヴァイの思いがけないセリフがこんなところで役に立つとは。


「話が大分それてしまいましたが、部隊の編成に戻りたいと思います。

 セントラル王――『王の中の王・Kingdom』を剣の舞姫(ソードダンサー)のPTにお願いしますが異議はありませんか?」


 ルージュさんの部隊編成に異議を唱える者はいなかった。

 明日の昼にパティアの奇襲部隊が動くから、北に展開した元プレミアム王国軍はその前に動くであろう。それに合わせてセントラル王も王城の謁見の間に作戦指揮として現れるらしい。

 俺達は元プレミアム王国軍が動くと同時にセントラル城に進入する手はずとなった。

 ただ今のPT編成は5名なのでルージュさんのギルドから2名派遣してもらって7名のフルPTとして『王の中の王』に挑戦することとなった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 俺は会議が終わってからルージュさんにお礼を言いに行く。


「ルージュさん、ありがとうございます。Sの王の証のデスゲーム解除の事を否定してもらって」


「いいえ、私は事実を申したまでです。

 それに『大自然の風』のロックベルさんのおっしゃる通り、貴女は色んなNPCとの縁をつないでいく人だと思います。それがいずれAI-On(アイオン)を出るための鍵になるのではと思っているのです」


「お、大げさですよ。わたしは普通に接していただけですから」


「ふふふ、それが出来る人はそんなにいないんですよ。みんなここをゲームの中と思っていますから、NPCの扱いが酷いのです」


 ルージュさんの指摘にちょっとビックリする。

 そうか、ここをゲームとしてみればNPCはただの説明・便利キャラでしかないもんな。


「フェンリルさんにはこれを差し上げます。『王の中の王』を倒したらこれで連絡をください。私の方ですぐさま女王を説得して戦闘を中止させます」


 そう言って寄こしたのは携帯念話(テレボイス)だった。

 携帯念話(テレボイス)はブレスレット型でウインドウを操作してからブレスレットをはめた手を電話の形にして通話するマジックアイテムだ。

 ただし、電話帳リストはプレイヤーのフレンドリストにリンクしているので、ルージュさんとフレンド交換をする。


「それでは紺碧さん、後はお願いします」


「了解。

 久しぶりだなフェンリル。今回俺が『王の中の王』の討伐に派遣されることになった。

 後の1人はちょっと問題児だが十分戦力になる奴だ」


 ルージュさんの後ろに控えていた紺碧さんが俺達の前に出てくる。

 紺碧さんと会うのは『水龍の王』以来だ。


「紺碧さん、お久しぶり。と言うかそのちょっと問題児ってのが凄く気になるんだけど」


「はは、心配するな、大丈夫だ。・・・多分」


 紺碧さん、その多分ってのが余計だよ!

 その後、俺達は会議室を出て冒険者ギルド内で待機してたPTと合流する。

 丁度紺碧さんを紹介してた時に1人のブロンドヘアの女性が現れる。


「ごっめ~ん、お待たせ~、エリザベスことエリザちゃん参上で~す!」


 現れた彼女を一言で表すなら踊り子。

 体に布を巻きつけただけのような露出の多い格好だ。

 トップは胸元を布で交差して胸を強調し、そのまま布は腰に巻きつけて前と後ろに長い布を垂らしている。つーかパンツ見えています。見せているのか?

 手には宝石をはめ込んだ杖を持っていることから魔法系の職業と思われるだが。


「あ~、こいつがその問題児のエリザベスだ。職業は魔導師(ウィザード)だ」


「紺碧さん、ひどーい。あたしの何処が問題児なのよ~」


「あの~随分と過激な衣装だね。何か特別な装備なのかな?」


 流石にこの恰好は男性陣には刺激が強すぎる。俺にも強すぎる。

 性欲を設定されたこの世界ではやることは出来る。変な気を起こさなければいいが。


「ん? 普通の装備だよ? この衣装可愛くない? あたしこんな格好してみたかったんだ」


 そう言ってエリザはその場で一回転して、踊り子衣装をヒラリとさせる。

 当然パンツはもろ見えだ。


「はぁ~、まぁこんな奴でもうちのギルドの9人の魔女の1人だ。雷帝の魔女の二つ名で呼ばれてる」


「ハイ! 雷帝の魔女・エリザです。よろしくね」


 エリザとも自己紹介をし、明日に備えての打ち合わせをする。

 今日はもう日が暮れてしまっているので、明日の朝、戦争が開始される前に軽く連携を取ることを決める。北の陣営でお互いがぶつかり合うのは11時ころと予想されるので、それまで連携を密にするのだ。

 とりあえず今日は宿に泊まり明日に備えることにする。


 俺は初日に泊まった『極上のオムライス亭』にみんなを案内しようとしたが、5日目以降宿に寄ってないことを思い出す。

 おばちゃんにはクリスタル湖に行くって言ったきりだ。


「とりあえず行ってみない? フェルの無事も教えておかなきゃならないし」


 そのことを話すととりあえず宿に行ってみることになった。

 ああ、そう言えばおばちゃんに無事を伝える必要もあるのか。

 宿に着くと初日に頃とは違い大勢のプレイヤーで食堂が埋まっていた。


「おばちゃん、お久しぶり」


「おや、まぁ、生きていたのかい。あれから姿が見えないからてっきり死んでしまったかと思ったよ」


 おばちゃんは呆れ半分笑い半分で、俺の無事を喜んでくれる。


「それで、わたしの部屋は・・・?」


「10日分の料金を貰っていたからその分は確保していたけど、それ以降は他の人に貸してしまったよ」


 ですよね~


「ええっと、それじゃあ改めてまた部屋を借りたいんだけど出来るかな? それも7人分」


「ごめんよ。お嬢ちゃんが居なくなった頃から部屋が満室状態が続いてね。空き部屋が無い状態なんだ」


 あー、俺が居なくなった頃と言うとデスゲームが始まった頃か。プレイヤーのみんなが拠点確保の為に動いた結果だろう。


「あー、それじゃあしょうがないですね。また部屋が空いてる時にでも来ます」


 そう言って俺達は『極上のオムライス亭』を後にする。

 さぁ、困った。どうしよう。


「フェンリル、無理をして7人一緒に宿を取る必要は無いぞ。

 明日の朝に集合場所を決めて集まればそれでいいんだし」


 そう言われてみればそうか。

 紺碧さんの言葉にそう思い、集合場所を冒険者ギルドに決めて解散しようとすると、1人の女性が声を掛けてくる。


「お客さん、もしよかったらあたしの所に泊まらないかな?」


「あんたもしかしてプレイヤーか? プレイヤーが宿を経営してるなんて珍しいな」


「おや、よく分かったね。あたしはアーデリカ。

 最近宿を手に入れたばかりで、まだ顧客が少なくてね。よかったらどうだい?」


 クリスの言葉の通り宿を経営するプレイヤーは珍しいな。

 普通の生産職であれば物の売り買いが中心だが、彼女はサービスを提供しようとしているのだ。


 紺碧さんの言う通りばらばらに泊まってもよかったが、纏まっていた方が都合がよかったのは確かなので、彼女の宿に泊まることにした。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「お姉様! これ凄くおいしいです!」


「これは美味いな」


「何これ!? そこら辺の宿屋の食事よりおいしいじゃない!」


 アーデリカの宿に泊まることになった俺達は少し遅めの夕食を取った。

 そこで出された料理は見た目は普通だが、味が格段に違っていて俺達は驚嘆の声を上げていた。

 AI-On(アイオン)の料理は作成手順が一定だからHQ・NQ・LQの違いがあるくらいで味にはそう差が出ない。

 だがこの料理はいままでのプレイヤーやNPCが作成した料理よりも深みがあるのだ。いままでの料理が白黒ならこの料理はカラーと言っても過言ではない。


「どうなってるの? この料理?」


 鳴沢がアーデリカに尋ねる。


「ふふ、凄いでしょ? この料理には愛情が入っているの。比喩でもなくまぎれもない事実としてね。

 こんなことが出来るようになったのはフェンリルさんのお蔭ね」


「そうか・・・! 『イメージ効果理論』か!」


 アーデリカの言葉の意味をいち早く理解したクリスは驚きの声を上げる。

 え!? 『イメージ効果理論』って料理にも効果があるの!?


「そう、『イメージ効果理論』は料理にも応用できるのよ。

 調理道具のウインドウを開いて素材をセットして普通ならボタンを押すだけなんだけど、そこに完成する料理の具体的な味と食感をイメージしてボタンを押すと料理にも反映されるのよ」


「これは・・・凄い発見だな。うちのギルドの料理人にも試してもらおう」


「だね! これは是非とも覚えてもらわないと! これからこんなにおいしい料理が食べられるなんてあたし幸せ!」


 紺碧さんもエリザも既にギルド内での料理人に覚えてもらうことに決定している。

 料理そのものはBuffとかつかないので戦闘には関係のない娯楽アイテムなのだが、ここまで味が劇的に変わるとそうも言ってられなくなる。


「しかし、分からないな。ここまで美味い料理が作れるにも拘らず、今まで名を馳せることもなく宿にも人がいないとは」


 言われてみればその通りだ。クリスの言葉通り美味しい料理で有名になっていれば、宿を始めてもすぐ顧客が付くはず。


「あー、実はこの料理方法を見つけたんは昨日でね。

 昨日までは他のみんなと同じように元は戦闘職だったんだ。で、この料理方法を見つけて一念発起しようとして生産職に鞍替えして、今まで戦闘で貯めたお金で速攻宿を購入したってわけ」


「は!?」


 アーデリカの答えに俺は驚きの声を上げる。


「え? 何? じゃあ元々料理を極めようとか宿をやりたかったとか思ってなかったってわけ?」


「そういうこと。昨日までは普通に今日何処で狩りをしようかって思ってました」


 俺の問いにアーデリカは笑いながら応える。「昨日のあたしと今日のあたしは180度違います」なんてことも言ったりしていた。


「昨日の今日で宿屋経営まで手を出そうとははんぱねぇな」


 天夜が呆れ交じりに言う。

 天夜の言う通り昨日までは戦闘で稼いでいたのが急に生産で稼ごうとしているのだ。おまけに接客業のリスクまで背負って。

 まぁ、それほどこの料理方法に可能性を見出したのだろう。

 少なくともこの料理のお蔭で俺達は明日の決戦の士気は十分に高まったと言えるだろう。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 食事がひと段落したころにアーデリカの宿に1人の人物が現れる。

 今日の作戦会議にも参加していたギルド『軍』所属の軍曹だった。


「フェンリル殿、食事のところ申し訳ないが、明日の作戦の事で見せたいものがあるので来てもらえないだろうか」


「ん、いいわよ。

 ちょっと行ってくるね。後はみんな自由にしていいから」


 そう言ってみんなに後の行動は任せて俺達は宿を後にする。


 軍曹は宿屋通りを東門の方に進んでいき、途中で脇にそれて人気のない道を進んでいく。はっきり言って軍曹の行動は分かりやすすぎる。この後の展開も簡単に予想できてしまうよ。

 お互い無言で歩き、建物と建物の間の袋小路に入ったところで軍曹がおもむろに剣を抜く。


「申し訳ないがフェンリル殿にはここで死んでもらう」


 軍曹のセリフは俺の予想していた通りの言葉だった。

 当然俺は焦ることもなくテンプレ通りの言葉を言う。


「理由を聞いてもいい?」


「お主が死ねばデスゲームが解除されるのだろう? ならば囚われた全プレイヤーの為にもお主を殺さなければならない・・・!」


「そのデスゲームが解除されるのはあくまで可能性であって、確定事項じゃないんだけど?」


「少しでも可能性があれば我々はその可能性にかける!」


「可能性だけで人を1人殺すの?」


「大勢のプレイヤーを救うために1人のプレイヤーの犠牲もやむ得なし!」


 ここまでテンプレ通りの展開すぎて思わず笑ってしまいそうになる。


「ねぇ、あんた自分に酔っているでしょ? 「ああ、みんなを助けるために1人を殺さなければならない」みたいな苦渋の決断を迫られる悲劇の主人公になりきってない?」


「なっ!? ふざけた事をぬかすなっ!」


「ふざけてんのはそっちでしょ?

 自己満足の正義感だけで殺される身にもなってみなさいよ。それでわたしを殺してもデスゲームが解除されなければ「おのれAccess社め!」とか「お主の犠牲は無駄にはしない!」とか言うつもなんじゃないの?」


「・・・・・・!」


 思い当たる節があるのか軍曹は言葉を詰まらせ俺を睨みつける。

 ついでに言えばこの手のタイプは自分に酔っているため、自分中心に世の中が動いていると勘違いしていると思い、思い通りにいかないとキレやすい行動をとりやすい。


「そんなわけで悪いけどあんたの自己満足の正義感に殺されるほどお人好しでもないんだけど?

 そもそもここは街中だからSA内だよ? どうやってPKするつもりなの?」


「ふん! SA内と言えど衝撃はあるからな。気を失うまで攻撃を叩き込んでからフィールドに連れ出してPKするまでよ。気を失うのは既に実験済みだからな。

 おまけにSA内なら貴様の魔法も使えないからな。魔法の使えない剣の舞姫(ソードダンサー)など畏るるに足らんわ!」


 おいおい、既に実験済みって、こいつ『軍』内部でも結構やばいことやってんじゃないのか? つーか何かだんだん本性がにじみ出てきたな。


「それに、俺1人だけで来たと思うか?」


 そう言って軍曹が手を上げると、道の脇から3人の男が現れる。

 どうやら待ち伏せまで計画していたみたいだ。と言うかこんな奴なのに従うやつがいるというのが驚きなのだが。


「さて、AI-On(アイオン)脱出の為、貴様にはここで死んでもらおう」


 軍曹の合図とともに3人の男達は俺に向かって襲い掛かる。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


エンジェルクエスト攻略に関するスレ4


632:天然夢想流

 ついに王の証の情報が公開されたな


633:クリムゾン

 ああ、だが所持者死亡が王復活ってのはきつくないか?


634:アイドルリマスター

 王の証を手に入れたら死んだら駄目ってことですよね?


635:AVENGERS

 必然的に王の証所持者を死なせないようにプレイしなければならないな、これ


636:天然夢想流

 >>635 それに付け込んで偉ぶる奴とか出てきたりしてな


637:justice

 >>636 まさに『王』の証www


638:大帝国陸軍大悪児

 なぁ、これSの王の証を持つソードダンサーが死ねばStartが復活してデスゲームが解除されないか?


639:天然夢想流

 >>638 ああ、それデマだよ

 そう簡単にAccess社がデスゲームやめるわけないじゃん


640:アルフレット

 >>638 そのことに関しては9人の女魔術師のギルマスが否定してるよ


641:大帝国陸軍大悪児

 そりゃあそうか

 簡単に出られたら苦労しないよな


642:AVENERS

 簡単にってwww

 人の死を前提に話してる時点でおかしいからwww


643:大帝国陸軍大悪児

 >>643 ああすまん、そういう意味じゃないんだ


644:天然夢想流

 >>643 大丈夫、そういう意味じゃないって分かってるから

 しかし何でまたそんな機能を付けたのかね


645:ラッキーボーイ

 特殊スキルの奪い合いを狙ってたんじゃね?


646:アイドルリマスター

 特殊スキルが欲しければPKしてでも奪い取れってことですね


647:天然夢想流

 あーそういうことか

 だけどデスゲームには意味が無いよな、これ?


648:クリムゾン

 デスゲーム以前の設定だったんじゃね?

 まぁ、今となっては以前だったんだか前提だったんだか分からないが


649:天然夢想流

 つーか特殊スキルのデメリットがきつ過ぎて欲しいとは思わないぞ、俺は




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ