第十話 弱さ Side Kuon
今回は後書きにアンケートがあります。
あの涙でどれだけの苦しみが取り除かれただろうか?俺は、俺の全てを持って『僕』の想いに報いてみせよう。俺がどれだけの血にまみれ、苦しみにもがき、苦境に立たされようとも、大事な者たちは全身全霊を持って支え続けよう。『僕』が想い描いた未来のために、俺が人であるために・・・。
Side Kuon
あのあと、俺はあのまま律が泣き疲れて眠るまでずっと律を抱いていたんだが、悠璃達は
「悠ちゃんは帰るけどりっちゃんに変なことしちゃダメだよっ?」
と言って悠璃が出て行き、絢華も気をきかせて出て行った。
律をベッドに寝かせて、帰ってきた絢華に後のことを任せて莉里の自宅兼現在の俺の下宿先に帰り、帰ってきた莉里に学校で悠璃と律を泣かしたことで色々と言われ、学校で広まったらしい俺の不名誉な称号に気が重くなり、更に俺の服についた律の涙のあとについて追及されて、律との関係から洗ったらしい俺の身元についての確認と変化に対しての詰問を受けて律達に話したのと同じような話をしてから一夜が明けた。
「ふむ・・・。少々口が軽すぎではないか?」
「あいつは腐ってもここの総責任者だぞ?下手にごまかして後で問題になったらまずいだろ。それに俺は特異性や希少性なら十分に価値はあるが、戦力としては並程度、交渉のカードにもならない。なら、話したところで問題はないし、一応は口止めもしておいたから大丈夫だろう。あいつも俺の価値を見誤る馬鹿じゃないさ。」
ついさっき現れたクロに昨日のことを話すと小言を言われたが、俺も考え無しに話したわけではないと反論した。
「希少性、か。当然『四柱』についても知っているだろうな。」
「『生命』に特化した封印されていた銀の狼、そこから主人に辿り着くのは簡単だろうよ。」
神すらも超越した全世界の礎と言われている存在『四柱』が一柱、『魂』。
律達には『生命』に特化したと言ったが、本当は『生命』の根源である存在『魂』だ。
本来なら人間如きに封印されるような存在じゃないが、主人の人間への優しさと油断、戦った相手の『血統特性』の中でも飛びぬけて特殊だったその力と剥離世界を複数利用した大規模な封印に屈せざるを得なかった。
「しかし、それなら『六法家』にも辿り着くのではないか?それはお前の望むところではないだろう?」
「そうなんだけどな・・・。けど、ここに来た以上知られるのも時間の問題だ。・・・そのことに関してはおじさんと蘭さんにも頼まれてるが、俺には防波堤になることぐらいしか出来ない。」
「失われた法『断刃名』がこの世界に舞い戻る、か・・・。人間達にしたら大変なことだろうに。」
「元々、『断刃名』がこの世界から身を引いたのは封印を人知れず管理するためだ。その封印が解ければ舞い戻るのも自然の流れじゃないか?」
主人のような高位存在を封印するための術式がそう簡単に破れるはずもなく、破れるにはそれ相応の理由、封印者の血を引く者による封印への干渉があったからだ。俺があの日にあの封印の社の札に触れたところで剥がすことなど出来なかっただろう。
しかし、同時にあそこには人を遠ざける結界が張ってある。誰かに連れて行かれない限りその場所に気づくことの出来ない結界が・・・。ゆえに、先代が次の世代に封印を護るに相応しい者になるまで教えないことで封印を完全に護ることが出来るはずだった。
ただ、何事にも例外が存在した。
生まれ変わった後に知った、俺が生まれながらに持ってしまった『特異特性』、『位相微剥』。あらゆる結界、魔法陣の効果を受け付けない能力のせいで俺はあの場所を偶然にも見つけてしまい、律に教えてしまった。
「結局は俺のせいなんだよな・・・。」
それを言わないのは俺の弱さなんだろう。律に否定されることを恐れる俺の弱さ。
「・・・何も今のお前にはそれしかないわけではなかろうに。」
「半妖の俺には、な。だが、人間としての俺にはどうしても必要なことなんだ。それを失えば俺は身も心も妖魔に堕ちる。」
俺の人間としての心を支える柱が崩れれば、俺は自分を妖魔だと認めてしまう。人間としての銀牙 久遠は律を護ることを第一としているのだから。
「妖魔である我には解らぬな。」
「そりゃあ、人間の心だからな。」
「・・・まぁ、いい。とりあえず、連絡事項は今のところはないがあまりここに入り浸りすぎるなよ?お前を慕うものや厄介ごとを押し付けてくる奴等がいるのだからこちらにもたまに顔を出せ。」
「元よりそのつもりだ。厄介ごとをこっちに持ってこられたら面倒だからな。」
そう言うとクロは飛び立っていった。それを見送ると俺は人目を避けるために少し遠回りをしたせいで遅れてしまった時間を取り戻すために若干、足の速度を速めた。
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昨日もそうだが今日も今日で周りの視線が痛い。
「悠璃、俺は昨日だけだって言ったはずだが?」
「えっ?そうだったかなっ?」
「そうなんだ。というわけで、離れろ。いちいち休み時間になるなり俺に抱きつきに来るな。」
今日は悠璃が休み時間になるとすぐに俺に飛びついてくるため主に男共の視線が痛い。
「え〜っ!くお君、悠ちゃんみたいな可愛い子に抱きつかれるのは嫌っ?」
「嫌じゃないが昨日も言ったとおり周りの目を気にしろ。」
「私は気にしないよっ?」
「俺が気にするんだ。ただでさえ不名誉な噂が出回ってるんだ、これ以上は勘弁願いたい。」
「大丈夫っ。悠ちゃんはくお君の味方だよっ。」
悠璃は一向に離れる様子を見せない。
「絢華、律、どうにかしてくれ。」
「悠璃さん、久遠君もこう言ってますが?」
「・・・。」
絢華は悠璃をたしなめたのだが、律は何か言おうと口を僅かに開くがすぐに思いとどまって口を閉ざしてしまう。
朝から俺と話すときはこんな調子の律にも困っていた。
絢華や悠璃と話すときは普通なのだが、俺に向かって話すときだけこんな調子でありそのせいで周りからはまたしてもいらぬ勘繰りを受けている。
「・・・なぁ、律。」
「え?な、何?」
「昨日のことを気にしてるんだったら本当にお前が気に病むことじゃないんだぞ?」
「あ、その、ね・・・。」
こちらを真っ直ぐ見ないでチラチラとこっちを身ながら要領を得ない返事を返す。
「う〜んっと、くお君、そうじゃないんだよっ?」
「分かるのか?」
「いきなり今までの考え方を変えて接するというのも難しいですし、あんな姿を見られた後だと普通にしているのも難しいと思いますよ。」
律の代わりに悠璃と絢華が答える。
「そうなのか?」
「あ・・・、その、あんなみっともないところ、見られたし・・・、寝顔も、でしょ?」
「まぁ、そうだが、そんなことか?」
「そんなことって、くお君分かってないよっ。乙女の泣き顔と寝顔を異性に見られるのは凄く恥ずかしいんだよっ。」
悠璃が若干ムッとした様子で言ってきたのだが、いまいち理解できない。泣き顔や寝顔ごとき気にする奴らはあっちにはいなかったからな。
「みっともないどうこうで言えば、もっとひどい奴ら腐るほど知ってるぞ?・・・泥酔すると必ずと言っていいほど何故か俺の寝床を占領しに来て涎を垂らしながら馬鹿みたいにいびきをあげて眠る奴、夫婦喧嘩をするとどんな時間だろうと俺のところに泣きながら愚痴をこぼしに来て途中からはしまりのない顔でのろけ話を延々と話し続ける阿呆、喧嘩をすると何故か俺に第三者からの意見を求めにきながら俺の意見も聞かず家で暴れる馬鹿が二人、毎朝のごとく飯をたかりにきては文句をつけるクソ女、周りの迷惑顧みず作り出した危険物の実験を俺でするキチガイ、何故か家で酒盛りを挙げようとする絡み酒と泣き上戸の凹凸コンビ、暇だからと言って俺に喧嘩を吹っかけてくるクズ、我侭な娘とへたれな父親、放任主義の母親の迷惑家族、いつもいつも面倒な仕事ばかり押し付けてろくな情報もよこさない女狐、それに、」
「く、くお君っ?落ち着いてっ。」
「つ、机が壊れちゃいますよ?」
っと・・・、途中から思い出して愚痴になってたな。イラつくあまり机を強く押しすぎてヒビを入れちまった。
「・・・まぁ、そういうことだから俺の前でよほどのことをしない限り何とも思わないから気にするな。」
「そう、みたいだね。」
律は少し呆れたように笑っていた。
「うん・・・。ぎこちないかもしれないけどくーちゃんとちゃんと向き合っていこうと思う。」
「そうか・・・。あまり深く考えすぎるなよ。俺はお前の前にいる、そのことをただ受け入れればいいさ。」
律の気分が幾分か軽くなったようだ。
律もあまり俺にばかり構っていられなくならだろうからな。軽く考えてくれるくらいでいい。
「で、悠璃、そろそろ次の授業じゃないか?」
休み時間が終わろうとしているのに未だに俺にひっついている悠璃に帰るように促す。
「何言ってるのっ?次は悠ちゃんのクラスと一緒の授業だよっ?」
「そうだったか?」
「はい。次はやっと初めての実技授業です。学年を二つに分けて三クラス合同でやるんですよ?」
「初めて、か。律なんかは暴れられなくてストレスが溜まってるんじゃないか?」
「う・・・。いいじゃん、ボクには体を動かしてるほうが性に合うんだから。それにやっとこれの出番がきたよ。」
そう言って律は机の脇に立てかけてあった竹刀袋を取った。
「中は木刀か?」
袋の重心から竹刀ではないと思い問いかけた。
「うん。ボク愛用の木刀。武器があるなら持ち込み自由っていうから持ってきたんだ。」
「くお君は何か持ってきてないのっ?」
「俺は必要がないからな。そもそも武器の持ち込みっていうのは本人にとって一番集中できる状態にするためだろうしな。」
術の発動には術者の想像力がものを言う。ゆえに、初心者はまずは集中してイメージを作り上げて術を発動する。
慣れれば意識を散逸しながらも術を使えるようになるがそれを律達に強いるのは酷だろう。
「さて、ということは場所は別のところか。」
「はい。第三訓練場だそうです。」
「早く行こっ。」
「そうだね。何時の間にか皆、行ったみたいだし。」
そうして俺たちは教室を後にして訓練場に向かった。
さて、律は『断刃名』としてどれくらい強くなったかな?悠璃の特性も気になるし、絢華がどれだけの訓練をつんでいるのかもこれで計れるな・・・。
ようやく次の回から魔法っぽいものが出せる・・・。
というわけで、次回はこの作品での魔法というものの説明のようなものになると思います。
さて、前書きで予告したアンケートですが、答えて頂きたいことが二つあります。一つはこの作品のタイトルです。今までは作者の処女作であるこの作品は更新のことだけ考えてタイトルは適当なものをつけていました。そして今回十話(実質十二話)まで書けたのでちょうどいいと思い、読者の皆様方に次の三つから決めていただくことにしました。
A,一匹狼
B、人でもなく、魔でもないモノ
C、狼の誓い
の以上、三つです。作者の駄目脳からはこんなものしか捻り出せませんでしたがどうかよろしくお願いします。
そして、二つ目はこの作品のキーワードです。中々この作品に合うキーワードが思いつかないので思い切って読者の方々に聞いてみることにしました。この作品に合うと思うキーワードを二つ選んで送ってください。そのうちの多いもの上位五つを採用したい思います。
アンケートは次回の投稿までに集計しますのでどんどん感想の部分に書いて送ってください。よろしくお願いします。ついでに、ご意見・ご感想などがあると嬉しいです。




