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【コミック11巻発売記念】変装当てゲーム

 コミカライズの11巻が今月初旬に発売し、今月末には原作小説完結巻が発売ということで、10月は異世界聖女祭りじゃー!

 と、作者が勝手に盛り上がって書きました。

 こちらの時系列はコミカライズに合わせております。つまりウィリアムはまだ王太子です(といっても、原作小説を読んでくださっている方にとってはフェリシアからウィリアムへの呼び方が「殿下」に戻るだけです)。

 ばち先生が電子特典で素敵なイラストを描いてくださったので、そこからインスピレーションを受けました。

 それでは、ゆる~くお楽しみください!


 フェリシアは今、王宮内にある聖女サラのための客室で、サラにメイクをしてもらっていた。

 といっても、単なるメイクではない。

 フェリシアを別人に見せるためのメイクだ。

 

 事の発端は昨夜。

 ウィリアムと思い出話に花を咲かせていたのだが、その際にプロポーズのときのことが話題に出た。

 聖イレーネ祭で仮面をつけて変装したフェリシアを、ウィリアムが難なく見破った日のことだ。

 あのときは仮面もしていたので自信があったのに……とこぼしたフェリシアに、ウィリアムがこう返したのである。


『私がフェリシアを間違えるはずがないよ』


 それならばと闘争心を燃やしたフェリシアは、本当にウィリアムがどんな自分でも見破れるのか試してみたくなった。

 もともと好奇心旺盛なフェリシアである。

 しかも普段はウィリアムに振り回されてばかりで、たまにはこっちが振り回したいという思惑もあった。

 そこでフェリシアは、どんな変装をしてもウィリアムが気づくかどうか、ちょっとしたゲームをすることにした。



 ――というわけで、変装当てゲーム、第一弾。

 金髪を黒いカツラの中に押し込めて、頬にはそばかすを散らし、協力者であるサラに施してもらった一重メイクで目の印象も変えたフェリシアは、女官の制服を着てウィリアムへの給仕係を買って出た。

 もちろん、もともとその役目を担っていた女官と女官長は買収済みである。

 乗りのいい女官は作戦を話したら「面白そうですね!」と快く代わってくれた。

 女官長は若干呆れていたが、気にしない。

 そうしてフェリシアは、ウィリアムの執務室の扉をノックする。


「どうぞ」


 中からウィリアムのいらえがあって、紅茶とクッキーを載せたトレイを持ったフェリシアは、片手で扉を開けて入室する。

 執務椅子に座って書類と向き合っているウィリアムは、まだフェリシアに気づかない。

 テーブルにトレイを置いている間も、彼はまだ顔を上げない。

 まさか入室してきた相手をいつも一瞥すらしないのかと、フェリシアは内心で焦った。

 顔を見てもらわないと彼を騙せたかどうかの判断もできない。

 かといって声を出せば、変装なんてすぐにバレてしまう。

 そんなこんなで退出できずにまごついていたら、不審に思ったウィリアムが顔を上げた――直後。


「え? フェリシア? どうしたんだい、そんな格好で」

「――!?」


 秒で正体を見破られて目を瞠る。

 ウィリアムが羽ペンを置いて、フェリシアの許へやってくる。


「サプライズか何か? 君から会いに来てくれるなんて嬉しいよ」

「あ、いえ、えーと」

「せっかくだし、このまま一緒にお茶しようか? おいで」

「いえ、私は……っ」

「いいから、いいから」


 結局ウィリアムに引きずられるようにしてソファに座ったフェリシアは、ウィリアムが少しも悩まずに正体を当ててきたことに歯噛みして終わったのだった。



 ――リベンジだ。

 そう意気込んだフェリシアは、第二弾として、侍従に変装してみた。

 前回は一人だったから一瞬で見破られてしまったが、大勢の中に紛れればさすがのウィリアムも気づけないだろうと踏み、ウィリアムの寝支度を侍従が手伝うとき、そっとその中に交ざってみた。

 もちろんこれも侍従たちを買収済みである。

 彼らにはなぜか生暖かい目で了承されたが、彼らの上司である執事長にも話を通したとき、彼だけは女官長のように若干呆れていた。でも気にしない。

 三人いる内の一人に紛れ込んで、他二人の後に続いてウィリアムの部屋に入る。

 ――が。


「待って。今日は君に着替えをお願いしようかな」

「え゛」


 なぜか着替えを手伝おうとした侍従ではなく、変装したフェリシアを指名してきた。

 適当に侍従の補佐をする予定だったので、まさか自分がウィリアムを着替えさせることになるとは思わなかったフェリシアは、ついつい本物の侍従ならやってはいけない反応をしてしまい、押し黙る。

 とりあえず恐る恐る近づくものの、悪足掻きとして侍従の一人に助けを求める視線を渡したら、ウィリアムの手がすっと視界に伸びてきた。

 まるでフェリシアの視界を塞ぐように手のひらを広げる。


「フェリシア? 私の目の前で、私以外の男にアイコンタクトを送るなんていい度胸だね?」

「なんでバレてますの!」

「さすがに男装は無理があるよ」


 せっかくサラシで胸を潰した意味がない。


「ちょっと待ってくださいませ。わかっていたのに私に着替えを手伝わせようとしたんですか!?」

「夫婦なんだから、構わないだろう?」

「~~っ!」


 ウィリアムが平気でも、フェリシアは平気ではない。

 そりゃあ彼の肌を初めて見るわけではないけれど、いつまでたってもこちらが慣れないのは彼の色気が暴力的すぎるからだ。


「殿下の変態っ」

「!?」


 羞恥心のあまり捨てゼリフを吐いて部屋を飛び出したのだが、残された侍従が思わず吹き出してしまい八つ当たりを受けたことを、フェリシアは知る由もなかった。



 ――三度目の正直だ。

 まだ諦めないフェリシアがそう意気込んで、サラにメイクをしてもらおうとしたとき。


「失礼するよ」


 突然ウィリアムがサラの部屋にやってきた。

 フェリシアもサラも予想外な訪問者を唖然と見守っていたら、彼がフェリシアを問答無用で横に抱き上げる。


「ちょ、ウィ、じゃなくて殿下っ。なんですの急にっ」


 人前では敬称で呼ぶようにしているフェリシアは、ウィリアムへの抗議のためにもう一度「殿下っ」と叫んだ。


「はいはい、暴れないで。最近の君の奇行の原因がやっとわかったから、迎えにきたんだよ」

「原因って別に、そんな大したことじゃ……」

「ゲイルから余計なことを聞いたんだろう?」


 うっと喉に言葉を詰まらせる。

 下ろしてくれる気配のないウィリアムは、フェリシアを抱いたまま廊下をどんどん進んでいき、やがてフェリシアの部屋へ到着した。

 そっとソファに下ろされるが、ウィリアムの両腕はフェリシアを閉じ込めるようにソファの背もたれに伸ばされる。


「安心して。フェリシアに扮した暗殺者が来たところで、私が見抜けないはずがないからね」


 そう言って、彼が宥めるようなキスをフェリシアの額に落とす。

 そこまで言われてしまえば、フェリシアも観念して肩から力を抜いた。

 実を言うと、本当の事の発端は、ゲイルが何気なくこぼした話だった。

 最近の暗殺者は、標的の親しい人物になりすまして、標的が油断したところを狙って任務を完遂させるらしい。

 ゲイルは元暗殺者で、裏社会からまだ完全に足を洗っていない。そういう情報に一番精通しているのはゲイルだった。

 むしろそういう裏の情報を得るために、ウィリアムはゲイルを雇っているのだろうと思っている。

 だから、それを聞いたフェリシアは思ってしまったのだ。

 ――もし自分になりすました暗殺者が来たとき、ウィリアムは判別してくれるだろうか、と。

 見極めてもらわないと非常に困る。自分の姿をした人間に彼が殺されるなんてたまったものじゃない。そういう焦りから、ウィリアムを試したのだ。


「まったく、かわいいことをしてくれるね、フェリシアは。心配しなくても、私が君を他の誰かと間違えるはずがないし、他の誰かを君と間違えることもないよ」

「……ごめんなさい」


 素直に謝ると、ウィリアムがふっと笑った。


「私のためにしてくれたんだ。怒ってなんてない」

「でも私、皆様の仕事の邪魔を……」

「それも大丈夫。ちゃんと訳を話しておいたから。みんな君のかわいい悪戯だと思っていたようだけど、真実を知って謝っていたくらいだよ。特に女官長と執事長が。この二人と何かあったのかい?」

「あー……いえ、大丈夫ですわ」


 ウィリアムは少しだけ不服そうだったけれど、フェリシアが再度「大丈夫なんです!」と言い切ると、そこで追及はやめてくれた。

 代わりに、彼が耳元で囁く。


「ね、フェリシア。今夜は早く仕事が終わりそうなんだよね。君の愛をたっぷりと受けとったから、今度は私に愛させてくれる?」

「っ……~~お、手柔らかに、お願いします……」

「検討はしてあげよう」


 嬉しそうに笑ったウィリアムが、頬に口づける。

 が、この顔は絶対に検討はしても手加減はしてくれないやつだわと、ウィリアムが仕事に戻ったあと、クッションに顔をうずめて羞恥心をぶつけるように叫んだフェリシアだった。



10月31日に「異世界から聖女が来るようなので、邪魔者は消えようと思います」の小説9巻(大団円)が発売予定です!

フェリシアとウィリアム、この二人を最後まで見守っていただけたら幸いです。

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