慣れの恐怖
『生徒番号3番、雨傘幸助。至急訓練場に来るべし。繰り返す』
お? 呼び出しだ。
なんかやらかしたか?
「ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃーい」
坂月に手を振ってから訓練場に向かうと機体と的が用意されてた。
あとあのリッパー女子もいるので何をするのか大体察した。
「貴君らの腕はかなりの物と見た。だが近接戦闘のみしか見られなかったため射撃も見せてもらう。双方異論は」
「ありません」
「同じく」
リッパー女子の言葉に追従。
「それと雨傘、お前はジャイロとバランサーを切るように。当然、できるだろう」
お、挑発か?
それともただの好奇心か?
なんにせよ近接戦闘になるたびにオート解除するとか手間のかかる事はやらないだろというのが見え見えだ。
当然射撃だってマニュアルでやる。
「当然、とお答えするべきでしょうか。やれと言われたのならばやるだけです」
言われなくてもそうするつもりだった、というのはお口チャックだ。
軍関係の学校というなら余計な言葉は慎むべきだと思ってなぁ……好きだったんだよ、防衛大をモデルにした漫画。
余計なこと言って腕立て伏せとかやだからな。
「では準備を始めろ」
「「はっ」」
敬礼してから機体のチェックをして乗り込む。
幸いというか、楽ができたというか、今回の機体は奇麗な物だった。
むしろ奇麗すぎるくらいで新品と見まがうレベル。
「えーと、ジャイロとバランサーを切って……後ロックオンシステムも切るか。狙ってますよってのがバレるから邪魔だしな。あとは指のシステムをいじって感度を挙げて……」
せっかくなので割と本気カスタムで行く。
流れ撃ちとか、流し撃ちなんて言われていた方法だがロックオンすることなく標的が銃口の前を通るタイミングに合わせて偏差射撃を行う技術があった。
機体の制御をせず流されながら撃つか、銃口だけ動かして流しながら撃つかの違いでしかないのだがちょいちょい議論にはなってたな。
結局当たって通じるならなんでもいいという結論に至ったけど。
「でははじめ!」
教官の言葉に機体をジャンプさせてスラスターで姿勢制御しながら射撃、必要に応じて横回転とかしながらくるくると回り、たまにバク中とかして射撃をした。
まぁ動く動かない関係なく動きが遅いから当てるのには苦労しないが……㎞単位の距離を持っている訓練場とか贅沢ここに極まれりだな。
しかもこれ一つじゃないだろうし。
一方でリッパー女子は膝立ちで的確に的を射抜いていた。
察するに誘い込み型の近接戦闘タイプってところか。
中長距離での戦闘は不利と思わせて近づいてきたらざっくりと……まぁ理にかなっているっちゃそうなんだが、それが通用するの対人戦だけなんだよな。
インベーダー相手だとそういう読みあい無視して数の暴力か質の暴力で襲ってくるから。
とはいえ射撃もなかなかのもの。
そう思っていた所で機体の顔面すれすれに的が飛んできたので振り向くことなく背面撃ちで落とす。
いくつもの的が飛んできた際は回転やらバク中で回避しつつ近距離でも構わず撃ち落とす。
そして最後に出てきた真下からのそれを感じ取り、またリッパー女子がそれを俺諸共撃ち抜こうとしていたのを射線上から外れる事で回避しつつ、通り過ぎようとした的を横から射抜いた。
「それまで!」
ふと下を見るとリッパー女子が的に囲まれて動けなくなっていた。
……よく見ればこれ、小さいドローンで動かしているんだ。
で、消し飛んでるように見えたけど風船とペイント弾だ。
まぁそりゃ実弾は使わないだろうと思ったけど……。
「降りてこい、雨傘幸助!」
「はい」
言われるがままに降りる。
いやぁ、第八世代ともなると滞空時間も長いねぇ。
推力で無理やり浮いているだけとはいえ空力学のなんちゃらもあるんだろう。
エネルギー消費が少なくて助かるぜ。
おかげで少々無茶もできたしな。
あのラスボス戦でこれがあれば……いや、あっても無駄か、火力が足りねえわ。
他に持ってきてる奴らいたし、今思えばギミックボスだったんだろうな、あれ。
「クリス、君は近接戦闘も悪くないし射撃の腕もそれなりだ。だが足を止めて撃てる場面はそう多くないと知ったな」
「はっ、お恥ずかしながらここまで見事に包囲されてしまえば私の刃も意味を成しません」
「その通りだ。時にエース一人は一個小隊に撃墜される。よく覚えておくように。そして雨傘」
「はい」
「なんというか……モニタリングしていたが観測者が嘔吐した。異常はないのか?」
「見ての通り、まだ1時間は続けられます」
エネルギー容量の問題でな。
俺に限って言えばあと数日同じ事できる。
流石に尿意とかヤバいからパイロットスーツのおむつ機能が欲しいけど。
「そ……そうか……」
あれぇ? なんかドン引きされてる。
ねぇ、リッパー女子もなんでそんな変な物見るような目でこっち見てくるの?
怖いんだけど……。




