乗りたい機体
それから試験結果が出るまで例の3D端末をいじって時間を潰した。
存外直感的に操作できるな。
スマホより簡単かもしれん。
ギア専用の端末なんかもあるらしいが、そっちはノータッチ。
つーか持ってないので、一般用の品をぽちぽちと弄っている。
ただそんな一般用でもギアとの接続は可能で、今朝凛がやっていたようにマップの表示やナビ機能くらいは使えるようだ。
あと音楽再生とテレビやラジオの電波受信。
専用の端末になればもっとできる事は増えるらしいが……せいぜいが暗号通信とかじゃないかね。
それ以外だと専用チャンネルでの通信。
インベーダーとの戦闘じゃほとんど関係ないが、ギアを使っての窃盗団や強盗相手なら使えなくもない。
そういう連中が乗ってる機体は旧型とかツギハギの機体が多いから警戒するほどじゃないが、徒党を組んでる場合うっかり逃がしましたーとかならないようにするには結構重要なのかもしれん。
とはいえだ、ぶっちゃけた話機体の性能がカスでも武器がそこそこなら手痛いダメージを受ける事になるから連携は必須だろう。
そういう意味じゃSクラスだっけか、10人って言うのは中隊規模、小隊長2人に随伴4人ずつという構成だな。
となると中隊長は教員かな?
あるいは1位の奴が中隊長も兼任するとか……まぁいいか。
数としちゃ中途半端だが、3学年3個中隊となれば大隊と同規模になる。
その辺考えての10人かもしれんし、あるいは全員が規模を問わない隊長として下のクラスを率いるようになるのかもしれない。
あるいはワンマンアーミーでもさせるのか?
さすがにそれは自殺行為というか、間接的に死ねと言っているに等しいが……。
「勉強熱心だな」
「坂月、暇なのか?」
「こっちの試験も終わっただけだよ。流石にギア慣れしてる相手は緊張するし、気が抜けなくて大変だったよ。普通終わってすぐそんな風にデバイス弄れないって」
「そんなもんか?」
試験直後にスマホでゲーム始める奴とか結構いたと思うが……というか俺はスマホどころか携帯ゲーム機で遊んでた。
「つーかなんで勉強だと思ったんだ」
「そりゃゲームをするでもなく、デバイスの機能を再確認しているんだから今後乗るギアに合わせた設定と、それに合わせた情報収取だと思うのが普通じゃない?」
「まぁ、そうかもしれんが……」
「違った?」
「似たようなもんだ。試験結果が出たら叔父の所で俺の機体を用立ててもらおうと思っててな。今乗ってるギアと設定がかみ合わなくなりそうだからストレージの分割と整理をしてた」
「やっぱり」
まぁ半分は方便、残り半分は本音だけど。
というか実際叔父さん、機体くれるのかね。
くれたとしてもスポンサーのステッカーでごてごてになっていないといいが。
「それで、どんな設定を考えてたのかな?」
「え、飛行中にテンション上げられるジャズとロックを選んでた」
「……豪胆というかなんというか。そんな機能普通通勤通学でしか使わないでしょ」
「いやいや、これが意外と効果的でな。接近時の混線や接触回線で敵に音楽が聞こえる。そうするともうこんな至近距離に!? って相手を驚かせて、平常心を奪う事ができるんだ」
「随分な荒業というか、こすいやり方だね」
「クリスだったか、あいつもそうだが近接戦ってのは隙を作るのが重要なんだ。結果的に俺の動きに翻弄されたあいつは負けた。泥臭いとか色々言ってたが、あれで結構度肝抜いてたと思うぞ」
「まぁそうだね。僕もギアがあんな人間らしい動きするのは初めて見たよ」
「だろ? これは長距離戦闘でも言えることだが、相手の意表を突くってのは重要なんだ。例えば相手のビームをサーベルで弾くとかな」
「……盾で受けた方がよくない?」
「視界がふさがるし盾が摩耗する。回避とパリィで対処できるならその方が楽だし近づきやすい」
「聞く相手を間違えたかなぁ……こんな種らみたいな学生がいるとは誰も想像してないだろうし」
修羅って……割とポピュラーな戦術だったぞ、ビームパリィ。
耐ビームコーティング済の実態武器とか、ビームサーベルで相手のビーム射撃を弾くのは慣れればできるようになる。
シミュレーターで500回くらい撃墜されたら自然とできるようになるし、その頃には上半身マニュアル操縦もできるようになってるからな。
頭のおかしい奴は足にもビームサーベルつけてたし、ナイフでパリィ決めてる奴もいた。
どっちもランカーだったはずだが、最終決戦の時は接近戦しかできない仕様になってたせいで近づけず苦労してたように見えたな。
いや、弾幕ゲームみたいな状況をそんな機体で生き残れるだけランカーの中でも上澄みだったんだろうけど。
「あと相手の銃口見てビームや実弾ぶち当てるとかもできるぞ」
「びっくり人間だね」
「手動で照準合わせてトリガー引くだけだが?」
「照準を手動でという時点で頭がおかしいと気付いてくれるかな?」
いや、偏差射撃するのにオートはちょっと……。
それに索敵外の超長距離射撃じゃ目視と手動は基本だぞ。
後はセンサー系が効かない場所では必須技能だった。
その辺面倒くさくて近接戦闘向きの機体に乗ってたのもあるが、どちらかといえば出張修理のメカニックもやってたからな。
銃火器を持ち歩くよりビームサーベルとナイフみたいな軽装の方が手早く移動できたんだよ。
「他には自慢できるような事あるかな」
「自慢かどうかはわからんが……あ、可変機は一通り扱える」
「それはもう変態の領域だね」
なんでや、可変機は使いやすいんだぞ。
ちょっと覚える操作が多いだけで。
「不思議そうな顔しているから答えるけどね、飛行機とギア両方の操縦を覚えたうえで咄嗟の判断で切り替え、必要に応じて射撃と近接戦の切り替え、それに上下左右の間隔を保ち続けられるって言うのはどうあがいても変態だからね」
「そこまで言うか……?」
「一応第9世代機がその辺緩和した可変機になるって話だけど、それでも第8世代機の方が人気と汎用性は高いんじゃないかな」
「まぁ……汎用性に関しては同意見だが」
「そもそも現行の可変機なんて通勤通学でしか使わないし、それにしたって飛行機形態で速度出して、着陸の時にギア形態になるのが普通でしょ」
「そうか? 空中変形でスラスターの位置調整して急旋回とかもできるぞ」
「それ、下手したら空中分解するから」
そのギリギリを見極めるのがパイロットのはずなんだがなぁ……。
ただ見た限りだいぶ平和そうだし、この世界は案外ステージ1かそれ以前の状態かな?
俺がゲームで死んだのはラストステージ、数字にすれば100番目くらいだったからインベーダー警報は常にオレンジかレッドだったから。
具体的に言うならグリーンは隕石が当たるより低い確率でインベーダー、人類と鉱石を捕食して増える化物に遭遇するかもねーというライン。
イエローになると交通事故レベルで発生するから運が悪い奴は死ぬし、放置していると玉突き事故で被害が広がっていくから早急な対処が必要。
オレンジになると災害レベルでどこで発生してもおかしくない。
レッドはもう目の前にいるから諦めるか戦えというレベルだった。
それが今見た限りじゃほぼ全域でグリーン、太陽系の向こう側で辛うじてイエローが見えるが宇宙艦隊が対処しているらしい。
そのうち俺達もそっちに配備されることになるかもしれんが、それにしたって低い確率だ。
ステージ20くらいになると惑星上はだいたいイエローからオレンジになるんだが……そういやコロニーってどうなっているんだろう。
ニュースサイト見てると何番コロニーで正式名称なんちゃらで事件発生とかその程度しか語られてないが……。
「なぁ、今軍に配備されてるのって第八世代だよな」
「そうだけど? 基本的には第八のカスタム機かな。資金が潤沢な部隊だとそのアップグレード版というか第九から可変機構オミットして関節をしっかりしたやつに変えてるはず」
「そうか……」
うん、時系列が滅茶苦茶だ。
俺達がステージ100に挑む時、プレイヤーが頑張って手に入れられるのが第八世代機。
俺なんか第三世代で挑んだぞ。
それが随分と……うん、乗った限りじゃ世代のナンバリングに間違いはない。
ゲーム内のシミュレーターで弄った最新鋭機より上だったし、通学に使った機体も慣れ親しんだ操縦系統だった。
もしかしたらこの差がステージ1前という証拠なのかもしれんが……考えてもまとまらんな。
わからんから放置だ。
「坂月は乗るならどんな機体を選ぶ?」
「僕? そうだなぁ……銃装甲の狙撃型、かな。雨傘君は……聞くまでもないか」
「お、言うじゃねえの。じゃあ当ててみろよ」
「軽量の近接型」
「残念、中量のオールラウンダーカスタム。確かに近接武装は増えるし、可変機構で加速度も上げたいけど」
「なんだそれ」
「いやいや、聞けって。近接主体にすると近づく前に落とされる可能性が高い。だから威嚇射撃で距離を詰めながら隙間を縫うように突撃してぶった切る。相手は誤射を恐れて近接戦に持ち込もうとするけど、そこで射撃とブレードで対処よ」
「完璧なプランだなぁ。不可能ってことに目を瞑れば」
不可能か?
ランカーなら普通にやってたし、終盤生き残ってたやつは大体できたぞ。
いや中盤でも半分くらいはやれてたな。
流石に序盤じゃランカーの上澄み一桁くらいだったけど。
「でもできそうなのが怖いんだよなぁ……さっきの戦闘見る限り」
出来るという確信がある。
けどまぁ、言わぬが仏というやつか。




