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【2025/09/30翻訳書籍化】こちら、あやかし移住転職サービスですー福岡天神四〇〇年・お狐社長と私の恋  作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第四章・太宰府と二日市、温泉郷。持て余す感情、現れる商売敵と『旧い縁』。

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1.『天神さまのお膝元』

※フィクションです。

 梅雨明け宣言が発表された九州北部地方。今日はよく晴れた真夏日だ。

 私は一人、私鉄電車に乗って太宰府まで来ていた。


 太宰府。

 おなじみ太宰府天満宮に、年号ゆかりの坂本八幡宮。九州国立博物館に、授与所がお洒落で某鬼退治せいちじゅんれいでも有名な竈門神社。

 古くから政治の中心地だったこの土地は、今でも福岡のアイコン的存在だ。


 平日でも電車の中は観光客で混み合っていて、私は失礼にならない程度に周りを見回し感嘆を吐く。

 ーー天満宮に近づくに連れて、明らかに人間以外のあやかしが見えるようになった。


 耳がぴょこっと飛び出した獣のあやかしや、足元がふわふわと消えている女性のあやかし。手足が蛸の男性に、すごい長い髭を蓄えたおじいちゃん。……こんなに、あやかしって存在したのね……。


 篠崎さん曰く、普段の私は篠崎さんの霊力で、なるべくあやかしが見えないようになっているらしい。

 私はクライアントと待ち合わせしている喫茶店を目指し、真夏の参道を歩いた。


ーーー


 二度目のキス以降も変わらず、篠崎さんはいつも通り平然と仕事をしている。

 私は篠崎さんを見る度に、ぎこちない気持ちになるし、ドラマのキスシーンも観られなくなった。

 意識しているのは私ばかりで、篠崎さんにとってはキスなんて「狐が噛んだ」程度のノーカンなのが、なんだか悲しい。

 なんで悲しいと思うのかも、自分でよくわからない。私は自分のモヤモヤとした気持ちを持て余していた。


「そろそろ慣れただろ?」

「全く慣れないです」

「そうか? 仕事随分慣れてきたように思ってたんだが」

「あっ!? 仕事の話ですね!?」

「それ以外に何かあるかよ」


 真っ赤になって慌てる私に、篠崎さんは怪訝な顔をしながら仕事を頼んできた。


「一件、太宰府の仕事を頼まれて欲しい。あやかしーーまあ、元人間だからあやかしというか、ちょっと曖昧なラインなんだが、その方の入職手続きを頼む。先方とは仔細確認済だから、後は最終確認と事務処理ってところだ」

「それを……一人で、ということですか?」

「ああ」


 入社してすぐに対応した、糸島の磯女ーー雫紅しずくさんの件は完全なイレギュラーだった。そもそもは既に石川県から移住が完了していたあやかし、清音きよねさんの御用聞きという名目だったからだ。これ以外の仕事は大抵、篠崎さんの同行つきで行っていた。

 もう既に事前に色々決まっている仕事とはいえ、珍しく完全に1から10まで自分で対応することになる。


「そういえば……太宰府といえば()()()がいますよね。お知り合いですか?」

「あの人?」

「すがわ、」

「言うな!!!!!」


 私が名前を言いかけた瞬間、真っ青になった篠崎さんが口を塞ぐ。


「もご!?!?!」

「いいか。この仕事を続ける限り、その方の名前は易々と口にするもんじゃない」

「も、もご」

「少なくとも現代の福岡において最も勢力があり、強力な方の一人だ」


 口を塞がれた手を外され、私はぷは、と息をする。


「そ、そんな凄い方なんですね……」

「霊力がある身で迂闊に名前一つ呟こうものなら、既にそれが呪になるような人だからな。弊社では万全を期すためにプロフェッサーMと呼ぶことにしている」

「完全に元の名前が全くわからないじゃないですか、それ」


 篠崎さんの説明によると、プロフェッサーM……彼の霊力の影響で、太宰府では篠崎さんが私に張っている『普段あやかしが見えにくくなる』フィルターが剥がれてしまうらしい。


「あそこは『天神さまのお膝元』の原液みたいなところだからな」

「原液って、また」

天神ここじゃあ、天神福岡駅が天神地区の中心だろ?」

「はい」


 天神地区。福岡随一の繁華街である此処は、元々は福岡城から連なる城下町の一角だった。

 明治維新後に「水鏡天満宮」あたりを中心に、官庁や炭鉱経営者の邸宅や学校、百貨店が次々と建てられて発展。更に私鉄の「福岡駅」が開業し、一気に「天神地区」という一つの繁華街が形成されていったのだという。


「実はな。『天神さまのお膝元』ーー太宰府から水鏡天満宮まで、霊力的には繋がっているんだ」

「本当ですか!?」

「一つの街を形成する上で、意図的に霊力の流れを作るのはよくある話だな。江戸の作り方も風水に則ってるだろ」

「へー」

「……だからまあ……路線がたまーに異界の駅に繋がることもあるんだけどな」


 篠崎さんが遠い目をする。同じことそういえば、初対面の時も言ってたな。


ーーー


 ともあれ、そんなこんなで私は単身太宰府に訪れていた。

 私は篠崎さんに言われた通り、太宰府天満宮参道沿いの古風な喫茶店に入る。大正レトロな制服に身を包んだ店員さんに案内され、2階のテーブル席でしばらく待っていると、スッキリとしたスーツ姿の男性が2名やってきた。


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【連載開始しました!リメイクのご当地あやかし異類婚姻譚です!】
身に覚えのない溺愛ですが、そこまで愛されたら仕方ない。―福岡天神異類婚姻譚

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