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第47話 さよならの挨拶2 猟銃つかいのセイクリッド

 優しいエリザティエラさんと握手を交わして別れた後、僕は初めて武器を買った露店に足を運ぶことにした。


 僕は雷龍刀という、たぶん最強クラスに強力な武器を持っている。けれど、何か不測の事態が起きないとも限らない。そういう時に対応できるように、予備として何らかの刀剣を所持しておかねばならない。


 以前ミクミさんが一瞬で窮地に立たされたのを見て、僕は学んだ。


 たとえば、卑怯な作戦で武器を使わせないようにする策略。たとえば、持っている武器を奪うスキル。たとえば、武器を一瞬で砂にしてくるスキル。たとえば、そもそも僕の得意属性である雷に完全な耐性をもつ敵が出てきたらどうするのか。


 これまで運よく不器用に正面からぶつかってくるような相手とばかり戦ってきたけれど、厄介な戦い方を選択してくる敵を相手にしたら、罠にハマらないために幅広い準備が必要なのだ。


 僕は急激に成長して、魔王と戦えるレベルを手に入れたけれど、急激な成長を見せたがために、普通の冒険者が段階を踏んで学んでいく幅広い知識や臨機応変な対応力が全くと言っていいほど育っていないのだった。


 そのことを考えれば、大魔王との最終決戦は、もう少し先延ばしにすべきだったのではないだろうか。


 でも、ノリとテンションで行動を選択するなんていうのは、陽の者じみた行為と言えるから、喜ばしいことのようにも思える。


 そんな思考で自分を正当化したところで、近接武器の露店に到着した。


 看板の文字は、相変わらず読めないけれど、読めるようになる必要などない。


 僕は、これから自分の世界に帰るのだから。


 露店には、相変わらず中古ばかりが置かれていた。


 寄せ集めの鎧、盾、靴が飾られている。


 剣、斧、槍がごちゃまぜになって、いくつかの円筒形の陶器に雑に入れられている。状態には、ばらつきがあり、ただ長さによって分けられているように見える。


「あの、すみません。この武器っていくらくらいするんですか?」


 僕が鞘に入った刀を取り上げながらたずねると、店主とみられる小太りのヒゲ男が答えた。


「そいつは、そこそこいいやつだから高いぜ」


 僕は手持ちの金銭を全て差し出した。


「これで買えますか?」


「いいや、こんなにはいらねえよ。ここに流れてくるのなんざ、だいたい安物だからよ」


「でも、以前タダでもらった剣は、すごく僕らを助けてくれました。そのお礼も兼ねて、全部もらってほしいんですけど」


「以前……? ああ、兄ちゃん、よく見たらあれか、壁んとこに出てきたモンスターを鮮やかに焼却したフシノってぇ転生者か! 見てたぜ。良い戦いだった。あれから、ほんの少ししか経ってねえが、ずいぶん強くなったみてーだな、いい面構えになったじゃあねえか」


「ありがとうございます。あの、もらった剣は、僕の大切な人の手に渡って、最強の状態にまで強化されて、伝説の武器になりましたよ」


「あ? 何言ってんだかわかんねえが……本当にこんな金をもらっちまっていいんだな?」


「ええ、次にやってくる転生者のために、良い武器とか防具を揃えてあげてください」


「そいつは、ありがてえが」


「本当に、僕にはもうお金なんて必要ないんです。明日、魔王と戦うからです。勝って、この世界から、いなくなるんです」


「そうか、ハハッ、達者でな」


「僕の大冒険は、ここで武器を貰った時から始まったように思います。切っ掛けをくれて、本当にありがとうございました」


「そう言われるのは、悪くはねえな。どういたしましてだ。そんでもって、やるからには絶対に勝てよ、冒険者フシノ」


 僕は、武器屋の店主と握手を交わした。


  ★


 ホクキオと外とを繋ぐ門へと向かって歩いていると、僕はいきなり肩を掴まれた。


 何事かと思い、振り返ると、そこには、以前僕を亡き者にしようとした女の顔があった。


 転生者セイクリッド。


 二丁の猟銃を背負った背の高い女性である。


「君、あの時の少年だね。たしかフシノくんとかいったかな」


「……ッ」


 僕は腰の刀に手を伸ばす。しかし、刀を抜く前に、僕の腕は抑えられた。


 すぐに振りほどいて、雷龍刀を抜こうとしたけれど、セイクリッドはあわてて僕に手のひらを向けた。


「待って待って。もう上からの指示は無いから。フシノくんに危害を加えるつもりはないよ」


「そうなんですか」


 油断させる作戦かもしれないので、念のため、刀の柄を握ったまま受け答えを続けることにした。


「君たち強かったよね。もう一人の少女は? ネモーラとかいったっけ?」


「ミクミさんは、運命の魔王を倒して、美しく消えました」


「そっか。転生者の責務を果たしたんだね。なるほど、それで上からの暗殺指令が解けたわけだ」


「あの……暗殺って、誰に命じられたんですか?」


「言うと思う?」


「ウィネさんですよね」


「ところで、今、メンバーを集めてるんだけどさ、君は、暇かな? よかったら一緒に働かないかい?」


 ごまかしついでのスカウトを繰り出してきた。何なんだ。


「いいえ、僕は――」


 と言いかけたところで遮られた。


「いいかい少年、この世界を守るためだよ。そもそもカナノ地区の守護役になったのに、なぜあたしがホクキオにいるのかっていうと、もともとホクキオに、エリザマリー様の覇権実現のための転生者養成所があったわけ。あたしの配置換えに伴って、カナノ地区に移転することにしたの。その引っ越しのあれこれのために往復してるってわけよ」


「何ですその説明。どうでもいいんですけど」


「あら。君は、この世界がどうなってもいいの? 転生者の力を結集して、みんなで世界を救いたくないの?」


「僕だって、この世界を守りたい気持ちはあります。でも、僕の使命は、あくまでも運命の魔王を倒すことであって、この世界に居続けることではありません。それに、もう約束の日を決めてるんです」


「ふぅん、なら仕方ないね。ホクキオ守護役とか、組織の諜報員とか、やってもらおうと思ってたのに」


「ですから、それは無理ですと言ってます」


「はいはい、わかったわかった」


「で、セイクリッドさん」


「ん?」


「僕らの暗殺は、誰に頼まれたんですか?」


「それねえ、実を言うとさ、言ってもいいことになってるんだけど、当ててみるかい?」


 そして僕は、さっきから言ってる名前を出して、あっさり正解した。


「なあ少年、また会うことがあったら、あたしと本気で戦ってくれるかい?」


「ええ、全力で遠慮しときます」


 猟銃つかいのセイクリッドさんに別れを告げて、僕はホクキオの外に出た。




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