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第21話 カナノのまちへ2

 道中、草原の道を走っていると、また足止めされた。


 新手のモンスター……というわけではない。


 それは、人間たちであり、何も足止めをしてやろうと息巻いて出てきたわけでもない。


 ただ握手を求めてきたのだ。


 石を積んで壁の建造をしている屈強そうな男たちは、仕事の手を止めて、ぞろぞろとミクミさんの前に立った。


 僕は、その光景にビビり散らかしていたわけだが、次の瞬間には、頭を下げて手を伸ばしている彼らの姿が目に飛び込んできた。


「いつもカナノを守ってくれて、ありがとうございます!」


「ああ、その(きらめ)(つや)やかな金色の髪が最高です。まじでお世話になってます!」


 十人以上と握手をかわし、「頑張って」と声をかけた時には、ものすごい感動されていた。


 そのすぐ後には、冒険者風の一行とすれ違った。そうしたら、


「サインおねがいします!」


 四人組のパーティだったが、一人残らずサインをもらって歓喜していた。


 ミクミさんは、とても快く応じていた。


 ひょっとして、ひょっとしなくても、この人って、ものすごい人気者なんじゃ……。


「あの、ミクミさん」


「ごめんねフシノ。急いでるとか言っといて」


「なんであんなに人気なんですか? 可愛いからですか?」


「カワッ――。な、何言ってんのフシノ。あたしは、ほら、このカナノ地区を拠点に街を守る活動をしてたからだし、強いから感謝されてるだけだし。それだけだし? まあ? あたしがカワイイのは? めっちゃ認めるけど?」


「自分でカワイイとか言ってしまうなんて、やはりミクミさんは陽の者ですね」


「あんったが言わせたんでしょうが」


「たしかに」


 僕が小さく笑った後、ミクミさんは黙り込んだ。俯いていて顔が見えないが、もしかしたら、今の会話で、僕はやらかしたんだろうか。


 たとえば、僕ごときにカワイイとか言われたのが、本気で気持ち悪かったとか。


 不安でたまらず、「あの……」と声をかけようとしたのだが、


「ふっ、ふふっ、あはははは」


 ミクミさんは、唐突に笑いだした。


「な、なんで笑うんですか」


「んー、なんでだろうね。当ててみて」


「ミクミさんみたいな陽の者の気持ちなんて、陰の者の僕には分かりませんよ」


「……あのさあ、あたし、そんなに陽キャに見える?」


「だって、金髪ですし、なんか雰囲気もギャルっぽいですし、よく喋りますし」


「金髪ってだけで陽キャだとか、フシノってホントに単細胞よね。そんなだから仲の良い女子の一人もいないんじゃない?」


「厳し過ぎませんか? ウィネさん並ですよ? 優しいティエラさんならそんなこと言わないはずですけど?」


「まーたティエラ、ティエラって。前も言ったけど、あれは男をダメにする危険な女。優しいんじゃなくて甘いの」


「でも、ミクミさんよりは優しいと思います」


「はいはいそうだね。そんなわけないけどね。はい、この話おわり。とにかく、ティエラのことは忘れて、今は転生者として心を磨きなよ。そしたら絶対にいいことあるからさ」


「どんなですか?」


「それは、ほら、後のお楽しみだし」


「だったら、ミクミさんは、この世界で、何かいいことあったんですか?」


「じゃあ、まあ言うけど……自分を好きになれたことかな」


「それって、いいことなんですか?」


「あたしにとってはね」


 ミクミさんは、なんとなく僕を見下すように軽く笑ったように見えた。


 かわいそうなものを見るような目だった気がした。


  ★


 カナノのまちの近くまで来たので、モンスターがいないか警戒しながら、慎重に進みたい。


 ミクミさんがそういう内容のことを言って、僕はそれに従う以外になかった。


 これまでの快速ダッシュが終わり、並んで二人、なだらかな上り坂を歩いていく。


 普通に話をする余裕ができたので、話す話題に困った僕は、再びミクミさんに偽名の由来をきいてみた。


「やっぱりミクミさんが、どうしてミクミさんなのか知りたいです。何か意味があるんですよね?」


「まじで大した意味はないけど?」


「でも、何かしらの意味はあるんですよね」


「一応ね」


「それを当てたいんです」


「まあ確かにね、素性の知れない人と一緒にいるのは不安だろうし、ヒントだけでも教えてあげよっかな」


「お願いします」


 僕は真剣な表情でお願いした。


 ミクミさんは、少し長めに考え込んだあとで、


「実は、あたし三人姉妹で、末っ子なのよ」


「末っ子だから、わがままに育ったわけですね」


「あ?」


「いえ、すみません……」


「謝るくらいなら言うなし」


「そ、それで、三人姉妹の末っ子だから、何なんですか?」


「姉二人の名前は、ヒクミ、フクミといって……」


 ヒ、フ、ときたら、ミ、ヨ、イ、ム、ナ……と続いていくってことか。一から順番に数える時の昔の言い方だと、自然とそうなっていく。三番目の娘であるから、ミクミ。だとしたら……


「じゃあ妹が生まれたら、ヨクミちゃんになるんですか。もう一人生まれたら、イクミちゃんになるわけですね」


「あはは、まあ嘘なんだけどさ」


「えっ、どこからですか」


「どっからだと思う?」


 少しばかりイラっときた。


「あの、ふざけてんですか? 何なんですか? そういうことしてると、信用を失いますよ? 今の会話から判断するに、僕のような陰の者よりも、よっぽどミクミさんのほうが人間性失ってます!」


「はっ、さすがにそれはないね。あたしは学校にちゃんと居場所あるから。フシノみたいに友達も彼女もいなくて、幼馴染とさえ上手くいってないような人とは違うっしょ」


「まるで見てきたみたいに言いますね」


「女は勘が鋭いんだよ。隠し事できるなんて思わないことだね」


「じゃあ、僕が今、誰に会いたいか当ててみてくださいよ」


「誰にも会いたくない、でしょ」


 彼女は得意げに即答してきた。本当に勘が鋭いな。恐れ入った。てっきり「ティエラとかいう女でしょ」とか言ってくると思ったのに。そしたら外れですよって言って自虐の限りを尽くそうと思っていたのに。


「大丈夫だよ、フシノ。そんなんじゃダメなんて、あたしは言わないよ。だけど、フシノは根っから暗いわけと違うでしょ」


「まあ確かに。こんな僕も昔は陽の者として輝いていたことはあります」


「でしょ。すごいでしょ、あたしの勘」


「ええまあ」


「昔に戻ってほしいとも思わないけどさ、どんな形でもいいからさ、元気、だしてこう」


「わかってますよ。わかってます。でも、ミクミさんに言われると、なぜか反発したくなるんですよね」


「はっ、甘えんなっての」


「すみません」


 この金髪ギャル、少々キツイところもあるけれど、優しいところもあるような気がしてきた。


 なんだよこの世界。現実と違って、みんな優しいじゃん。やっぱり僕は、この世界に――。


「こーらフシノ、甘えんなっての」


「何ですか、急に」


「ちゃんと戦って、勝ち取って、現実に帰るんだよ」


「…………」


 心を見透かされた僕は、腹いせに沈黙を返してやった。


 それにしても、この勘の鋭さは、さすがにすごすぎる。親子でも兄弟でも夫婦でも恋人でも友達でもないのに考えが読まれてしまうとか、なかなか受け入れられない。


 もはや彼女が、そういうスキルを持ってるんじゃないのかと思えてきた。


 読心スキルなんてのも、この異世界になら存在しそうだからな。




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