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第16話 女剣士ミクミ3 灼熱離炎撃

 僕は自分の両手を見つめた。平凡な手相の、何の変哲もないただの手だ。マメの一つさえない、剣なんかマトモに握ったことなどあるはずのない、実に陰の者らしい傷一つない手だった。


 それなのに一体、どういう理屈で最初からスキルを持って転生、というか転移してきたのだろう。


 この問題について、ミクミさんが推測してくれた。


「転生者ってのは、まだまだ謎がいっぱいあるけれど、それぞれの転生者に適正っていうのがあるらしいことはわかってきてる。フシノは、剣を握るべくして転生してきたってことだろうね」


「何でですかね」


「たとえば、えーとフシノの家が……いや、ご先祖が強い剣士だったとか? たとえばフシノのひいおじいちゃんとかが、戦争で刀をぶんぶん振り回して大活躍したとか?」


「それで言えば、母が言うには、うちは武士の家だったそうですけど」


「関係ないかもしれないけど、ご先祖に感謝しといたらいいんじゃない?」


「つまり、この世界でのステータス値っていうのには、僕以外の人生が乗っかってるってことですか?」


「はっ、細かいことはどうだっていいよ。あたしもわかんないし。とにかくフシノには最初からハイレベルの剣術ができて、レベルを上げていったら、さらに多くの剣術スキルを使えるようになるってこと。その素晴らしい剣術で運命の魔王にも、きっと勝てる」


「勝てますかね?」


「勝てるよ。勝つんだよ。そして、いるべき場所に帰る。それだけを強く思い続ければいいんだよ」


「ミクミさんは、本当に帰りたいんですか?」


「もちろん」


 僕の問いに、ミクミさんは即答した。


「本当ですか?」


「当たり前でしょ。そしてフシノにも、ちゃんと現実世界に帰ってもらわないといけない」


「何でですか?」


 聞き返しても、ミクミさんは鐘の音がする方に視線をやって、答えてくれなかった。


  ★


 陽の傾きかけた広場にて、二人きりの作戦会議が行われていた。


 再戦に向けてのミクミさんの作戦は非常にシンプルなものだった。引っかき攻撃の後の大きな隙を狙って斬撃を行い、それをひたすら繰り返すというものだ。


 そのためには神速の剣のほかに、素早く間合いを詰める『野良犬の踏み込み』という技も必要だという話だ。


 しかし僕はすでに、野良犬のそれよりも遥かに上位版である『獰猛な野犬の踏み込み』を習得している。


 先祖のおかげなのか、前世の記憶なのか、理由は定かでないが、僕は異世界に降り立った時点で、多くの剣術スキルを習得しているのだ。


「要するに、フシノは今まで、スキルの使い方がわからなかっただけ。それさえわかれば、もう壁の外のヒョウ頭は敵じゃない。フシノのスキルレベルなら、一方的な展開で押しまくれる。そうしたら、ホクキオの人々も、石や卵から紙吹雪あたりに持ち替えてくれると思うね」


「ちなみに、他の剣技とかは使わなくても大丈夫ですか?」


「んー、そうだなぁ。いや、なるほど。さすが、なかなか勘がいいね。たしかにあったほうがいい。違う属性のがいいかな。たとえば……炎のやつ。見た目も派手だし、目立てばきっと人気も出るし」


「なんて技ですか?」


灼熱離炎撃(しゃくねつりえんげき)っていう、鉄板くらいなら余裕で溶かし貫くほどの、(たけ)き炎をまとった刺突」


 僕は剣を抜き、構えた。


 刺突というからには、それなりの構えをしなくてはならないのだろう。


 腰を落とし、剣は右手だけで持つ。半身になって、試し切り用の木材、その一点に切っ先を向けた。


 集中する。弓を引くようなイメージで右手を引き絞り、その反発の動きに付き合うように足を運ぶと、ひとりでに突きの体勢になった。


 そのまま一点に集中して右手を押し込むと、螺旋状の炎が刀身に巻き付き、かと思えば爆発的に膨張四散し、十本くらいの炎の帯が火の粉を振りまきながら木材に向かって伸びていく。


 赤く変色した剣先は、その木材を貫こうと一点に集まる真っ赤な帯に向かってぐんぐん突き進んでいく。


灼熱離炎撃(しゃくねつりえんげき)!」


 接触。


 貫くのかと思いきや、そうはならなかった。


 燃え上がるかと思いきや、そうもならなかった。


 木材は一瞬のうちに蒸発してしまった。炭も残らなかった。


 僕はその技を出したあと、力が抜けて、石畳に膝をついた。なんだろう、すごく疲れる。


 僕の技を驚きをもって見守ってくれていたミクミさんは、一つ溜息を吐くと、僕に歩み寄った。しゃがみこみ、ラピッドラビットドッグを差し出してくれた。


「あーあ、お手本を見せるまでもないね。てか、なにその威力。あたし、一瞬で超えられてやんの」


「なんか、すみません」


「ううん、うれしいけど」


 どういうわけなのだろう。本当に嬉しそうに、弾む声で、彼女は言ったのだった。




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