番外編 初詣
あけましておめでとうございます。
今回は前後編です。
1月1日。元日である。
一年が新たに始まったばかりだというのに、周りには人、人、そして人。
ニューイヤーを迎えることの何がそんなにハッピーなのか、どうにも理解できない。
しかし、かくいう俺も、浮いたような気持ちで改札を出たわけなんだが。
周囲の様子を確認しながら歩き出したその時、ポケットに入っているスマートフォンが震えたのに気がつく。
寒さのせいでパフォーマンスが落ちた指で確認すると、それは待ち合わせ相手からの連絡だった。
『改札出たところにいるよ〜!』
タイミングが良いな。
自分も改札を出たところにいるので、あたりを見回すだけで相手の姿を確認できるはずだ。
だが、どれだけ探しても、メッセージの主を発見することができない。
「どこだ……?」
見落としたのかもしれないし、ゆっくり見ていこう。
あれは男の人だな……あれは……女の子ではあるが、小学生だ。
「あれは……」
昼の日差しを浴びて、長い髪が美しく煌めいている。
人工的な色、ムラひとつない染まり具合。
どちらも俺の探している人の特徴と合うものだが――。
「……色が違うな」
残念ながら、肝心の頭髪の色が違っていた。
彼女の髪色はピンクなのだ。俺が探しているのは青である。
「でも、めちゃくちゃ似合ってるな……」
遠くにいるため顔の細部までは確認できないが、同じ国籍の人間だというのはわかる。
しかし、あたかも産まれた時からこの髪色であるかのように、堂々と立つ姿。
そして、覚えはないのに、どことなく見たことがある気がする……。
「なんでだ……?」
彼女を見つめながら考えていると、怪しい視線を感じ取ったのか、こちらに気付いた女性と目があった気がする。
それが確信に変わったのも束の間、彼女はこちらへ向けて力強く足を踏み出してきた。
まずい。変に警戒させてしまったり、不快にさせてしまったのかもしれない。
急いで視線を逸らすが、女性の履いていた靴――確かリボンのついた黒いブーツだ――の近付く音が止まない。
しかし、元はといえば自分が悪いのだ。
申し訳ないと、しっかり謝罪することにしよう。
そう覚悟を決めて振り返ると――。
「あけましておめでとうございます! 優太君!」
ユイちゃんだった。
「あれ、どうしたの? そんなに驚いた顔して」
「ゆ、ユイちゃん……だよね?」
「もちろんそうだけど……もしかして、他の女の子と遊びすぎて私のこと忘れちゃった? ……ひどいなぁ」
唇を尖らせて拗ねる顔は、紛れもなくユイちゃんの得意技だ。
しかし、彼女がユイちゃんだということは理解したが、一つ確認、聞かねばなるまい。
「忘れたんじゃなくて、その……髪の色、全然違くない?」
「……あ、そっか! そうだよね、ごめんね!」
俺の言わんとしていることが分かったのだろう、というか気付いたのだろう。
ユイちゃんは俺の両手を掴み、ブンブン振りながら謝っている。
「全然怒ってないんだけど、めちゃくちゃ驚いたよ」
「優太君を驚かせようと思って染めたのを隠してたんだけど、自分で染めたことを忘れちゃってた! てへっ!」
コツンと自分の頭を叩くユイちゃん。
年明けから彼女は絶好調だ。
「でも結構似合ってるでしょ?」
「うん、めちゃくちゃ。似合いすぎててユイちゃんだってわからなかったくらいだよ」
お世辞などではなく、本当に似合っている。
彼女の可愛らしい顔立ちとの相性はもちろん、黒いフリルシャツに、白いショート丈のファーコートとの組み合わせも抜群だ。
俺の言葉がお気に召したのか、ユイちゃんは上機嫌そうに身体を揺らしている。
「えへへ、そうでしょ〜。年明けだし、たまにはいつもと違う髪色にしてみようかなって!」
「確かにいいね。だいぶ色抜いてるから綺麗に入るし」
前に一度だけ、ユイちゃんの髪が真っ白な時の写真を見せてもらったことがある。
数回ブリーチをしているようだし、そのおかげで鮮やかなピンクの発色が可能となったのだろう。
「そうそう! ピンクってちょっと年明け感ない!?」
「そう言われてみればあるかもしれない」
うん、確かにあるかもしれない。
縁起いいよね、たぶん。
そんなわけで、当然のように空いている俺の手を埋められながら、二人は歩き出す。
神社は駅からそう離れているわけではなく、彼女の美しい髪に見惚れている間にたどり着いてしまった。
「とうちゃーく! うわ、満員って感じだね」
「流石に人が多いな……」
みんな考えることは一緒なのだろう。
「でも、はぐれてもすぐ合流できるでしょ? こういう時に派手な髪色って便利なんだよねぇ〜」
「なんなら一番目立ってるからね」
ユイちゃんの言う通り、たとえはぐれたとしても、すぐに彼女の居場所を見つけることができるだろう。
参拝しようにも人が多すぎて、本当にはぐれてしまいそうだ。
と、その時。ちょうど社務所が空いている事に気がついた。
「ユイちゃん、参拝の前におみくじ引かない? 今ならすぐにできそうだよ」
「え、ほんと!? 行こ行こ!」
人の間を抜けながら、社務所へ向かう。
見慣れない髪色のせいか、一人で歩く時より快適に感じるが、それは置いておこう。




