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いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
「で、黒咲は京都のお土産はなにがいい?」
「……私は先輩と一緒に旅行したいです」
さて翌日、黒咲と共に登校している俺は、彼女に何かお土産を買って帰ろうと思いついたのでめぼしい商品を聞いてみることにしたのだ。
しかしその返答はなんていうか、京都と俺に用意できるものではなかった。
「あのな、これは修学旅行だから個人で行くわけじゃ――」
「それはわかってますけど! でも、浅川先輩もいるし……」
「浅川? 浅川がどうかしたのか?」
「なんでもないです! とにかく、私も先輩と京都観光したいー!」
黒咲は浅川のこと苦手そうだもんな、何か思うところがあったのだろう。
それにしても今日の黒咲はいつもより強情だな。
わーわー喚きながら俺にくっついて歩く姿はとても可愛く感じるが、どうにか機嫌を戻してもらいたいものだ。
「なら、今度ちょっと遠出してみよう」
「え!? いいんですか!?」
「俺たちはまだ高校生だし、そんな遠くまでは無理だけどな。ちょっとした温泉旅行くらいなら許されるだろ」
「行きたいです! え、どうしよう凄く嬉しい……」
口調がボロボロになりながらも喜ぶ姿を見ると、提案した甲斐があったと言うものだ。
二人で温泉旅行なんて楽しそうだしな。
金髪のインナーをかきあげながら湯に浸かる艶かしい姿。
その後の彼女の浴衣姿を想像しただけで、既に温泉に入っているのと同じくらいの効能を得られている気がする。
「じゃなくて、京都のお土産は何がいい?」
「そうでしたね。うーん、八つ橋とかは腐っちゃいそうだし、そもそもこっちでも買えるし……」
「全部終わっちゃうぞそんな事言ったら」
その通りなんだけどな。
生八つ橋だろうがなんだろうが、ちょくちょくやっている京都フェアなんかでいくらでも買えてしまう。
むしろ普段見かけないような特別な味のものまで揃っているし、効率だけならこっちの方が良い気がする。
「あ、じゃあ先輩が京都の名所で撮ってもらった写真が欲しいです!」
「キラキラJKが想像するよりも遥かに陰キャは写真を撮らないもんだぞ」
「あ、じゃあ先輩が京都の名所で撮ってもらった写真が欲しいです!」
「……わかった」
俺の写真をもらって何が嬉しいのか分からないが、機械のように同じ言葉を繰り返されてしまい、渋々了承する。
もしかしなくとも、段々と俺の扱いが上手くなってきてないか?
「それで、先輩のお友達は修学旅行で告白するんですよね?」
「そうだよ。俺的には勝率は6割くらいかなぁ。でも旅行中にもっと距離が縮まれば可能性は上がるはず」
「……そうですね。でも、そのお相手さんはまだ何か考えてるんじゃないかなって思います」
「何か?」
どういう事だろう。
実は特殊能力を使う事のできる組織のメンバーで、片山を監視するために同じ高校に潜入したとか?
「……先輩が考えてる事なんとなく想像できますけど、違いますよ」
「勝手に読み取らないでくれ。そして当てないでくれ」
「何か、確かに距離は縮まったと思います。お相手さんも普通に会話してたみたいですし、片山さんの気持ちも少しは伝わったのかなって」
「そうだな、少なくとも警戒は解けたように聞こえた」
あそこでキザに会話をしていれば、おそらく岩城さんは今も警戒したままだったろう。
普段堂々としている片山が焦るように、本音で説明したからこそ必死さが伝わって信じてくれたのかなと感じている。
「警戒は解けたと思います。けど、岩城さんの偏見というか、先入観みたいなものは消えてないのかなって」
「……というと?」
「だって、自分が服が好きだって知られても別にいいじゃないですか。でも、それを知られたことで岩城さんが片山さんを避けるようになったのであれば、そこになんらかのマイナスな思考があったんじゃないですかね」
「なるほど、確かに良いイメージがあれば、出会った時点で挨拶しているもんな」
これは盲点だった。
そもそも片山は誰の目で見ても欠点など存在しないような、どんな人間にも分け隔てなく接している素晴らしい男だ。
そんな先入観があるせいで、岩城さんが片山に良い印象を持っていないと考えることができなかった。
例えば岩城さんが、キラキラした人間が嫌いだとしたら?
そういう、その人間個人の感性というものが二人の距離を遠ざけようとしているのかもしれない。
……しかし、それは俺たちがどうこうして払拭出来るものではないと思う。
唯一可能だとすれば、当事者である片山と岩城さんが関わることでのみ、その思いは変化するのだ。
俺にできることといえば、少し場を整えるだけで、後は片山がどう行動するかにかかっている。
「黒咲、意外と聡いな」
「私もそう思います。……撫でてくれてもいいんですよ?」
「撫でられるの好きだよな黒咲。ほれ」
空いている左手を彼女の頭に優しく滑らせていく。
身長があまり変わらないため若干撫でにくいが、サラサラの髪と、それが揺れるたび微かに香るシャンプーの香りが心地よい。
彼女の要望ではあるが、実は俺も心の中のでは黒咲とプチ旅行に行くのを楽しみにしているのだった。




