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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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アバヨ!



 出会ったのは、国境警備兵さんでした。


 国境警備は2人1組×2セット。

 1組は警備隊舎に待機中、出会ったこのペアは現在周囲を巡回中らしい。

 ちなみに山奥なので、1ヵ月交代で別の4人組が来るようだ。


 すわ騎士団かと警戒しかけた私の前で、しかし彼らはどこか朴訥として見える。


 遠回しに確認してみたが、どうやら軍属であるものの、騎士団とは別の組織のようだ。

 そして、シャンビータでの追いかけっこについても何も知らないらしい。


 休憩中だというので、ちょっとお邪魔してみることにした。


 干した果物を食べているようだったので、私も袋から取り出したように見せかけて、ぶどうを食べることにしよう。


 じわじわ距離を詰めて、その実の取れる場所を聞くのだ。

 と、思ったのだが、彼らは私が食べようとしたぶどうを見た途端に顔色を変えた。


「食べるな!」


 1人が慌てて、私の手を払おうとする。

 …なんだ?

 何を慌ててるの? ぶどうは、存在する食べ物だよね?


 身体強化様が反射で避けないように、意志を強く持って、あえて払われてみた。


 ベチィッと力強く払われ、ぶどうはどこかへすっ飛んでいった。

 ここから見えないことを確認して、靄に戻す。


 なぜかとても厳しい顔をして、警備兵さん達は私を叱る。


「あの魔力量が見えないのか!」


「どうしてあんなものを食べようとするんだ! 危ないだろう!」


 ええ…メッチャ怒られてる。

 ちょっと困惑しながらいると、私よりも先に、私のお腹がキュウゥと鳴いて答えた。


「食料なくなっちゃったので…途中で…」


 調達しました。自力で。

 警備兵達は顔を見合わせた。


 次いで自分達のおやつを私の手の中に押し込んでくる。

 う、うわぁ、なんという押し売りだぁ。(嬉しい悲鳴)


「いただいても、いいのですか?」


 彼らはウンウンと頷いた。

 噛んでもいい食料がいっぱい。

 私は笑顔でお礼を言って受け取った。フード越しだが伝われ、私の喜び。


 ついつい無言でがっついてしまう令嬢。

 何だろう、このドライフルーツ。

 そんなには甘すぎないんだけど、ほんのり甘くて喉が乾かなくていい。美味しい。


「この辺の植物は魔力量が多すぎて危ない。採集は勧めないぞ」


 遠慮せず干し果物を堪能している私に、1人がそう声をかけた。


「なぜ危ないのですか?」


「…お前、本当に冒険者なのか?」


「はい、成り立てですけれど」


 冒険者証を取り出して、相手に見せる。


 フラン・ダース。14歳男子である。

 男物の鎧の上からマントを着ているので、上げ底とあいまって、もはや輪郭は普通の男子にしか見えないはず。


 ちゃんと新しいの着ているから、身長に対して肩幅がおかしかったりはしないよ。

 前のは身長の割に若干厳つかった。肩が、如何にも鎧でございと主張していた。


「14歳。…そんなもんなら無理か?」


「知らないかもな。俺達だって、ここの配属にならなければ気にしなかっただろう」


 謎の会話の後、彼らは教えてくれた。


「魔力が多い場所で、獣が魔獣に変じることがあるのは知っているな?」


 荷物から水筒を出して、水を飲む。

 口の中に物を入れたままで、お返事はよろしくない。


「はい。植物が魔物になったり、鉱物が魔石になったりもするんですよね」


「魔力過多になることで、性質が変じるんだ。鉱物は吸収するだけだから魔石になる。植物は呼吸によってある程度は排出できるが、まだ魔物化していない植物であっても、根や実には魔力が蓄積しやすい」


 知らなかった。

 へぇ、と口から漏れてしまったが、兵士達は構わずに先を続ける。


「そして魔力をその身に受け続けた上に、そういうものを食って体内の魔力量が過多になり、性質の変じた獣が魔獣だ」


「…へぇ…、え、というと、私も魔物になっちゃう可能性があるんですか?」


「わからん。普通は、見るからに怪しい、こんな不味そうなものは食わないから」


 ヒドイ。


 でも、私も自分で出したから気にしなかったけど、店で売ってたら狙って買わない。

 なぜか、見た感じがあんまり美味しそうに見えないものね。

 美味しそうに見えないのは、生物的な自己防衛なのかもわからんわね。


 しかし蛙よりは全っ然美味しそうであるよ。

 味もちゃんと、ぶどうだしね!


「だが、魔獣に変化できずに死ぬ獣のほうが多いのだから、普通の人間は、魔力過多で死ぬのだろうな」


 …おぉう。

 危ない。食べちゃ駄目なものだったのか、サポート製品。


 あ、でも私は身体強化様によって、きっと過剰な魔力は黒靄になるな。

 死んだり魔物になったりはしないだろう。


 でも食べ続けると突然、黒靄をブワッと出したりする可能性があるということだ。

 これは…ファントムさん共々、魔獣扱い待ったなしだ。


 ちなみに魔獣は、魔石や討伐証明部位に魔力が集まっているので、お肉を食べても平気なのだそう。

 続く警備兵達の話では、ここらに一定の魔獣しか出ないのは、それらしか適応できなかったからだということだ。他のものは逃げたか、増えた魔獣に捕食されたのだろうと。


 蛙と蛇と鼠の楽園か。なんて嫌な地だ。


「食料なら少し分けてやれるから、ちゃんと警備舎に寄っていけ」


 そんな言葉と共に食糧供給の申し出。

 ありがたく警備舎にお邪魔する。


 何か…とても普通の山小屋です。


「大きな魔物は粗方退治されたあとだしな。それほど、することはないんだ。こんなとこに旅人が来るなんて珍しいな」


 警備舎にいた、ちょっぴり訛った口調の兵隊さんが、形式的なものだと言いながら聴取をする。


 私自身には一切後ろ暗いところなどはないので、堂々と山ルートで旅をしているだけであることを告げた。


 せっかくなので、地図を取り出して現在地の擦り合せなども行ってみる。

 すると大変なことがわかってしまった。


「…本当に? 自分ではまだこの辺にいるつもりだったんですが」


「廃村に当たったんだろ? お前の地図には載ってないが、ほら、ここのことなんだ。元々過疎地だったが、周囲の魔力が強くなりすぎたから、正式に放棄された村だな」


 なんと。

 載ってる村が滅んでいたのではなく、自分で思っているよりも進みすぎていて、地図には載っていない廃村を発見しただけだったらしい。


 あのファントム・ダッシュでスタートに勢いが付きすぎたのか。

 あとは延々と山道だものね。

 目印になるような集落がないから、わからなかった。


 兵隊さんの地図は私のものより詳しいので、放棄された集落の跡地が幾つも書き込まれていた。

 特に隠していることではないからと、地図を写させてくれる兵隊さん。

 本当にいいのかな? ちょっと不安だな。


 なるほどねぇ、ここまで来れば確かに国境警備兵さんも出没するのかな。

 さりとてあんまり厳しくないのは、国境が渓谷だからだろうな。

 普通は渡れない。


 正規の関所まで行くのは面倒だから、私はあとでどこかで飛び越えようっと。

 きっと私ならできるさ。

 私が無理でもファントムさんならできる。

 脚の長さの分、可能性はより高い。


 しかし警備兵達は、出会った以上は記録を取らねばならず、顔を隠したままここを通すのも職務的に困るという。


 そりゃあそうだよね。国境警備が、ほいほい不審者を通せないよね。

 互いの妥協点として、限定1名に顔を見せて不審人物でないことの確認が行われた。


「えっと…では、彼にお願いします」


 見せる相手は選んでいいと言われたので、ぶどうをベチッと振り払った兵隊さんにする。

 一番一生懸命心配してくれたし、なんかやたらと生真面目そうだったからだ。

 君には幼馴染と似た匂いを感じました。


「これくらいで見えますかね」


 彼だけに見えるように場所を移動し、フードを少し持ち上げる。

 結果、固まられた。


 警備兵達からは、仲間の驚愕の表情しか見えないわけである。

 興味を示したらしい他の兵士に横から覗き込まれそうになって、慌ててフードを深く引き下ろした。


 覗き魔は、我に返ったぶどう叩き兵さんにどつかれている。

 覗き兵め、お前とは決して仲良くしないぞ。

 一番若そうだからって許さない。


「…あの…」


「もういい。隠して当然だ」


 そして、ぶどう叩き兵さんはすごく顔隠しに協力的になった。

 真剣な顔で私に忠告をくれる。


「自覚があるようだから大丈夫だとは思うが。旅をするなら、もっと大きく強くなるまでは、あまり人に見せないほうがいい」


 ちょっと微妙な気分。

 多分、鍛えてもゴリムキにはならないんだけど。


 私、お母様似の美少女だよね?

 珍獣や顔面犯罪者じゃないよね?


「…あの…具体的には…」


「人攫いに遭わなくなるまでだ」


 あ、良かった。心配してくれただけだ。


 そこまで言われると気になると他の警備兵達も顔を見たがったが、ぶどう叩き兵さんは「確認は1名の約束だ」と言い張り、頑として許可しなかった。

 うむ。生真面目さんだった。私の選択は正しかったな。


 食料を適正価格で譲っていただき、警備舎をあとにする。


 警備舎のある位置が、一番隣国との境である渓谷が向こう岸と近付く場所なのだという。

 てくてくと歩き、警備舎が見えなくなるまで待って、私は向こう岸へと飛び移ることにした。


 アバヨ、ゼランディ!



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