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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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91/303

壁の箱詰め完了。



 蝙蝠、大鼠、蛇。

 それらの魔獣の出現域を超えると、急に出会う冒険者がいなくなった。

 その次の猿が厄介だと言っていたから、おかしくはないのかもしれない。


「…猿、嫌だなぁ…」


 しかも温泉入ってる系の可愛い猿を想像していたら、ゴリゴリの類人猿だったでござる。冒険者の武器を拾っているのか、武装しているヤツまでいた。


 ふっ…メスゴリラと呼ばれる私に対峙しようとは。運のない猿どもよ。

 何の得にもならない独白を胸に、私は剣を振るった。


 当然、ゴリラに勝つメスゴリラ。

 類人猿の頂点に立つ令嬢。今、私は人生の墓場にいる気分だ。


 次は首の多い蛇らしいから、早くそっち行こう。猿、ヤダ。どうせ魔獣に可愛いのなんかいないけど、いても困るんだけど、猿、ヤダ。


 他の冒険者達とは違う理由で猿との戦闘に強い忌避感を抱いた私は、身体強化山盛りで出会うゴリラの背後を駆け抜けて逃走。


 冒険者達の情報通り、休憩所に魔獣は入ってこないらしい。

 少し広い空間になると、後を追いかけて来ていたはずの魔獣は中に入らずに、ふいっと引き返して行った。


「…何なんだろうね。これが、ダンジョンが獲物を引き込みやすくするための作りってものなんだろうか」


 途中で休める場所があれば、人間は何度でも奥を目指すだろう。開拓者精神のあるものは、どこにでも存在している。


 洞窟内なので、どうにも時間の感覚とかわからなくなってしまうのだけれど、アイテムボックス内には魔道具時計も用意してあるので安心ね。今、何時かな。


 …うわ、全然安心じゃないよ。

 うっかりしてたけど、すんごい時間経ってるじゃない。

 ダンジョンとは内部キャンプも想定するべきものだったのか…。


 休憩所では一応一定のお休みを取っていたし、暇な時はおやつや氷の欠片をボリボリしながら歩いていたので、なんか幾らでも歩ける気がしてた。私、回復早いからなぁ。


 冒険者が全然いないので、休憩所での壁掘りも解禁。

 つるはしさん、出番です。

 大した疲れのない強靱な身体に感謝しつつ、つるはしを振り上げ…。


「…ん?」


 何かが聞こえた気がして、私は壁に叩きつける寸前でつるはしを止めた。


 耳を澄ませる。

 気のせいではなく、何かが聞こえる。


 金属音と…悲鳴のような。


「冒険者?」


 もしかして:苦戦の殺虫剤。


 可能性に思い至った私は、荷物をアイテムボックスに全て放り込んで走り出した。

 反響するせいか、二度間違えて行き止まりから引き返すはめになりながらも、私は音の出所へと辿りついた。


 急いでるときに限って…私、なんて出来ない子なの。

 いや、初ダンジョンなんだもの。

 ドンマイ。

 間に合えばいいのよ。平気!


「おお。でっかい蛇? 頭は1個だけど」


 大蛇退治とか神話かおとぎ話っぽい。

 そんな感想を抱いた私の前で、3人組のパーティの前衛、戦力の要であろう剣士が弾き飛ばされた。


「バルザン!」


 仲間達の悲鳴。さすがに、ここで名前に笑えるほど私はクズではなかったようだ。


 即座に飛び出し、蛇に飲み込まれそうな男を突き飛ばす。

 空振りでズガンと地面を抉った蛇が、忌ま忌ましそうにこちらを向いた。


「…っ、助力か、感謝する!」


 突然の怪しいフードの登場。

 しかし冒険者達は果敢にも態勢を立て直した。


 しかし、バルザン君の剣が半ばから折れてしまっている。

 気付いた私は、持っていた剣をバルザン君の足元に投げた。


「それ使って!」


 言いながら、こちらに突っ込んできた大蛇の頭を転がって躱す。


 バネの玩具のように地面を両手で弾いて跳び、もう一人の男の側に着地。

 バルザン君は会話の余裕などないであろうから、仲間に確認を取ることにする。


「戦うの? 逃げるの?」


「戦える!」


「じゃあサポートするよ」


 例によってマントの内に見せかけて、アイテムボックスから短剣を出す。


 ゲームと違い、魔法使いの少ないこの世界では大体の人間が前衛だった。

 それに思い至ったのは、槍を持ち私の隣を走って大蛇に向かう男と、バルザン君の隣で蛇を殴る女を見たからだ。


 …おお…何という脳筋集団。


 そして格闘女子が弾き飛ばされ、バルザン君がそれを庇うという局面。

 ピンチの予感に、思わずウクスツヌブレードを出そうとした私の前で、推定コナーズが槍をぶん投げた。


「うおおぉぉぉぉ!」


 それは傍目にも高威力(クリティカル)

 世界がスローに見えた気すらした。


 槍は。


 蛇の右目に、吸い込まれるようなジャストミイィートッ!

 いやぁ、これは素晴らしい投擲でしたね、コナーズ選手。仲間の危機に奮起した形です。


 対する大蛇、大きな声を上げてのた打っております。

 果たしてこの痛みと怒りを乗り越えることができるのでしょうか。


 おっと、格闘女子を補助しながらバルザン選手も戻って参りました。

 大きな大きな蛇の身体、タイミングをはかり、大縄跳びをくぐるかのように駆け抜けてきます。


 逃げるならば、まさに好機は今、この時しかないでしょう。

 撤退か、継続か。猶予はありません!

 地響きが続くダンジョンで、さあ、冒険者チーム、どう出るつもりでしょうか。


「すまない、バルザン。武器がなくなっちまった。どうする?」


 戻ってきたバルザンに槍コナーズが問う。

 決定権があるということは、バルザンがリーダーなのかしら。

 悔しげな目を大蛇に固定して、バルザンも唸った。


「もう少しで倒せそうな気がするのにな」


「…短剣ならあるんだけど、貸そうか?」


 思わず呟くと、女格闘家が心配そうに口を開いた。

 網…網戸…何だったかな、名前。


「剣も貸してくれているんだろ。アンタも、あれを前に丸腰はまずいよ」


「私はまだ武器を持っているから、リーチが短くていいなら貸すよ」


 つるはしという立派な武器があるのだぜ。

 一応、靴に仕込んだナイフもある。

 サポート製なら幾らでも作れるし。


 持っていた短剣を、柄を向けて槍コナーズに差し出す。

 相手は即断して受け取った。


「恩に着る。勝ったら必ず礼をする」


 3人共が真面目な顔を私に向けるので、ちょっと困ってしまった。


「ねぇ、さっきの、ちょっとカッコイイ戦いぶりだったよ。あの蛇に勝ったら貴方達をモデルに絵に描く許可をくれない?」


 肩を竦めてそう問うと、冗談だと思ったのだろう、彼らはちょっと笑顔になった。


「それはすごい。ぜひ頼もうか」


「美人に描いてよね」


「勝てたらだぞ。ほら、大蛇がお怒りだ」


 逃げ出さないという選択をした以上、大蛇を倒さねばならない。

 ねじけてうねって、近づけない状態だった蛇は今、凶悪な雰囲気を纏ってこちらへ向き直った。


「行くぞ!」


 バルザンの声と共に彼らは走り出した。


 出遅れてすみません。

 あわあわしながら彼らに続く。

 フードで顔隠れてて良かった。


 貸せたのが短剣程度で申し訳ないと思っていたら、槍コナーズはうまいこと大蛇の鱗をそぎ落とす係になったらしい。

 剥げた部分を狙って、女子の拳やバルザンの剣がダメージを与える作戦のようだ。


 一切何の相談もしてなかったのに…君ら、連携凄いね。


 目に見えて短剣の刃の劣化がとんでもないけど、まあ、いいよ。

 あれしか貸せない私が悪い。

 しかし取り急ぎ次の武器を渡してあげなければ…。


 感心してばかりでもアレなので、私は目に刺さったままの槍をターゲッティング。

 波打つ蛇の背に駆け上り、槍の柄に手を掛ける。


 さぁ、来い、身体強化様!


 深く刺さっていた槍は、結構な強化を使わないと引き抜けなかった。

 でも、それはつまり、私ならば引き抜けるということ。


 ぎゃあ! なんか付いてきた、グロい!

 慌ててコナーズの付近に槍を放る。


「助かる!」


 付着物など気にも留めない様子で、槍を手にしたコナーズは、代わりに私に向けて短剣を投げ返した。


 おいおい、普通は受け取れんて。


 思いながらも蛇の頭を蹴って飛び出し、アイテムボックスで回収して、手元に取り出し直す。

 宙でくるりと回転して、逆さ体勢のまま大蛇の左目に投擲ィ!


 身体強化でぶん投げた短剣は、左目に柄まで埋まった。

 ああ…うん。

 もう、あれ、いらないや。


 ぎしゃあぁぁ、と悲鳴を上げてのけ反った蛇の喉、鱗の剥がれたそこに、バルザンの剣が一閃。

 暴れ狂う蛇の頭を、格闘女子が捌いて仲間を守る。


 ひいぃ、メッチャ血が降ってくる。

 アイテムボックスに、自分にかかりそうなそれをしまいながら、私は退路の確保に勤しんだ。




 やがて、蛇はぐらりと揺れると、その頭を勢い良く地面に向けて落下させる。





 どうっと大きな音を立てて倒れ込んだ蛇は、もうぴくりとも動かなかった。

 勝利だ。


 3人は顔を見合わせて、ワッと抱き合った。

 うむ。なかなかいい光景である。

 健闘を讃えあったパーティは、すっごい笑顔でこちらを振り向く。


「お前のお陰だ。剣が折れたときは、さすがにもう駄目かと思った」


「どういたしまして」


 健闘讃え合い大会に組み込まれそうになったので、距離を取りつつ大蛇を示す。


「これはどうやって持って帰るの?」


「…あー、無理だな。正直、大きすぎるし、ここで何か剥ぎ取るのも危険だろう」


 え。何も手に入らないということ?

 倒したのにもったいないね。

 ああ、だから槍男と格闘女子が鱗拾いを始めたのか。せめてもの戦利品で。


「休憩できる場所まで持って行けると解体できるんだろうが…ちょっと無理だな」


「私の詮索をしないのならば、引き摺っていってあげようか」


 きょとんとした顔の3人に、マントの内からロープを取り出して見せる。

 何の変哲もない、ただのロープ…だと、ちぎれるかもしれないのでサポート製品です。


「ひょんなことから手に入れた、不思議なロープです。持ち主である私が使うときだけ、重いものもとても軽々持ち上がるよ」


 というのは嘘だ。身体強化だ。


 私が使わないと無理、という前提に興味を示した格闘女子にロープを持たせ、動かなさを体験。私と共に引っ張ることで、引き摺って行けることを実演。


「すごい! 動いたよ」


 結構重いけど、身体強化特盛りなら運べる。


 サトリさん、もうこれ『人としておかしい』範囲だと私は思うよ。

 説明に偽り有じゃないかな。

 それともこの世界の人類にはこれを可能にするだけのポテンシャルがあるのかな。


 休憩所まで蛇を引き摺り、彼らはそこでたくさんの鱗、牙、そして体内から取り出した魔石を手に入れることができた。

 私もまた、その間に、ダンジョン壁の採掘を終えることができた。

 6箱、コンプリート!



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