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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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常識とは。



 私達は順調に旅を続けた。

小さいながらも点在する集落に立ち寄っては、食料を補給したり休息を取ったりした。


 そして、トランサーグに怒られる私。


「村では中銀貨なんか使えない」


「…面目次第もございません…」


 宿の取りかた初級編。


 前回はシイルールゥが宿の人と交渉したので、今回は私の番だった。

 交渉自体は問題なかった。


 しかし、いざお支払いという段。

 そろそろ細かいのが少なくなくなったから崩そうと、お財布から中銀貨を出した…ら、宿の人が裏返った声で「ひょっ!」て言ったのだ。


 聞きつけたトランサーグが覗き、素早く中銀貨を回収して自分の財布からお支払い。

 私はその場で強めの拳骨を食らった。


 貴族令嬢だと知っているのに、ちゃんと叱れるところ、評価する。

でも口で言ってくれるんでもいいのよ。痛い。


 部屋に入った途端のお説教タイムである。

 これ絶対おでこ赤くなってるヤツだ。

 それに私、石頭だから、絶対トランサーグの手も赤くなってる。後ろから舌打ち聞こえてる。


 シイルールゥは硬貨を出した決定的瞬間を見逃していたので、中銀貨という言葉に1人だけ今更の衝撃を受けていた。


「フランって、孤児じゃないのか?」


 ですよね、仲間ならパン代しか持ってませんもの、気になっちゃいますよね。

 だが、正体を明かす気はない!

 

「乙女の秘密を探ろうなんて野暮天です。師が野暮天なら弟子も弟子だな」


 やれやれと首を振ってやると、シイルールゥは困った顔をした。

 孤児院にだって、自分のことは話したくない子がいるのを思い出したのだろう。


「…えっ…、あっ、ご、ごめんな?」


 おや、弟子のほうは初々しいな。


 初代野暮天が無意味に繰り出してきた拳を、華麗にかわす。

 さっきはフード被ってるのに後ろから来たから、死角だったんだい。


 今回はパーティ部屋ではなくツインとシングルを取ったので、私の部屋は別である。

 ヤローはヤロー同士でお泊まりやがれぃ。


 なんか前回もその前も、宿に泊まったときは当たり前のようにパーティ部屋を取られたんですよ。

 野営時はマイテントあるからって、別にテント立ててたのに。


 何なの、世の冒険者ってそういう感じなの? 一緒に居すぎじゃない?


 お陰で、せっかく宿だっていうのに、フードも取れない。

 予備のマント着たまま寝ましたけど、何か?


 私はプライベートなお時間が欲しいよ。


 内心のプンスカを押し殺し、私は今回の失敗から学ぶ。

 田舎で中銀貨、ダメ、ゼッタイ。


「先生、小銀貨も駄目ですか?」


 確認しておこうと声を上げると、トランサーグは苦々しい顔をした。


「…村では銅貨を出せ。ないのか?」


「いや、まだあります。減ってきたから崩そうかと思っただけ。また今度にします」


 拳骨痛いので、同じ過ちは決して繰り返したりしない。


「そうか。王都の宿なら、確かに可能だったんだろうがな。両替は街の各ギルドか両替商が望ましい。…お前にはそういう常識が必要だったのか…」


 ええ、そうなんですよ、先生。

 何気に、彼が私のお支払い風景を見るのは初めてのことだったようだ。


 えー。でも冒険者ってお財布の中身、銅貨じゃらじゃら祭りなの?

 長旅するのに重くない?


 という疑問は、察したトランサーグにて冒険者ギルドの銀行機能を提示されることで落ち着いた。

 支部のないちっちゃい村では無理だけど、集落何個かおきにはお金下ろせるから平気だよってことだね。


「でも、何となく理解したので次は大丈夫。では私はこれにて」


 あとは逃げの一手である。

 扉を閉める寸前、シイルールゥが「夕食時に迎えに行く」と慌てて告げてきた。


 え、来ていらぬ。ご飯、別でいい。

 与えられた部屋の番号を見つけて、久し振りにマントを脱ぐ。


「ぷはぁ。開放的ィ」


 フードのない視界って、なんて良好なの。


 鎧もアイテムボックスに収納だ。

 おお、やはり脱ぐと身軽。


 身体の汚れは小まめにアイテムボックスに頼ってきたけど(マントの埃や汚れは落とすと異質なので落とせない)、お風呂入りたいです。しかしこの宿にもお風呂はないのです。絶望した。


 村や安宿では水かお湯(有料)を用意してもらって身体を拭くものらしいが、私は湯船にザバンと浸かりたいんじゃーい。

 桶と濡れ布とか悲しい。孤児院でもそんなんだった。

 清拭したいんじゃないの、お風呂に入りたいのっ!


「…お風呂ってどこで買えるのかなー…」


 アイテムボックスの中に浴槽をおいて入ればいいのよね。

 浴槽じゃなくても、もう樽でも何でもいい。大量のお湯を入れておけるものなら。


 街だ。街で買わねばならぬ。


 しかしヤカン何個分のお湯を沸かせば良いのだろう。

 湯沸かし器はどこだ。魔道具はないのか。


 …もう一個、旅の乙女が気になるモノがあるだろうって?

 アイテムボックス様、サポート様、本当にありがとうございます。

 大自然とか無理なんです。


 とりあえずマントを着直して、宿のカウンターへ。お湯欲しい。


「薪代をいただきますよ。お風呂だけで使うもんでもないですし、割るのが大変で」


 受付は女性に代わっていたが、銀貨をチラつかせた話は伝わっていたのだろう。

 完全に私をボンボンだと思ったらしく、こんな時間から風呂かよお貴族かよ、という顔をしていた。

 うーん。なんて愛想の悪い看板娘。


 心証か…チップか労働…迷った末に労働を選択。

 ボンボンじゃないですアピール!


「確かにお嬢さんの細腕では大変でしょう。薪割り、お手伝いしましょうか?」


「あら、本当? 助かるわ」


 申し出てみると快諾された。

 え、えぇ…?

 言ってみたのは私だけど、平気な顔でお客さんに手伝わせちゃうんだ…。


 村と王都はだいぶ違うのだな。

 そんな思いを胸に秘め、宿裏で薪割りに勤し…あれ、割ろうにも木があんまりないじゃない。


 宿で薪が足りないなんて洒落にならないよね…どこかにしまってあるのかな…。

 だけど看板娘に聞きに戻るの面倒くさい。


「そういえば、ちょうど私も手持ちの薪を切っておこうかと思ってたのよね」


 きょろりと辺りを見渡し、人目がないことを確認。


 アイテムボックスから薪用樹木を宙に取出し。

 そーれ、無双ゲージ開放! ウクスツヌブレード乱舞!


 積みきらないだろう分は地に落ちる前にアイテムボックスに収納。

 乱舞直後に宿の薪割り用斧に持ち替え、宙を舞う薪達を定位置ぽいとこに打ち落としていく。


 ふははは、楽しい!

 対人で溜まったストレスが洗い流されるようだ!

 癒し不足のこの世の中で、最早こんなことでしか私のストレスは…


「何を、やってるんだ、お前は!」


 楽、し…。


「意味のわからない遊びをするな! 迷惑だ!」


 トランサーグのお部屋の窓から、2階まで高く上がった薪が見えて噴いたらしい。


 慌てて窓を開ければ私が斧を振り回していたのだという。

 切ったところ(ウクスツヌブレード)は見られてないから、セーフだよ。


 …お湯ができたら持ってきてくれるようにカウンターで頼む。

 部屋に戻ったら、部屋の前で拳骨されました。

 死角、死角やめて…。



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