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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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マジカル講座、予約します。



 反省。

 反省しきりである。

 シュンとしちゃうオルタンシアに、シスターはどこまでも優しい。


「そんなに落ち込まずとも。昨夜は本当に危険な状態だったのですよ。本来なら今頃は、きちんとしたベッドで休んでいてしかるべき状態なのですから」


 膝枕に飽き足らず、爆睡だいしゅきホールドというとんでもない甘えポーズを披露した私、本気の涙目。


 ごめんねシスター、お母様の夢見てたよ、ごめんね。夢だから許されると思って、やりたい放題に全力で甘えてた。


 …まさか、寝相という形で、現実に影響するとはね。

 もう二度と、一人きりのとき以外、夢でも油断しない。


「違うのです。シスターのふんわりした雰囲気が、亡くなったお母様に似ていて。夢の中でお母様に甘えてしまったのです。いい年をして、お恥ずかしいことです…」


 私はプルップルで赤面していた。

 恥ずかしい。意味のない叫び声をあげて逃げ出してしまいたい。ぷっきゅおー。


「まあ」


「本当に申し訳ありません」


 シスターの何気ない一言に全てが凝縮されているよね。

 幼稚園児的ちっちゃい子なら「まあ、微笑ましい」って許されたかもしれないけれど、私はもう2年もすれば大人の仲間入りなのである。ほぼ成人女性、ワロエナイ。


 そりゃあ「まあ」以外の言葉が出てこなくて当然である。しかも初対面同然での、だいしゅきホールドて。


 顔を上げられない。赤面+冷汗+正座反省を続ける私に、シスターは以前と変わりのない調子で、おっとりと発言。


「…許します、フラン。今日はまずは休みましょう。気持ちを切り替えて、明日からトランサーグと共に護衛をして下さいね。無理だけはいけませんよ」


「はいっ」


 許されただと。貴女が神か。

 いや、女神とは、お母様のこと。


 ならば、シスターはアンディラートの仲間…大天使だ。グレート・エンジェル・マジカル・シスターだ。長い。

 もう、天使なのか、修道女なのか、魔法熟女なのか正体不明。神秘的。


 王都を出てしまえば、大袈裟に顔を隠す必要もないだろうと、包帯は撤去した。

 シスターの目があるので、マントの内ポケットにしまうふりしてアイテムボックスへ。

 今はフードも肩に落とした状態で、ガタゴトと馬車に揺られている。


 しかし、身体強化の加護付きの元従士や名の売れた冒険者ならまだしも、ご年配のシスターにこの馬車の揺れは辛いのではないかな。

 結構ぶ厚めのクッションを使っていらっしゃる。


 ラーメンの出前箱が揺れても汁漏れしない機構でも知っていれば、シスターの腰に負担のかからないものとか開発できたかもしれないのにな。


 残念ながら、内政チートのないメスゴリラには、何も改善できそうにない。

 会話して気でも紛らわせましょうぜ。


「そうだ、シスター。魔法についてお伺いしてもよろしいですか? 憧れなのです」


「あら。どんなことかしら」


 わくわくしながら、現役魔法使いに質問タイム。

 何らかの魔法使いであったろうけれど、隠していた様子のお母様には、何も聞くことはできなかったからね。


「どうやって魔法を覚えたのですか? 適正など、わかる方法はあるのでしょうか?」


 あわよくば私も使えないか。根底にあるのはもちろんそれだ。

 シスターもわかっているのだろう。目許が笑っている。


「適正の判断方法はわからないわ。ご存じかもしれませんが、教会ではしばしば、神の御技として回復魔法を会得することがあります。一般的には、その方が敬虔な信徒であったからだと、されているのだけれど…」


 おっとりとシスターは私を見た。


「教会では繰り返し聖書を読みます。大抵のものが暗唱できるほどに。ですから、神が奇跡を起こす様を、より鮮明にイメージできたものが、回復魔法を使えるようになるのだと私は考えています」


 …私の目が点になる。

 今、シスター、宗教的にマズイこと言わなかった?


 鮮明なイメージ。それは、奇跡の再現。

 教会関係者に発露する魔法は、神の御技ではない…そう言ったのだ。


「…シスター。魔法とは一体、何…どんなものだとお考えですか」


「世にあるのは教会のよく知る回復魔法だけではございません。ですから魔法とは、願望と想像の具現化を、世界に満ちる力を用いて行う技術でしょう」


 か、革新的ィ!


 およそ宗教者から飛び出す言葉ではない。シスターは神を信じていないのですか、なんて口が裂けても聞けないけれど。


「おっとり、ふんわりと、バッサリするところも、何だかお母様に似ています…」


 思いもよらぬ胸キュンで思わず俯いてしまった私に、シスターは再び「まあ」と一言だけ返した。

 俯いたままの私に、頭上から降るシスターのお言葉は続く。


「魔法を使えるものが少ないのは、もちろん身の内の魔力がイメージの具現化を引き起こすに足らぬことも要因と考えます。一歩を踏み出せるか否か、魔法使いとそうでないものの大きな違いでもあります」


 しかし、と彼女は続ける。

 如何に大きな魔力を持っていたとしても、それを現実にするためのイメージが不足していれば魔法使いにはなれないのだと。


「これは私の経験に基づく推論でしかありません。魔法使いが少ないために、魔法の研究は進んでおりませんから」


 そう。世間では、魔法よりも広く一般に使える魔石に対しての研究が盛んだ。


 魔法使いが量産できれば国益となるのは確かだが、魔石を用いた一般人に似たようなことができるのならば、それで十分。


 少ない魔法使いを探して研究材料にするより、参考程度にして魔石を研究するほうが、早く広く役に立つということだ。


 …つまり、魔法を使える人間を意図して増やせるなんてことはなく、その方法もわからない。それが一般論。


「シスター。もしかしてとは思うのですが、孤児院へ行かれた後には…子供達に、その…何らかの実験を?」


「実験だなんてそんな…! 非人道的なことなど致しませんよ。ただ、絵画などを用いて聖書を視覚的に理解してみたらどうかしら、とは考えております。私の推論を誰かに広める予定もございません。怪我や病気に抗う術が、子供達に渡る可能性が少しでも増すのなら、試してみたいのです」


 急に言葉が多くなったシスターは、本気で弁解しているようだった。私が発した実験という言葉の印象が悪すぎたのかもしれない。

 慌てて私も弁解する。


「もちろん、シスターが子供に非人道的なことをするなんて少しも考えておりません。私も貴女に救われた身なのですから、その無償の献身を理解しております」


 シスターがホッとしたように肩の力を抜いた。

 無闇に脅かしたかったわけではないのに、何か申し訳ない。


「しかし、イメージですか…魔力のことはよくわかりませんが、私にも魔法を使える可能性があると考えても良いのですね」


「ええ。フランが驚異的な回復を見せたのも、もしや無意識に魔法を使っていたからではないかと私は考えております」


 あ、そこは身体強化様のお陰だと思います。

 もちろんそんなことは言えないので、私も「なんと、もう魔法を使った可能性が!」などと大袈裟に驚いて見せる。


 でも、まあ…聖書的に神様が誰かを癒す様を想像して、魔力がそれを具現化したのだと思えば、回復魔法が教会関係者に多く発露する理由付けにはなる。


 けれど世の中には、回復魔法を使える、教会関係者ではない魔法使いだっていないわけではないのだ。


 回復か…。

 使えれば私もきっと生き延びやすくなるよね。

 今回だって、シスターが解毒してくれたから今はもう元気だもの。


 身体強化様の加護があるとはいえ、少しでも早く動けるようになるのなら、それに越したことはない。

 解毒が使えれば、私は真夜中の暴漢を倒せたかもしれないのだ。


 …あ、いや、今回は精神的にも無理だったとは思うけれどね。逃走が正解ルート。


 だけどもしまた似たようなことがあっても、前世と同じことにはならないという確信が持てた今、私はきっと暴漢と相対して戦うことができるだろう。


 解毒があれば…あの、身体強化様をもってしても動けないという、恐ろしい麻痺をも撥ね除けられるのだ。麻痺、マジ怖いわ。


 回復魔法、特訓してみたいけど…。


「シスター。私にも、その推論を試す機会をいただけませんか」


 シスターは少し目を見張ったけれど、すぐに「ええ」と嬉しそうに笑った。

 彼女にとっては私もまた、庇護すべき孤児と変わらないのだろう。


 神を信じていなくても、魔法を使える素養が、もし私に…っていうかお母様が魔法使いだし、ありそうな気がするんだよな。


 想像力ならばそこらの人よりも自信があるし、サポート能力の日常使用による一日の長もある、はず。

 ただ、魔力というものが、よくわからないのだよなぁ。


 シスター先生の講座で、そこもやってくれると信じたいところ。



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