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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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おかんアートじゃないもん…



 店にはなかなか行けないので、商人を家に呼んで、紳士物のハンカチを購入した。

 もちろん私の分ではない。


 …王子がいつまで経っても洗濯済のハンカチを送り返すというイベントを起こさないので、これは借りたハンカチを廃棄しやがったかもわからんわね、と思った次第です。


 私のハンカチは大して汚れなかっただろうが、アンディラートのハンカチは血まみれだ。廃棄になってもおかしくなかった。


 だからついでのように私のハンカチが一緒に捨てられていても、何もおかしくない。


 だって気付いてしまったのだ。

 あのとき渡したハンカチが、端切れの四辺を縫って刺繍をした、超ハンドメイドな一品であったことに。


 そして更には、その刺繍が、可愛いクマちゃんであったことに。


 暇潰しの刺繍には布が幾らあっても足りないから、クッションを作ったり(するという名目で仕入れた布でこっそりと庶民的私服を縫ったり)して出た布の切れっ端を、ハンカチや巾着にリサイクルしている。


 クマちゃんは、可愛さ強化月間でラブリー路線のものを集中的に作成したときのモチーフだった。

 …多分、男装の麗人が渡したのが驚きのクマちゃんハンカチだったので、お付きの人とかが怯えて捨てたのだろう。


 私のハンカチは自主提出だし、売るほどあるので惜しくないが、アンディラートのは取り上げられたようなもの。返ってこないのなら買ってあげようと思い付いたのだ。


 あわせてお父様の分も購入した。そちらは、既にプレゼント済だ。

 ハンカチを奪われていないお父様にも購入した理由? 単にお父様が好きだからよ!


 家令には、窓弁償のための賄賂なのかと思われたらしい。失敬だよね。

 そもそもお母様が選んだわけでもないのに、賄賂になんてなるわけがないのだよ。残念だったな、フフン。


 そうしてアンディラートの訪問を待ちながら…予備で買ったポケットチーフに刺繍を始めたら止まらなくなり。


「…すごい…かっこいい…」


 現在、目を真ん丸にした天使の手に、我が力の集大成が渡ったところであります。


「これ、貰ってもいいのか?」


「いいよ。気に入ったんならあげる」


 リアルな感じで縫い上げたワシさんである。見たことはないが、こっちにも鷲はいるのだろうか。2Pカラーじゃないヤツ。


 ちゃんと選んだ紳士ハンカチより、全力で挑んだとはいえ暇潰し刺繍のポケットチーフが喜ばれてしまう世の無情。


 それ、なんか胸ポケットからはみ出させるヤツじゃろ? あんまり使う機会ないんじゃないかな。

 広範囲の刺繍でデコボコだから、汗拭くのにも適さないだろうしな。

 一応、折っても配色が綺麗に出るようには考慮した。


「オルタンシア。ここに、うちの紋章も入れてほしい。可能だろうか」


 ちろりと上目使いをする天使。


「任せたまえ」


 可愛いさに負け、即、頷いた私。


 いや、上目使いしなくても、この程度のお願いを断る選択肢なんてないけどね。

 一旦戻してもらうと、見本として家紋入りの指輪がテーブルに載せられた。

 大人用でサイズが大きいので、普段は鎖に通して首からかけているらしい。


 貴族は、家紋の入った何かを常時所持していることが多い。必要に応じて身分証明代わりに使うのだ。

 サイズが合わないのは、ヴィスダード様もアンディラートも無頓着なので、家にあったものを適当に所持したせいである模様。

 成人したら、ちゃんと合うのを作ってもらう予定なんだってさ。


 ちなみに私のエーゼレットじるしはというと、護身を習い出した頃に懐剣に付けてもらっていた。


 アイテムボックスに入っているので、どんな軽装からでも提示可能だ。水着のときには胸の谷間から出そう。ロマンポケットだ。

 …いや、まだそこまでの谷間はなかったわ。無念。いつかきっとっ。


「…早い!」


 ちくちくと針を刺し始めると、アンディラートが驚嘆の声を上げた。


 身体強化様の加護は裁縫の速度にも現れるのだ。

 そして誤って自分の手を刺しかけた際も、手がものすごい反射速度を発揮して針を躱すので、大体無事。


 さすがに3分クッキン☆並とはいかないが、そうこうしているうちに完成だ。

 アンディラートの無邪気な笑顔、尊い。


「ありがとう。お礼に、俺も今度ハンカチを買ってこようかな」


「いや、大丈夫、足りてる」


 なんせ売るほどある。


 貰いっぱなしが気になるのか、アンディラートはちょっと残念そうだ。

 でも作りたいから増えるし、頑張った分だけ捨てる気にもなれずに、ひたすらアイテムボックスに溜まりゆく現状。


 超ハンドメイドだけど、店売りに引けは取らないから。自信あるから。

 フリーマーケットはどこですか。

 出品希望者がここにいますよ!


 いっそ孤児院に寄付するったって、それなら食べ物か服の方がいいだろう。

 でも、ハンカチと巾着は短い時間で手軽に作れて…やめられない。


 よくできたヤツにはオルタンマークを刺繍したタグを付け、オルタンブランド♪などと一人で遊んでいるのだ。

 寂しい子ですけど、何か?


「そうそう、ねぇ、アンディラート。特別従士って何? 何かそんなものの候補生になったと聞いたよ」


 先日の騒動の際、アンディラートだけが騎士達の供をした要因だ。


 べ、別にイルステンだけが知ってるのがお腹立ちとかそういうことじゃないしっ。

 私だって言えないことあるんだから、アンディラートにだって内緒の1つや2つあったっていいしっ。


 …そう。だから、言えなくてもいいけど…。

 でも、ちょっと言い忘れてるだけかもしれないしねっ!


「特に何かの候補生になった記憶はないけど?」


 きょとんとした顔で言われた。

 …これは…隠しているのか…?


「イルステンが、なんか、言ってたんだけど…」


「そうなのか? じゃあ、まだ決定じゃないから直接知らされてはいないけど、何かの話しがあるのかもしれないな。イルステンは騎士団長の息子だから情報が早いんじゃないのか?」


「あ、そうなのかな?」


「確定情報じゃないなら、話半分に聞いていたほうがいいだろう。そんな従士、聞いたこともないしな」


 隠してはいないようだ。

 そうだよね。

 アンディラートさん、隠し事が致命的に向かない子ですからね。


 そしてそんな彼が何か言いたそうにしていることに、私は気付いている。


「私が気になっていたのはそれだけなんだけれど、君は? 一体何が気になっているのかな?」


「う。…いや…」


「言いたくないならいいけど、アンディラート…顔には出てるからね」


 何とも言えない表情をして黙ったアンディラートは、5秒程沈黙したのち、溜息をついた。

 自分が隠し事に向かないという自覚はあるのだろう。

 あれ、そう致しますと、やっぱり私は隠し事されようとしてますのん?


「大したことじゃないんだ。サトリとは、定期的に会ったりするのかなって思っただけで」


「…ん? サトリさん?」


 なんでいきなり出てきた、サトリさん。

 また、どこかで出会ったのだろうか。


「サトリさんは、自分から私に会おうとはしないと思うよ?」


「…そう…なのか?」


「うん。正直、彼からするとお仕事の関係で一度関わっただけの相手だからね。もう関わる気はないと思う」


 アンディラートが納得いかないように眉を寄せた。

 そういえば、街では私が(脳内で)声をかけて、サトリさんは答えてくれたのだ。

 そこに立ち会ったうえ、近年遠征先で彷徨うサトリさんを保護してピーマンを貰って来たアンディラートからしてみれば、関わらないも何も…という感覚なのだろう。


「例えば、私が死にかけているところに遭遇しても助けてはくれないと思う。サトリさんは、私の人生に関わってしまうことのほうがまずいのではないかな」


 アンディラートは息を飲んで絶句した。

 …そんなに衝撃を受けることかしら?


「なんで…? オルタンシアは、それで平気なのか?」


「うん。えっと、彼はものすごくたくさんの人を案内しているはずだから、私1人に肩入れすると職務上不平等でダメ、かな」


「だけど、あの時は…手を貸してくれたじゃないか」


「アイテムボックスの使い方を教えてくれた時? 使えるはずのものが使えないと言われて、不具合がないか確認してくれただけだろうね。誰かに責められても言い訳できるレベルだったんじゃないかな、上司とかに?」


 俯いて考え込んでしまった相手に、私はひたすら首を傾げる。


「あの…そんなにサトリさんに興味があるの? 正直、私もそんなに彼のことを知らないというか…多分知っちゃいけないことの多い人っていうか…」


 本名も知らないよ…知っても発音できない可能性があるけど。

 そもそも『サトリさん』て私が勝手に付けたアダ名…。


 なぜか下界に来てはいたが、転生前に魂状態の私と会っているのだから、正体は人外なんだろう。

 決して我々と同じルールでは生きていない。


 魂の転生準備担当なんて、下手すりゃ死神ポジションよね?

 でも…やってたことはガラポンくじの受付だから、あまり偉くはなさそう。


 不可思議な存在だったろうとは思うけれど、今更話を持ち出す理由はわからないまま。

 やっぱり最近、会ってお話…はなくても、どこかで見かけたのかもしれないな。


「…いや。えっと…オルタンシアが、会いたいかなと思ってた」


「んん。やってくれるかは別にして助けてもらいたいことも今はないし、別に、ご用事はないかな」


 少しばかりご不満そうな色が残ったままのアンディラートの目に、私は意識して笑いかけてみた。


「サトリさんに頼れることって、あんまりないと思うの」


 チート能力の説明は終わってしまったのだ。

 これをどう使って生きるかは私の裁量であって、サトリさんは全く関係がない。


「それに君がいてくれれば大体のことは何とかなる気がするよ」


 アンディラートの不満の色が完全に払拭された。

 そうよ、頼れるものは心の友なのよ。

 己の天使っぷりにもっと自信を持って!


 むしろサトリさんではどうしようもないことのほうが多いのだよ。

 支えとかとか癒しとか、ストレス緩和とかプリティセラピーとか、主にそういうヤツな!




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