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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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さよなら、うさぎさん。



 甘さポッキリ道場としての正解は「正騎士先生に泣きついて、誰かに手伝ってもらう」でした。

 うん。普通のお貴族っ子なら一人でできるわけがなかったのだ。

 あれは、出来ると思い込んでいる子の鼻っ柱をへし折るのが目的の無理難題だったのだ。


 正騎士先生、私は何でも一人で出来ると思っているプライドの高い子というのが先生の評価だったのですね…衝撃だよ。

 また、絶妙に間違ってないってところが辛いね。

 …そして、結果として出来てしまった故にこんな目に遭ってる。


 そう、昼夜のご飯係になってしまった。


 正騎士先生の期待に答え、私は野菜スープを作ったよ。

 渡されたのは寸胴鍋と野菜だったし、簡単にそれなりの人数の腹を膨らまそうと思えば汁物になるのだろう。


 それにしても主食のパンが固すぎるから、ちょっとヤダなぁって思っていた。

 だから、さっさと消費して自分だけアイテムボックス内のブランデーケーキを食べようとしたのは事実だ。


 更には問題の、でかくて固くて塩辛い干し肉よ。

 試しに勢い良く打ち合わせてみたら、カスタネットのような音がした。完全に打楽器だった。


 今回こそは細かくしたから水分を吸収して食べやすくなってくれていたけれど…。

 もう、今後は削って汁物に入れる以外の選択肢がなさそうなアイツ。

 扱いに困って仕方がない。


 野菜があるのだし、この無駄に硬質の鉄壁旅食ペアには退いてもらってもいいと思うの。


 配給のパンを肉のかさ増しに使って偽ロールキャベツにしようと、干し肉を全力で細かくしてお湯で戻して混ぜ合わせ、キャベツで巻いた。

 干し肉の塊をみじん切りにするという、この離れ業。

 身体強化様、人知れず大活躍。


 ちなみに包丁はちょっと欠けた。内緒にしておいた。

 お湯で戻してから切れって?

 無理だよ、何時間かかるんだい。あんな塊、もはや鉱物だよ。


 イルステンの干し肉も強制的に徴収し、遠慮なく使い切った。


 決して意地悪ではない。

 配られたときにこっそり「干し肉マズイから、多分食べることなく持ち帰る」とか言ってたからです。

 それこそ君のパパである騎士団長に改善を訴えていただけませんかね。


 だというのに「使うなら」と正騎士先生の分も提供されてきた。

 なんぼ出てくるんだよ干し肉! みじん切るの疲れる!

 いや、人数分×日数だよね、冷静に考えれば。全部提出されなかっただけ良かったのだ。


 でも、正直そのときは、カッときた。

 もういっそ干し肉なんか明日から要らないじゃろ!って思って…。


 …もしかして、先生の分も使い切ったから、怒ってんのかな?


 渾身の『ロールキャベツ風の何かのスープ』は残されこそしなかったけれど、誰も感想を言わなかったし、何だか困惑げな顔で恐る恐る食べていたように思う。

 皆、私とは味覚が合わなかったのかな。弱ってるのに肉は辛かったのかな。

 一応、胃の調子を考えて、アイテムボックスから秘蔵のラディッシュまで放出してあげたのにな。

 そんな風に思っていました。

 ちなみに、ラディッシュは育ててるプランターごと持って来たよ。非常食!


 しかしながら、翌日の朝起きてみたら、満場一致でご飯係に指名されていたのだ。

 当たり前のように正騎士先生に、今日明日の皆のご飯作れって言われた私の気持ち、誰かに伝われ。


 炊事も含めて訓練じゃないの? え、だから朝は各自でやる? 飲み物入れてパン齧るだけじゃん!

 わかりましたとしか言えない、あの空気は一体何?


 …やっぱり正騎士先生の干し肉を使い切った罰当番なのかしら。


 いやいや、えぇと、あれだ。前世平民女子の異世界パパッとクッキングは、きっと好評だったのだ。

 馬車に叩きつけられるが如く揺られ、固いパンと干し肉を前に憔悴しきっていたボロッボロの貴族の子弟の胃袋など、私の敵ではなかったという…。


 とはいえ、どうする、あと4食。せっかくご飯係に任命したのに残りのご飯はまずかったとか言われたらムカツクよね。

 でも支給食材は塩と野菜と干し肉しかないから、変わったメニューなんて出来ないのだぜ。胡椒すら私の持ち出しなのだぜ。


 やっぱりまたアイテムボックスから放出かしら…あとで中身を確認しよう…。

 うう、私のアイテムボックス内の時間は止まらないから、簡単調理できる献立に合わせたものが入ってるのにぃ。


 トントン、と肩を叩かれて私はハッとした。

 イルステンだ。


「先にやるか?」


「いや、始めに言った通り、私は最後で構わない」


 フン、と鼻を鳴らして睨まれた。

 こんな友達は要らぬ。アンディラートの可愛さを見習え。


 2日目の日程は、この遠征、魔獣掃討の名の通り。2班に分かれて森の中で魔獣を狩る。

 ただし、勇ましい名称に反し、まだまだ初心者向け講習である。


 午前はレクチャーを兼ねていて、引率の騎士が見つけた魔獣を一人ずつ仕留めにいくスタイル。

 午後はバラバラに行動して狩れるだけ狩って来いスタイル。

 正騎士先生はもう一方の班の引率になったので、こちらには副担任みたいな騎士がついている。


 一人1匹のノルマがある以上、見つけられなかったら大ピンチ。午前の部で狩る順番が後になった従士は不利だ。

 …というのが皆様の考えらしく、今までの順番は積極的挙手からのじゃんけんにて決まっていた。


 私とイルステンは「いつでもいいや」という顔をしていたので軽く後に回された。

 私はグリューベルを偵察に放っているので、付近の狩りポイントを随時確認しております。


 それにしても、気分の悪い遠征だった。


「それっ! くそっ、逃げるな!」


「きゅー!」


 …辛い。

 うさたんが。可愛い声で鳴くのが辛い。


 躊躇わずに殺せる…かな…あんまり自信ないけど…。

 おでこに生えた立派な角で襲ってくるから、視覚的にはちゃんと敵と戦っている感じがある。

 でも声が可愛い。

 辛い。すごく非道な感じ。


「よし、オルタンシア君で最後だな。…あそこにいる兎を狙え」


 うわぁん! 鳥のほうが、なんか多分気分的に少しはマシだった気がする!

 だって、さっき倒されてた鳥はグガァッて鳴いてたもの!


 けれども文句は言えないので、素直に良い子の返事をして剣を抜く。

 ぴぴっと長い耳を揺らして警戒した兎。

 長い角。よく見たら前歯もすごく出ていて可愛くない。


「きゅっ!」


 でも、声がすごく可愛い。辛い。

 知らず、ぎゅうっと眉が寄ってしまっていた。

 なんで他の人達は平気な顔して斬りにいけるのかしら。


 いやいや、きゅーは可愛いから駄目で、グガァは可愛くないから良いなんて話はない。


 甘えがチラついたけれど、今の私は、男装の麗人である。

 敵が可愛いので戦えませんとか、おうち帰れって言われても仕方がない。


 もしも、お父様を殺そうと襲ってきた刺客が、純真無垢な顔をした子供だったら殺さないのか?

 …そんなわけはないよね、顔とか年とかどうでもいい。絶対息の根止める。

 ホレ見ろ。私はそういう奴だ。可愛振るんじゃないっ。

 自分を叱咤して何でもない顔を取り繕った。


 とはいえ…仕留めたときの詳細は、ちょっと色々思い出したくない。

 全員がノルマの1匹を午前の部で仕留めたため、水場に移動し解体レクチャーに入る。


 やめて、私のライフはもうゼロよ。

 げっそりの内心を押し隠し、ニヒルな笑みを浮かべてイルステンのヘタクソな皮剥ぎを見つめ、怒らせる。


「オルタンシア君は解体も初めてなのか? …そうか…本当に惜しいくらいの人材だな…」


 だって身体強化様の加護が、私を、私を器用にぃ。

 癒しが欲しいよー。今こそ痛切に癒しを求めているよ、私は!


 他の人よりも早く解体を終わらせた私は、角と皮と魔石、そしてモザイク必須のアレを先生に提出する。

 暇になったので、手を洗っても落ちなかった様々な異臭を、試しにそっとアイテムボックスに入れてみ…たら入ったァ!

 おてて臭わない! ビックリ!


 アイテムボックスについてはもっと検証の必要があるようだ。

 うおぉ、試したい。色々試したい。でも誰かに見られるような場所での検証、ダメ、ゼッタイ。

 ローからハイへと急激なテンション移動。むしろ落ち着くのが大変。


 兎性鬱から回復した私は、気になっていた小さな疑問を解決するため、騎士の横にちょろりと近付いた。


「魔獣のお肉は食べられないのですか?」


 皮と角と魔石は所定の袋に入れるように指示されたが、無残な本体は割と無造作に積み上げられている。

 色々とはみ出したりしているので、もう目のやり場がない有様だ。

 騎士はちらりと兎の残骸を見る。


「いや、そんなこともない。しかし…まぁ、やめておけ」


 あくまで今日の狩りは練習のためだから、ということだった。

 それだけの説明では納得していないのがわかったのだろう。

 まとめて解体作業をするために長く持ち歩いたので、肉は不味くなっているだろう。内臓を傷つけているものもある。そんな言葉が続いた。

 食べられるものを食べられなくしたと言われてしまうと、何だかシュンとしてしまうのは、元日本人だから?


 内臓を傷つけると食べられないのは何でだろう。洗ったり、周りを取り除けば食べられるのではないだろうか。

 倒した後に、どのように処理をすれば食べられるようになるの?

 不思議に思って尋ねれば、騎士は表情を曇らせた。


「…そんなにその肉を…使いたいのか?」


 えっ。なんかドン引かれてる?

 食べてこそ供養、みたいな言葉はない感じ?


「え、いえ…干し肉よりも、新鮮なお肉が手に入るならそのほうが良いのではないかと思って。それに、廃棄する部分は少ないほうが自然に優しいのでは…」


 自然に優しいって何だい。

 自分で自分にツッコミを入れながら弁解する。

 ほら案の定、意味がわかりませんって顔されてる!


「まぁ、せっかく狩った獲物の、無駄にする部位は少ないほうが良いという意見も、理解できなくはない」


 良心的解釈、ありがとうございます。

 そうだねー、ですねー、ウフフアハハ、みたいな感じで会話は終了した。

 食べられなくないって言うから、じゃあどうすればいいのかって聞いただけなのに、何だか弄ばれた気分だよ。






 …その後、騎士から相談を受けたらしい正騎士先生に、こっそりと「兎魔獣の肉は都市伝説的に精力剤扱い」と聞いて盛大にヘコむはめになる。

 鳥もあったじゃん…あの場には鳥だってあったじゃん…。



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