更に、全力で参ります!~決闘:中堅~
「ジルドレイド・ヒッタール、参る!」
「オルタンシア・エーゼレット。…無論、全力で参ります」
二人目のクズは自ら剣を取った。
良い覚悟だ、と言いたいところですけれども…。
「始め!」
「うおりゃああぁぁぁ」
開始の合図と同時に相手は駆け出した。
私は剣を抜いた姿勢のまま、相手の出方を見る。
がしょん、がしょん、がしょん…
「ああぁぁぁぁぁ」
がしょん、がしょん、がしょん…
あの…走ってきてくれるのはいいけど、遅い…。
その甲冑チョイス、失敗だったんじゃないのかな。
「ふんぬ!」
掛け声だけは気合十分で、大剣を振りかざした相手。
あの、まだ距離あるよ?
全体的にスローリーすぎて戸惑う私。
ギリ避けが基本カッコイイと信じていたのに…この遅さ相手では避けれて当然。
追いかけっこするか? ウフフつかまえてごらんなさ~いってするか?
…いやいや。キャラブレはいけない。
それならギリ避けかつ、ドS顔でニヤニヤしていたほうがまだマシかな。
「何を突っ立っているか、小娘! 迫力に押されて剣を構えることも出来んか!」
相手からかけられた言葉。一瞬、脳が理解を拒否した。
「…申し訳ない。少し、待つのに飽いてしまっていた」
それだけ言って横にかわし、少し距離を取った。
相手の剣を引っ掛けてすっ飛ばすくらいは出来るだろう。獲物を失えば降参するに違いない。
甲冑の隙間狙いはちょっと難しいかなぁ。
思いながら、剣を振る。
しかし剣は、ガギィン!と硬い音を立てて阻まれた。盾だ。
隠れて見えていなかったけれど、背に大きめの盾を備えていたらしい。
今までの鈍足はなんだったのかという速度で構えられたそれは、完全に私の予想外であった。
な、なかなかに手が痺れる。
「この鉄壁のジルドレイド、抜かせはせん!」
…え…どうしよう…ドヤ顔された…。
二つ名流行ってるのかな、私も欲しい。
力が抜けそうになるのを気合で隠し、自信満々のその盾から、跳んで距離を取った。
鈍足であろうとも、自信に納得の盾職か。
考えてみれば、当主たる彼らはいわば指揮官…いいや、旗印。
ただ、討たれなければ良い立ち位置だった。
速く強くなくても周囲に強い者を置けば問題ない、堅ければもうそれだけで十分なのだろう。
手が痺れたのは私の慢心のせいだ。
…侮ったり何だりして負けたら悔やみきれない。
やっぱり私は全力勝負に出るべきなのだ。
「いいえ、抜きます」
身体強化様に頼りきれば、近距離からでも対処可能ではあると思うのですが。
こんな重たそうな相手を涼しい顔で弾く小娘は異様だろうな。
うむ、見るからに素早さメインの私には、こんな小細工も必要だ。
地面に張り付くように身を低くし、そこから身体強化でカエルの如く大ジャンプ。
くるりと縦回転を入れて速度を増し、上空からの急襲だ。
先日アンディラートを押し倒したことで思い付いたこの方法が、早速役に立つとは。
オッサン相手に、ルペェン・ダイヴ!
…そんな気分で、いと哀し。
構えて待ち受ける相手の盾を、空中で横一回転加えて身体強化を乗せ、蹴り払う。
簡単にとは言わないが、正面からの衝撃に備えていた盾は排除された。
相手の上に膝着地の勢いのまま、オッサンを押し倒し。
すかさず兜を毟り取って遠くへ放り投げ、喉元にピタリと剣先を突きつけてやる。
盾相手に正面から打撃勝負なんてしませんわ。
二回も手ェ痺れたくありませんわ。
「ぬ…ぐぅっ…」
「降参していただけますね?」
相手はなかなか首肯しない。
突きつけた切っ先を、そっと押し付ける。
…ちょっと横に引けば殺せる。
お母様の死を冒涜し、お父様を危険にさらしたこの男を、この世から消し去れる。
でも、ダメね。
それは、お母様を守れなかった八つ当たりかもしれないもの。
私が守れてさえいれば、きっとこんな決闘も必要なかった。
「貴方の命なんて、心底どうでもいい。でも、こんなことで死ぬなんて不名誉で間抜けね。ご家族が可哀想」
相手に聞こえるように、周囲には聞こえないように呟いて、ひたと視線を合わせた。
「年甲斐もなく着た甲冑が重かったとでも言い訳なさいな。どちらにせよ無様だけど、一人で無駄死にするより三人仲良く笑われろ。そして他に馬鹿が出ないように防波堤になれ」
「…ふん。それが目的か」
「死ぬよりマシでしょう。この決闘での死に、名誉はないのだから」
「…この年の娘が、己をも駒にするか。間違いなくエーゼレットの娘だな」
突然、お父様と親子認定された。認定されずとも親子なんですけど。
え…私、なんか腹黒いこと言ったか?
逡巡の間、相手は降参の声を上げた。
であれば、いつまでも相手の上に乗り上げているのも美しくない。
「勝者、オルタンシア!」
審判の声に、さっと身を翻して剣を鞘に納め、定位置へ戻る。
未だ起き上がらない相手に対して、一礼。
がしゃ、がしゃしゃ、がしょ。
…誰も私のカッコイイ礼なんて見ていない。
周囲の目線は音の原因に釘付けだ。
…頼むよ…なんで鎧重くて起き上がれないのよ、やめてよ…。
あまりにもあんまりな敵に、脱力を禁じえない。
口だけか。お前達は口だけヤロウなのか。
チート抜きの私と同じですね、コンチクショウ!
周りを取り囲む観客から、相手方への野次が飛ぶ。
…一戦目は一撃、二戦目は倒されたら起き上がれないとか…確かに不甲斐なく見えるのだろう。
こんな子供相手に、何をやっているのかと。
撤去されゆく甲冑男。
横目に見ていると、連戦で良いのかと確認をされたので頷く。
ようやく決闘三人目だ。




