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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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32/303

更に、全力で参ります!~決闘:中堅~



「ジルドレイド・ヒッタール、参る!」


「オルタンシア・エーゼレット。…無論、全力で参ります」


 二人目のクズは自ら剣を取った。

 良い覚悟だ、と言いたいところですけれども…。


「始め!」


「うおりゃああぁぁぁ」


 開始の合図と同時に相手は駆け出した。

 私は剣を抜いた姿勢のまま、相手の出方を見る。


 がしょん、がしょん、がしょん…


「ああぁぁぁぁぁ」


 がしょん、がしょん、がしょん…


 あの…走ってきてくれるのはいいけど、遅い…。

 その甲冑チョイス、失敗だったんじゃないのかな。


「ふんぬ!」


 掛け声だけは気合十分で、大剣を振りかざした相手。

 あの、まだ距離あるよ?

 全体的にスローリーすぎて戸惑う私。


 ギリ避けが基本カッコイイと信じていたのに…この遅さ相手では避けれて当然。

 追いかけっこするか? ウフフつかまえてごらんなさ~いってするか?

 …いやいや。キャラブレはいけない。

 それならギリ避けかつ、ドS顔でニヤニヤしていたほうがまだマシかな。


「何を突っ立っているか、小娘! 迫力に押されて剣を構えることも出来んか!」


 相手からかけられた言葉。一瞬、脳が理解を拒否した。


「…申し訳ない。少し、待つのに飽いてしまっていた」


 それだけ言って横にかわし、少し距離を取った。

 相手の剣を引っ掛けてすっ飛ばすくらいは出来るだろう。獲物を失えば降参するに違いない。

 甲冑の隙間狙いはちょっと難しいかなぁ。

 思いながら、剣を振る。


 しかし剣は、ガギィン!と硬い音を立てて阻まれた。盾だ。


 隠れて見えていなかったけれど、背に大きめの盾を備えていたらしい。

 今までの鈍足はなんだったのかという速度で構えられたそれは、完全に私の予想外であった。


 な、なかなかに手が痺れる。


「この鉄壁のジルドレイド、抜かせはせん!」


 …え…どうしよう…ドヤ顔された…。


 二つ名流行ってるのかな、私も欲しい。

 力が抜けそうになるのを気合で隠し、自信満々のその盾から、跳んで距離を取った。


 鈍足であろうとも、自信に納得の盾職か。

 考えてみれば、当主たる彼らはいわば指揮官…いいや、旗印。

 ただ、討たれなければ良い立ち位置だった。

 速く強くなくても周囲に強い者を置けば問題ない、堅ければもうそれだけで十分なのだろう。


 手が痺れたのは私の慢心のせいだ。


 …侮ったり何だりして負けたら悔やみきれない。

 やっぱり私は全力勝負に出るべきなのだ。


「いいえ、抜きます」


 身体強化様に頼りきれば、近距離からでも対処可能ではあると思うのですが。

 こんな重たそうな相手を涼しい顔で弾く小娘は異様だろうな。

 うむ、見るからに素早さメインの私には、こんな小細工も必要だ。


 地面に張り付くように身を低くし、そこから身体強化でカエルの如く大ジャンプ。

 くるりと縦回転を入れて速度を増し、上空からの急襲だ。

 先日アンディラートを押し倒したことで思い付いたこの方法が、早速役に立つとは。


 オッサン相手に、ルペェン・ダイヴ!

 …そんな気分で、いと哀し。


 構えて待ち受ける相手の盾を、空中で横一回転加えて身体強化を乗せ、蹴り払う。

 簡単にとは言わないが、正面からの衝撃に備えていた盾は排除された。

 相手の上に膝着地の勢いのまま、オッサンを押し倒し。

 すかさず兜を毟り取って遠くへ放り投げ、喉元にピタリと剣先を突きつけてやる。


 盾相手に正面から打撃勝負なんてしませんわ。

 二回も手ェ痺れたくありませんわ。


「ぬ…ぐぅっ…」


「降参していただけますね?」


 相手はなかなか首肯しない。

 突きつけた切っ先を、そっと押し付ける。


 …ちょっと横に引けば殺せる。

 お母様の死を冒涜し、お父様を危険にさらしたこの男を、この世から消し去れる。


 でも、ダメね。

 それは、お母様を守れなかった八つ当たりかもしれないもの。

 私が守れてさえいれば、きっとこんな決闘も必要なかった。


「貴方の命なんて、心底どうでもいい。でも、こんなことで死ぬなんて不名誉で間抜けね。ご家族が可哀想」


 相手に聞こえるように、周囲には聞こえないように呟いて、ひたと視線を合わせた。


「年甲斐もなく着た甲冑が重かったとでも言い訳なさいな。どちらにせよ無様だけど、一人で無駄死にするより三人仲良く笑われろ。そして他に馬鹿が出ないように防波堤になれ」


「…ふん。それが目的か」


「死ぬよりマシでしょう。この決闘での死に、名誉はないのだから」


「…この年の娘が、己をも駒にするか。間違いなくエーゼレットの娘だな」


 突然、お父様と親子認定された。認定されずとも親子なんですけど。

 え…私、なんか腹黒いこと言ったか?

 逡巡の間、相手は降参の声を上げた。


 であれば、いつまでも相手の上に乗り上げているのも美しくない。


「勝者、オルタンシア!」


 審判の声に、さっと身を翻して剣を鞘に納め、定位置へ戻る。

 未だ起き上がらない相手に対して、一礼。


 がしゃ、がしゃしゃ、がしょ。


 …誰も私のカッコイイ礼なんて見ていない。

 周囲の目線は音の原因に釘付けだ。


 …頼むよ…なんで鎧重くて起き上がれないのよ、やめてよ…。


 あまりにもあんまりな敵に、脱力を禁じえない。

 口だけか。お前達は口だけヤロウなのか。

 チート抜きの私と同じですね、コンチクショウ!


 周りを取り囲む観客から、相手方への野次が飛ぶ。

 …一戦目は一撃、二戦目は倒されたら起き上がれないとか…確かに不甲斐なく見えるのだろう。

 こんな子供相手に、何をやっているのかと。


 撤去されゆく甲冑男。

 横目に見ていると、連戦で良いのかと確認をされたので頷く。

 ようやく決闘三人目だ。



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