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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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披露宴①~やはり客はほぼわからなかった。



無事に式の全ての行程を終え、アンディラートと手を繋いで来客へ感謝の礼。

アンディラートは誓いのキスの影響でほんのり頬を染めているけれど、顔色は完熟トマトみたいにはならず。

良かったよ。赤面レベルがあまりに高いときは、お医者さんを呼んだ方がいいのかって悩むものな…。


一番の難関だと思っていた誓いのキスが、サッと素早いデコチューで終わったので、そんなに赤くならずに済んだようだ。なぜおでこだったのかは謎。

赤面具合の心配はしていたけれど、また勝手に「結婚式のキスとは口にするもの」だと思い込んでいたよ。

おでこだけでなく、さては何かもう手でも頬でもどこでもすりゃいいのね?

参列者も聖職者もお祝いムードで、誰からも何も言われなかったので、問題はない様子。

…でも私達にはそれで丁度良かったのかも。

ほら、人前で2人とも大きく取り乱さずに済んだからね。我々、羞恥耐性が紙だから…。


アンディラートが一番心配していた予測不能のヴィスダード様の奇行も特になく、美貌の魔法使いリスターに食い気味の縁繋ぎをしようとするものも、式の間はなし。

ざわつきもなく、皆きちんと式のマナーを守っていてくれました。素晴らしい。

貴族って自己中な人が多いから、ダメな時は本当にダメらしいのに…これはやはり王様という重石がいるからかしら。

つまりは「グッジョブ、王様を連れてきたお父様」ということですね!


でも王様のお話コーナーは特に要らなかったよ。聖職者に続いての、このお話力ったら。偉い人、お話長いの何なの…。国王だし、校長先生のお話ポジなのかなぁ。

普通の結婚式でも、披露宴でなら上司からのお言葉みたいなのはあるから仕方ないのか。全国民から見ると、株式会社トリティニアにおける代表取締役社長が来ちゃったようなもんだものな。式で話す必要は感じないけど。

まぁ、我々ふ、フゥーフ(裏声)は国の機関に就職はしていないけれど、貴族は既に王家の配下。王から賜る爵位だものね。

…うん、幾ら何でもフゥーフ(まだまだ裏声)はヒドイと気付いてはいる。だけども。

ふ、夫ッ婦でしてよ!と緊張なく名乗るのはなかなか難しいものでして。しかし、時が経てば自然と慣れるものよね。

えぇ…本当? 私、慣れられるかな…。


王様はダレる寸前くらいの微妙に長い話をし「今後も活躍を期待しているよ、オメ!」みたいに締めてくれました。

一応これで王様公認カップルだから、王太子みたいな謎の横槍は「王様の認定付きなのにィ? じゃあ文句は王様に言え、さぁさぁ言ってきてみやがれよ!」ってできるよね!

…何だったんだろうな、あの王子は。

私を行き遅れにして、イジる話題にしようとか、そゆこと? もうあの若白髪むしるか?


しかしこの後は披露宴。そう、宴会だ。

ちょっと不安だよ、お酒も入るし。

ご無礼ストッパーの王様も、忙しいからってちょっとだけいたら去る予定だ。

むしろ、よく来たよね、本当に。お父様の日頃の仕事ぶりとかお人柄のお陰であろうな。

脅した可能性? …ハハッ、そんなまさか。


更に聖職者も建前上は清貧の人なので、飲み食いはせず書類を収めに即帰ります。

渡すのは寄付金だけで良いらしいけど、一応食事も詰めて持たせたよ。打合せ段階で、聖職者の胃袋についてアンディラートが本気の心配をしていたので、折詰めを提案・お父様の許可を得たのだ。


残念ながら前世の記憶に結婚式の豆知識はなく役に立たず。葬式や法事なら、坊さんに食事持たせて帰してもおかしくない気がするが、結婚式はわからんなぁ…。

まぁ、要らなければ適当に部下とかに下げ渡すでしょう。

空腹が限界なら帰りの馬車で食べると良いよね、と言えばアンディラートは目に見えて安心していた。


…正直なところ、聖職者の胃袋は常人並であろう。教会まで戻って教会のご飯を食べても、そんなに限界ギリギリみたいなアレではないとは思う。

だが、こちらとしてはお弁当を渡してさえおけばアンディラートの笑顔が守られるのだ。ならば渡さない道理もないよね。

お早めにお召し上がりいただけば食中毒なんて出ないはずさ。後は野となれ山となれ。


披露宴は、本当にただの宴だ。

式同様にシンプルなもので、ケーキカットやらのイベントなどは特にない。存分に飲んで食べて語り合ってね!というだけの場だ。

ライスシャワーやケーキバイトがない代わりか、ここでガッツリ沢山の招待客に沢山の料理を振る舞えたほど、後々おうちが繁栄するよ!という謎のジンクスがある。

本来は王都中の貴族を招待するのだし、その中で上手く縁を繋げたなら繁栄するのはあながち間違いでもないので、意味としてはそういうことなのだと思う。


私達と全く関わったことのない招待客達にとっては、ここからが貴族活動メインの場。私達の義母方の実家の人々にとっても、お望みの狩りの時間である。

そう、社交会場と化した披露宴では、あちらこちらで楽しげに見せかけた腹芸が繰り広げられているのだ。

何度でも言うけれど、結婚だけ祝いに来いよ、素直にさ…。

極論、知らない人達だから、祝ってくれなくてもどうでもいいけども。


「おい! 結婚おめでとう!」


そんな中、乱暴な呼び掛けで現れたのは、アンディラートのお友達のようだ。

余所行きの顔で微笑んでいる私に気味悪そうな目を向けてくるのだが…何だろう。

在りし日の決闘従士な私のことを知ってる人なのかも。もしかして従士隊にいました?

アンディラート同様に、運動部系の男子は皆様、成長著しいものですから…、おや?


「ありがとう。イルステンも婚約中だと聞いたが、式はいつだ?」


「まだまだ先だよ。出世が最優先だろ」


…えっ、これ、イルステンなのか!

わぁ、予想していた通り…全くわかりませんでしたね! 二度見しても、髪の色だけしか記憶と合致しない。むしろ少し色抜けた? 微妙に記憶と合致してないな。

おっきくなったし、何と言うか…プライド高そうなツンケン貴族に見えるぞ。

でも元々プライドばかり高めなツンケンヤロウだったかな。順当な育ちか?

昔は絡み男だったが、今はどうなのだろうね。絡まれた過去は…思い出すと腹立つので、今日は忘れます。感謝せよ。


しかし…デレるかどうかは知らないけど、この世はツンな男が多いのかしら。

イルステン、リスター、トランサーグ。なんか私の知り合いって皆ツンケンしてない?

アンディラートがツンな子じゃなくて良かったな。こんな天使に邪険にされたら、私が泣いてしまう。


どちらにせよ、花嫁はこの席ではあまりお喋りで盛り上がらずに、ニコニコしているだけが一般的だと聞いている。口は挟まないぞ。

雛壇から動いたら、通常の社交として話していてもいいらしいんだけどね。

人目があるので、マシンガントークは今日1日NGですよ。する予定はないけれど。

お口チャックで笑顔を張り付けていると、するりと寄ってきたリスターが、私達の斜め後ろに立った。

まるで護衛の立ち位置だ。


「まあ、リスター? どうなさったの、なぜそんな位置にいるのかしら」


「うわキメ…何でもねぇ、俺は居たい場所にいるんだよ。放っておけ」


おーい、私のお嬢様モードに今、キモイって言いかけましたわね!

そして見知らぬ方々と縁繋ぎする気がゼロのため、私を防波堤にしようとしている気配がビンビンしてます。

いいよ、護衛のふりでいるが良い、野生の魔法使いよ。同じ野生動物っぽい生き物のよしみだ。出席してくれただけ僥倖だものな。

でも、ここは私達に挨拶に来る人達が沢山現れる予定だから、話しかけられないとしても存在は目立つのだぜ。

全員から顔と名前を認識されるぜ。今でなくとも、後からの勧誘がウザくなるのでは。


一通りの客からおめでとうコールをいただくまで、私達はこの席を離れられない。

そんな我々の側に立ち、同様に離れなくなったイルステンとリスターには、給仕より飲み物が手渡された。

リスターはわかるけど、なんでイルステンはここに長居を?


…と思ったら、王都を長く離れていたアンディラートの社交補助だった。

あれはどの役職の誰だぞとか、どこ家の第何子だなとか、近寄ってきたら耳打ち。

会話の流れによっては、自然に口を挟んで話題のトスまでしてる。

なんと。こやつ、いつの間にそんな気のきくことができるように…。


彼も成長していたのかぁ。私の脳裏でキャンキャン吠えていた小型犬が、やや落ち着いた中型犬にクラスチェンジした。

…大型犬って言おうかと思ったけど、アンディラートの方が背が大きいから…。

大型犬の世話を甲斐甲斐しくする中型犬にしか見えないんだな。

うーん。ゴールデンレトリバーとシェルティかしら。毛艶は良いな。


スマイル要員の私は相槌くらいしかせず、ニコニコと無料の笑顔を振りまいている。

だが、アンディラートに話しかける中には、こう…嫌味混じりな人とかもいた。

結局祝わんのかよ。何しに来たのよ。


しかもここは嫁ニコニコゾーンだから、私はあんまり話題振られたりしないのよ。

そしてもし耐えずに口出しすると周囲から「あれは良くないタイプの嫁だな」とか思われちゃうわけでしょ。駄嫁オメ!ってアンディラートが嘲笑されちゃうわけでしょ。

ぐあー。あいつアイテムボックスにサッとインして遠くにポイしてやりたいィ。


イルステンも「次の人が来そうだからそろそろ」とか口を挟んで追い払おうとするのだが、口八丁手八丁の相手には分が悪いっぽい。…彼も口の上手い子ではないものな。

内心プンスカしてしまうが、アンディラートは遠回しな嫌味など、気にする素振りゼロという勢いの対応であった。

…もしかして、気付いていない?



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