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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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感動の再会(一方的)



目の前には顔を歪めた魔法使い。

背後には、途中で特徴を落っことしてきたために群衆に溶け込みそうな山賊貴族。

帰ってきた王都で、私達がまずしたことは、銀の杖商会への訪問。迷子の冒険者を、探し人へと引き合わせることだった。

何せ、山賊貴族はリスターを探してここまでやってきたそうなのだ。


「いやぁ、グレンシアで活動を続けるんだと思ってたのに、気付いたらトリティニア行ったって言うし。来たら来たで、ギルドに聞いても幾つか護衛依頼を終えた後はパッタリ何も受けちゃいないって。なんで依頼の後も王都にいるんだ? お前、引き返すなんて機能付いてなかったじゃないか。依頼履歴も更新されないから、てっきりもう王都にはいないと思ってガンガン南下してたわ」


チビ君に会わなかったら、まだまだ見当違いの方向に進んでいたな!と笑顔でリスターの肩をペシペシと叩く。

すんごいイヤそうな顔してるけど、振り払わず大人しく叩かれているので、やはりリスターにとって山賊貴族はお友達なのだろうな。

顔、すんごいイヤそうだけど。(2回目)


「どこで活動しようが俺の勝手だ。お前こそ、こんな田舎まで何しに来たんだ」


い、田舎言うなし、これでも大国枠なんだぞ。

事実だし自分や同郷の人が言う分には良いけれど、他国の人には言われたくない…これ正に田舎者の心理である。


リスターも、再び追いかけられるような謂れはなかったのだろう。

彼らのパーティは一時的なもので、ずっと一緒に仲良く旅を続ける仲間というわけではなかったはずだ。

前回は、リスターが肩代わりしてくれた負債を払うために探していたらしいけど、もうその精算は終わっているものね。


リスターは現在ほぼ銀の杖商会専属のようにして過ごしており、冒険者活動でもなければわざわざ私達と一緒にいる必要はないと宣言していた。

実家に帰ったのなら今のところ自分の手は要らないだろう、と言うのだ。そゆとこ、サバサバしているね。


遠い親戚だったら良かった立ち位置だからな。もっと近しい人が何かしてくれそうな状況なら、放っておくものなのかもしれない。

彼は旅路の中では、ちょっとした私の保護者っぽい意識でいた。

しかしここは私の故郷で、実家の目も届く。


彼は部下ではないし、従者でもない。

私のお買い物に引き回すのも、アンディラートとの婚約挨拶に連れていくのもおかしいから、以前より少し離れてしまった距離感は、当たり前のことなのかなぁとも思っている。


少し寂しい気持ちはあるが、リスターの分類は、そもそも「好き勝手も失敗も許せる、人付き合い練習中の同族」。

化粧室までご一緒する女子風の、いつでもベタベタ仲良くお友達というタイプのものではない。

お互い、好き勝手に生きる予定の関係だった。身の危険がなければ、相手を拘束しようとは思わないよね。

互いに守護しなきゃゲージが高まっている場合などには、誤ってそう見える時もあるとは思う。

でも、それは距離感初心者ゆえのミスなんですよね。


銀の杖商会は変わらずリスターを囲いたいとラブコールを送っており、あれこれと細かな直接依頼を繰り返していた。

山賊貴族が「もう王都では仕事してないんだな」と勘違いしたように、ギルドに依頼履歴が残ってないのはそのせい。

報酬に食事と寝床の提供が含まれているので、貴族邸宅よりそちらで面倒を見られる方が彼も気が楽そうであった。

…でも、まだ商会専属にはならないらしい。

外堀は埋まりきって見えるのに、諦めの悪い魔法使いだ。


銀の杖商会の馬車置き場で、何となく2人の様子が気になって立ち去りがたい私。

そして私を急かすこともなく、長丁場を察してこっそりと干し肉を口に入れ、おやつタイムを取っているアンディラート。

…あ、モグモグしてるの、銀の杖商会の人にバレた。

瞬間的な、店員同士の目線だけのやり取り。


素早く駆けていった店員の1人が、お茶とお菓子を持って早歩きで戻ってきた。

更に2人店員がやってきて素早く野外用のテーブルと椅子を設置。あれよという間に私とアンディラートは観戦席へとご案内された。


さぁ、どうぞ!と言わんばかりの、店員達の輝く笑顔。お話し中のリスター達にはまだ声をかけていないが、場には全員分の椅子がある。

更にはいつの間にか、同席を断ったときのためと思われる別席までセッティング済。

離れて話したければリスター達が使っても良いし、態度から従者と見抜かれている御者君が、メインテーブルへの同席を固辞した時に使っても良いのだという。手厚い。


うーん、相変わらず出来る商会。

そしてお菓子も美味しい。これ、どこの領地のお店のものかしら。

とにかくアンディラートには最大限の対応をするよう、きっと商会長から言い聞かされているのだろうな。


「パーティ組もうと思って!」


「ここ、ダンジョンねぇけど」


「…そう、なんだよなぁ」


謎が謎を呼ぶ山賊貴族の言動。

トリティニアにダンジョンがないことは秘密でも何でもない。グレンシアにいたほうが儲かるのは確かであろう。

だが、冒険者はどこにでもいるものだ。


何よ、パーティ組んで野山に入ったっていいじゃないの。うちの国の冒険者は皆そうしてますよ、ダンジョンが全てじゃないぞ!

突然のふるさと贔屓。

私はわりと、故郷トリティニアを気に入っております。


「南方の開拓事業が始まるらしいじゃないか。それに参加するのはどうだ?」


「…向いてねぇよ。完全に肉体労働じゃねぇか、行くだけでもダルいだろ。未開地ってことは、田舎国の更に端なんだろうし」


初耳だわ。未開地の開拓をするの?

あんまり冒険者の仕事っぽくない気がするけれど、確かに体力勝負で魔獣も出るのだから、間違ってはいないか。

そして軍や一般人を使わず冒険者を雇うってことは、どこかの貴族主導でやるのかしら。もしも国でやるなら、守りに軍は置くとしても、公共事業で人々の雇用を増やして経済回すこととか考えるよね? それとも危なさすぎて無理なのか?

ちらりとアンディラートの顔を見上げてみたが、彼も初耳のようだった。情報はなしか。


ということは、私達が揃って王都を離れている間に公になったことなのかも。

さすがにお父様は多分、もう少し前から知っていたと思うけど…まぁ、言わないよね、娘に「今度、開拓が始まるらしいよ」なんて。

貴族令嬢に振る話題でもなければ、私から「えっ、何それ行きたい!」なんて興味を示されても困っちゃうだろう。


そうは言ってみたものの興味は特にない。

開拓って木を切り倒して、切り株を掘り返して、田畑を耕すのよね?

スローライフの前段階は過酷だな。いや、そもそも個人でスローライフって、過酷だよね。サバイバルと同義に思える。


自給自足。自ら給せねば足りる事なしということ。

畑の世話をきちんとせねば、野菜もちゃんとは育たない。炎天下の日も休まず働き、襲い来る魔獣に気を揉んで…。

疲れたから今日はサボろうかなーとか思っても、畑の作物は水を撒かねば萎れるし、開拓始めたての場合はお惣菜も買えないのだ。店がないから。

どれだけ疲れていても、作らなければご飯はない。

力仕事前提のムキムキ達は、料理も出来なければならない。


前世のような重機はない。更には魔法がある世界なのに大半の人が魔法を使えないので、本当に結構な重労働だよね。

身体強化様の前では余裕の作業に思えるけれど…やはり、別に行きたくはない。私はシティーガール・オルタンシア。


「そう言うなよ、上手く行けば爵位と土地を手に入れられるかもしれないぞ」


「要らね。興味ねぇ」


ですよね。

リスターはおうちにいれば貴族の嫡男だったし、山賊貴族だって、どこのかは知らないが他国の貴族のはず。

トリティニアで貴族位なんて貰ったら、自国の爵位は捨てなきゃならないのでは。

この世界でも二重国籍は許可されない。


…あれっ、そうすると…山賊貴族の追っかけ婚約者ちゃん、困っちゃうじゃん。

婚約者もここまで追ってくるフラグにしか見えないけど、トリティニアに移住するの? 開拓地で家庭を築くの?


…リスター追っかけてこっちに来た時には、狙いは開拓事業ではなかったはず。もしや婚約者ちゃんから更に逃げようとしてのフロンティアスピリッツか?

もう結構いい年なんだから、婚約者待たせるのやめればいいのに。


なんて考えていたら、既に婚約を完全に破棄するつもりで手紙を送っていたらしい。

…いつぞやの、私が描いた絵と共に。

あ。そ、それは…。



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