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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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バトンを託す算段



拗ねてしまった山賊モブ(仮)を何とか宥め、今後について多数決を取ろうと挙手を募った。私1人ならば、ここは既にご用のない土地で、速やかに去るのが良いはず。


だが、悪事を放っていくのも気にはなる。何しろクジャクがアンディラートに懐いた。ならば手伝ってあげたいと思うかもしれない。

かもしれない、ばっかりで互いの考えがイマイチわからないよね。

きっと皆も同じ気持ちのはず。

そこで、改めて皆の心を確認すれば、一致団結も叶おうというもの。

…まぁ、細かいこというと4分の2が随伴者になっちゃうんだけどさ。


「では、証拠を掴んで、世にグッピーの犯行を公にしたい方~?」


しー…ん。


意外にも誰も手を上げない。

えっ、そっ、そうなの? 放置推奨?

拉致被害者達からは「やったらぁ! カタキ取ったるわ!」とか一言くらいあると思ったんだけどな。

これがこの世の常識なのか。つまり、やはり首突っ込むヤツは変…?

あっぶない、何のトラップよ。また私1人が空回りか。通常運転ですね。

おぉ、サイコなクズの正義漢とか最低です。押しつける正義は、既に人権侵害。


…や、私は大丈夫、今、ちゃんと問いかけたし! 脱・前世だしッ!

大丈夫、よね?


「グッピー? …って何だろう?」


ポツリと呟き、山賊貴族が首を傾げた。聞き覚えのない単語に、御者も疑問を隠さない。

アッ、そっちか。

アンディラートの時にも思ったはずなのに。


ペロッと自分の言葉で発言したがる私、マジ要注意ですことよ。テヴェルと同類は良くない。働いて、反面教師!

…しかし何度も忘れてる気がする私。

これ、反省が足りてないのかな? もしや本気度が足りないのかな。いかんな。


グッピーの名前はなぁ。

不要な人物名をなるべく記憶したくない…。例えようにも似た魚の種類が不明だ。

というか…熱帯魚ですらこちらで該当する単語が思い付かない。先日まで海鮮フェアはあったけど、うーん、そんなカラフル感はなかったよなぁ。


トリティニアは国としては南端ではあるけれど、住んでいた王都は内陸。魚にはあまり馴染みがなかった。

そもそも南国というほどには暑くないし、もっと南に行かないと派手な魚はいないのかも。しかしてそれは即ち未開地で、つまり熱帯魚も未流通。

そうね、学者さんなら、該当の用語をご存じかもしれませんわね?


だけど、あのピカっぷりは魚類だよなぁ。

他のものに例えようにも、どう見てもあの服は鱗反射主義(ピカリズム)だよなぁ…ピカリ…そういやピカレスクって何だっけ。(混乱)

私が顔には出さずに光速で脳内葛藤していると、不意に御者まで眉を寄せて呟いた。


「なにか邪悪な…魔物っぽい響きですね?」


グッピーが!?

えっ、むしろ何かちょっと可愛いくらいの音じゃないかい?

衝撃的。私の魂はやっぱり異世界人だから、これは感覚の差なのかな。

あはは…異世界グッピーは邪悪な魔物ですか…本物は観賞用のちっちゃくって可愛い熱帯魚のはずなのにね。魔物かぁ…。


いや、でも別に私には魚を可愛がる感性は備わってない。特に好きでもなければ、飼ったことも多分ない。何ならピカリっぷりもイメージだけで、ネオンテトラと区別も付かない。そう、実は名前しか知らない。ショックを受けるほどの思い入れはなかった。


と、とにかく魔物の名ではないですよ。

しかし弟グッピーの本名なんて、本当に記憶容量の無駄といいますか…圧縮処理されてて、何かすぐ思い出せるところにはいない。

いや、思い出そうとすれば出せるはず。なんせ今生の身体は、前世より全体的にスペックが良い。多分いいCPU積んでる。


でもどうでもいい相手に、1ナノたりとも無駄ぢからを使いたくないのだ。

尚、心の抵抗に要するものは必要経費とします。無駄ではない。諾々と受け入れない、反骨精神は自己の確立に大事。

実のところ、「一期一会なんていいことみたいに言ったってさ。どうせここ離れたら二度と会わないんなら覚えても無駄でしょ」みたいな捻ねた思いがいつも根底にある。

親しくもない他人であれば余計に。


何しろ基本的には、圧倒的に他人とのいい思い出が少ない生き物だからね。

むしろ怯えから、他人のことなら何でもすぐに忘れたがりだよね。覚えてません、知りません…そう言って無関係を装いたい感じ。

未だ残る自己防衛の一種なんだろう。

これもいつかは、薄れていく感覚なのかなぁ…。警戒心を失った自分なんて、想像付かないけども。


「君も、証拠集めは要らない派なの?」


説明不足だった山賊貴族はともかく、私の言葉と意図は、きっとアンディラートには通じているはずだ。

だというのに…なんと彼もここで挙手はしなかった。懐いたクジャクは俺が守る!とかそういうのはなかった。熱血展開なし。

私相手にはよく発動しているのだけどな…そして、別に私だけというわけではなかったはずよ。あの守護者スイッチが入るきっかけがわからない。

クジャクと友情を育むには、時間が足りなかったのかしら。


「そうだな…敵対する必要は感じない」


良心の塊であるアンディラートすらも、グッピーの犯行を公にしなくていい派であるということなので…。

公にしなくとも、懐いているクジャクの為に、グッピーへ証拠を突き付けて釘を刺すくらいはすると思ったのに。


暴くべきかと悩んだのは、本当に私1人だということになる。

ちょっと、いや、大いに私にとっては意外な展開だったよ。

だって良識と慈愛の人、アンディラートであるよ。だというのに…。

この大天使にすら見捨てられしディクレート家。大丈夫なのかな。

早晩、この家、滅ぶのでは。


「頼まれもしないのに、他所の貴族の家庭に口を出すのは、良いことではないと思う」


私の目線から何かを読み取ったのか、アンディラートはそう付け足した。

犯行をどうこうではなく、他家に深入りしない方がいい派だった。

しかしやっぱり少し意外。

アンディラートには、困っている人をもれなく助けてくれそうなイメージがある。

それとも、普段はら助けるけど、今回はイヤってことなのかな。例えば…


「…帰りが遅くなるのが嫌、とか…?」


「ち…違うぞ!」


アンディラートの顔がサッと赤くなった。

なんだ、違うのか。

そう思いはしたが、「いや、でも確かに遅くなるのは困るけど」などとモソモソ何かを弁明する彼は、最終的に「違わなく、ない…のかもしれない…」と眉をハの字にした。

そんなに正直に生きなくてもいいのよ…?


「こちらとしては、不精もあるがガラの悪い奴らになめられないように装っていた。見た目の落ち度は認めるよ。故にこれ以上の謝罪や賠償を求めるつもりはない。だがそれとこの家のために何かしてあげるかっていうのは別だよね」


山賊貴族は…うーん、慣れないなぁ、このヒゲスッキリモブ=サン。何度見ても、誰。

チンピラ姿…コホン、如何にも貴族対応を求めているという外見ではなかったので、事件に巻き込まれたことは割り切るらしい。

そしてグッピー退治はこの家のためになることだからやらん、と…。

御者君は全く意見なし。ご主人様に付いていくのみ!という従者の鑑的な対応。

それでご主人がボコボコになるのはいいのかな。止めてあげた方が従者の鑑なのではないのだろうか。


アンディラートは当主の前で「これは誰かが企んだことだと思うよ」と伝えたことで、グッピーは手を引くと考えたらしかった。

翌朝に山賊貴族をボコッて濡れ衣着せようとしたのは最後の悪あがきだろう、と。

たまたま山賊貴族が穴に落ちなければ、身代わりを立てようなんて考えなかったのではないか…という。


私はそうは思わないけどなぁ。

手を引こうと思っていたなら、ポッと出の旅人を捕まえ、チンピラ顔だから都合がいいなんて閃かないのではないか。

思考が完全に悪人。


そもそも、穴ボコのとこに手の者を待機させていたのだよね、グッピーは。

だからクジャクより先に生贄を捕まえた。

…通常の穴落ちならば、街の警備に通報なりがあってから兵士が救助なり確認なりに動くはずだ。


ん? じゃあ、私達が落ちた時に駆けつけたヤツらは、何のために来たんだ?

…賊が…出るから調査に来たって言ってたような気もする。捕まえたから解決って思っちゃったのか?

というか、クジャクさぁ、開きっぱなしの落とし穴の周りに、注意看板とか立てなかったのかな?


「…そうだな。領軍が来ておいて、危険なものを放置したとは考えにくい。あの時、二手に分かれて待機組がいたはずだ」


私の疑問に、アンディラートも考え込んだ。

待機組がいたかどうかまでは私は見ていないが(令嬢は馬車にスッ込んでおりました)、ワーッて来て穴放置してワーッて帰っちゃったら、かなりダメな領軍な気はするよね。

アンディラートに超ウザ絡みしてた、見覚えのない決闘関係者に気を取られて、あんまり気にしてなかった。

別にアンディラートは嫌がってなどいなかった。だが、私は長時間癒しを奪われたのだ。はい、完全に私怨です。


「待機組に、弟の配下がいるのかもな?」


「…その可能性もある」


山賊貴族の言葉に、アンディラートも頷く。

そうだよねぇ、スパイ潜伏は戦略の常。


「そうでしょうか。待機組が引き上げてから張り込んでいたのかもしれませんよ」


「まあな、そういうこともあるよな」


従者の鑑が突然主人にたてついた。

どうした。ストレスか?


といっても、ここで第三者チームがいくら議論しても、真実はわからないのだけどね。

そして調査するためには、領主側の誰かの手が必要です。


「だけど、満場一致で私達は調査しないという結論だったのではないの?」


さっきは誰も挙手しなかったではないか。

それとも私を惑わす意図かな? そんなの、ガンガン惑わされるぜ? マジやめて?


疑心暗鬼な私にもたらされたのは、推論をクジャクに託して立ち去るという矛盾はしない案でした。

それは間接的な家族破壊ではないのか。

クジャクが板挟みで苦しむのでは?


「いや、彼は既に弟との対立を理解している。推論だけ置き去りにするのは無責任と言われるかもしれないが、それ以上、俺は関わるべきではないと思う」


一貫したお家騒動への参加拒否。

これはこれで、対応として正しい気もする。

何よりアンディラートはクジャクから何かを聞いていそうな様子なので、その彼が言うのであれば問題ないのでしょう。

私も山賊貴族も、全然クジャクと打ち解けてなんていませんものね。



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