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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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作業でしかなかった。



アンディラートは強かったんだねぇ…。

別に弱いなんて思ったことはないのだが、何だかふとした時に再認識することがポツポツとある。

戦闘力より浄化力の方をよく見ているからかしらね。

しかし馭者→騎士と訓練→賊の説明→連続試合(今ココ)と、一切のおやつ休憩を取っていないけど…あの子の胃袋、大丈夫かな?


私はあの子が訓練してる間に休憩という名のお茶してました。しかも周囲の騎士達が、訓練参加費のように個人所持のお菓子をヒョイヒョイ差し出してくれるという…。

見知らぬ男性陣がポッケから出してくる温もった菓子など食べはしなかったけど、せっかくくれたので捨てたり放置したりせず、アイテムボックスに持っている。


後で分けてあげようとか言わずに、隙間時間に少しでも食べさせておくべきだったのか。

子供じゃないんだから、彼とて食べたいならば隙見て食べたはずよね…なんて、自己正当化して罪悪感を散らそうと試みるけど、無理でしたよ。

真実とか事実とか、どうでもいい。天使が今、空腹か否かだけが重要なんですわ。もし空腹なら狂信者的には悲しい出来事だし…まぁ、きっと空腹であろうな。


戦いについては何の心配もせずに、ボーッと目の前の光景を見つめる。

あの、なんか椀子蕎麦みたいに挑戦者が投入されていくのですが。

挑戦者の名を読み上げる司会者みたいな人が意地になっている気がする。


おや、なんか聞いたことのある名前だと思ったら、最近絡んできていた騎士ウサ男も参戦していたみたいだぞ。

何度もアンディラート稽古つけてもらっていたのに、よくもまぁ飽きずに…。

そして私の思考が終わるより早く、他の挑戦者達と同様に一瞬で場外に消えた。


全く相手にならなかった非情さに、いつもは手加減されていたのだと悟って落ち込んでいるようだ。ドンマイ。

稽古と勝負は違うものな。まして今は勝手に「優勝賞品はオルタンシアさん」な事態になってるからね。

…私という本人の許諾も得ずにな。

アンディラートの攻撃は、一撃必殺みたいになっている。

あの子、目がマジですわ。


考えてみたら、これ、領主はいるけどこちらからは立会依頼もしてない。向こうが勝手に準備した、決闘というより大会形式だし。

人さえ集まるのなら手軽かもしれないが、正規手順の決闘じゃないから、アンディラートが優勝しても…もしかして他者への強制力はないんじゃないかなぁ…。


エーゼレット家の名前と財力がこやつらの狙いなら、アンディラートのお望み通りに私が早く結婚してしまえば、二度と起こらなくなる問題ではあるか。

え、私の美貌が狙いだったら?(きゃるん)

…それは叩き潰すよね。

両親の良いとこ取りの外見はそりゃあ惑わされるくらい美しかろうけども、常識的に考えてほしい。

天使でもなきゃ、この美貌の乙女を手に入れられるわけないじゃん。

凡愚めが、身の程を知れ!(ギャルン)


いや、傲慢に聞こえるけどさ。リスター理論は結構正しいと思うのよ。

だって私はもう少し育ったら、お母様レベルの美女になるのだぞ、多分きっと。恐らく。

そうしたらこんな口だけ貴族が横に並んでいても、なんかチンアナゴが生えているようにしか見えんだろう。

ゴメンね、チンアナゴ。チンアナゴは何にも悪くないんだけど、ここは水族館ではないから、美女の方が目を引くはずなんだよ。


つか私、優勝者と結婚するとか一言も言ってないしね。

領主が挑戦者に詐欺働いてるんだぞ、現状。

挑戦者のレベルがこのままなら、どう見てもアンディラートしか勝たんから問題ないのかもしれないけれども。

うーん。


あ、椀子蕎麦…じゃないや、挑戦者のお代わりが止まった。

あの塊のお相手を終えたらしい。

待機していた次の集団が移動してきた。しかし観客達は、既に盛り上がりに欠けていた。見ごたえのある試合がないのだ。

再び投入され始める挑戦者達。ひたすらに続くお代わり地獄。


…打つのは、うどんじゃなくて蕎麦にしておけば良かったかなぁ。

いやいや、ソバ粉なんて持ってないし、椀子蕎麦食べさせようとしなくていいよね。あのテンポよく延々とお代わりを入れる係りはシャドウが担当できますけども。

試合の後にご飯でまで、あんなヒョイパクしていたら、本当にアンディラートが疲れてしまうよね。

あ…、食べさせてあげる手がある…か…?

だが麺はアーンしませんね。

顎にダランと付く予感しかしない。

ダメだわ、うどんもアーン非対応。


椀子蕎麦を他人に食べさせられるのって、罰ゲームか芸人の所業だよね…さながら二人羽織りにも似て…。

そう、食べ物を目や鼻の位置にベシャッとやっちゃって笑い取るやつよね。

令嬢も令息もやりませんよ、もちろん。

身体張りすぎだし、食べ物粗末にしちゃいけませんね。


この領地って金髪多いな。なぜか連続で金髪の挑戦者が続いた後、緑髪の挑戦者が挟まれた。その後はまた金髪。

蕎麦、蕎麦、茶蕎麦…飽きないように味の変化をつける親切…?

うぅ、ダメだ、蕎麦から離れよう。


状況的にはだるま落としの方が似ているかな。キュッと振った一撃で挑戦者が場外へ弾き飛ばされていく様は…車のワイパーっぽくもあるな。そんなこと言うなら、単にホームランかしら?

何度か弾かれていたらピンボールなのかもしれないけれども、1回だけだしな。


勝利内定に安心して例によって脳内スライドを起こし、領主に文句を付ける作業を放棄した私。

そして私の婚約者の思わぬ強さに、呆然として言葉を失ったままの領主。

会話もなくアンディラートを見守っていると、段々と壊れたビデオでも見せられている気分になってきた。


挑戦者現れる、2人でペコリと挨拶する、挑戦者が剣を振り上げて走り出す、アンディラートが剣を一閃する、挑戦者が場外で倒れ伏す、というのが延々と。

成程、これが「無限ループって怖くね?」ってヤツなのね。オルタンシア、覚えた。

正直、何か今晩こういう夢見そう。

洗脳感ある。

そして切実に早送りボタンが欲しい。

おや、次第に対戦相手の質が上がってきたのか、アンディラートは剣を2回振るようになってきたぞ。たまに立ち位置を動くようにもなってきた。

もしや弱っちい順からソートした出場となっていて、今はちょっとだけ挑戦者のレベルが上がった?


だけど…剣を2回振る作業に変わっただけなので、何だか暇だから剣を弾く手間を加えただけに思えてきた。

そ、そんなことありますかね。

防御が入っただけで、結果としては攻撃一つで場外に叩き出されているので、変わってないんですけど。


雑魚は私と手分けした方が良かったのでは?

ソワソワしちゃうよ。

もう結構な数を単調なままに捌き終えたよ。

それでも、人数が多いせいで、何気に時間は経ってる。

休憩とか入らないのかしら。

お水やタオルを差し入れに行きたい。


ふと、ヒーローの前に次々と投入されるザコ怪人(イーッ!)のようなそれが止まり、微妙な間が空いた。

何だ? 休憩?

差し入れに行っていい?

よし、行くか!


と、腰を浮かせかけたがどうやら違ったらしい。何食わぬ顔で座りなおす私を、領主は見ないフリをしてくれた。

目に入っていないだけかもしれない。そして周囲の領主の護衛達は微動だにしない。


それにしても、司会の口調の「お待たせ! 皆待ってたよね!」みたいな感じ。

誰よ。有名人なの?

訝しんでいると、派手な刺繍服に包まれた男が待機場所に出てきた。

何だ、あの…クジャクか南国の鳥みたいなのは。目がチカチカする配色。

その人は派手な刺繍服をバサリと脱いで、中に着ていた派手な刺繍服のフリル袖を捲る。


うぅん、急にカラフル。

今までは兵士っぽいとか平の騎士っぽいとか、代わり映えしない鎧の色合いの人達ばかりだったのに。


趣味は悪いが…あれだけ手間暇の掛かった服は、お高いな。

高価な服を運動着にしちゃううえに、1人だけこんな特別っぽく出てくるとは…横目で領主をチラ見してしまう。

身元が推定されますよね。


司会っぽい人は流れ作業を止めて、場を仕切り直す試みのようだ。

え、あのクジャク、なんかヤレヤレ感出しながら仕方なさそうに出てきたんだけど。

…仕方なく対応しているのはこちらなのですが。何あいつ、ヘイト上がるゥ!


「コホン。あれは息子だ。どうだね、我が子ながら見目もそう悪くはないと思うのだが。もちろんアンディラート・ルーヴィスも悪くはないが、うち息子の方が華やかさがあるでしょう。剣術試合などでは、よくご令嬢の視線を集めているのですよ」


おや?

あれあれ? 張り合っちゃうのですか?


あの程度のご面相で華やかとは、笑わせてくれるな。お母様とお父様とリスターと自分を見慣れたこの私相手には、圧倒的力不足!

あんなのは、さながら睫毛の多いコケシと言ったところ。


しかも…声までは聞こえないが、何かあの人、アンディラートに絡んでるのでは。

芝居がかったあの態度から見ると「オレ格好いい」とか思ってるナルシータイプなんでしょうね。更にやれやれ系男子って…地雷かな。


つか華やかなのは服だけですね。チンアナゴはリボンで飾ろうともチンアナゴなのだよ。

ところで、砂から出ると意外と長いらしいよね。

顔が犬の狆に似た穴子ってことらしいけど、ウナギ系なんだって噂。そう考えると何も合ってない。アイデンティティーは…。

チンアナゴ、可哀想くね?(安定の思考スライド)

それはそうと領主には反論するよ。


「そもそもアンディラートは誠実さと真面目さが売りですもの。うちの子の精悍さの方こそが際立ちますわね。そこにすぐ照れちゃう可愛らしさと、ここぞという時の格好良さを兼ね備えていますからね。後頭部の丸みの愛らしさにおいても、うちの子が圧勝かと思います」


「…そ、そうかね」


親バカ自慢、負けんぞ!

華やかとか言ってるけど、うん…別に顔は普通だと思うな。領主よりは目鼻立ちがくっきりしているだけのことならば、単にママ似ってだけなんだろうし。


大体にして、前哨戦でアンディラートを疲れさせてから満を持してヤレヤレと出てこようとする領主の息子、汚い。

その時点でマイナス。

まず真っ先に戦って散れよ。


「そもそも誰が勝ったところで、今更私の結婚相手がコロッと変わるわけではないのですけれどね」


「えっ」


「既に結婚秒読みの段階なのですもの。こんなイベントを起こしたところで、私の父に目を付けられるだけですわ」


領主はあんぐりと口を開けた。

顔色悪いぞ、領主。

私の情報があまりにないから、そんなに話が進んでいる相手だとは思わなかったのだろうか。

だからって、こっちに何の確認も取らずにイベントなんて始めても、恥かくだけなんだよ?


最初の、私の決闘って、城に立会依頼を出してたのよね。相手か私か、どちらが正当かを決めたいからってね。

お父様関連でないものにはさすがに王様は出て来なかったけれど、油断したら国の主が来るようなそんなものを、何年もそのまま放置とかしないよ。

私が普通の令嬢に戻る時点で、立会依頼はクローズされている。ちゃんと終了手続きしてるよ。公的に、私の決闘は全勝で終わっているのだ。


だからこんな風に突然戦い始めても、何ら継続数にはカウントされない。

そもそも今回は領主側からアンディラートを指名してるし、私の決闘じゃない。


周囲のどよめきに目を向けると、丁度、刺繍男が場外に飛んだところだった。

あんまり見ていなかったけど、あの派手男は口擊の方が得意だったらしく、見合った2人はなかなか動かなかったのだが…。

相手が何か天使の気に障ることを言ったらしく、それを切っ掛けにアンディラートから仕掛けて…結果、瞬殺だ。


あれが最後の1人だったらしい。

領主の子がトリに出るのは仕方ないとしても、見ごたえはなかったようだ。

パラパラとした拍手に、アンディラートが一礼している。

アウェーなのによく頑張ったよ。


そしてアンディラートはそのままこちらへ歩いて来ようとしていた。えぇ? 表彰式とかもないの?

何とも、しまらない幕切れ。

ここは私が、しっかりと彼の健闘を讃えておかねば!



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