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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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突然の決闘大会。



許すまじ、ディクレート家。

天使へのお布施に気を良くしている場合ではなかった。仕組まれたこの状況に、頭を抱えるよりない。

相手は貴族だからなぁ。こんな手も使うのかぁ。間違いなく、貴族なのだものなぁ。


「…俺は認めていない」


抵抗するアンディラート。

しかし、もはやそれを気に留めるものはいないだろう。

真っ当な抗議は、多数の大きな声に、かき消されてしまう。


挑戦者はコレ、何人いますのよ…三十人一塊みたいな量で並んでいるから、それが五つ…少なくとも百人以上が挑んでくるのですか…エェ、まだ増えるのですか。誰か棄権しろ。

お父様、ごめんなさい。

これ、どうやって捌けば良かったのかな…。


たかが2時間で状況は大きく動いていた。

エーゼレット家ご令嬢オルタンシア様、の、婚約者への挑戦。

それは、かの悪ノリ貴族の祭典の悪夢を彷彿とさせた。

つまり、まるで、アンディラートに勝てば私と結婚できる!みたいな催しとなっているご様子。

できるわけないのですが。

貴殿ら、正気か。(真顔)


有象無象を相手にして、アンディラートが負けるとは、全く思わない。

しっかし、でかい声で先に言いふらしたモン勝ちみたいな、こんな搦め手で、彼が後には引けない状況を作り出すなんて。

貴族、マジ、貴族。

こちらが親切にも賊と出会ったときの調書に協力している隙に行われた下準備の速やかなことよ。

一旦取ってしまったフードを被り直すような暇もなく、皆に顔をさらされたよね、「こちらのオルタンシア嬢」とかわざわざ視線まで集めてさぁ。


卑怯なことしてでも、社交界の亡霊のような私を捕まえたかったのかもしれない。

でもさ、知らない人が勝ち上がったところで、収集つかないだろうよ。

私がそんな一見さんと素直に結婚すると思ってる理由は何なのか。私は別に、自分より強い人が好きとかそういう訳じゃないのよ。

知らんぞ、ディクレート家。

絶対、お父様からの報復が入るよ。勝手にこんなことしてさぁ。チクります、悪意を込めて!


話を詳しく聞きたい上司が来るだろうからって我々は引き留められていたのだよね。

実際に現れたのは、口達者で声の大きい、嘘くさい笑顔のオッサン。ちょっとクズ臭を放っているが、多分、小者。


自領に自分より高位の貴族が来たならば、おもてなしするのが普通の貴族なんだがね。

まさかまさかの、無許可の闘技会を開くとは。しかもこれからすぐだと。

そうよね、明日開催って言って夜中に私達に逃げ切られたら、人を集めた自分のメンツが立たないものねぇ。


集められた貴族男子達は、遠目に私を見ながら好き勝手に話している。

数人が剣を掲げてこちらに見せていた。

あれは…「勝利を貴女に!」のポーズ!

………心底、要らないのだが。

仕方ないので微笑みを返しておきます。なぜって、そういう貴婦人ルールだからな! 本当は邪悪な笑みと投げナイフでも返してやりたいところよ。

顔には出さずにイライラしている私。


「…彼らには、どんなチャンスも与えられないままだったのは、確かだろうな…納得がいかないというのなら、それも理解はできる」


「え?」


「幸運は、それでも俺だけのものだと思う」


よくわからないことを呟いて、アンディラートが私の手を取った。

さらりと片膝を付いて、私の手の甲へと口付、け、う、うわぁ、何だこれ。ヒィ、突然の騎士ムーブ、照れる、やめろぉ!


「必ず、お前に勝利を捧げよう」


「…ォヒャァ…」


「それはどういう意味の返事なんだ…。取り敢えず、行ってくるよ」


「ファヒィ…」


変わらぬ外面、微笑みを湛えたままの私の口の端から、謎の悲鳴が零れ落ちていたのは仕方なかったと言えよう。

内心でオルタンシアは動揺を隠せずに吐血。幕裏ではたくさんのロール達が動きを揃えて全力で、うどんを打っていた。

有り余る力を叩き付けたいのならパン生地でも良かったのに、なんで揃って混乱してうどん打ってるの、マイロール達よ…あ、混ざるんじゃないよファントムさん。

よぅし、アンディラートが勝利したらうどんパーティーだぞ!

アイテムボックス内で、シャドウにうどんを打たせ始める私。腕力があるので、コシを出すのに踏んだりはしない。

うどん生地がビッタンビッタンしてる様を見ると、確かに何か落ち着く…ロール達はこれを知っていたのだろうか…。


何の準備期間も与えられずに、突然周囲から「お前を倒す!」と言われてしまったアンディラート。

ディクレート家の用意した会場にて、選手控え室と観覧席へと引き離されていく私達。

はぁ? いいドレスに着替えろって?

やだよ、必要ないでしょう、野外だし。商品じゃないのよ。アンディラートが着替えてないのに私が着替えたりしませんー。


…無いとは思うが、もしも勝者がアンディラート以外の場合、私は自ら貴公子モードとなって相手を狩ります。

知らん奴キモイ。無理。

お転婆、変人、何とでも呼ぶがいい。お父様と新お母様にはもー、謝る。諦めてって言っとく!


「1人目の挑戦者の入場です!」


そして謎の悪ノリの祭典が始まり…エッ、1人目の挑戦者?

アンディラート1人に対して、次々と決闘を申し込んでいくって?

う、うわ、聞いてないぞ。何だよそのルール。これってただのアンディラートによる百人斬り会場じゃん!

トーナメントでもなく、バトルロイヤルでもない…これって挑戦者はむしろアンディラートなのではなかろうか?

なんで私の婚約者が試されてますのん?


「なぜこんな方式なんです、アンディラートだけが疲れてしまうじゃないですか!」


思わず、横の席にいた領主へと苦情申し立て。

こっちは賊退治してやった恩人なんだぞ、仇で返してくるの何なの!

しかし領主は全然気にしてない。


「ハッハッハ! オルタンシア嬢、自信はお有りとのことでしたから心配はされておられないのでしょう?」


会話が成り立っていない気がするぞ。

ダメだわ、このオッサン!

かくなる上は、今すぐ私も乱入を…。


「ご自分がなされた決闘、よもや婚約者殿が出来ないとは言いますまい!」


…あ゛あ゛ァ!

私か! 私の決闘の遣り方か!

だけど私の決闘はこんな連戦の百人斬りではなかったわよ。

私は、野営続きで旅した上に調書に時間取られた後でもなかったし、前日はちゃんと寝て疲れ取ってたし!

前提が違わぁ! カッチーンときかけた私だったが、そんな話をする間に、アンディラートはバッサバッサと剣の一振りで相手を倒していた。

その数、既に十人以上。

早い。最低限の動きで捌いている。

表情には疲れも焦りもなく、涼やか。

いけるかな、コレ?

いや、でもまだまだいるよなぁ。



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