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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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280/303

ロープは正・副・予備の3巻あるよ!



旅をする冒険者はいる。

でも、それなりの収入があるなら、それなりの腕もある。


「そうよね。少なくともトリティニアには盗賊の収入源となるような旅行者自体が少ないよね」


商人もそう。それなりにお金があるならば、ちゃんと護衛を連れている。

身を守りきれないような、つまりお金がない駆け出しの冒険者や行商人を落とし穴に落としたところで…幾ら脅しても、ない袖は振れないんだよね。


また、観光客とは魔獣の危険と隣り合わせの道を好んで行く酔狂な旅人だが、民間に旅行概念はない。そして貴族ならば、護衛は連れているだろう。

旅人側のリスク管理だけではない。新お母様の実家のように、人を受け入れることが割合に多い領地は、兵士が街道の見回り等の治安維持に力を入れているはず。

そっちのが交通量(エモノ)は多いけども、自分達もすぐ捕まっちゃう。

そう思うから、この土埃部隊もこんな何もなさそうなとこで賊活してるのだよね。


何にせよ旅人の母数自体が少ないのだから、街道に張り付いていたって人を襲うのは難しいのではないかな。

実入りのない日の方が多いはずで、それは貧乏ってことなんだよね。

お金にならない盗賊業…?

なら、道より田畑を耕せよ。(真顔)


温暖なトリティニアで、雇ってもらえない大人が食べ物に困るのは、都会の町中だけよ。

芋だ、植えろよ、異世界芋を。大きいし芽も食べられる万能植物だもの。

あれがあって、飢えて困るってことはないはずよ。

確かに毎日がポテトフェアだと飽きはするかもだけど。栄養も片寄るかもだけど。

必要なら他も植えりゃいいだけじゃない。

土地は余っているのだぜ。貴族の領地が嫌ならばこっそり開墾する手もある。残念ながら我が国、未開地もまだまだあるので。


無論、農耕に向かない土地という可能性もある。土地が痩せてるとか荒れ地すぎるとか? もしかしたら局地的に魔力が多くて、作物食べると危ないとか…そういうこともなくはないかもしれないよね。

移住すれば解決はするけど、もし先祖代々の土地だとかいうなら、貧しくてもそこで生きていきたいかもしれない。

そして貧しければ、中には盗みに手を染める者も出るだろう。


…えっ、じゃあ、コレはこの周辺の集落の農民の反乱とか言っちゃう?

そうすると個人で解決なんて無理。

領主または国の上層部とのお話し合いが必要な案件じゃないの。

うーん…。

けれどトリティニアはそもそも田舎国。王都や領都や大きめの街以外は商業主流ではない。大抵の集落は農村である。つまり国民の大半は農民。


王様は、虐げる政策は取らないはずだ。

しばらく国を離れていたから最近の世情はわからないけれども、王都も今まで通過した街や村も、特に王家を憂い悩むような様子はなかったと思う。

それに、ほら。万が一舵取りを間違えそうになれば、宰相による修正が入るはずよ。

お父様、そういうお仕事だよね?


食料の輸出に貢献しているのは農家だ。沢山作ってくれるからこそ、食べるものに困らず他国にまで売り付けられる。

周辺国が「トリティニアがないと(食料的に)困る」と思っていたり、3番目の大国(仮)でいられるのも、間違いなく農業に従事している人達のお陰だと思うな。ご飯、とっても大事よ。

一部の拝金主義のダメ貴族はまだしも、王族はちゃんとその辺を理解しているはずだ。


普通に地面を掘るより、長年踏み固められた街道を掘る方が難儀なのは間違いない。

街道を掘り返すという並々ならぬ疲れる作業を行って、賊という汚名を着てまで何がしたいのか。

行商人が来なくなると、田舎の集落は困るはずだ。ここの領主がきちんとした人ならば、賊の噂が耳に入り次第、いつ派兵しても不思議ではない。

農耕は嫌だと駄々をこねて他人から奪うのは、実際のところリスクのほうが大きい。


「つまりこの人達、何?」


どうしても自力では思い付かないので、常識判定士に尋ねましょうね。残念だが、百年経っても正解に辿り着く気がしないよ。

アンディラートは少し、眉を寄せた。

一瞬、私が考えを放棄したのでご機嫌でも損ねたのかとビクッたが、そんなことは全然なかった。声色は優しい。


「管理された集団。彼らは自ら考えて盗賊をしているわけではなく、命令されたことをしている。主導者は別にいる。彼らを捕縛しても、新たに別の者達が配属されるだけで、解決しない可能性がある」


「ああ。成程」


誰かに養って貰っている、つまりこうすることで給料が出る身ならば、生活には困っていないよね。

だから盗賊としての収入がなくても、痩せもしないし血色も悪くならない。

こやつらには「麦が全滅したので、もう奪うことでしか母ちゃんを食わしてやれねぇんですよぅ」とかいう悲しい背景はない。

アンディラートの良心を守るためにどこかの村で炊き出しとかしなくても良いんだね。


こやつらは、生活の保証された健康的なチンピラ。本物ではなく…いや、本物も何も他人を襲うことに変わりはないのだけど、とにかく雇われ盗賊ってことなのね。雇われ盗賊…まるで職業軍人の対義語みたいな語感。


うーん。

正直、首謀者を探すまでの義理はないよね。

だが、蛮行を見つけた以上、アンディラートは気にするに違いない。

異世界の良心たる彼に、放置はきっとできないだろう。天使だから。

取りあえず、雇われたいチンピラが軒並いなくなれば、街道の安全は守られるな。


「じゃあ、別の人達が出てきても、ここで潰し続けてやれば、いずれは絶滅…」


「そんな! それではいつになっても結婚できない! もう少しだと思うから我慢していたのに!」


「エッ、そこ!?」


しまった、もしや放置推奨だったの?

バッと顔を見てしまうと、彼はアタフタし始めた。「いや、あの、違ッ…!」等と手をパタパタしながら何か言い訳を探し…、なんだい、そのパタパタ。可愛い。

じっと堪能する私の視線に、やがて彼は諦めて「…うん…違わない…」とソッと両手で顔を覆ってしまった。


この世のかわゆさが、ここに結集した。

いつも通り耳まで赤いので何も隠せていないぞ。困り眉もちょっと見えてるぞ。

なんかね、何かが浄化されている。ピュアエアーが量産されている。

そうだ、ここにプリティ記念碑を建てよう。


「速やかに結婚準備します」


安心させるため、宣言しておく。

そっかぁ、我慢させてたか。恋人らしいこと何もないから、ピュアっ子故に平気なのかと思ってた。痩せ我慢でしたか。

私は己が今、菩薩のような顔をしている気が致します。煩悩しかない私だが、今は浮かべているのが薄笑いではないと信じたい。

ゲス顔は目の前の賊へ譲りますよ。美少女はそんな顔しないよ。


「…よろしく頼む…」


モジモジとアンディラートは頷いた。

うん、私が脳筋だったよ。

そこまでこやつらに付き合ってあげる理由はなかったね。

エヘッとしちゃう私の前では、盗賊どもがしびれをきらして怒鳴っていたが、言ってる内容が全然耳に入ってこない。

雇われ盗賊とか、もうどうでもいいよね。

あれ、でも…首謀者が別ってことは、何だ。


王都からわりかし近いこの土地での騒ぎに、領主が加担しているってこと?

王家に対して反乱でも企てているとか?

待て待て、そうすると潰さないわけにはいかなくなるよ。


「…この、ガキども、散々無視しやがって…! 野郎共、遠慮はいらねぇ、やっちまえ!」


そんな声が響いた瞬間、私とアンディラートは動いた。


「下がって、離れていろ!」


えぇ? 一緒に戦えるのに!

とはいえ護衛としてついてきてもらったのだし、アンディラートにはアンディラートの考えがあるのだろう。

遅れを取るような相手にも思えないので、一旦下がるか。

…でも、補助くらいは良かろうね。


先手必勝。我が前に立ちはだかるものは、手持ちの武器を諦めよ!

すぽーん、と敵がお持ちの剣は全てアイテムボックスへ収納された。

ふははは、しまっちゃうぞー!


相手の鬨の声は「おおおお…おぉお?」と、あっという間に困惑声へと変化した。振り上げた剣が突如消えれば、まぁ、そうなる。

その隙を付いて、アンディラートが素早く各個一撃で敵を沈めていく。


あれっ、なぜか彼の手にも剣がないぞ。

間違えてアンディラートの剣まで奪ったのかとドキッとしたが、大丈夫だった。賊は手加減対象なのか、愛剣は使わないつもりの模様。抜かずに腰に下げっぱなしだった。

調子に乗ったせいで、アンディラートに不利益をもたらしたのかと思ったよ、ドキドキ。


人数差などものともせず、あっという間に制圧したアンディラート。天使っょぃ。

そしてご要望に答えてアイテムボックスからロープを取り出す係の私。

役に立たない感じですが、どうやら彼は賊に私を近付けたくないようなので、少し離れておとなしくしております。


護衛対象がチョロチョロしない方が、守る側としては都合がいいんだろう。

うっかり近付いたら、捕まって人質にされるかもしれないし。

振り払う自信はあるけれど、最初から捕まらない方が良いものね。


黙々とアンディラートが賊をロープに編み込んでいると、遠くから騎馬の一団が近付いて来た。

ちなみにそれに気付いて顔を上げたのも、アンディラートの方が先である。この子、特殊部隊の人か何かなの?

ヴィスダード式戦闘教育を修めると、こんな風になるのかしら。

私、気配とか一切読めないんだけど、基礎講習だけでも受けてきた方がいい?


ヴィスダード様は喜んで教えてくれそうだが、お父様は許してくれない気がする。じゃあ、むしろ暗器使いのお父様に…ダメだな、お忙しいし、やっぱり教えてくれなさそう。


おっ、騎馬チームは10人くらいかしら。馬は足が速いので、既に結構姿まで確認できるくらい近付いてきた。ここまで来れば音や振動で私でも気が付きます。

千客万来だねぇ。

村と村の間でしかないのに、ここらは意外と交通量多いのかな。街道を掘る価値がある、賊の穴場だったのかしら。


「旗は上げていないが、鎧に紋章が付いているな。ここの領軍かもしれない」


「えっ、そうなの?」


言われてみれば、胸と肩の辺りに皆同じ模様が入っているお揃いデザインっぽい。

お揃いの剣を持つ盗賊と、お揃いの鎧を持つ領軍かぁ。

…これは…私とアンディラートもペアルックで対峙するべきだったのではないだろうか。

よぅし、お揃いの外套を作るか。

私のようなフードを取らない冒険者にできるお揃いは、外套くらいだものなぁ。

でも、無難なデザインのマントだと、他所の人ともお揃いの可能性があるのよね。

いっそパ行な夫妻のように、どピンクとかでキメちゃう?



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― 新着の感想 ―
[一言] 「そんな! それではいつになっても結婚できない!」 のところは吹き出しだ! ちょっと忘れじゃうだけど、またまた結婚を控えるですね! 天使可愛い。 ピンクのマントだと??!もう、令嬢係の後は…
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