表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おるたんらいふ!  作者: 2991+


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

275/303

誘導係



左手に留まるウグイス餅みたいな小鳥。一見平和そうな、しかし右手には暴漢を縛り上げたロープというアンバランス。

天使だと、そこに何か深い意味がありそうに思えてしまうよね。

女神の持つ天秤みたいな。


キリリとした顔のアンディラートは、意外にも仔獣人を解放したりはせず、ドラゴン玉の国から来たみたいな獣人へも説教…を、多分しているんじゃないかな?

何か喋っているが、聞こえない。

そういえば小鳥に聴力を割り振っていなかったので、片耳分だけ割り振ろう。


「突然人を襲うなんて、野盗と変わらない所業だ。あの子はお前に、身に覚えがないと言ったはずだぞ」


…うん。

平静に見せかけて、静かにお怒りだったな。怒鳴り付けられるより怖いヤツだ。

既に獣人達が涙目なんですが…対話を叶えた上に主導権まで取っているとはこれ如何に。

だが、これならアンディラートが害される危険はなさそうで、ひとまず安心した。


ビチョビチョの服もアイテムボックスでスポンと脱いだので、身体もだいぶ楽になった。

よし、そろそろ落ち着いてきたぞ。

さっきは疲れきっていたので何も感じなかったが、さすがにバスタオル一枚ではそろそろ心許ない気分だぜ。

髪の水気や塩っけも、アイテムボックスを介せばまるでなくなった。

海水ってベタつくよね。


取り敢えず下着の着替えを出して、っと。

着る方は自分でやんなきゃだからちょっと面倒くさいな、なんて思ったりする。

でもオートで着替えまでできるようになったら、全く動かない駄目人間になる気もする。


…でも、何を着ようかな。普通に服に着替えては、同じことの繰り返しだ。

さすがに水着は手持ちにないんだよね…。


アイテムボックスに入れたもののうち、自分だけは、同じ位置への取り出しになる。

つまりどうしたってもう一度海の中に出るしかないので、一休みしたら自力で岸まで泳いで行かねばならない。

万全にして出ていかなくちゃ。


そうと決まれば、やはり水中での動きが阻害されない服、水着が必要だ。

ここはサポートで作るしかない。

万一、岩とかに引っ掛けてサポートが消えたらあっという間に変質者なので、せめて下着の上からサポートで水着を作るか。


サポートが解けても、最悪、全裸でなければ良かろう。

あの場には幸いにも猫と婚約者しかいない。大丈夫、猫の男女差はあまり私にはわからないから、下着姿でバァーンと登場しちゃっても、相手は全員女の子だと思い込む。

割り切るのよ、オルタンシア。そう、旅の恥はかき捨て。

アンディラートは、まぁ…多分悲鳴を上げるだろうけども、ごめんね。


待てよ、スク水もビキニも、シャイボーイには刺激が強すぎるかもしれない。

この世界基準の令嬢からは考えられない格好だものな。前世基準の令嬢は…うーん、セレブは際どい水着を装備していそう。

服っぽい水着か…令嬢基準ではやはり無理だな、装飾はリボンやレースすら要らない。水の抵抗を増やしたくない。

あ、タンクトップと短パンのセパレートなら服っぽいかな。所謂タンキニ。

足の出し過ぎを叱られるかもしれないが、機動性のためにもこれ以上はどうしようもない…着衣水泳はもう無理、怖すぎる。

足は上がる時にタオルでも巻いて隠そうか。それなら彼も怒るまい。

マントは陸に上がりきるまで決して着ないぞ。リアルに死ぬ。

さて、気を取り直して連絡を取るか。


「アンディラート」


小鳥から呼び掛けてみたが、残念。ピヨピピッ!と鳴いただけに終わった。鳥から私の声は出ないらしい。

…そうよね、鳥ですもんね。

ファントムさんは人間型だから何ら問題なくいきなり喋れたのか。今更知ったわ。そういや私の声じゃなく、独自のファントムボイス搭載だったもんね。無意識の初期設定がされてる感じなんだな。

物真似オウムか九官鳥ならば…ん? インコって喋んなかったっけ?


まぁ、グリューベルはスズメだ。

鳥には詳しくないが、せめて根本がスズメイメージでなければ良かったのだろうか…。

無理か。ほっぺのマル模様とふくよかさが、どう見てもスズメだものな。可愛い。

ここでファントムさんへフォームチェンジして話しかけてもいいのだけれども、せっかく落ち着いている山の民ーズを刺激したくはないので…。


「無事か、オルタンシア!」


握るな、握るな。きゃー、ちょっと小鳥にダメージ入ってる! 破損したら消えちゃう!

あぁ、言わねばと思い続けながらも伝える機会を逃した、彼の握力(強)により、今私が大ピンチに。

先延ばしにしたツケ、ここでお支払いか。

これが壊れて消えたら、連絡が取れないぞ。


わさわさバタバタと抵抗すると、彼はすぐに「ごめん」と小鳥を離した。

予備の蟻さんを作り、アンディラートの肩に乗せる。これで良し。

破損しかけたサポートが修理できれば良いのだが、生憎とそんな方法はわからない。壊れたら何の疑問も持たずに作り直してたもの。

今度改めて検証するか。


だが、今はアンディラートへの伝達が先だ。何とか破壊されずに無事だった小鳥を、サッと宙へ羽ばたかせる。

また掴まれてはならない。次は破損確定。

私がリアルな小鳥だったら、瞬殺で絞められてたとこだよね。


しかし幸いにもサポート製品は着ぐるみでしかないので、骨折とかはしていない。この鳥には骨などないのだ。

ところで骨なしチキンって、考えてみたらすごい悪口みたいだよね。この、骨もないチキン野郎!みたいな。

骨のあるチキン野郎も矛盾してる感あるけど…折れない弱虫かな…あれか、ただの今後強くなるタイプの主人公(ヒーロー)か。


小鳥アイズで、べしょべしょマントを確認し、アイテムボックスへ。濡れたまま、再び取り出して少し離れたところに落とす。

べっしょん!みたいな重たい音を立て、視線を引き付けた。

泥まみれになってしまったそれに、無意識のようにアンディラートが手を伸ばす。

拾おうとするのを待たず、アイテムボックスへ収納。また、少し離れたところにベショッと落とした。

そう、誘導である。


崖の上で集合していても何にもならない。

私が海から上がったら、おとなしくなったケモ耳ーズとお弁当を食べて、そのまま領主の館にご案内すればよろしいかなと。

あと、再度あの必殺技を出されて足元が崩れ、アンディラートまでもが海へダイブしても困る。まずは早急に避難したい。

着衣水泳でなければ、身体強化で潮流に逆らうことくらいはできるだろうが…いや、アレは本当にマズイ。アイテムボックス持ちの私だから助かったんだよ。

低地へ誘導するのはリスク管理である。


疑問顔のアンディラートは、小首を傾げて立ち上がる。ロープを引かれる形になった子も、困ったように立ち上がり、後を追う。それを追いかけるドラゴン玉。

…小鳥が、なんかハーメルンの笛吹男的な感じになってる…。ゆ、誘拐じゃないやい。


あっ、遠くから走ってくる数名分の人影が!

当初4人とかいたはずなのに他の人が見えないと思ってたら…待ち伏せグループは全員子供だったんだ。成程、いない子らで大人を呼びに行っていたのか。


あれっ、まずいぞ。

いち早く駆けてきた大人の獣人が、ロープに縛られた子を見て激高した。

飛び込んでくるような勢いで、アンディラートへ突っかかってくる。今にも胸ぐらを掴もうと…


「どうして絡んでくるんだ。いい加減にしてくれ、構ってられない」


しかし、それどころではないアンディラートの無造作な無手の一撃! 大人獣人ノックアウト!

…これ、敵対行動と取られてしまうのでは?


やはり口のきけるファントムさんで、ちゃんと話すべきなのか。…と、別な大人獣人が、仲間達をおとなしくさせた。このグループのリーダーか?

意外と理性的な人がいるもんだな。


「すまないな、ニャルスの民はどうも血の気が多くて。まずは謝罪しよう。仲間が迷惑をかけたようだ」


「…謝罪をお受けする」


うーん?

あんまり親しくない山の民の見分けなんてつかないんだけど、…なんかあの人、見たことがあるような気も…。


「なぜだ、フラニーニィが囚われているのだぞ、ライデーデン!」


「元々子供らが襲ったのだろう? 逃げないとわかれば解くさ。よく見ろ、彼に敵意はない。逃げる素振りすらもだ。後ろ暗いところもなく、こちらへ危害を加えるつもりでないのは明白だ」


ライデーデンさんでしたか!

あんまり覚えてないけど、山の民にしては知識人だったような気がするぞ。

ということは、彼なら私のことを覚えているかもしれない。


マントをしまい、また、出して地面に落とす。ボサッという音に反応して、視線が小鳥に集まった。

私がこの場に転移してくるとかは無理なので、皆、すまないが海岸に移動してほしい。

ピヨ!とアンディラートに向けて鳴けば、彼は頷いてライデーデンへ向き直る。


「仲間が、彼らに海に落とされたんだ。あの鳥が何か伝えようとしているようだから、詳しい話しは後にしてついてきてほしい」


「…ふむ。魔力の塊だな…」


何かわかるのかね、ライデーデン。

期待したが、特に解説は入らなかったので、サポートについてはご存じないようだ。

アンディラートは一瞬表情を歪めたが、着ぐるみバレについては後回しにしたようだ。

小鳥とマントの側に来たので、収納と離れた場所への取り出しを繰り返す。


「…どこかに連れていこうとしている?」


正解です!

ご理解いただいたのでマントはもう収納。

小鳥がパタパタと案内に飛ぶ。着地して、ついてくるのを待つ。

アンディラートがついてきたのを確認して、下へ降りる道へと誘導。全員が追い付くのを、地面に降りて待機。


「どこへ行く気だ?」


「海に落ちた仲間が、合流したがっているのだと思う。こちらはエルミーミィという女性率いる数名を保護しており、他にも仲間がいるというので探しにきたところだ」


ライデーデンとアンディラートの会話に、フラニーニィが鼻をヒクつかせている。


「…騙そうとしてるんじゃないのか。こいつはともかく、さっきのヤツは怪しい」


私か。私の印象、なぜそんなに悪いのだ、フラニーニィよ。

しかしその後のアンディラートと獣人チームの会話により謎は解明された。

私からは、汗も砂埃も臭わない、と。

こんなに無臭な冒険者なんておかしい、暗殺者稼業でもしているに違いない、とのことだった。乙女の身だしなみが仇になるとは…。


脱線しがちな獣人ゆえに、話に夢中になって途中で立ち止まるたび、マントを落として気を引いて、歩かせる。

そのうちマントに反応しなくなってきた。仕方なく上着もビショッと追加する。むむ、まだ反応がない。更にズボンをベシャッと。


「オルタンシア! それ以上はいけない!」


慌てたアンディラートにビショビショ服達は素早く回収されてしまった。

というか、濡れたものを抱えたアンディラートが、ビチャビチャになったよね。

こちらも慌てて、その腕から服と、アンディラートに付いた海水の水気を回収し返した。


急にそんなに慌ててどうしたんだい。しかもなぜ赤面を…あ、そうか。

気を引こうと、マントに上着にズボンを出したら…私、今パンツ丸出しだと思われた?

もしくは、そんなつもりはなかったが、まるでストリップショーみたいなことになっているから?

ち、違うんですよ、冤罪です。着替えは終わっているのよ!


この辺の砂浜で待機していてくだされ。何とかこれから泳いできます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今回のサーチも面白い! まさかその殺意は匂いから来た!「乙女の身だしなみ(略)」のところは笑った〜 あら、「パンツ丸出し」ですが、懐かしい〜 水着はセーフ、でも、ちょっとビキニ姿も見たいなあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ