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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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火サスっぽい場所で会おう。



私達は当初の予定を越えて、宿に延泊している。もちろん、双子の弟目当てに新お母様の家にちょくちょく入り浸るため…ではなく、エルミーミィの仲間探しを手伝うことにしたからだ。

つまりは冒険者モード、フラン&ラッシュ!

服装が庶民的普段着、とっても楽!


この件はアンディラートにご相談のうえ、エルミーミィと話して決めた。

つまり領主一味には全く言ってないから、むしろ会うと困っちゃうんだな、これが。

アンディラートが一緒な時点で、如何に隠そうとも同行者が私であることはバレバレだから、変装しても仕方ないのよね。

一応の様式美としてお忍びアピールのフード付きマントを着用してはいますが、何せ即バレなので会わないことを祈るばかり。


なぜって…先だっての完璧な令嬢ロールが、息してないことになるからね…。お父様の指令は破れない。

ならばとアンディラートごと身元を隠そうとすると、観光地にフードを被った2人組となる。怪しすぎて職質待ったなしだ。

多分その辺の人にちょっと聞き込みしただけで注意喚起出ちゃうよね。怪しい2人組が声をかけて回る事案、みたいな。


「潮の流ればかりは素人にはわからないからな。そちらは領主側での捜索に期待しよう」


いつの間にか周辺地図を入手していたアンディラートの言葉に、私も頷く。

物自体は街の案内図なのだが、思いのほか周辺の地形もちゃんと書いてあって便利。


この世界では、海洋技術はまだ発達していない。トリティニアには海軍なんてないし、ペリィさんが開国を迫りに来たりもしてない。外洋のことはさっぱりわからないのだ。

トリティニアの船といえばそれこそ漁師が近海で魚を採るくらいで、筏に毛の生えたようなものしかない。前世が島国出身の私としては心元ない限り。


自分で作ったわけでもないのに言い過ぎましたかね、一応箱っぽくはなってるから水は入らないハズ。

いや、でも載せたものが落ちないように低めの壁が付いただけの筏レベル…正直、こんなお船に乗りたいとは思わないよなぁ。

危機管理的にもリゾート的にもナシっていうか、何かこう…材木感抜けてない…。

グレンシアで湖を渡った時はこんな船ではなかった…これが真の大国との実力差なのか。

まぁ、一般的な船がこんなんでなければ、エルミーミィ達だって皆で樽で海に出ようとしないだろうね。

1人くらいならまだしも総員が樽って。樽も船も変わらんって評価なんでしょ…。


漁に出たりする地元の方とかに話を聞くのはあちら様にお任せした方が良いでしょうね。

見知らぬ冒険者達(しかも片方は顔を隠している)が話を聞きに来るよりは、領主勢力が聞きに来た方が素直に色々話してくれそう。


我々は「こっそり流れ着いた後に身を潜めそうな場所」を探すのだ。

エルミーミィや一緒に流れ着いた方々も当初は元気だったのだが、その後に気が抜けたせいか軒並み体調を崩して寝込んでいる。

揺れない地面のありがたさについて、なぜか天使に感謝しながら寝ているらしい。さすがに天地創造には関わってないと思うよ、うちの天使。否定形でも、さす天か。揺るがぬ。


他のグループがエルミーミィ並みの怪我をしていない保証だってない。

そして例え大怪我せずに無事に流れ着いていたとしても、その後に気が抜けて力尽き、動けなくなっている可能性もあるということ。

それなら、やはりなるべく早くニャンコ大集合するべきで、私達も手伝うべきかなって思うのです。立っているものは親でも使えと言うしね。別に親じゃないけど。


誰だ、こんな暴言考えたの、どんだけ忙しいのよ、ブラック企業なの?とか思ったけど、本来は「やっちゃいけないことだけど、超緊急だから仕方ない!」ってことらしいね。

そんなにも緊急じゃないと何も頼めないような親は、あまりフランクな関係ではなさそうだよ。「この程度の仕事で親を頼もうだなどとは不敬ぞ!」とか言われたら、むしろこの親、心の距離が他人では。


さて、一体何人が海へ出て、どれほどが打ち上げられたのか、実は全くわからない。

山の民達は追い詰められて海への樽ダイブを慌ただしく実行したため、エルミーミィも全体数を把握していなかったのだ。

村民の数だけ樽があったわけではないし、船出を拒否した人もいた。一樽に2人入っている場合や、木箱に入った者もいたらしい。さすがに木箱は高所からのダイブに耐えられずに壊れ、近くの樽に救助されたという。

同じタイミングで海に出た船団…基、縄でくくった樽チームの人達だけが、何となくそれぞれを把握しているらしい。

彼らは耳も鼻も良い。波音や潮の匂いにだいぶかき消されてはいたらしいが、所属グループの範囲くらいなら感知が出来ていた。


それと、一口に山の民と言っても…エルミーミィの同志(カルト)とそうでない人がいる。

教団の民はエルミーミィとの合流を第一に考えるだろうが、そうでない方々は自分達の身を隠すことを念頭に置くだろう。

そう簡単に、助かったニャー!と見知らぬ人間の街にやってくるとは思えなかった。

ゼランディで迫害の対象だったのだから、他国に来ていきなり陽の下を背筋を伸ばしては歩かないと思う。


「あの辺…とかに、居そうな気がする」


アンディラートが示したのは、確かに地元民はあまり行かなさそうな、危険そうな海沿いの岩場だ。森とまでは言えない林っぽい木々が近くにあり、身を隠せそうではある。

足場の悪そうな岩場から、崖みたいな場所に登れそう。一見、海から上がっては行けそうだがしかし、よく見れば動かない岩と、波に遊ばれてコロコロしている岩が混在している。頑張って登ってもちょっとフラついたら足を踏み外して海へ真っ逆さま、なんて…ありそうだわ、怖いじゃないですか。

崖っぽい部分だって危なさそうで、普通はわざわざそこへ近付こうとは思わないよ。具体的に言うと火サスの舞台っぽい。

うーん。私ならあんな危なさそうなところをキャンプ地には選ばないけれど…山の民の運動神経は、抜群では、あるな。彼らなら危険だとは思わないかも知れない。

でもなぁ…。


「危なくない? 君なら、あの場所を一時滞在場所に選ぶ?」


「いや。それはそうだけど…でも、居そうな気がするんだ」


つまり、勘なのかしら。勘には従えと育てられているのよね、アンディラートは。

まぁ、他に手がかりがあるわけじゃない。

それでもどこかは探さねばならないのだから、候補に上がった順に探索すればいいのだろう。ましてや天使のお告げだ。聞かない選択肢がない。


「ちょっと遠そうだね。泊まりになる程ではないかもだけど、向こうでサッと食べられそうなお昼ご飯も買っていこうか」


効率よく動いていけば、山の民が見つからなくとも、彼らの手がかりくらいは今日中に見つかるかもしれない。

無理なら無理で、明日があるさ。

怪我人とかがいなければね、焦らなくてもいいんだけど。わかんないからね。エルミーミィ達が寝込んじゃったから、なんかもう急に不安になったよね。


「そうだな。それに、もしも山の民がお腹を空かせていたら分けてあげられるように、そのまま食べられそうな食料も少し買おうか」


あぁ。そうだった、エルミーミィ達も結構なガツガツっぷりだった。。

上陸しているなら、狩りや採集でちゃんと食べているかもしれないけれど、念のため。


さぁ、本日の探索地を定めたならば、出掛ける準備、買い出しだ。

とはいえ食料以外は大体予備を持っている。一度は空になったアイテムボックスだけど、やっぱり暇ができれば何でも詰めちゃうので、増えている。

腐らないものなら問題はないよね…うん、汚屋敷を作らないよう気を付けます…。


街を離れることになるので、冷めてもおいしそうな、昼食になりそうな食べ物を探す。私は無難なサンドイッチを購入します。

…自分で作った方が美味しそうかな…。でも、今はヒマがないから。

ちょっとアンディラートさんや、肉串は冷めると美味しくないのじゃないかなぁ…あっ、今食べちゃってる。何だ、ただのおやつか。

更に予備の食材と、アンディラートのおやつを買い込む。


えっ、この潮風によって乾燥させられたドライフルーツ、妙に美味しい。ナニコレ。特産品としてもっとアピールすべきじゃない?

せっかくなので大量に買ってアイテムボックスへ詰め込んでおく。

空気やらを抜いておけば長持ちするだろう。得意の「部屋ごと真空パック」だ。

アイテムボックスの最小単位は物ではなくそれを置いた小部屋だから、設定は部屋ごとにしかできませんので。

楽しみだなぁ。今度パウンドケーキ作るときに混ぜ込もう。


「…オルタンシア、これも美味しい。食べてみないか」


ドライフルーツ屋の前で目を皿のようにし始めた私。同じように隣で味見していたアンディラートは何かを買い、私への味見に差し出してきた。

置いてある味見をつまめと言うのではなく、美味しかったのでまずは買ってから自分の分から差し出してくるところ、なんか好き。


「本当だ、美味しいね。私も買おうかな」


「それなら俺がもう一袋買っておく」


「あ、荷物になるから、自分で持っていたいもの以外はここに入れちゃってね」


買ったものは「実はコレ魔法の鞄なんですよ」と言わんばかりに、私のリュックへポイポイ入れてからアイテムボックスへ送る。

魔法の袋は店頭で見かけたことが全くない。いつかお父様の借り物ではなく、自分のをアンディラートにも持たせてあげたいな。

滅多に並ばないらしいレアアイテム…一番可能性が高かったグレンシア滞在中に手に入らなかったのなら、ちょっと無理かもなぁ。

銀の杖商会でもなかなか手に入らない。

というか商人さんは結局は売るための仕入れなので、同じ商会ばかりが独占すると、商品を狙っている店同士の関係がギスる。

そのため、レアアイテムは商業ギルドが間に入って、欲しい商会への機会が平等になるように調整してるんだってさ。


それにしてもドライフルーツがどれも美味しい。何種類も買ってしまう。

惜しむらくはピール系がないところか。

こちらではわざわざ皮を刻んで砂糖漬けにしてなんて食べないのか、見当たらない。

一度気になるととても食べたい。

もう、自分で後で作っちゃうか。つまり、あっちの果物屋さんも見たい!


超真剣に食べ物を選ぶ私とアンディラート。

そんな食道楽な冒険者はどうやら珍しいらしかった。あまりにも真剣な私達を、市場の店主達が面白がって、色々と説明したり試食させてくれる。

市場デート、楽しい。

楽しいけど、今日は休日じゃないんだ。遊びに来たのではない。そろそろ行かんと。

あのぅ、ちょっと時間が押してますから通して…えっ、やだ、これ美味しい。買います。


名残惜しみつつも、何とか市場を後にした。

予定より大量に買い物しちゃったぞ。値引きやオマケも沢山してもらっちゃったし。

生のお魚とか貝類とか、これから探索に出掛ける人が買うものじゃないよね。向こうもなんで売り付けてきたんだい。ノリか。

幸いにも私にはアイテムボックスさんがあるので、氷室ゾーンへ収納するけども。アサリっぽい貝も砂抜きしておかなきゃ。


こんなに明るくて人の良い店主達がいるのなら、観光地としても活気があって良いな。

私も、結構、ここが好きだ。新お母様の実家でなければな…完全に素で過ごしてもよろしければな…。

気分良く帰れた旅行者は、他の人にもここのことを好印象で話すだろう。

実績と広がる口コミで、きっとここは潤っているんだね。

領主の統治も良いと思う。エルミーミィの件も、現実的に判断して、直ぐ様一家で対応しているようだったからね。

ここで育った新お母様なのだもの。きっとお父様とも上手くやっていけるだろう。まぁ、お父様の方がそつなく夫業をこなすと思いますけど。お父様ゆえに。


市場で予想以上に時間を使ってしまって、午前の部が潰れた。探索が遅れると、王都への帰宅日程も遅れますよね。予定が本当に押しております。

でもアンディラートも楽しかったようなので、文句はない。そっと探索スピードを上げ、巻き返せば良いだけだもんね!

というわけで、目的地まで身体強化しつつ早足で行くことにした。

走っても良いんだけれど、道中で何か見落として通り過ぎても困る、かも知れない。


早歩きの私達は、グングンと街から遠ざかった。街道からも外れて、海辺の岩場までサクサクと歩いていく。

山の民の気配は、まだない。

…と、私は思っていたのですが、アンディラートはそうじゃなかった様子。若干の警戒体制を取ってこちらに耳打ちしてくる。


「姿は見えないが、何人かこちらを見ているな。山の民かどうかはまだわからない」


え、何人かいるんですか?

どこに?

ちろりと不自然にならないように視線を巡らせるが、岩がゴロゴロしているだけで、人影なんてない。

林の中に隠れているのだろうか。

…全ッ然見つけられないのですが。



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