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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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264/303

オタサーの姫…?



不穏なかほり…。

完璧な令嬢スタイルで乗り込んだ私を迎え撃つは、新お母様を守るように取り囲む3人の男、プラス隣のソファに領主。

3人掛けソファに男、義母、男。そして義母の真後ろに立つ男の布陣である。

これは…完全に、サークルの姫ですね! 囲む男は騎士と呼ぶのだったか。


うーん、見た目は所謂オタ系じゃないけど、中身はわからんよね。それに魔術オタとか剣術オタだって立派なオタ。体育会系にもオタクは潜む。

…とにかく、新お母様は何かのサークルの姫なのかな? それとも今日は乙女ゲームのジャケ絵の撮影会か何かが…わぁ、ご挨拶とはいえ皆立ち上がるとなお威圧感あるぅ。

さながら領主は審判席というところか。

どう見ても髪色が同じだし、顔立ちも似ているからご家族なんでしょう。仮想敵が私とはいえ、家族を守ろうという息ならば、嫌いじゃない。


「領主様並びにご家族様、お初にお目にかかります。オルタンシア・エーゼレットでございます。そして、ジュリアンヌお母様には、ご無沙汰しております」


しかしそんなことでは私の令嬢ロールを剥がすことはできないぜ。

シャラリンと完璧なお辞儀をして、そのまま隣のご紹介。ちょっと慣れてきたのと、本番のロール中なのでもうトチらない。


「こちらは私の婚約者であります、アンディラート・ルーヴィス様です」


「本日はお目通りに感謝します」


ペコリ。挨拶、短ッ!

緊張しているわけではないようなので、まぁ、いいです。多分、自分がメインではないから控えるといういつもの戦法。

領主がゆっくりと頷き、スッと左手をソファに固まったサークルメンバー達へ向ける。相手チームのご紹介だ。


「遠いところを良くいらした。私はここを治めているジュールレト・スタインセイル。娘の紹介は要りませんな? その3人は上の息子達で、こちらからカルドヴェル、ゼルクバーン、ミルタシルト」


そう、今更お初にお目にかかるのだよ。

そりゃあ私も相手も自己紹介から入るさ。幾ら何でも普通はもっと早くに義母の実家とくらい親睦を深めるよね。

何と言っても私は、お母様とも「顔合わせ」くらいしかしていない娘。


懇親どころか結婚式にも不在でした。だってその頃はもう祖国にいなかったんだもの。

だが相手方にはこちらの事情など預かり知らぬこと。睨んでくる男達にとっては、妹の結婚式を祝いもしなかったという事実だけが、私へのイメージとして根強く残っている。

正直、今まで会わなかったせいで溝が深まっているね。仲介者が必要では。

お父様助けてーって言いたいけども、お忙しいのだよ、わかってる。

私も成人した大人女子だからね、頑張る!


男子三兄弟はそれぞれ名を呼ばれたタイミングでお辞儀をして来たので、こちらも会釈を返す。成程な、4人兄弟の末っ子か。しかも早くに母が亡くなったとのことで、兄達が溺愛している妹ということですね。

こちらへの視線、厳しいワケです。でもさ、こんな年下の小娘相手にいただけない大人げのなさだよねぇ。

そもそもこちらとしては新お母様を拒否していないのですし。

行き違いがあるものと思われるのですよ。落ち着くのだ、兄ーズよ。


「本日はジュリアンヌお母様へ、父・リーシャルドよりの贈り物とお手紙を預かってきております。……こちらでお渡ししても?」


兄ーズが眼力を強めたためお伺い。

領主が頷いたので、アンディラートが品と手紙を取り出す。手紙は私を経由して新お母様へ。祝いの品々はテーブルに並べた。これも普通なら後で使用人に託すはずのものなのだが…目の前で出せとは信用がない。

とはいえラッピングされているので、中身が何かはわからない。いや、さすがに贈り物リストは知っているが、どれがどの包みかまでは把握していない。推察になる。だってそこには、赤子用と奥様用が混在しています。


使用人がペーパーナイフを渡し、新お母様は落ち着かさなげに封を切った。

あと、彼女の真後ろにいたゼルダはーんみたいな名前の人は、手紙を覗かないよう位置をズレた。偉いぞ次男。

プライバシーは守るタイプの溺愛らしいので、良いと思います。

これが俺の愛って言っとけば、何やっても許されると思ってるヤツとかいるからね。気を付けて、ホント。


「…まあ…」


一通り贈り物を確認した新お母様が、手紙を読んで微笑んだ。

何か良いことが書いてあったらしいが、私もさすがに手紙の中身なんて知らない。なんて書いてあったのかとも聞かないよ。


「何と?」


しかし長男ドヴェ男は空気を読まずに手紙の情報を所望。ダメな子ドヴェ男。

もちろん令嬢ロール中なので、ダメな子を憐れむような目で見たりはしない。

しないけれども、長男と次男の気遣いレベルの差による株価グラフは上方、下方と進む方向も顕著である。お前はダメな方の溺愛。

義娘のチェックは厳しいのだぞ。


「ええ。そうね…娘のオルタンシアからもお祝いがある、と書いてあるわ。…あなたが選んでくださったのは何かしら?」


あ、新お母様は多分、別のどうでもいいとこを読み上げましたよね。サラッとした対応に慣れを感じる。

もう私の出番ですか。

一応使者という立ち位置なので、自分のは落ち着いてから出そうと思っていたのですが。


新お母様の雰囲気と口調が、前よりも随分と柔らかい気がするが…それは実家という安心感からかもしれない。

つまりミーにはアウェイざんす。知ってた。

これがキラーパスでないことを祈りつつ、私は自分の手荷物から包みを取り出した。


「弟達のスタイを縫わせていただきました。お使いいただければ嬉しく存じます」


新お母様とは心の距離が遠いので、怯えさせないように笑顔と口調が他人行儀。

贈り物はイビリの定番にも使われるせいか、警戒した長男が手を出そうとしてくるが、次男が止めた。三男は空気。

次男株価、ゆるやかに上昇中。

意外にも新お母様は怯えも迷いもなく受け取り、開封した。


「まぁ…」


「おぉ…」


ヨダレ掛けになぜかどよめく面々。家紋の刺繍はダメでしたか? ハンカチに縫っても良いものなら、ヨダレを拭いても良いだろうと思ったんだけど。

赤子2人に2枚ずつで、4枚だよ。

弟とはいえ顔も知らないので、どっちがどれとかそういうのまでは決めてない。お好きなように分配しておくれ。

いや、顔見ていても赤子じゃ、似合う似合わないもないのだが。


今生、一般的なヨダレ掛けを並べて見るような機会はなかった。何も考えず縫ってから気付いたが…生花ドレスのように異世界感性が的外れでないことを祈るばかり。

縫うのは問題なくできた。例によって詳細な記憶はないが、前世では見たことがあるので、今回と同じように出産祝いやらプレゼントとして選んだことでもあるのだろう。


他にヨダレ掛けと関わることなんて…自分が赤子の時しか記憶にないわね。私が使用していたのは、柔らかい生地だが無地だった。

パステルカラーの日もあれば、オトナのワインレッドの時もあり…シンプル無地が両親どちらの趣味かはわからない。

お母様はリボンやレースのフリフリスキーだったから、お父様かしら。でも、パステルカラー…うぅん。読めぬ。

まぁ、選んでない可能性もあるよね。今の私みたいに誰かの贈り物の線もある。


「こんな風に柄や刺繍を入れたスタイは初めて見たわ…無地のものしか見たことがないから、そういうものかと思っていたけれど…これは可愛らしいわね!」


アッ、一般的じゃなかった! 無地は異世界感性のほうだった! これはアウトかー…?

で、でも無地がメイン市場ってだけならッ。セーフかもッ。

んー…飾り立てるのが好きなお貴族様が、レースひとつも飾らないなんてことある? お高いレースを赤子がモグモグする可能性があるからかな。お母様の反応的には、飾って駄目ってほどのことはなさそうだが。

これはアウアウ? セフセフ? ちっともわからない。脳裏でファントムさんが長マフラーの歌のお兄さんとコラボライブしてる。何なら私も加わって舞い踊りたい。

でも私、今、令嬢だから。我慢、我慢。


洗いやすさとか汚れの見える化とか、そういうのを優先して考慮されているということなのだろう。きっとそうよ!

つまり…セウトだな!(結論は出なかった)


とはいえ拭うものは赤子のヨダレ、世界が違えど形状自体はイメージから大きく掛け離れたりはしないはず。

喜ばれたみたいだし、いいよね?


縁の彩りと肌触りを優先したので、口を拭きそうな位置には刺繍はない。

家紋入りは各1枚ずつで、2枚目は前世感覚の模様を入れたヨダレ掛けだ。

デフォルメしたグリューベルと花を随所に散らした、可愛らしい仕上がり。2人前、色違いでお作り致しました。

そう、プリント柄をイメージしましたの。この世界、まだ生地に同じ柄をペタペタ印刷していく技術はない。

同じ大きさ、規則的な配置を複数という通常なら手間と時間がかかるであろう作業も、ピタリと揃えてあっという間よ。そう、身体強化様ならね。

…片手間? いや、違う違う!


「すごいわ。家紋の刺繍の細かさも、こちらの可愛らしい柄も…色だけが違うのに、まるで同じものみたいにそっくり。刺繍が…得意なのかしら?」


「そ、うですわね。仕上がりが良いかはわかりませんが、好きではあります」


なぜなら、刺繍って「針と糸を使って絵を描いている」だけだから。絵筆から刺繍針に持ち替えたに過ぎず、やっていることとしては好きな色で好きな絵を描くことだ。

細かいほどに己の器用さが発揮されて、そりゃもう楽しゅうございます。


しかし、初対面同然のような仲良くもない相手に「裁縫は得意なんです」などとハナタカ自己アピールのようなものを言うべきなのかよくわからず、どこか曖昧になる言葉。対人スキルはないのだよ。

戸惑いをどう取ったのか、アンディラートが、そっと横から口を挟んだ。


「オルタンシアの刺繍は凄いと思う。前に貰った精悍な鳥の図案のハンカチなどは、動き出しそうなくらいに精巧だった」


あぁ、鷲のヤツ。貴族シップに則ったちゃんとしたヤツより、暇潰しがてら目一杯遊んだ方が受けが良かったというアレだね。

でもあれ、ハンカチとしては失敗だよね。糸だらけで触り心地が悪いもの。

刺繍って裏から見るとシュールだからな…。


「…そうなのね。あの、私も刺繍をするのは好きな方なの。よろしかったら、また…他の作品も見せてほしいわ」


おお。これは、新お母様からの明確な歩み寄りじゃない?

乗っかる以外に手はなかろう。私も微笑みつつ、頷いて見せる。

今こそ、放て。お母様直伝の「アナタと仲良くしたいわ」の微笑みだ!


「えぇ、是非。せっかく家族になれたのですもの、色々とご教授願えれば幸いですわ」


新お母様とは、その後はわりと和やかにお茶を楽しむ感じで過ごせた。

外野も見守るだけで割り込もうとしない。

娘の笑顔が曇らなかったのが嬉しいのだろう、完全に父親の顔をした領主の感触も悪くはなさそう。



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