表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おるたんらいふ!  作者: 2991+


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

257/303

南国の芋

馬車についてる家紋については、隠せました。隠しました。

道中にガッツリ観察して、家紋以外を作成したサポート馬車に乗り、うちの馬車はアイテムボックスに入れる方向で。そうですね、いつものゴリ押しです。

いや…公式な感じで出掛けても特に害はないと思っていたんだけど…中の人が冒険者仕様でいるというアンバランスさのせいで、ちょっと面倒がね…。


別に貴族だから何って訳ではないのだけれど、家紋付きの馬車なので当然安全性の高い宿を取ろうとするじゃない。

馬車の保管だって気を遣うよ、イタズラされたら困るもの。お父様のだしッ!

するとやや見栄っ張りめの宿を取らなきゃいけなかったり、高位貴族来訪を嗅ぎ付けた町長や村長が家に招こうとしてきたりする。

下手すると近場に居合わせた別の貴族が「あれ、エーゼレットさんの紋章だわ~」と物珍しげに寄ってきたりするので面倒なのだ。


そんな時は、急いでアイテムボックスからお嬢様用の綺麗めマント出して、猫かぶって偽装しなくちゃいけない。

アンディラートは良家の子息ながら、いつでも護衛という立場をアピールをしているので、特に問題はなかった。

騎士団に入らなかった話も広まっているようで、勝手に「あぁ、冒険者になったんだ」と納得されている様子。彼には何を誤魔化す必要もない。

えぇ、問題は油断している時に唐突な令嬢ロールを求められる私なのです…。


だからもう、家紋、取ったよ!

冒険者が乗るにはちょっと上等な馬車だけど、家紋さえなければ、わざわざ絡んでくる要素はないはずだよねっ。

見知らぬ人との一期一会のために、神経をすり減らしたくないわ。

馬車旅ひとつにも社交性を求められる貴族的生活、やっぱり私にはできそうにない。


そうして、それなりに順調さを取り戻した、穏やかなはずの旅路。

…転機は急にやってきた。


長旅は2人きりの気楽なもので、我々の間には無駄な遠慮もない。

だけども。


「一部屋しか…ない…?」


「はい、申し訳ありません~」


あんまり申し訳なくなさそうな笑顔の相手に、言葉を失って顔を見合わせる。

街道沿いを移動しているのだから、村でも余裕で宿に泊まれる予定だったのに。

整備された街道沿いにある村では、旅人が通るのは珍しいことじゃないから、ちゃんと宿もあるのだ。例え宿を営む住人がいなくとも、空き家の貸し出しなんかがある。

だというのに、宿が複数存在するような街において、これはちょっと想定外だよね。

…今から別の宿を探す? そこまでしちゃう? たかが一泊なのに。

うーん。

別になぁ、一部屋しか取れないのなら、仕方がないっていうか。幸い、ダブルではなくツインなのだし。ねぇ。


…余裕そうじゃないかって?

そりゃあチラリと走馬灯が駆け巡りそうにはなるけれど、時も経ったし同行(リハビリ)も長いもの。普通に過ごす分には問題ない。

時折疼く邪眼…ではなく乙女心(オトメンタル)は、表面的には何食わぬ顔で抑えられるようになってきている。

装着している硝子のペルソナにかけては、昔ほどではないにせよ、制御には一定の自信があるよね。


「では一部屋で結構ですのでお願いします」


「オルタンシア!」


聞き捨てならぬとばかりに慌てるアンディラート。私は微笑んで見せる。

ステイ、の貴族スマイルだ。これは貴族なら皆使う初歩の初歩、護衛にも侍女にも交渉相手にも有効。なので貴族子息であるアンディラートも正しく読み取った。

焦ってるがしかし君、素面で間違いなど起こせなかろう。安心安全の紳士だよ。

私とて「まぁ、そんな…無理よ、キャー☆」等というオトメティカルな時代は過ぎた。

嘘ついたよ。切羽詰まった「うおぉ、無理ッス!」みたいな感じだったのはわかってる。乙女(オトメ)じゃなくて漢女(ヲトメ)の方。


でもさ、事ここに至っては乙でも漢でもどちらでもいいのだ。壊れて困る幻想も最早ない。なぜなら普段が酷すぎて。

幼少時より素で接したゆえに、どう転がっても取り繕えない相手だ。

割り切れるようになってきたのだよ。私は私として、天使は許してくれるはずだからと。

…でも何かの拍子にフラれたら、多分全力で隠密ストーカーするかな…せめて(見)守っていきたいよね。

でもたまに隠れきれてなくて見つかる気がする。柱の陰からハミダシンシア。

うーん、ストーカーは良くないな。


いや、良くないが。そこじゃないな。

宿の部屋が一部屋。

論点はここでしたね。


婚約者とはいえ未婚の男女の同室など、確かに推奨されぬ行為だ。何事かあったのではないかと他人に邪推されても仕方ない。

…でもね、私、思うの。

それ実はとっくに済んでまして全然邪推じゃないので、今更、淑女の名誉保持も何もないのではないかと。


そもそも宿が一部屋でなかろうとも、婚約者を護衛として2人旅している時点で、幾らでも疑われることなのだ。

というか、知らない人に何言われてても別に良いよね。できちゃった婚にでもならない限りは、どうせ結婚したらアッサリと打ち切りになる程度の話題だもん。


それにさ…そろそろ逃げてばかりもいられないのではないかな、と。

私達は目を合わせただけで赤くなるような初々しさを捨て、お互いに慣れていかなくてはならない時期じゃないかな。現実的に。

だって…たまに彼の言動は甘ぅございますけれど、私達は相変わらず進展なし。

セカンドチューすらまだであるぞ。


厳密にいうとファーストの際にはセカンドどころかサードも越えてしこたましているのだが、あれは一夜で1カウントとするマイルールを発動。

酔って正気ではない紳士を、己は正気で押し倒したという目を背けたくなるような所業はさておき。

うぅっ、合意だから…合意だからッ…。(黒歴史は何度ぶり返しても癒えないものだ)


これで結婚して新婚生活を上手くやっていけるのか、逆に不安になってきていた。

マリッジブルーではない。

ありのままで過ごしますと…下手したら私達って、プラトニック夫婦として一生を終えるような気がするよね。

踏み出す勇気が足りない私と…ワールドランキング上位殿堂入りの羞恥心を持つ彼。燦然と輝く照れ屋の星(シャイニングスター)

分家だから跡取り居なくて絶えてもいいのかな。個人的にはそれでもいいんだけど。

アンディラートは…家の存続に拘るなら家督放棄しないかな。

あれ、もしかして荒療治の必要はない? 私達、ありのままでいいの?

じゃあ、…無理せんでもいいかな…?

えっと。

でも宿に泊まりたい理由はそれだけではないのです。


「大丈夫、考えがある」


私の旅に付き合わせている上に、見張りも御者も私よりそっと長くやってくれている。

ちゃんとベッドで休ませてあげたいので、隙あらば宿には泊まりたいのであった。


そうだよ、どう考えても理由の一番の根っこはコレだよ。当然じゃん。

…ふう。これを一番に持ってこられないところがオトメンシアの邪魔なところよね。

もはやパニック要員として一体の人格化してきた気がする。


普通に起きて共にいる分には問題があるとは思えないが…ぶっちゃけ、ツインでも一緒に寝るのが照れて無理なら、私だけアイテムボックスで寝ればいいよ。

そう。逃げ道はあるのだ。私はチートの女。


でも店員さんの前ではその話はできないので、オロオロするアンディラートを尻目に宿帳に記帳する私。

よぅし、ついでに君の名前も書いておいてあげようね。

アンディラート・エーゼレット、と。


部屋に案内されながらチラ見すれば、確かに宿の客は多い様子。我々の後ろに並んでいた冒険者は6人パーティだったためか、すぐさま満室でのお断りを食らっている。

しかし彼らはペコペコと「物置でも台所でもいいから何とか寝かせてくれ」なんて頼み込んでいる…。

うーん。冒険者が雑魚寝した台所で、ご飯作ってほしくないなぁ。大丈夫だよね、宿の人?


というか、お金払ってまでそれなら外でキャンプした方が良くないのかな…と考えていたところ、アンディペディアに「この辺は夜行性の魔獣が多いから、外で野営してもあまり休まらないらしい」と耳打ちされました。

問う前に常識を教えてくれる、この癒し機能付き生き字引…手離せる気がしない。


そうこうする間に、また新たなお客さんが入ってきて、満室だからと断られている。

やっぱり「何とかならないか」と頼み込む彼らは、既に何軒か宿をまわったような話までしていた。

宿の人は無情にも首を横に振っている。

…これはさっきのツイン、サクッと決めといて良かったわ。シングルがないってことじゃなくて、本当に最後の一部屋だったのかも。

ちなみにさっきの6人組は、客室ではないどこかを間借りできるようだ。良かったね。


しかし、どうしてこんなに混んでいるのか。客層は冒険者だ。私達の格好も、程よく周りに馴染んでいる。

私達を部屋に案内している人は、なんか必要以上にニコニコだ。

さっきの全然申し訳なくなさそうな様子は、この好景気ぶりでの隠しきれないウハウハ感だったのか。


何だろう? ここ、観光地じゃないよね?

脳内で地図を思い浮かべてみるけれど、ここは何ということのない、ただの街道沿いの街のはずだ。

テクテク進むと村3~4に対して街1くらいの比率で出てくる、そんな普通の街。


「随分と人が多いが、この街では祭りか何かがあるのか?」


アンディラートもツインルームショックからようやく立ち直って、宿の人に問いかけた。

悪いことがあったわけではなさそうだけど、今回は用事がございますので、面倒事にはあまり巻き込まれないようにしたいよね。

しかし危険が少なくてお金になりそうな冒険者活動であれば、私も参加したいところ。


実のところ、トリティニアでは、あまり山賊や盗賊は出ない。それだけでも北の方の国よりは治安は良く、平和なのだろうなと思う。

ほら…他人を襲わなくても、気候が温暖だからさ、畑を耕せば食べてはいけるもの。夏も暑すぎないし、冬に雪も降らない。森で狩れば肉も手に入る。水源さえ見つけておけば、自給自足には問題のない土地柄だ。

耕す前にちゃんと調べないと、実は誰かの土地を不法占拠って可能性はあるけど…それとて放置されている土地ならば、勝手に住み着いてもそうそうバレない気がする。

逆に賊になろうとしても、実入りの良い馬車を襲えそうな場所というのは騎士団も巡回していて、そちらの方が難しい。


「いえいえ、数年に一度のことなのですけれど森で花が咲いたのです」


「?」


話によれば、森には何だか特殊で嬉しい花が咲いているらしい。

花が咲くと森では普段は取れないものが色々と収穫できる。それを知っている冒険者も集まってきていて、この街では今ちょっとしたお祭り騒ぎなのだということ。


謎の花が咲くと、農作物が増えるの?

しっくり来ない顔してた私達は、しかし次の瞬間、俄然やる気を出すことになる。


「お客様も探してみますか? 虹色の花が咲いた後にできた実を飲めば、どんな怪我や病も治るなんていいますよ。過去の花の発見場所の地図をカウンターで販売しています。…まぁ、万病に効くだなんてのは、おとぎ話なんですけどね」


「…そう、なんですか?」


「実をつけないんですよ。綺麗な花だけど、岩壁に生えているので採りにくいですし、花を煎じて飲んでもそんな効能はないみたいですね。来る方にはちゃんと説明してます」


「そう…ですか…」


どうしよう。

まさかこんなところで出会うなんて。


確かに花を煎じて飲んでも回復はしないだろうけど…それ、多分ポーションの材料です。

サトリさんにレシピを貰ったのに、どうしても「七色の実」とかいう謎の材料が手に入らなくて頓挫していたのだ。

カラフルな実を七つ集めるわけではない。願いを叶える龍とかは出ない。

七つの色は、属性とかそういうものを反映しているのかもしれないと勝手に思っていたが…花が虹色という意味なのか。

その実一つ加えて魔力を通すだけで、民間療法ぽい薬草汁が突然、数種のポーションに化けるらしいのだよ。


冒険者の聖地だから情報も多かろうと思い、グレンシアでも探した。

ところが冒険者ギルド、薬師ギルドで尋ねても情報はなく、銀の杖商会の叡知を駆使しても見つからないのだから、なんかもう…。そうね、権力者に秘匿されたまま絶えることもあるようなこといってたわね。

材料は揃わないのかもしれないと、半ば諦めかけていた。

サトリさんも古いレシピだって言ってたから、予想以上に古くて、もう薬草が絶滅したのかもなぁって。


違いましたね。地域性ですね。

コイツ、南に生えるものだからあっちで見つからなかったんだわ。

しかもレシピが失伝してしまったためか、不確かな民話になり下がっている。

考えてみれば「魔力を通す」ということが、今は獣人チームにしか簡単に出来てないっぽいしな。色々絶えてるのね、人類は。

これは元の情報を知らないと、どうにもできないヤツだわ。


支店のないトリティニア、その一部地域で数年に一度の旬のものとなれば、銀の杖商会を以てしても情報など入るまい。

サトリさんは私達の出身国を知っているから、特に何も言わずにレシピを渡したのかもしれないな。

…私達にサトリ機能はないのだから、もう少し噛み砕いて話してくれてもいいのよ…?


さて。

この七色の実、正しくは実ではない。では何なのかと言うと…地下茎だ。

その綺麗な虹色の花は、つまり芋科だった。(街の)伝説の実は、土の中にこそある。

固い岩壁に咲いているから、根を採ろうと思えば、もはや採掘。ツルハシが要るだろう。

私はアイテムボックスで採れますね。

メッチャ向いてる、この採集。


「そうだな、せっかくだから参加しよう」


アンディラートが力強く宣言した。彼もその花の正体に気が付いたようだ。

グレンシアで見つからなかった時に、私が割りとガッカリしたことを知っているからだろうか。寄り道なのに、結構乗り気に見える。

他の材料は持っているのです。

伝説のレシピをあと一歩のところまで揃えた銀の杖商会、凄いよなぁ。私の商会への信頼度は相変わらず高いですよ。


「あとで地図をくれ。…混んでいるようだが、延泊はできるのだろうか?」


アンディラートがきちんと現実との調整役をしている。うっかり。明日の宿のことなど考えていなかったぜ。

最終的には何でもチート頼みでゴリ押せばいいやと思っている私とは大違いだ。

私も、トランサーグの新人冒険者育成講座をちゃんと受講しておくべきだったか。


「え~え! も~ちろんですよ!」


宿の人はとてもお喜びだ。まさに稼ぎ時ということなのだろう。

その後、受付で販売されているという花の地図を購入した。花の咲く時期しか採れない、いつもより薬効の高い薬草(街の伝承の域で科学的根拠はない)、この時期しか手に入らないサクランボっぽい実(人には渋くて不味いが家畜の好物)、それを食べに来る珍しめの魔獣(魔法耐性装備が作れるらしい!がトリティニアにはほぼ魔法使いはいません)の目撃情報など…色んな種類の地図が販売されている。種類ごと、バラバラにだ。

この宿、商魂逞しいわぁ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ