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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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リスターは来れなかった。



 私達は今、旅の空の下にいます。

 あんまりのんびりしている余裕はなかったみたいなので予定前倒しで出立。サポート製ではなく、おうちの公式馬車を使用している。

 基本的に旅というものは、魔物避けが使われた大きな街道に沿って移動するものだ。そのため、大体のコースは決まっていた。

 お決まりのパティーンというヤツである。(違います)


 新お母様の実家へ行くためには、前に旅をしたルートと、途中から逆方向になる。

 以前は出国を目的としてゼランディへと向かったが、今回は隣国ではなく、トリティニア国内の貴族領へ向かうからだ。

 トリティニア王都は丘の上のような立地にあり、どの門を使うのかで一見出だしの道は分かれているかのように見える。

 だが結局全ての道はつらっと街道へ合流するので、王都からの道というのは南向きにある1本のみだと言える。

 そのまま進めば幾つかの街があるが、どれも王都からは南。つまり途中までは王都から街道沿いに南下の一択。

 一度は通った道というわけだね。往復だから二度かな。


 お父様は何にも言わないけれど、日々やたらと私の頭をナデナデしたり一緒にお茶したりしていたので、職場やらで苛々した分の癒しを求めていたのではないかと推察した。

 女神たるお母様がいないため、お父様の癒しは常に不足しているはずだ。

 私と違って絵を描いて補うことも出来ないものな。私も、新お母様の手前、簡単にはお母様の絵を増やしてあげられない。

 義母いびりと取られたら困る。ちゃんと義娘も歓迎していると思ってもらいたい。


 私のせいでお父様にご苦労をお掛けするのは本意ではない。

 …最近のご心労は、多分チラッと言ってた「娘を公開するパーティー的なものを開こうよ」という圧力のせいだと思う。実質、婿の座狙いの輩との顔合わせだよね。

 しかし、そういう目的で開けと言われても既に婿は決まっているし、言われて開いたパーティーで実は婚約してますと言われても鼻白むだけであろう。


 婚約を公開できない理由はただひとつ。

 新お母様がまだ何も知らないから。


 今ここで大々的に発表するわけにもいかないのだ。

 新お母様が私の縁談に口を出すような筋はひとつもないのだが、何かの拍子にこちらの連絡よりも早く向こうの耳に入ってしまい、義実家が「ウチの娘を蔑ろにしやがって」とか思ったらコトなので。

 現在ウェディングドレス作成中の服屋さんも信頼と実績の大店で、従業員から漏れないようお針子がめちゃんこ分業して納品先をわからなくしているところだという。

 超、気を遣っています。


 お父様からすると過去の婚約者候補だっただけなのだけれども、お父様の親が何か口約束をしていたかまでは定かではない。

 先方からも特に「内定していたのに」というような恨み言は出ていないらしいので、真実は闇の中。

 それでも、今までお父様一筋で来た新お母様だけに、向こうの実家はとても過敏だ。


 お父様は決してそのようには見せないけれど、家の中でも新お母様には、細やかに気を遣って暮らしているのだろう。

 前妻と比べられていると感じないように。

 愛されていないと不満を抱かないように。

 自分が大事にされていると思い、そう己の実家へも報告するように…。

 それが、宰相の妻という役割をこなせる人材を入手するために必要だったから。


 でもね、お父様に一途な新お母様は、良い。後妻としては、私の中で花丸が付きます。

 できればアンディラートのお母様のように「当初は怯えたけど今は立派な紫陽花ファン(ハイドランジャー)です」くらいに私への意識が変わっているといいな…過ぎ去った時の流れが何とかしてくれていないかな…。

 無理か。


 だがヴィスダード様がフォーク(ボールではない)を投げてくる程度には、過去の印象との落差を演出できるはずだ。

 己の演技力を信じて、上品に優雅にウフフオホホして見せるしかない。

 やり過ぎて隣でアンディラートがドン引きしないことだけ、祈っておこう。


 今回もアンディラートが御者をしてはいるが、私もおうちで特訓してきたので途中交代が可能だ。

 使用人達の中のお嬢様変人度はカンストしてしまったかもしれないが、天使の健康を確保するためには必要なこと。

 前回は他国を走るため「自分で警戒したいから」と御者の仕方を教えてくれず、代わってはもらえなかった。


 せめて他のことで役に立とうとしても、私には料理と風呂と良い寝具を用意して支援することしか出来なかったのだ。

 スプリングコイルのマットレスの感触…こうも必死に前世を思い出そうとしたのは、お前が初めてだぜ…。


 野営時に少しでも休んでいただこうと、夜通しの見張りに立候補しても「長過ぎても集中力が散漫になって却って危ないし、寝不足で昼間の魔獣対処に影響すると良くない。あと、酷い隈や肌荒れになると困る」と紳士は許してくれず、見張りは半々にされた。


 ならば疲れを積極解消する方向でお休み前にマッサージでもと申し出たが、こちらは何か赤面ポイントに触れたようで、猛烈に拒否られました。

 肩をお揉みしようとバックアタックを仕掛けたら、飛び込み前転で焚き火の向こうまで逃げられたのには驚いた。…御者で同じ姿勢続きだから、凝ってるだろうと思っただけなのに…。

 君、身体強化を得てから、避け方アクティブ過ぎない?


 今回の馬車はエーゼレット家からの正式訪問であるため、紋章付きの箱馬車である。

 でも、中にお貴族っぽい人は乗っていない。2人とも冒険者っぽいまんまだ。当然のように動きやすさ重視。

 ピシッとした服で遠くまで旅するとか拷問以外の何物でもないので、着替えはアイテムボックスに入れてあります。

 馬車の中には最低限の荷物しかないので、万が一盗賊やらに襲われたとしても、賊どもを赤字で帰してやる所存。


「疲れていないか?」


 ぽくぽくと馬を走らせながらアンディラートが言う。

 私はクッションの効いた椅子に座っているだけなので、正直、何もしていない。


「大丈夫だよ。君こそ、疲れたらちゃんと言ってね。特訓の成果を披露するから!」


「ありがとう。まさかそんな特訓をしているとは思わなかったが」


 苦笑しながらも御者交代は受け入れられた。

 やはりトリティニア国内というだけで、「旅路というより旅行」みたいな、ちょっとしたホーム感による安堵があるな。

 もちろん魔獣相手にしても賊にしても、何の危機感もなく旅をするなんてことはない。それでも、見知らぬ他国よりは大体予習の効く貴族領は心理的抵抗感が少ない。


 身体強化の出来る2人の旅は、あの頃のシスターやトランサーグとの馬車旅よりも、速く気楽に進むこととなった。



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