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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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247/303

そのランチメニューを差し止めろ



この店のメニューはシェフの気まぐれ一択。

研究しつつ、出せそうなヤツを出す方針らしい。まぁね、まだ外部にはオープンしてないから、そんなもんか。


そして私の目の前にあります、煮たコメがパラッとかけられたサラダ。

ぐぬぅ…許せない。


しかしレタスは紫色。

彩りに足した紫キャベツだというなら理解できたのだが…モサッと敷き詰められたコレ、多分この世界仕様のロメインレタス。

元テヴェルの畑には、緑色のレタスはなかったのかな? いや、ヘドバンレタスは困るけども…。

レタスといいパセリといいリスターの目といい、この世界には何か紫に染まるなりの理由があるのかしらねぇ。(自分の目は棚上げ)


サラダの内容としてはちぎった紫レタス、黄緑色の薄切りカボスっぽい見た目の何か、細切りの正体不明野菜(細くて食べてもよくわからない…)、茹でコメ、薄切り人参、ハム、ジャガ芽。

なぜかハムとジャガ芽だけは火を通してあるようで温かさが残っている。

さすがにきっと粗熱は取ったのだろうけど、こんなのしんなりしちゃうじゃんか、まわりの野菜が。


「味付けは?」


「そこの塩を使うといい」


うぅん、語源に忠実なサラダか。

推定カボスが初見なのだけれど、判別できない細切り野菜と共にこれを珍しげにつつくと、ハテナを含んだ目線が2つ飛んできた。

これらは私が出会ったことがないだけの、普通野菜のようだ。

推定カボスは、食べてみるとカボスほど酸っぱくはない。これの汁と塩が味付けってことなのかな。さっぱりしてて、サラダの味自体は悪くない感じ。

謎野菜は…本当に何なのだろう。特徴が無さすぎてわからない。…要るの?


あれ、そうすると新種使ったのコメだけじゃないですか?

まぁ、サラダだからな。あんまり新種ばかり入れ込めなかったのかも。

そしてとても気になる、このジャガ芽。


「あの…このジャガイモの芽は、開拓地から仕入れたものです?」


だとしたら食べちゃいけないので、ちょっと警戒。見た感じ、見慣れたこっちの食用ジャガ芽だとは思うんだけれど。なんせ太すぎるドスコイ仕様、が、そのまま…。

食感維持のためにしたって、もう少し細く切ってあげてもいいと思うよ。シャクシャクするよりボリボリしちゃう。

オッサンはちょっと笑って出所を否定した。


「安心してくれ、ジャガイモは仕入れが別だ。お嬢ちゃんも聞いたことがあるのかい? あの村で、毒草イモモドキが育てられていたって話。村を訪れていた行商人しか知らなかった話だから、当初は入植者達も警戒して、ジャガイモだけは見つけ次第に全滅させたらしいよ」


わぁ。さようなら、地球産のジャガイモ。

でも、絶滅に至るとしても仕方がないわ。こっちの人達、芽を食べるからね…その芽に毒がある以上は気を付けようがない。

とても似ているけれども、何か違う…それは不気味の谷のように、人間の心に抗いがたい嫌悪を呼び起こすのだろう。

根絶やし、やむ無し。


「芽と変色した部分を食べなければ、別に普通の芋なん…、だとは聞きましたけれどね。本当かどうか確かめるのも怖いですもんね」


普通の芋なんだけどね、と言いそうになって慌てて又聞きのふりをする。

毒草使いの仲間だと思われたら事だからな。

私は善良な貴族令嬢ですよ!


「実も小さいらしいからなぁ、敢えて毒草を育てて食べるほどの利点もないよな」


…そっか、完全に毒草として定着したのか。

名称もイモモドキとされてしまった悲しみ。ニセアカシア、ドクゼリ、そんな感じね。

仕方ない。淘汰されることも自然の営み。


私はテヴェルと違って、この世界産の巨大ジャガイモでも平気なんで。無理に、滅びゆく地球産ジャガイモを引き止めはしない。

むしろアンディラートが地球産ジャガ芽食べてお腹痛くなったら許せない。

悪いが流通前に滅んでもらった方がいいな。


「あのさぁ。これ要らねぇと思うんだけど。やめれば?」


リスターから、辛辣な茹でコメへの物言いが付いた。

正直なところ私も、この使い方では不要派に流れてしまうの、否めない。

サラダに数粒の米って何よ?


いや、読んだ。前世のどこかの海外滞在記で、久し振りの米を懐かしむ話で、そんなサラダを読んだ。作者さんは「残念ながらジャポニカ米ではなかったが久々に会えて嬉しかった」とか書いてた気がする。

…がっつりジャポニカ米なのに嬉しくない現状、どうしてくれよう。


「お前ねぇ。もしかして麦の実サラダ食べたことないの? どうやって麦食べてる?」


「麦なんか普通はもうパンになってるだろ。一緒に食べられなくはないが…なんっか邪魔なんだよな、コレ」


フォークの先で茹でコメをつつくリスター。

私も、この固めに茹でられた米がサラダに乗ってることへの違和感が凄い。

アルデンテで存在感を示されましても…。


かけるならクルトンにしなよ。

そうは思ったが、クルトンはパンなので主食の破片を乗せていることに変わりはない。

何が違うのかな。

クルトンならまぁいいけど、ドレッシングを米にかけたいなんて思わないしなぁ。味は塗り潰されちゃうから、合わないっていうほどのこともないのだろうけど。

食感かな。サラダのシャクシャクをたまに芯残りみたいな米がポリっとして…邪魔。

多分この茹でコメ食感に慣れていないから、ただの異物が混入しているような気がしてしまうのだわ。


「やっぱり粉にするしかないのか。あんまりこの麦はパンに向いてないんだがなぁ」


オッサンが、頑なに米と言わない。

私は知る。

新種と称された意味。

どこかにあるかもと思っていた米が、結局はピーマン並みに存在しないこと。

それ故に、オッサンがその扱いに困っていることを。


「あの…これ、麦じゃないので。そもそも麦の亜種だと考えているからうまく行かないのだと思いますが」


「何? お嬢ちゃん…そういやこれを欲しがっていたな。調理方法を知っているのか?」


…えーと。

なんて答えたものだよ?

だってオッサンが、なんかすっごい悔しそうなんやで。

料理人が素人に知識で負けるなんて!ってこと? そんなプライドあるなら食材はフリースペースに置くな。衛生にも拘って!

突っ込みたいが、料理人すら知らない知識を持つ素人への疑念を晴らす方が先だ。


「ホンで、読みマシタッ」


怪しい発声になったが、何とか誤魔化した。

とっさに演じることが本当に下手になってて困る。慌てる私を覆い隠す用のロールも軒並み吹っ飛んじゃったからなぁ。

リスターが胡散臭そうに見てくるが、敢えて目を合わせることはしない。

新種は私の仕業じゃないって。疑うなって。


微妙なサラダを食べ終えると、オッサンは肉料理を出してきた。

ここ、コース料理の店なの?

お盆ひとつに全載せの定食式の方がいいんだけど…。ドレスコードもないのに、ちょいちょいオッサンが来るの落ち着かないわ。

持ってきた肉料理は牛肉ステーキだった。

小洒落た感じのお皿で出てきた。


「牛肉のユーソレモンソース、マッシュポテトを添えて」


ドヤッとオッサンが読み上げ、皿を置く。

そういうメニュー名よりもオシャレ皿よりも、調理法をもう少し考えてほしい。

マッシュポテトを添えて、だって。ドヤ顔なのに内容は普通じゃん。

フフンとフランが鼻で笑い、リスターが邪魔くさそうな顔で、オッサンの感想待ちの熱い視線をスルーしている。カオス。


「あら、これは」


まさかの醤油味だ。

正確にはなんかちょっと違うのだが、少なくともここまでの近さは見たことがない。

オッサンの評価がグンと上方修正。

さっき、何ソースって言ったっけ。そのソースは買えるのだろうか。もちろんレモンは抜きで御願いしたい。

うーん、ポン酢感あるぅ。

しょっぱさに癒されていると、リスターが「変な味」と呟いた。


…マ?


「え、変かな?」


「しょっぱくて酸っぱい肉なんか、腐ってるのを誤魔化してるようにしか思えん。中もなんか生だし」


「牛肉は生でも食えるんだぞ。火を入れすぎて固くなるよりいいだろうに」


私は牛でもよく火を通したい派だなぁ。

オッサンの衛生観念にも不安があるし、ちょっと牛のこともそこまで信じきれない。

しかしリスターのように、店で腐った肉が出てくるとか、その発想はない。


もしや平民向けの店ならば、有り得ない話ではないというのかい。怖いな、前世とは民度が違うのかな。

いや、前世だってダメな店はダメなのかもしれない。バックヤードのことは見えないし、流行りなのかハッチャケピーポォがよく炎上してた時代もあったよね。


それに多分、この醤油めいた何かは決して一般的ではない。なんでレモン混ぜたのかはわからないけど、とにかく一般人代表のリスター君には、とても慣れない味付けだったということ。

結果、脳が近似値を探して記憶を辿り、知っている状態(肉傷んでますぜ!)へと脳内変換されてしまったのだね。

御愁傷様。


「この辺りの人が普段どんな味付けしているのかは、私達にはよくわからないかもね」


確実にオッサンのは王都の味付けではなさそうだ。だって多分、王都民は麦の実を茹でないよ。市場でも、小麦粉ならまだしも、むしっただけの麦なんて見てないし。


私は王都っ子なのに王都らしい味付けがわからないのかって?

えっと、一応貴族なので…王都では食堂の平民ランチは未体験でして…。

芋や人参みたいな基本野菜は同じだけど、市場食材はエーゼレット家では出ないものも多くて楽しい、つまり貴族飯と庶民飯は使う材料からちょっと違ったりするのだ。

冒険者生活ではむしろ庶民ご飯メインだったから、他国なら味付けの傾向がわかったのにね。足元ほどよく見えないものだよね。


「まぁいいや、次行こうよ。次は何?」


「ランチ価格で出せるのはここまでだ」


なんと、葉っぱと肉だけ。パンすらなしか。

一体何が料金の大半を占めたというのか。


「それはちょっと、ダメだと思う」


「マシな方だぜ、チビ。初日はヘドロみたいなスープが出てきたからな」


どんなん!? 地球の野菜は悪くないよ、それはオッサンの腕が問題なのでは?

オッサンは何だか悔しそうだ。


「ちょっと組み合わせを間違えただけだ。まさかスープに入れた途端に溶けちまうとは思わねぇだろ」


本当に何を入れたの、何を。

煮崩れたならまだしも、即溶ける野菜なんてないと思うんだけど。



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