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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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233/303

幼馴染とワイン。~関係にヒビが入りました



「「…ん?」」


 同時に2人で首を傾げ…え、なんでアンディラートも首を傾げた?

 謎の行動に出たのは彼の方だと思うのだが。


 まだ紅茶とケーキは載っているが、それは私の分のデザートセットなのですよ。どうしても欲しいというのなら、まぁ、譲らないことはないけれども。

 紅茶が零れたら困るので、無理に引っ張り合いはできない。

 固まっていると、そっと取り上げられたトレイは、そのままテーブルに。

 そして私は、ひょいとアンディラートの膝の上に乗せられた。




 ………ポッカーン…。




 状況が理解できず、自分でもおかしなほど緩慢に幼馴染を見上げる。

 嬉しそうに笑っている。赤面もせずに。

 お酒を飲めたことが、そんなに嬉しくてたまらなかったのかしら。良かったけど。

 …というか、これ、なんぞ?


「え、何、急に。重くない?」


「重くない。あったかい」


「まぁ、あったかいかもしれないね…?」


 そんな言葉を返して、ようやく私は思い至った。

 ああ、そうか。これ…アンディラートさん、酔ってますわ。

 酔っ払いの行動ならば、納得の唐突さと意味不明さ。

 理由がわかれば、何と言うことはない。


「具合悪くはないの?」


「ないよ。どうして?」


 自覚はないようだ。

 でも、酔っ払いとはそういうものだよね。


「君、酔ってるんだよ。君がこんなことするなんて、普通じゃ有り得ないじゃん?」


 もしや泣き上戸ならぬ抱っこ上戸なのかしら…それはちょっと、パーティーでどこかのおうちのご令嬢に絡んだらまずいぞ。

 下手したら手を出したとか言われて即婚約になってしまう…ちゃ、ちゃんといい子を選んで絡むのよ!

 よいしょと膝に乗せられただけだから、私は全然構いませんけれども。


 …ずっと、ニコニコだったもんなぁ。


 生真面目な彼のことだ。こんなこと気にしなくたって彼の価値は損なわれやしないのに、「どうしても克服できない」と悩んでいた可能性は大きい。

 初めてお酒を美味しく飲めたのが嬉しくて、酔っ払いのテンションに楽しさが追加されているのは予想に難くない。


 貴族対応の場なら、隙を見せないよう振る舞えるよね。アンディラートだもの。自分で気を引き締めていればミスしない。きっと今日が特別ハイなんだよ、ここにいるのは私だけだ。気を引き締める必要なんてなかったんだものね。

 それに、自分の酒量の限界なんて、初めてだから何もわからなかったに違いない。これから追い追い、学んでいけばいいことだ。


 私には、記憶はなくても前世経験値がある。身体強化様もあるから、彼が寝ちゃっても、ちゃんとベッドに運べる。殴られも怒鳴られもしないのだから、全くちっとも苦ではない。

 ちょっと酒くさいだけ。癒しと共に酒も司ってしまったか…大人の癒しにも対応したのだと言えなくもないかな。


 よしよし、潰れたら介護は任せたまえよ。万が一マーライオンになっても、アイテムボックスを超活用すればいいのさ。あの極大ブラックホールが逆流した場合、私ほど介抱に向いた人間もいないものだ。


「別に酔ってないよ…もしかして、いやなの?」


「いやいや。あ、違うよ、そうじゃない。えっと、全然嫌じゃないよ。どうぞどうぞ」


 考え込んでいると、相手が急にションボリしちゃったので慌ててフォローする。

 嫌じゃないよ、楽しいねぇ、あったかいねぇと何度か繰り返して宥めていると、納得して再びニコニコし始めた。昔みたいな笑顔だ。いつもよりちょっと…結構、幼く見える。

 大きくなってから、ここまで無邪気なのは激レアだ。心のアルバムが充実するな。


 しっかし、これは…どうしよう。

 明日の朝、全てを忘れてくれていればいいけど…もしも記憶が飛ばずに覚えてたら、起き抜けに羞恥心で爆散してしまうのではないだろうか。

 そして私はどうしてやるのが正解なんだろう。

 せっかく彼が気持ち良く飲めたのだから、なるべく黒歴史は回避してあげたい。


 ここはひとつ私も泥酔し「お互い様でした、ごめんね」作戦がいいのではないだろうか。

 サングリアはないが、ワインならある。ちょっと失敬して…駄目だ、せっかく「サングリアで美味しくお揃い」だったのに「オルタンシアはそのままでも飲めるのか」とご機嫌斜めになってしまう可能性がある。

 酔っ払いはいつ機嫌が反転するかわからないと、前世の私が疲れた溜息をついている。

 アンディラートに限ってとは思うけれど…そうね、万が一にも、豹変する彼は見たくないわ…。


 ふとアンディラートの手が動いた。

 考え込んでいた私もその動作に我に返り、チーズケーキを崩したフォークの先を見…


「はい」


「ハハッ、いやいやいやいや」


「…え…。いやなの?」


「ハハッ、嫌じゃない、全っ然嫌じゃないよー」


 まさかそのフォークの先が自分に向かってくるとは思わなかったなー。オルタンシアさん、ちょおっと油断してたなー。


「じゃあ、はい」


 ええー。継続かー。

 参ったな、アーンされちゃうの。ハハッ。

 何だ、この図。おかしいじゃないですか、どう考えても。

 しかし待機時間が長くなると、また表情を曇らせるかもしれない。それはいけないことだし、アーンくらい何の支障もない。そうだろう、私。

 自分に言い聞かせながら、開き直って口を開ける。ひょいとチーズケーキが差し入れられた。

 うむ、我ながら上手にできたね。美味しい。(現実逃避)


 えっ。

 待って、紅茶も来るの?


 二人羽織のカップはアヅァ!ってなるんじゃないかなぁ、そ、それはさすがに自分で飲みたいなぁ。うあぁ、悲しそうにならないで、わかった飲みます、飲みますとも。

 思わずカップに手を添えてフーフーと息を吹きかける。

 予想以上にカップを傾けて来られたら、熱さで噴いちゃうかもしれないからな。


「あ、熱かったのか。ごめんな、今…」


「おおっと! 冷めた冷めた、もう冷めたから、フーフーしてくれなくて大丈夫よ! あー、紅茶欲しいな、飲みたいなー!」


「そうか。じゃあ、あげる」


 本当に何が起きているんだ。夢だと言ってよ。私は酔っぱらってうっかり寝ちゃっているのではないのか。しかしワインの1、2杯で酔うとは自分でも思いませんね。

 酔っ払ートは慎重にカップを傾けてくれたので、火傷はしなかった。


 …手元は、しっかりとしている。危なげはない。

 これ、本当に酔ってるのかな。

 いや…どう考えても酔ってるよね、赤面もせずこんなことできる子じゃないよね。

 アンディラートがカップを置き、再びフォークを取ろうとしたので私は攻撃に転じた。


「待って、今度は私がやる!」


 こうなったらもう、ケーキはみんなアンディラートの口に突っ込んでしまおう。

 さっさと食べ終わらせて、楽しい気分のまま寝かしつけるのだ。きっとそれが一番傷が浅い。

 お膝の上でモソモソ安定位置を探し、テーブルに手を伸ばす。チーズケーキを2皿とも手元に引き寄せ、フォークで素早く大きめに切り分けて、ぶっ刺す。


「はいっ、あーん!」


 アンディラートは驚いたように、じっと私を見た。

 …な…なんだい? される側は嫌だとか?

 えぇい、早くしないとケーキが崩れてくる、黙って食べるのだ。ぐいっと口にチーズケーキを押しつけたら、雛鳥のように口を開け、そのままもぐもぐしてくれた。

 よし、飲み込んだな、次の欠片を…


「嬉しい。すごく幸せ」


「エッ、そうなの?」


「オルタンシア可愛い。好き」


「…ありがとう? 君も可愛いよ?」


 えぇ? このタイミングで謎のナチュラル褒めを挟んできたぞ。褒め返すけども。

 酔っ払いの行動って本当によくわからない。


「格好いいって言ってほしいのに」


 可愛いはノーカウントだった。褒め返し失敗!

 ご不満げなので急いで挽回を計る。


「うんうん、ごめんね、カッコイイよ。いつも君は格好いいって思ってるよ」


 まぁ、酔っ払いとの会話とは、こういうものだよね。

 記憶を飛ばそうが飛ばすまいが、彼は2度と深酒をしないのではないだろうか。そうだ、こんな姿はもう二度と見れないかもしれないから、目に焼きつけておくか。


「幸せだ」


「…そ、そう。良かった。いいことよね」


 せっせと餌付けする私の前で、彼は「幸せ」と繰り返す生き物となった。

 もしかして天使の鳴き声なのかもしれない。

 それなら仕方ないな。

 最後の一口を放り込み終えた私は、何かこう、すごく大きな仕事をやり遂げたかのような気分になっていた。


「はい、おしまーい」


 空の皿とフォークを重ね、トレイに乗せてキッチンに持っていく準備。

 そう、このチャンスに膝から下りようと試みる…!

 …はい、駄目でしたー。靴先が床に付く寸前に戻されて抱き締められましたー。


「えー…と、お片付けしたいなぁ」


「あとで俺がやる」


「平気よ、すぐ片付けてくるから」


「やだ。…お願いだ。どこにも行かないでほしい」


「ワッカリマシター!」


 オルタンシア降参! 白旗ブンブン丸!

 下がり眉の涙目で、そんな言い方しないで。もー、何もかも私が悪かったよ。

 何なら今日はもう君の膝で寝ますよ、縦置きでも横置きでも壁掛けでも、好きに設置しておくれ。置物として立派に対応してみせる。

 降参すると同時に遠慮のないギュウギュウの抱き締め。私は縫いぐるみか何かかな?

 と、思ったんだけどさぁ。


 ぎゅーっと。密着しますとね。

 …何かこう、硬いものがですね。私の左手の下にですね。


 あの、多分、私、今、大変なところを触ってしまっていますね。

 そのせいか、現在進行形で何かが起きていますね。

 じわじわと手の中に変化がですね。うわあぁ、ごめんよ、セクシャルハラスメエェェントッ!


「わたし、おりる、べきとおもう」


 まずいまずい、明日の朝に日が昇ると共に目を覚ました幼馴染が自己嫌悪で灰になる未来しか見えない。

 記憶、積極的に失ってどうぞ。そうあるべき。

 もうこれ以上、私は下手な動きをするべきではない。でもじっとしてても、ひいぃ、形状を理解しつつあるっ。


「いやだ。…、ぅ…」


 更にギュッと。

 それは君、ほら、手ーがーさぁぁあぁー、お客様、困ります、あー、お客様、耳元で色っぽい吐息とか困ります。

 どうする? どうする、俺! どうすんのよ? 


「オルタンシア…」


 聞いたこと、ない、色っぽさが…!

 …こ…これは…。


 

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