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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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ゴッドブレスユー☆



グレンシアでの越冬を決めて1ヵ月。

私達はごくごく平和で普通な日々を過ごしていた。


というか、今は平和に過ごしていますと言うべきか。

もう済んでしまったので今更特筆すべきでもないかもしれないことが、ひとつふたつくらい。


何かと言いますとグレンシアまで辿り着き、銀の杖商会に案内してもらった借家に落ち着いて。

諸々の買い出しも終えた何日目くらい…から私のやる気は段々と低下気味になっていったという…。


胸に妙な空虚さが巣食って、例えば朝ダルくて起きたくないなぁとか、そんな小さなことから徐々に歯車が狂っていく感じ。

実際には、アンディラートの朝御飯を用意したいとか、無駄な心配をかけたくないとか、そちらに大きく比重が傾いていたから、概ねちゃんと朝も起きたし笑ってもいたと思う。


けれど、どうしても耐えきれずに比重が逆転する日もあった。


ダルさを我慢しきれず今日は外に出たくないなどと言ってみれば、幼馴染は追求もせずに「そうか」と頷く。

息抜きをしようと笑ってギルドの依頼はお休みにし、ハイカロリーな男飯を作ってくれた。

重いご飯3食セットェ…。


だけど、作ってくれたのだから食欲がないとか言わずに気合い入れて食べるよね。

肉が私を元気にするのか、はたまた元気を絞り出したから肉も食べられるのか。

何にせよ、へこたれる精神とは裏腹に、朝からコッテリという猛攻にもオルタンストマックはもたれない。強靭。


時に絵を描く気力すらない異様な私が床に転がれば、当然のように彼も隣に転がっていた。

もちろん日本式の家じゃないのだから、敷物だけは転がる前に敷いときました。

私がぼうっとしていた時には、無理に会話をすることもなく、何だか昔に戻ったのじゃないかというくらい、ひたすらに無言で横にいたりもした。


寝ても覚めてもアンディラートが側にいる。

絶対的な安心感。

そうやって存分にα波を浴びてまったりと過ごせば、次の日にはまた「よし、頑張ろう」と思い直せる不思議。

それを繰り返せば、あっという間の1ヶ月。

そして気が付けば私の状態は持ち直していた。

凄いよ、天使の癒しパワー。


復調した今、振り返って考えてみれば、恐らく燃え尽き症候群みたいになっていたのではないかなぁと推測できる。

今までだって楽しいことはたくさんあったけれど、結局はいつも、生きることを目標に生きていた。


穏やかな日とは束の間の休息でしかないと思い込んでいたのだ。

それが…もはや山場もないだろうと言われてしまい、放り出されたみたいに手が空いて。

どうしたらいいのか、よくわからなくなってしまったんだと思う。


頑張らなくても生きていけるというのなら、私はこれから何をすればいいのだろう。

日々やることがない訳じゃないのだけれど、何をすればいいか判断できない。

…目的を見失ったよ、みたいな。


彼が私の不調の原因に気付いていたかどうかはわからないけれど、きっとその第六感にて何か引き籠り希望っぽいスメルを感じていたのだと思う。


なぜならどんなに上手く隠したつもりでも、怠惰に支配された日の私を、決して1人で放置しなかった。

仲良しの幼馴染とはいえ、私達は毎日毎日双子のように同じ行動をしている訳じゃない。

なのにアンディラートは、私が寝込むほどの不調の日は必ず依頼を休んで隣をキープし、寝込むほどではない不調の時には、それを見極めて積極的に外へと連れ出していた。


彼はお揃い好きだが、常にベッタリと共に過ごしたがる束縛系男子ではない。

鍛練時間はもちろんのこと、1人でもサクッと依頼を受けて出掛けるし、どちらかというと「おかえり」って迎えられることを妙にテレテレと喜ぶ。

丁度良いタイミングでご飯が用意されていると、目の輝きが更に倍だ。


私はといえば…外出に乗り気でなくとも、アンディラートに熱心に誘われたなら話は別だ。

一緒に冒険者活動をしたり、買い物に出掛けること自体は苦じゃない。

むしろ一挙一動、何かと癒されるのだから。


以後は当たり前のようにアンディラートが私を連れ出すので、自然と冒険者生活がメインになった。

令嬢なのに冒険者生活を普通と言ってしまうことには、多少問題があるかもしれないね。まぁ、それも今更のこと。


けれど、本当に、穏やかな日々だった。


森やダンジョンに潜って採集したり、魔獣を倒す幼馴染を微笑ましく見ていたり、時にはザッとその様を描いたりした。

慣れた場所なのか、冒険者ラッシュさんには危なげが全くない。

魔物のそっち側が見たいと言えば、上手に誘導して観察させてくれる。そのくらいの余裕ぶり。

何なら戦闘中にポーズに注文を付けても、危険はないと言うのだ。むしろ笑って不便を楽しんでいた。縛りプレイか。

ちょっぴり脳筋の血を感じたのは内緒だ。

さすがに場所柄、のんびりと色付けまではしないが、スケッチブックはとても充実した。

後で素敵に描き起こしてくれるわ。


街中で顔を隠す必要もなく自由にお買い物をした。

貸し馬屋さんで馬を借りて観察したり、柵の中だけだが乗馬もしてみた。

馬車スケッチについては、見る分には好きにしていいと銀の杖商会で見せてくれた。

なんと魔獣避け付きの最新の冬用馬車も説明しながら見せてくれたので、馬具込みで描けるようになった。

これで冬道も安心よ。

だからといって一冬契約でおうちレンタルしているのに「これで帰れるから春まで待ちません、さようなら!」なんてことはしないけどね。


もしも幼馴染が隣にいなかったら、私は何にもせずに毎日ただぼんやり雪解けを待っていたのではないだろうか…。

そんなことを考えてしまうくらい、ただただ与えられた予定の中で、降り注ぐ癒しを甘受。

動かない頭は無理に動かさずに、それでも笑って過ごせた。

内に閉じ籠らせずに、うまいことリハビリと休暇を調節したアンディラートの存在が、私の回復を早めたのは間違いないだろう。


…うん。でも、腑抜けてはいけないよね。

ダルいからやりたくないとか言わないで、勝って兜の緒を締めるべきだったのね。

気を張ろうとすれば、いつもより気力を使うだけでちゃんと張れるのだから。


なぜかって、唐突に来るのが転機ってものだからさ。知ってた。

サトリさんは嘘を付いた、わけでは、ないのだろう。

言葉の受け取り方か、もしくは常識や感覚の違いのせいかな。


きっと…山場がもうないだろうって言ったアレさ、命に関わるほどの変事は多分ないでしょうってだけの予報だったのね。サトリさん予報。予言じゃない。

今後は平穏が常時訪れますよゴッドブレスユー☆って意味じゃなかったわ。

騙された。ゴロゴロしてる場合じゃなかった。

死なないのはとても大事ですけども。


冬越しのグレンシア。

その限られた期間の中で、穏やかな私達の関係に変化が起こる日が来ようとは…。

そしてその引き金を引くのが、この私であろうとは。

心底、予想も、していなかった。



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