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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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210/303

君がいれば平和。



 さて、偵察の成果を確認しよう。

 まずは如月チームの拠点だ。

 私達とは意外と距離の近い、ラグジュアリーな宿にいることが判明した。


 なので、取り急ぎ私達が逃げました。

 何気なくバッタリ会うとか嫌なので。


 もちろん外出の際には下手を打たないように蟻で確認する前提はあるのだが、「なんか落ち着かないし…知った以上は気になって休めない」というラッシュさんを尊重。

 小舅君に用意された国賓待遇宿から少しグレードを落とした高級宿へ泊まっていたところを、更にお手頃価格の宿へ落ち延びた感じ。

 ここなら私達が窓を覗いても、向こうの窓からうっかり視界に入るという位置にない。

 いつ見られたんだか知らないままに、心を読まれることもないだろう。

 マジ危なかったわ。そんな位置の部屋に居たとか驚きだわ。まだ何も仕掛けられていないということは向こうも私達には気付いていないと、信じるしかない。


 寝具は身体が痛くならない程度の柔らかさであればいい。むしろ実際はソファでも床でも草地ダイレクトでも眠れる野生の令嬢だ。同行者も遠征のお陰でベテランキャンパー。

 何ならアイテムボックス内で寝られますし。

 そもそもこんな旅先で最高級羽毛布団の寝心地とか求めてない。ラッシュさんのご飯代に熱意を傾けた方が有意義だったよね。

 国賓待遇宿でなければ、どうせ実家のお布団のが寝心地いいはずよ。


 ラッシュさんは「安全で汚くない宿であればいい」って言うし、私は出来ればご飯が美味しい方がいいなってくらいで拘りはない。あ、ごめん嘘付いた、お風呂は要るよ! 絶対にだ!

 とにかく「ボロな安宿は目指さないけども、高級じゃなくてもいいや」という点において見解が一致。

高位貴族の令嬢と令息なのに、私達って結構謙虚なのじゃないかしらぁ?(伸びたお鼻で台無し)


 なのでそこそこの商人や、ちょっと稼いでる感じの冒険者が泊まるくらいのレベル帯の宿にしておきました。

 当初の宿みたいにお高くとまってないから融通もきくよ。

 ご飯が大盛にできてラッシュさんも嬉しげだ。やったね。


 なぜかはわからないが、テヴェルは部屋に引き籠っている。

 チラホラと顔だけは出すのだが、前みたいに如月さんにベッタリと構ってちゃん攻撃をしてはいない。

 如月さんはお前のマーマなのかよ!ってくらい 至れり尽くせりおんぶにだっこだと思っていたので、よちよちとでも一人立ちできたのであれば良いことなのだろうが…。


 まだテヴェルの部屋には侵入できていない。

 昨夜は如月さんの不在にも気付かずに寝こけていたらしいし、今朝は朝食を受けとるために本当に顔と手しか出さなかった。

 タイミングなんて全然合わず、蟻はくっつけられませんでした。

 どうしたって如月さんの視界に入る位置だったのだから、仕方がないよね。

 現在、テヴェル用の蟻はドアが開き次第侵入しようと壁際の絨毯端に隠れている。

 如月さんは引き籠りテヴェルを気にする様子もなく、1人で食事を終えた。今は優雅に手紙を確認するお仕事。

 どこからなのか、5通くらい来ている。


 入室できないテヴェル用の蟻だけでなく、如月背後蟻だってタイミングを失敗すれば、着替えた後なんかに置き去りにされるかもしれない。

 出来るだけ背から離れないようにはしているが、逆に近すぎてバレた場合に備え、室内には他にも斥候を放っておいた。

 魔石ランプなら魔法の気配を感じても不思議ではなかろう。灯火のための魔法回路が組み込まれているはずだ。

 そんな風に魔道具の側にいればカモフラージュできるに違いないと私は信じる。ってか魔法の気配って何ぞ。


 とはいえ、ここのところ蟻は増える一方だった。

 蟻は鳥より小さいが、自分の持つ魔力の残量は目に見えないもの。

 いざ暗殺しようとファントムさんを出した途端に、監視していた他の斥候全部がファ~って靄に返ったりするとまずい。全員の居場所、残らず見失ったよ☆ってなる。アホの極みだよ。己の考えなしっぷりに、確実に3日は落ち込むわ。


 監視対象を厳選し、粛清予定がないものからは撤収させることにした。

 気を配る対象が減って、私も少し楽になる。

 魔石なら残量も何となくわかるのに、どうして人間だとわからないのかしらね。

 トリティニアは魔法使いなんてほとんどいなかったから詳しくなくても仕方ないけど、グレンシアなんかでは違ったのかな。もっと調べておけば良かったかな。

 リスターという魔法使いだって近くにいたのに…えっと、説明してくれるかはわからないけど。


 我々の朝食はラッシュさんが「部屋で落ち着いて食べよう」と階下の食堂から持ってきてくれたので、まったりゆっくりした。

 いや、私はもう食べ終わって片目で相手チームの確認中なのだが…ラッシュさんは現在おかわり3戦目。


 まずは私と同じロールパンとスープ、卵を焼いたものに少しの野菜が付いたデフォルトの朝食セットを全体的に大盛で。

 続いて別注と思われるがっつりステーキ定食(フォカッチャ添え)を平らげ、今は具だくさんのバゲットサンドみたいなものをモリモリしている最中です。

 肉も野菜もバランス良く取ってるよ。


 …と言いますか、まだ横にフレンチトーストに似た染み込ませ系のパンがフルーツ乗せで控えているのですよね。もしやあれはデザートなのだろうか。

 パン祭りすぎる…まるでお茶漬けのように、さらさらと入っていくパンよ…こちとら、見ているだけでお腹いっぱい。

 でも、あんまり見ていると分けて欲しいのかと勘違いされるから、見ていない素振りで見る。フードファイター感に、どうしても目は行っちゃう。

 運動系男子、朝から戦慄の食欲であった。


 この子もしかして、ずっとお腹減ってるのに我慢してたんじゃないだろうか。

 だって、高級宿ではおかわりなんてしなかった。多分TPOに合わせてたんだ。


 …いけませんわ。もっと気を付けてあげねば痩せこけてしまう。

 私に、例のよくある、時間停止の空間拡張鞄なんかの作成チートとかあれば…!

 彼が飢えぬよう好きに食べられるよう、食料を貯め込む手段さえあればなぁ。


 私のアイテムボックスさんは長期間入れてたら普通に食べ物腐るし、温かいものも冷めちゃう。そして私にしか取り出せないから、彼がお腹空いたら好きに取り出すというわけにもいかない。

 うまくいかないものである。

 売ってたら買うのになぁ。なぜに存在しないのか、時間停止機能付き空間拡張鞄。ファンタジーの定番ではないのか。


 定番といえばチートの話になるが、テヴェルの植物は一瞬で一気に育ったりはしなかった。かつて出くわした寄生蔦についてはそうだった。宿主の魔力を奪い、じわじわと成長したはずだ。

 もしかして閉じ籠って植物を掛け合わせ、改良を重ねていたりするのかしら。

 少なくとも、植えてからある程度は育てた物でないと戦闘には使えないはずだ。


「テヴェルが何してるのかわからないのが怖いのよね」


 ヤツには私のことが完全にバレた。

 フランにもなぜか懐いてはいたが…ヤツの俺様王国建国のピースである「忘れられた姫君」であり、幼少時に転生者としても既に目を付けられていた私だ。

 別に自意識過剰なわけじゃないと思うんだけど、空気読まない駄々っ子みたいなテヴェルが、簡単に私を諦めるとも思えなくて。


 如月さんの呪いは既に解け、私が自分の意思で敵対したこと。そして私が何者なのかを理解したうえで、それでも何も言わずにテヴェルは引き上げたのだ。

 捨て台詞のひとつもなかったのが、不気味でならない。

 諦めてくれたのなら良いが、きっとそうではないから、私は彼を殺さなくてはならない。


「お腹いっぱいになった?」


 ようやく食事を終えたラッシュさんに問えば、軽く頷きが返った。

 ならばと食器をまとめ、私のものと合わせて階下へ下げようとしたら、彼はサッとこちらを片手で押し止めた。


「俺が持っていく」


「いいよ、そんなに(身体強化様のお陰で)重くないし。君が持ってきてくれたんだから私が片付けるよ」


「できれば部屋にいてほしい」


 護衛的な観点だろうか。

 でも、今、急ぎの危機はないのでは。


 宿は離したし、朝からこんな一般人の群れに植物ブチ込んできたりはしないと思う。

 いや、常識とか通じない相手だけど。

 無差別に殺戮をする気ならわからんけど。


 蟻で周囲を窺えるから平気だと伝えたものの、彼は頑として折れなかった。

 自分の食器のほうが多いのが気になるのだろうか。

 恥ずかしいから持たせたくないとか?

 有り得るな。

 そんなに粘るほどのことでもない気がするし、素直にお任せするか。


 ウエイターの如く皿の山を片手で持って、ドアを開ける姿を見送る。

 皿なんて一生自分で下げることも知らない貴族だっているのに。いい子ですわ。


 椅子に座り直して、息を付いた。

 どうしようかな、本当に。


 大体は炙り出せた気がするから、普通の悪人(?)からコツコツ暗殺を始めるか。

 ただ、始めてしまえば速やかにテヴェル達まで辿り着かねばならない。感付いて逃げ出されると厄介だ。

 1人だけ退治したジーサンは、年齢的に病死でもおかしくないのかテヴェル達が疑う様子はない。内心で疑っているかどうかまではわからないけどね。


 そうはいっても、さすがに手駒を次々と屠られていけば気付くはずだ。

 だから、悪人どもを殺るなら一夜のうちに皆殺しが必要だ。やるよ、ファントムさんが。

 そしてその知らせが如月さんに届く前に、彼女まで攻撃を届かせたい。


 各所の繋がりがどの程度かはわからないが、携帯電話の存在しない異世界だ。言伝てにしろ伝書鳩にしろ、誰かが情報を届けるまでは伝わらない。

 深夜に暗殺を行えば、家人が起きるまでは時間が稼げる。もしもターゲットが騒ぎ立て、ファントムさんが気付かれてしまったとしても…逃げるだけなら靄に返すだけでいい。警備隊を呼んだとしても捕まりはしない。ただ、騒がれたならきっと如月さんには早く知れてしまうな。


 決行をいつにするか。それが問題だ。

 頭の中だけで考えるのは本当に簡単で、現実には多分、思い通りになんて行かないのはわかっているけれど。


 …私は前回、吐き気を堪えて「その時」を見つめ続けた。もう、私はただのクズじゃない、グレードアップした人殺しのクズだ。

 一般市民が暮らす場所というのは日本より治安が悪いので、たまには盗賊や強盗も出るし、返り討ちにしても一切お咎めはない。

 だが、さすがに暗殺は調査が入るでしょう。

 捕まれば私も逮捕されるよね。


 もしも側にアンディラートがいなかったら、正直なところ、こんなに平気な顔をして日々を過ごせた自信はなかった。

 天使が免罪符を量産しながら膨大なα波を出し、罪悪感を凍結させながら私を全肯定してくれるから、己を保っていられるのだよ。


 自分のため、宝物のため、生を諦めないため。大義名分しかないはずなのに、それでも物凄いストレスを感じる。

 それくらい、…生きている人間を殺すって、とんでもなく辛いことだ。


 相手に家族や友人がいることなどを考えてしまえば、尚の事。

 だけどやらねば帰れないから頑張ります。

 どうせこの道しかないのだから、1人殺すも2人殺すも同じだと、早く割り切れるといいのだけれど。

 人殺しでクズの私なんかを見捨てないアンディラートは本当に天使以外の何者でもないと思うわ。


 …そういや、アンディ、…ラッシュさん随分と遅いな。食器置いてくるだけなのに、こんなに時間かかるかしら。

 そりゃあ、それなりにグレードは落としたけれども、ここは中の上くらいの宿だ。いくらラッシュさんの人が良いとはいえ、「アンタ良い食べっぷりだねぇ! 気に入ったよ!」などと店のおばちゃんがバシバシ絡んでくるような下町の宿じゃない。


 何かあった?

 こんな朝から?

 各所の蟻へ素早くコンタクトを取るが、変わった行動のある相手は見られない。

 如月さんと密会していた某ジーサンちの若造ドットコム君も、今朝はブンブンと剣を素振りして鍛練中のようだ。


 心配だ。

 こんなことなら、ラッシュさんにも蟻をつけといた方がいいのかな。




 いや、たかが食器下げるのが遅いくらいで?




 それはプライバシーの侵害じゃないかな。

 付けてたら意味もなく見ちゃうよね、何してるかなーって。

 …ストーカーだよね、それは。

 親しき仲にも礼儀あり。私は決して幼馴染をストーキングなどしない。紳士な彼に、ちゃんと紳士な対応を返す!(淑女は行方不明)


 ガチャッとドアが開いた。

 いつの間にか床に片膝を付き、考える人みたいなポーズをしていた私を見つけ、ラッシュさんはちょっとビクッとしていた。


 …ほら、普通に帰ってきたし。

 大丈夫だなんて、知ってたし。私、全然平気ですし。


「オル、…しゃがみ込んで、どうした? 具合でも悪いのか?」


 心配そうな声。しかし、その手に旅人さん向けのお弁当が三段重ねになっていたので、私は脱力を禁じ得なかった。


「何でもないの。君、お弁当買ってたの?」


「あぁ、朝発つ人向けに売っていたから見てきた。3種類もあって、詳しく聞いたらわざわざ中身を見せてくれたのだけれど、どれも美味しそうで選べなかったんだ」


 そっか、3種類を制覇してきたのか。待て、なんで呼び止められてるんだい。

 たくさん食べるからカモだと思われたのか。


「そこそこいい宿なのに、ここって店員からの売り込みがあるの?」


 それなら、場合によってはちょっと宿変更も考えないと。ラッシュさんで儲けようとか考えるヤツは私の敵なんで。

 でもなぁ、私の対応した人達は礼儀正しかったよなぁ。変なのが混じってるのかな。


「いや、売り込まれてはないよ」


「えっ」


「売ってたから、見てきただけ。俺が」


 …お腹いっぱいなのに、売ってるお弁当見て立ち止まっちゃったの? しかも自ら、詳しくお弁当の中身を聞いちゃったの?

 食いしん坊…あ、いや、成長期で食べ盛り、うん、問題はないですけれど。

 朝のパン祭りでも、実はまだ満腹じゃないのだろうか。ステーキまで食べてたのに。

 ラッシュさんの胃袋、ブラックホール説が出てきたぞ。


「…さすがに今は食べないし、1つはフランの分だから」


 あ、考えてることがバレた。

 拗ねるかと危惧したが、ただ恥ずかしそうにお弁当を荷物にしまうラッシュさん。和む。そそくさしなくてもいいのよ。

 しかも私の分も含まれていたのだね。

 選べないとか言ってたから、てっきり全部君のものだと思っていました…。




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