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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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バニーの巣を発見



 観察していてわかったのは、やはり如月さんにとって「視界に入らないものはよくわからない」ということだ。


 魔法の気配がするネックレス(仮)についても、恐らくうっかりと蟻の足先とかがチラ見えした結果だろう。でも、彼女は今までは少しも感じなかっただろうネックレスの気配について気に留めていない。なぜ急に感じ取ったのかと、疑問には思わない。

 つまり「見えればわかる、見えなければ気付きもしない」というのは彼女にとって当たり前。何も不思議なことではないのだ。

 きっと「ネックレスがたまたまチラッと見えたのね」くらいにしか思っていないから気にしないのだろう。


 そして「見えていれば万事オッケーなのよ」と愚直に深い信頼を置いたその姿は…私が、防衛システムたる身体強化様へ捧げた信頼と似ていた。

 はたから見ていると思考停止している様が滑稽すぎる。

 絶対に後で「ば、馬鹿な!」って三下ぽいこと言う羽目になる。


 人のふり見て我がふり直せ、だね。危なかった。

 知らずにしていた慢心に気付いて、恐怖に手が震える。大丈夫、まだ巻き返せる。負けてない、負けてないよ。


 身体強化様も「視界に入っていなければ」自動で回避はできない。

 この共通点がやたらと気になっている。

 だって、私のこれはチートなのだもの。


 心を読むのはサトリさんの専売特許だった。そしてサトリさんは確実な人外。

 実際はどうなのだろう。

 如月さんのあのピンク髪はコスプレイヤー感が強くて…私の中ではどうも2.5次元の人なのだ。


 つまり、その…本当はチートをもらった、ただの人ではないのか、なんて。

 もしも本当は人間ではないとしたら人外ぶりは種族性依存ではないのだろうか。人間には絶対に持てない能力を種族的に持っているのではなく、その能力自体はこの世界にある?


 私がチートだと信じていた身体強化は他にも使える人達がいて、しかも凄く頑張ったらアンディっ…、…シュさんは自力で得た。如月さんがかけた呪いも、かつては魔物が使っていた。今でも打ち消す薬が作れた。

 まるきり同じではなくとも、彼女のものと似たような能力は現存するのだろうか。


 または如月さん自身が、人外に見せかけた、生まれつき各種チート持ちのただの人なのか。

 いや、あんなチート持ってりゃ十分人外なんだけれども。

 もっと根幹の部分で作りが違う生き物なのかと思っていた。だから、少し戸惑う。

 種族的に敵わないのだとしたら村人が魔王に挑むようなものだが、チートを封じる術があるのなら、勝てる道も見えるかも知れない。


 魔法の気配なんて見て察知するなら…鑑定系っぽいか。「視界に入っていなければ自動で判別できない」チート、及び「視界に入っていなければ自動で心を読めない」チートということなら…能力の大小なのかも。

 そう、(大)とか(中)とかサトリさんが言っていたヤツ。あれは、お買い得レベルの説明ではなかったのか。

 …あぁ、また私は考えが足りずに…生まれる前にもっとサトリさんを追求しておけば良かった………か、な…? そこまでの先読み、私ごときに限らず常人に出来たことかしら。

 生まれる前なら、もしや許されるのでは。赤子的ノーカン。


 如月さんは姿を見ないと心の声が聞こえないが、サトリさんは見えない場所から呼んでも聞こえた。彼に死角はない。しかも結構な距離があっても届いた。

 それに私が食って掛かるのを周囲の一般人に気付かせないようにしていたり、さらっと人混みに溶け込んで行ったりと隠密性も抜群。

 街中で誰にも自分の存在を知られずに、ターゲットを暗殺することも出来るだろう。

 あれこそが、種族的に勝てないってことなのだろうと思う。


 しかし如月チートは目で見えることが重要。もしかして目視はオートで発動するチートにおいてのルールなのかな?

 そうか、だとすると如月さんに目隠しをすれば勝てるな!

 …あるぇ、なんか猫に鈴を付けようとする鼠の話みたいになってきた。

 んん?

 ということは、目が見えないとオートチートは使えないのかな…え、むしろ盲目の人にこそ必要な機能の気がするんだけども。

 だとしたらコレ、神などいないわ、マジで。


 何にせよ未だに反応しない様子を見るに、如月さんは襟の下に隠れた蟻とシャツ下のネックレスとの区別はつかないし、自分の背中に回った蟻の「魔法の気配」には気が付けない。

 それを「大したことではない」とは、私は思わないね。


 キラキラーンとは、然して重要そうな話はしなかった。

 そんなに食いつく様子もなく城の様子をさらさらと簡単に聞いて、あとは他愛ない会話でまったりと酒盛り。華麗なる闘牛士は期待を持たせるような素振りで赤い布をヒラヒラと振って気を引き、当然のように高いものばかり奢らせておきながら「この後は寄るところがあるの」と送り狼さんを躱しきった。

 …この道ウン十年のベテラン悪女の気配。

 明らかにプロの犯行であった。


 だらだらとどうでもいい話ばかりするものだから、結構な時間が経ってしまっている。重大局面だと勇んで蟻んこに全力投球したのに、私は今、少しダレています。

 どうでもいい話を何時間も盗み聞きするのは結構な苦行。私は張り込み刑事(デカ)には向かないようだよ。こんなの、集中力切れて大切な話も聞き逃しちゃう。


 体感では、もはや深夜帯と言っていい時間のはず。そして、この世界の人々は、大抵が早寝だった。

 オールナイト上等の夜遊び人種もいるけれど、それは決して普通のことじゃない。つっぱれ高校ロケンロォルな不良なのだ。

 健康優良児のラッシュさんには、夜更かしはキツいかもしれない。しまったな。先に寝ていてもらうべきだった。うとうとしてたら可哀想。今、何時なんだろう。


 今からでも、先に寝てていいよって言ってあげたい。そんな気にはなったけど、ここで本体に意識を戻して会話をしている間に、見逃し聞き逃しをしたくはない。耐えたあの苦行が無駄になる。

 如月さんがキラキラーンとダベるためだけに街中へ出て来たなんて思えないもの。

 このまま遊んで帰ったら、ただの暇な人だよ。


 キラキラーンと大した話をしなかったのなら、言い訳ではなく、このあと本当に寄るところがある可能性があるよね。

 ドンブラコかホイコーローか…いや、蟻部隊によると彼らは通常営業…つか寝てますわ。誰か他の協力者と会うのかもしれない。


 …あれだけ各所に蟻を振り撒いたのに、今、蟻達は私に何も異常を告げてこない。

 こちらとゴッツンコ予定のある蟻はいないのだ。

 もしもこれから誰かに会うとすれば、蟻が付いていない人間。

 こちらの監視が付いていない、ノーマークの人間だ。この局面で。


 どういうことですかね、本当。

 帰り道も見逃さずにいたいので、やっぱり幼馴染に声をかけることはできなかった。


「キサラギ殿、こちらです」


 あっ、ほらね、案の定!


 声をかけてきたのは、ラッシュさんよりもう少し年上そうな男だ。

 目に見えてそう思うのだから、老け顔なのでなければ、この世界的には成人済。前世感覚で言うと少年寄りなのだが、成人している以上は少年と呼ぶべきではない。だが青年というには、少し若い。

 しかし実際の態度は落ち着いていて、新社会人的なフレッシュ感はないから…貴族かな。


 路地裏の物陰からチョイと顔を出した様は、暗がりなので少しホラー感がある。

 如月さんは驚いた様子もなく彼に付いていった。

 もしかして、元々待ち合わせていたのだろうか。

 この時間に合わせて、キラキラ酒盛りを切り上げたのかな?


 2人は、私の考える「悪巧みに相応しい、薄暗くて顔の見えにくいバー」に入った。キタコレ感が半端ない。大きな手応えについ本体の指がピクリとしてしまい、繋いでいたラッシュさんの手も驚いたようにビクリとした。連動式ビクリだ。すまないねぇ。

 相手は確認に如月さんに見せた後は、フードを被って顔を隠している。これは…お忍びかな。如月さんは誰かに行動を訊かれたらキラキラーンとの密会を目隠しに使うつもりなのでしょうか…アリバイ作りした感じか。


「コムレット。あれは持ち出せたの?」


「はい。衛兵は買収しておいたので、しばし時間が稼げるかと」


 誰なんだろう、こやつ。

 悪巧みの会はキラキラーンが最年少だったはずなのに、急に更新した。しかもなんかキラキラーンより悪そうなこと言ってる。

 キラキラ口説くだけのキモいアイツの存在意義を思わず心配し始める私。ぼったくりのキャバクラかしら、軽く話しただけなのに高いお酒を奢らされて…って、そうか。アイツ、ATMなの、か…。

 そうよね、こっちのがキラキラーンより頭も良さそうな顔してる。仕事中にいちいち口説かれるのもウザいだろうし、キラキラーンはいずれ捨て駒となるかもわからんね。金の切れ目とかで。

 しかし、この男子の存在は本気の謎。少なくとも私が盗聴蟻を配備してから今までは、こんな男は参加していない。何者だろう。なんで唐突に出てきたのか。

 眉の辺りを寄せたつもりになりながら、右前足を顎の下にやる、蟻。


 うーん、幾ら考えてもわからない。今生の脳ミソは優秀だから、忘れていたって頑張って絞り出せば思い出せるはずなのだ。ならば、やっぱり見覚えはない。

 でも部下っぽいよね。

 一応、こいつにも蟻んこ付けとくか。蟻は丁度2名分空いていたところよ。


 如月さんの背中からでは視界が確保しづらい。慎重にピンクの毛束を登り、耳の後ろ上辺りに潜んだ。落ちた横髪を耳にかけたりしないように、ちょっと支えてあげますね。蟻ピン。

 よし、ここから密会相手ドットコムさんの肩に蟻を…うっ、如月さんの目がさりげなく周囲を見回して警戒している。ここで蟻を作成したら、彼女の視界に入ってしまいそう。

 魔法の気配がする蟻を見つけたら、さすがに放っておいてはくれないだろう。

 彼女は笑みを崩さず、見るともなしにスイッと見渡してる。


 さっきとはまるで違う。

 やっぱりこっちの密会が本命なんだわ。

 共にいるのを見つかってはいけない相手…或いは、まだ、接点があると知れては都合の悪い相手…?


 今は見つからないことが最優先だな。

 それでも、どちらにも蟻を付けねば始まらない。やれる、出来る、天使が付いてる。

 本体の手を握っているはずの幼馴染を思い浮かべ、勇気を出す。


 床に蟻を作って、ササッとドットコムさんの足元へ。

 右ブーツと左ブーツの間でちょっと待機し、しばし様子を窺う。


 如月さんは足元には気を払っていない。

 よし、行ける。

 右ブーツの内側を駆け上がり、蟻は膝裏のズボンのシワに住み着いた。やってやった。

 今見つからなければそれでいい。歩き出せばマントが目隠しになるから、背中側からどこにでも移動できる。


「カロッソも道半ばで、無念だったことでしょうけれど。貴方のような優秀な息子を残したことだけが救いね」


「冗談でもやめて下さい。あれは救われるべき男ではありませんから」


 心底嫌だという顔で吐き捨てるように言われても、如月さんは笑顔だ。

 カロッソ…なんか聞き覚え…あれだ、ファントムさんで必殺(おしごと)してきたジーサンだよ。

あれの…え、息子?


 …ジジイの息子がラッシュさんのちょい上世代なわけなくない? 孫じゃん?

 と思うということは、母親が若いのか。

 うわー、権力への妄執を抱えたジーサンに好色のイメージまで付いた。あんまり知らん人だから罪悪感が掠めたりもしていたのに、綺麗に消えたわ。結果オーライか。


 貴族は政略結婚が主流だから、そもそも早婚が多い。親があまり目を掛けない三男四男であろうと、真面目に勤めれていればうまく上司が世話するものだ。

 罪人でもなければ、全ての人が見放した貴族男子というのはそうそういない。優秀であれば尚のこと、血を絶やさないようにと周囲が協力する。自分の家にもそうしてほしいからね。情けは人の為ならず、だ。

 トリティニアなら未開の地がまだありますので、領地として与えて開墾したい観点から、貴族男子の増量は王家的にも大歓迎。成り上がりたい人はトリティニアが狙い目よ!


 …話、逸れたわ。

 そういうわけで嫁が来なくて行き遅れる嫡男というのはあんまりないので、当主なジジイの幼妻というなら後妻か妾だ。

 ジジ専でハッピーな幼妻とwin-winの関係だというのならいいのだが…まぁ、ないよね。


「私としては貴方が加わってくれて嬉しいわ。カロッソの力が必要なことはまだあったの。人脈はどうにでもなるし、貴方なら変わらずに家の力が使えるもの」


 ドットコムさんは曖昧に頷く。

 そんなにジーサンの家名は計画に有効だったのね。ファントムさん、いい仕事したわ。

 でもジーサンを必殺したせいで、その息子が繰り上げで仲間に加わっちゃったので、結果はトントン。

 ジーサン、優秀な息子の話なんて全然してなかったのにな。自慢の息子がいる割には、自分が力を持つことばかり考えていたような。

 あ、それで息子からは嫌われて、あの辛辣な台詞に繋がるのね。


 息子に当主を譲って、自分は玉座に最も近い権力を得ようとしたのか。

 そうなれば息子も従えてるから、より一層やりたい放題ってことよね。

 既に影響力は大きい様子だったのに、欲には際限がないということかしらね。


 会話しながらも、彼らは決定的な言葉は言わない。

 察するところから何かの計画は進んでいる様子。


 話の当初に出ていたもの。

 手に入れた、何か。


 忘れられた姫君はここにおりますので、どうやらそれ以外のようだけれど。一体何を手に入れたのだろう。

 国を手に入れるために必要なもの。

 私が思い付けないでいる間に、長くはない密会は閉会された。お世辞も雑談もあったけれど、キラキラーンとは段違いに短い。


 如月さんが先に店を出るようだ。

 今夜は隠れ家まで突き止められるか。


 ドットコムさんのこの後は気になるが、私の意識をちょくちょく切替えて肝心の隠れ家を見逃しては本末転倒。二兎を追う者、一兎をも得ず。

 今夜は予定通り、如月バニーに絞って見て行きます。


 そうして私は、バニーの巣を特定することに成功した。

 …案外近い宿に泊まってた。こ、怖ぇ。

 そりゃあ安宿には泊まらないだろうけど、どこかの貴族の屋敷に匿われていると思っていたから、これはちょっと予想外でしたわ。




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