表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おるたんらいふ!  作者: 2991+


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

207/303

キラッ☆と密会



 ラッシュさんが私の手を握っている。

 照れた様子は見られない。

 赤面境界は相変わらず気になるが、今は私も真剣だ。

 まったりとお話ししている途中に訪れたのは、蟻さんからのお呼び出しだから。


 どうやら、キラキラーンが如月さんに会いに行くらしい。これは、見逃してはならない重大局面のカホリ。


 もしかすると彼らの話の中で、これから取る行動がわかるかも知れない。

 いや、そっと蟻を如月さんに移すことができれば、もう満点。くっついていくだけで潜伏場所を見つけられる。

 それどころか…うまく行けばファントムさんで如月さんを奇襲できるチャンスが!


 ところでセレンツィオとキャロット…カロ…カカロッ…えぇと私が仕留めたほうのジーサンという妄執悲願ペアを失った後の女王派は、ちょっと不思議な動きをしていた。

 キラキラーンは如月さんの言いなりになって自ら仲間を売ったのだから仕方ないとして。


 ドンブラコっぽい名のオッサンは軍属っぽい。覗けば大体ムキムキパラダイスの中にいて、昼間は訓練らしく外で部下を怒鳴り付けている様子が見られる。

 筋肉村の住人ゆえか軟弱そうなキラキラーンのことがあんまり好きじゃないようで、なんかよく突っかかっている。


 だから今回のキサ☆キラ仲間割れイベントには誘われなかったものと思われるのだが…セレンツィオが死んだことを知っても「そうなの? ふーん」って態度だった。

 …君ら、仲間じゃないの?

 人目の有るなしでは態度が変わらなかったことから、本気で自分には関係ないと思っているみたい。豪胆なのか脳筋なのか。

 更にはこんな状況でも身の危険を感じないのか、夜も以前と変わらずにパーティーを満喫している。厳つい見た目に反しての社交好きっぷりは、てっきり王位に付いた時のための根回しかと思っていたのだが…よく見れば継承権戦線には特に関係のなさそうな集いをルンルンと渡り歩いていた。

 どうも自ら玉座を狙うというより、革命者に付くことで、国が引っくり返った後に立場を引き上げてもらって、軍部を自由にしたいって感じ。


 続いてはセカンドジジイ…ホイコーローみたいな名前の方。どうやら、こちらもセレンツィオ邸襲撃を知らされてはいなかったのだろう。無関心なわけではないのに状況を理解できなかったらしいホイコーローは…急激に現王派を警戒し、すごく鳴りを潜め始めた。あっという間の籠城だ。

 これくらい慎重でないと、長年捕まらずには過ごせないのかもね…。

 もう、家から一歩も出ないぞ!って感じ。

 すごく、自宅を警備していると言わざるを得ない。


 とはいえホイコーローは元々あまり登城はしない。城勤めではないのだ。そうすると、本人は国の中枢に食い込んではいない立場。

 大抵が建物の中で書類仕事か指示出しをしており、一番動きがないためセレンツィオ同様に熱心には観察していなかった。

 なので何をやっている人なのかはイマイチわからない。ただ…たまに窺う様子は貴族らしくなく、むしろ商人に見えるのよね。

 もし城の出入り業者だとすれば、貴族や軍人を押し退けて玉座に座りたがるとも考えにくい。利権狙いかな。


 もちろん全員が玉座を狙っていた可能性だってあるけれど、現実的に考えれば、トップを狙っていたのはやはり没後ペア。彼ら自身がなりたかったものが王なのか傀儡政権の裏方かはわからないが、如月さんがいる以上はお飾りの王様としてテヴェルを据えるよね。

 そして彼らは政務を取り仕切る。そのはずだったのだろう。


 そんな官僚的な人材が失われた今、テヴェル政権で実際に政務を執り行いそうな人、いなくない?

 下っ端はいいさ。仕事の内容も、細かく選別すれば、向いてる分野だけ振るってこともできるだろう。歯車は替えがきく。

 だが首脳陣は駄目だろう。適当に取り替えると、国が混迷を極めるよ。


 そうなると、如月さんという軍師を片付けることができれば、もはやトリティニア帰還は目前だと思えた。

 なんせ軍師を仕留められれば、残りは色ボケ、パリピ、ヒッキー。急にハードルが下がった気がする。 もちろんまだポツポツと粛清対象はいるのだが、以下はそれこそ有象無象の域だった。


 担ぎ上げる旗印とそれを用意・操作する人外を失ってしまえば、キラキラーン達だけで出来ることなど正直、何もない。

 侮りでも冗談でもない。だってホラ…もしも出来る子達だったなら、とっくに現王政権が終わってますでしょうから。


 ただ、彼らは忘れられた姫君が現存しているという情報を共有してしまっているから、見逃してあげるなんてことはできない。

 チートもない小悪党どもならば、今でもサポート蟻が付いているのだ、隙を見てファントムさんだけで暗殺可能。勝ちしかない。


 むしろ気になるのは…如月さんが、ファントムさんで暗殺可能なのかどうかだ。


 私はあの時、心の声ってなんぞ?と思う勢いで攻撃を躱された。

 右手で殴るぞぅとか思ってやってるなら仕方ないけど、自分では何かを考えてるつもりもないのだもの。

 むしろ無心に剣を振るったつもりが全部空振りだった私の気持ち、わかる?

 罪悪感も何も飲み込む腹を決めて、我が手で殺ったらぁ!って心を鬼にして挑んだ結果…


 おるたんしあの全力アタック!

 ミス! おるたんしあは如月にダメージを与えられない!

 おるたんしあの三連攻撃! 如月はひらりと身をかわした!


 そんなエンドレスよ。

 溜息出ちゃう。


 そう簡単に殺されてくれるとは思えないが、ファントムさんは所謂着ぐるみ。本人に自我などないので、読心は出来ないのではないかという期待がある。

 如月さんは中の人を見破れるだろうか。

 襲撃の際は無言、もしくは私によるファントムなりきりチャットだよ。


 リスターやラッシュさんが直接対峙しなくていいならばそれに越したことはない。

 ファントムさんならばもし負けて重傷を負っても靄に返るだけ。罪悪感や混乱や心配で私が発狂する可能性もないし、素早くその後の対応に移れるはずだ。


 外装がサポート製品であっても、内緒のお出掛けはしない約束が追加されていたので、幼馴染へと素直に出陣を告げた。

 結果、彼はお留守になる私本体の見張りを買って出てくれました。


 ベッドで横になった私の側に椅子を置き…寝かしつけ係のラッシュさんが手を握っているのは、意識を本体側に引き戻したい時、つまりは非常事態が起きた際に合図を送るための保険だそうだ。

 …ん?

 あれ、別にコレ、手は握ってなくてもいいんじゃない? 病で心細い人の看病でもなし、倒れた人が心配で握ってるでもなし。

 異変を感じたら、その時に頬のひとつもペチペチしてくれたら、普通に戻ってこれらると思うんだけどな?


 …ま、まぁ、せっかく手を繋いだのだから、これはこれでいっか。

 真面目な顔をして見送るラッシュさんに「行ってきます」以外の言葉など言えないのですよ。そんなわけで、行ってきます。


 気を引き締めて、蟻の視界に切り替えた。

 複眼が捉える周囲の様子…、…真っ白です。

 え、何、蟻カメラ壊れました?


 不安を抱きつつ聴覚も渡してみる。

 うん、こちらは感度良好のようだね。忍んでいる様子もない足元からの1人分の靴音、それに周囲からは壁を隔ててはしゃぐような賑やかな声や音楽が聞こえている。

 …更には「本日は竜の息吹、入荷してますよー」なんて呼び込みの声まで。竜の何とかシリーズって、お酒だったよね。

 待ち合わせ、酒屋なの?

 耳を澄ませば聞こえて来る男女の会話も、何か色気のある話の…うっ、こ、これはホステスに囲まれたカモられている男!?

 お財布、御愁傷様です。

 えぇー、ここ…歓楽街なのかい。如月さんが居酒屋になんて行くとも思えないんだけど、お高いお酒で懇親会なのかな?

 呆然としつつ、モソモソとキラキラーンの肩甲骨辺りを目指して蟻は移動した。


 不意に開けた視界。ふわりと外気にさらされると同時に、店々の入り口にかけられたたくさんの明かりが 夜を照らす。

 通りはむしろ閑散としており、賑やかに思えたお客達というのは、既にそれぞれが目当ての店に吸い込まれた後のようだ。

 蟻さんの足元だけが、変わらずに白い。

 真っ白な視界は、布がふんだんに使われたキラキラ服のせいだった。


 辿り着いた先、今夜の会合の場は程よく賑わいを見せている。人目に付くことを欠片も恐れぬ彼らが選んだのは、高級そうな酒場だった。個室でも予約してるのかな。

 悪巧みをする人ってものは、町外れの廃屋とかそういう場所で会うもんだとばかり思っていましたよ。


見渡す周囲に誰かの影は見当たらないが、私が意識を移す前の蟻は、ちゃんと服のシワに埋没して隠れていたようだ。私も同様に、布地の陰に隠れよう。

他人からは見えずに、こちらからは見えて聞こえる、そんな都合のいい場所を探してまた移動する。


 キラキラーンは自分をイケメンだと思っているので、自分が映える服装をすることにも余念がない。具体的にはフリルやレースだ。

 だから身軽なそこらの冒険者とは違って、纏うヒラ布にはたっぷりと余裕がある。

 小さな蟻程度、隠れ場所には困らなかった。


 蟻んこは襟下に潜み、如月さんとキラキラーンの密会に参加する。

 テヴェルがいないな。

 邪魔だから置いてきたのかな。なんか如月さんを取られたような気になって、キラキラーンに嫉妬して計画をワチャワチャにしそうだもんね。私でも予想がつきます。

 不思議な生き物だよね、クズって。どうして根拠もないのに自信満々なんだろう。


「これで貴女様の計画を阻む者はいなくなりましたな。殺しても死なぬような爺めが病であっさりと逝ったのは予想外でしたが、日頃の不摂生でも祟ったのでございましょう」


 如月さんの手を取って、その指先に口付けるキラキラーン。うわぁ、マジキモ。

 ドン引きもいいところの私とは違い、如月さんの口許がゆったりと弧を描いた。

 え、それ嬉しいの? ホントに?

 理解できないわー。何かな、リア充的にはオッケーな感じなのかな。口調もキモくね? 拙者デュフフな感じじゃね?


  そもそも私、キラキラーンのダラダラした長髪が受け付けないのよね。邪魔にならぬよう後ろで一本にでもキチッと結べ。もう何なら丸刈りにしちゃえよ。頬に流れた髪をそっと耳にかける仕種が絵になるのは、美女かゴールドエイト先生だけなんだよ。

 しょっぱい顔になっている(つもりの)蟻は、じっと布の下で気配を殺す。


「王の派閥に与している者達も、これで少しは貴方を信頼したかしら」


 「さて、それはどうか…私は長く中立の立場を見せておりました。真に仕えるに値するお方かを見定めている、と。ああも質素を好む王というのは、どうにも私の美学には合いませぬもので」


 ちょっぴり王様に同情を抱いてしまう。

 宝物庫が開かないせいで、周りから貧乏性に見えてしまっていたのだな。

 贅沢をしない王は税を無駄にしない反面、国の経済活性化に貢献していないと取ることも出来る。特権階級が、吸い上げた財を溜め込むことは、確かに推奨はされない。


 多分、王様は溜め込んでないだろうけどね、自転車操業で…。

 宝物庫解放に湧いて私達を放ったらかしにした様からも、本当にカツカツだったんだろうなと感じられた。干ばつの村で井戸を堀り当てたみたいな空気だった。


「そう。けれど、構わないわ。多少考える頭があったところで、私達の侵略を防げるものではないわね?」


そっと距離を詰めたキラキラーンは如月さんの細腰を抱き寄せた。

これは蟻んこ大ジャンプのチャンス…いや駄目だ、さすがに飛べばキラキラーンから見えるかもだし、動くものは気を引くかな。滞空の間に如月さんが掴んで握り潰す可能性もある。蟻を素手で。

…向こう側に新たに蟻を生成するか。

それに如月さんもキラキラーンにくっつかれては嫌だろう。うまいこと言いながらすぐに押し退けるに違いない。


「仰せのままに、私の女王」


 頭上が陰り、思わず目を逸らしたところでリップ音が。あるぇ、ちゅーを許す仲なの?

 うおぉ、鳥肌が。

 ハニーと拙者のラブシーンか。何だよ爛れた雰囲気出しおって。主従プレイか。うちの純真な幼馴染には見せられたものじゃない。


 だが、チャンスは今しかない。

 間近に寄ったナイスバディへ目を向け、素早く蟻2号を作成。新たに作られた蟻は、大急ぎで如月さんの背中側へと走る。


「…ここで頬ですか。つれないお方だ」


「簡単につれる女もつまらないのではないかしら? 貴方なら、私の退屈を理解できると思っていたわ」


「もちろん、城壁は高いほど乗り越え甲斐があるというもの。特に女性に関しては」


 キッモ。マジ、キッモ。鳥肌が顔まで…あ、心配されてるよ、ラッシュさんに本体のほっぺがナデナデされとるじゃないですか。

 それ、逆毛じゃないからね、そんな一定方向に一生懸命撫でてたら直るってもんじゃないよ。今は視界がこっちなので、どんな顔して撫でてるのか見えないのが残念だが、むしろ心の逆毛が直毛ツヤツヤになったよ。

 ついでに本体の鳥肌もおさまったようだ。


「まぁ、今は急ぎません。楽しみがあるから、頑張れるのですから」


 参ったわ。まだ続き見なきゃいけないんだよな。これ、恋の駆け引きのつもりですの?

 打算とセクハラの綱引きじゃないですか。やだわぁ。これが純愛ですとか言われたら、さすがに私は鼻で笑うよ?

 純の字を百万回書き取って、除夜の鐘百万回聞いて出直して来て!

 あー、今すぐ本体に戻って隣の天使にハグして癒されたいわぁ。


 憂さ晴らしに、襟裏でボタンを留める糸を蟻が噛む。強きこの顎の力を見よ、襟元たるーんのダサい着こなしとなれ!

 あとで第三ボタンももいでやるぞ、カッコつけてるのにボタンの取れたことにも気付かぬ姿をさらし、評価が「実は気のきかない男」に成り下がるがいい!


「…何か付けているの?」


 ガッと襟元を掴まれた。

 ピタリと動きを止めた蟻の聴覚に、如月さんの不思議そうな声。


「この辺から少し魔法の気配がするわ?」


「…あ、あぁ。それならネックレスではないかな? 一応、守護の石だそうだから」


「そう。ならば、きっとそれね」


 見るかい、結構だわ、なんて会話が耳を素通りする。蟻はボタン裏で切断済みの糸に噛み付いて支え、バレそうなタイミングでのボタン落下を防ぐ。

 う、うわぁ、魔法の気配とかわかるんだ?

 人外さんマジ人外。


 でも、自分の背中にくっつけた蟻の気配はおわかりではないの?

 今のところ叩き潰す様子もないけど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ