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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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小舅君



 お気に召さない、とその目が言っている。

 両端を笑みの形に吊り上げた口も、意味をなさないほどに明確な苛立ち。


「わぁ、まさか今まで気付かなかったとでも? それは驚き」


 チヤホヤされて、それが当然と思い込んじゃったのね。で、それって貴女が鼻で笑ってるそこのテヴェルと何が違うの?


 如月さんがビュンと音を立てて剣を振るった。攻撃に転じた。余裕の顔を崩して、そう、耳に痛いお話は黙らせるの。

 ねぇ。貴女達って本当によく似ているのね。


「黙りなさい、オフランシア!」


 スピードに任せた攻撃は、私と似た系統なのかもしれない。

 まぁ、腕力をメインに据える女子は少ないかな…どちらにせよ私も如月さんも、その気になれば腕力頼みの戦闘スタイルも選べそうよね。


 連撃も、見えてさえいれば躱せる。

 隙を突いて勢いよくパレットナイフを叩き付けてやるが、相手の武器も細剣のわりに妙に丈夫だ。壊れそうで壊れない武器対決。


「おフランは知っての通り、いつも心はお喋りなのですよ。これはもうチャームポイントですので、諦めていただこう!」


 あー、読まれるって不便だな。

 何も考えずに攻撃すると言っても、難しい。だって、わざわざ右だとか左だとか考えてるつもりなんてないのだもの。


 耳に痛い金属音の応酬。武器である細剣と道具であるパレットナイフは、本来ならば戦いにならないんだろう。

 道具に逆らわれて、ねぇ、どんな気持ち?


 熾烈なキャットファイトにテヴェルがオロオロしている。なぜか植物もテヴェルの隣でユラユラと揺れるだけで攻撃してこない。

 ひょっとして乱戦では使えない? 敵味方が離れていないと巻き込むのかしら。

 襲え、やめろ、くらいに命令が単純でないと従わないのかもしれない。


「あぁっ! あいつ!」


 唐突にテヴェルが悲鳴を上げた。

 如月さんが飛び退ってテヴェルを背に庇い、周囲を警戒。

 敵襲ではないことに不審な顔をして、テヴェルを見た。


「どうしたの、テヴェル」


「あいつだよ、さっきの男!」


 ラッシュさんは既にこの場にいない。

 さっきの目配せだけでミラクル読心したらしく、さらっと隙を見て蔓延る植物の殲滅に向かったのだ。ごねもしないで行ったのは、多分彼もまた、この屋敷の使用人達が心配だったから。

 そして悔しがるテヴェルの様子を見るに、それは成功した。


「フラン…そう、貴女は囮なの」


 うごっ。一回視界外に出てから飛びかかってきよった。

 ガッと顎を掴まれて目を覗き込まれた。


 あっ、もしかして目を合わせちゃ、ダメなやつ!

 マズイ、操られる…!


「お望み通り、餌として喰らってあげるわ」


 しかし意識に靄がかることもなかった私は、人の顔を掴む悪い手ちゃんを掴み返す。

 私の顎が砕けるのが先か、彼女の手首が砕けるのが先か。より格好悪いのは握られて顎が赤くなっちゃう私の方だがな。


「さぁ、フラン。あの男を殺しなさい」


「無理。私は疑似餌なので食べられません」


 このルアーンシア、お前の腹は満たさぬぞ。

 力業は得意だ!

 折ってやるつもりで全力にてミッシミシに握りしめたところ、顎を掴んだ指より手首を握った私の手の力が勝ったらしい。舌打ちした如月さんが、私を振り払って後退する。

 フハハハ、豪腕系令嬢だぜ、泣けるゥ!


「オフランシア、この私の命令なのよ?」


 噛んで含めるような説得。

 だが、私は今、フリーであった。囚われるどころか、心には不穏の一滴すらピリッともモヤッともムニョッとも来ない。

 一抹の不安が高笑いに変わるほどに、我が心は自由であった。

 そして自由を楽しむ冒険者は、上から目線の命令なんか聞いたりはしないのだ。

 お願いでも突っぱねますがね。


「いやー、そう仰られましても、おフランは天邪鬼なものでして?」


「…なぜ! なぜ貴女は従わないのよ!」


 わぁ、取り乱し始めたよ。

 テヴェルは宥めたそうに一歩進みかけては、しかしまた一歩下がって元の位置をキープし続けていた。何がしたいんだい。

 おっかない顔した如月さんに、声をかける勇気がないのだろうか。

 そうこうしているうちにラッシュさんが戻ってきた。いなくなったとき同様、隠密的にするりと場に入り込んでくる。


「無事?」


「ああ、外は粗方片付いた。残りの魔物も、テヴェルの横の2匹だけだと思う」


 倒したのか。…どうやって?

 私もまた敵方から目を離さずに、ラッシュさんの隣まで下がる。

 おいたわしい服の破れはそのままだが、そこに残る血の跡は乾いて茶色く変色している。

 見える範囲に新たな怪我はないようだ。

 でも蔓に絞められた内出血とかあるかもしれないし、油断しないぞ。


「なぜ。なぜなの。私の能力は弱くなってなんかいないわ…いないはずよ…」


 アイデンティティにヒビでも入ったのか、ブツブツと呟きながら、すわった目をしている。

 なんかホラー要素を感じる。


「セレンツィオ達は戻ってきていないよね。留守の間に屋敷を襲撃したのかな」


 相手が留守の間に別宅を襲う意味って何?

 これが本宅なら、仕事から疲れて帰ってきたら家がメチャクチャとか、大ダメージだとは思うけれども。

 ラッシュさんによれば、雇い主と使用人達は完全にビジネスライクなお付き合いだというから、仲良しが傷つけられて悲しむなんてこともなさそう。


「セレンツィオなら、そろそろ死んだのではないかしら」


 そっとラッシュさんへ問いかけたのに、意外にも如月さんが、素早くレシーブしてきた。

 えっと…レッサノールは特に異変がなかったはずだけど…。

 あれっ、そういや仮眠室で仮眠したままだよね? その後、仕事に戻ったお知らせって来ていない。

護衛なのに、ずっと昼寝してるって、…おかしいよ。何かあったんだ。


 何が読まれるかわからないから、今ここで迂闊なことはできない。

 だが、監視対象が強襲に遭えばさすがに何か連絡が来るはずなんだけど…。


「…そう。セレンツィオではなく、レッサノールに付けた内通者がいるのね?」


 早速の筒抜け。

 内通か。正しくはないが、似たようなもの。

 なるべく情報が漏れないよう息をひそめる私の前で、如月さんは予測という名の揺さぶりをかけてくる。


「いつの間に手勢を増やしたのかしら。けれども、貴女がどう足掻いてもセレンツィオは助けられないわよ。残念だったわねぇ?」


 そっすね、いやー残念だなぁ。

 困った困った。

 さすがの如月、さすきさ。(棒)


 こちらとしては、やっとの思いでジーサン1人を葬ったところだ。

 仲良しでもない敵対者が仲間割れで死んでも、実際には思うところは何もなかった。

 こちらが手を下す手間が省けたくらいだ。


 大体、リスターの時も手遅れだのと言っていたが救助に成功したのだから、今回だってどうだか。セレンツィオも、案外生きてるかもわからんよね。


「…いいえ。死んだわ。そのはずよ」


 直接手を下したのではないのね。

 まぁ、退場したならそれはそれで好都合だ。

 あまりレッサノールに意識は割けない今、深追いする必要もない。

 私にとって彼らは、私自身や幼馴染と秤にかけるような対象ではないのだから。


 こちらの心の中を覗きっぱなしの如月さんは訝しげにしている。

 テヴェルには「悪気はないのにたまに筒抜ける」という設定で接していたかと思うんだけど…もう常時接続を隠す気もないようだね。


「…セレンツィオを配下にして、テヴェルを追い落とすつもりだったのではないの…?」


「えっ、そうなのかフラン!」


 ヒドイ!みたいな顔されても。

 いや、知らんがな。


 植物魔物があと2匹だとして、同時のお相手はラッシュさん1人では荷が重いはずだ。しかし私が手を出そうとするとなぜか如月さんが動く。テヴェルが戦力にならないとしても、こちらが少し不利か?


「セレンツィオは私の敵だ」


 混戦が苦手な植物を場に引き入れて、狭い範囲で戦うか。

 全く。どうして私が女王になりたがってるだなんて思っているの。見知らぬ国で見知らぬ部下に囲まれ、見知らぬ国民の生活のために日々頭を悩ませろ、と?

 そんなことして何が楽しいのか。


 大量の他人の中に放り込まれ、四六時中人目を窺って生活することは、既に多大なストレスだ。ご自宅ですら幼馴染しか近寄らない裏庭が癒し空間だったというのに。


 例え彼が護衛してくれるとしても、こんな寒い場所に無意味に残るなど辛すぎた。

 故郷に戻るためにこそ、今はこんな遠くでも頑張ろうと思えるんだ。

 それを邪魔する人間は。

 私を私欲のために、留めようとする人間は。


「貴女達も。私の敵だ」


「俺は味方だよ、フラン!」


 ご冗談を。私はもう、クズに食い潰される人生なんてゴメンだ。

 ましてや、この世には私の宝物が3つもキラキラと輝いて、至上の尊さを告げるのだ。

離れても、見えなくても、かつて確かに私は触れた。焦がれるだけの幻想ではない、実在する確かな存在が私を支えていた。

 導きの星のようなその輝き。

 それを間近に知ってしまえば、死なないためだけにクズの傘下で諾々と息を殺すなど、望みようがなかった。


「今日の敵は明日も敵。敵の敵も、潜在敵」


 元より人間不信を拗らせて生まれてきた。

 拒絶を込めて相手を睨めば、信じられないというようにポツンと呟かれた。


「…マジ? フラン、攻略失敗?」


 こっくりと頷いて見せる。

 そうですね。

 フラグ管理も問題ですが、育成パートが甘かったんじゃないですかね。


 攻略対象に据えるには私は相当面倒なキャラクターだろう。私の人間不信を逆撫でするクズ属性持ちのくせに魅力値が全然足りてないみたいですし、そもそも知力とか攻撃力も低いですよね。戦い方を学ぶ姿勢もないし、都合のいい幻フィルターを目ん玉に装備していて現実も見ない。王様になりたいらしい割にカリスマなんか欠片もないし。

 そんな甘ったれテヴェルに、私が心を開く未来は、どうしたって見えない。

 それ、私にとってのバッドエンドです。


「…貴女…テヴェルの言うことが理解できるの?」


「できるわけないでしょう。一番側にいる貴女が理解できないのに、ポッと出の私にそんな重い期待をかけないで下さいよ」


 どんだけレベルの高いクズ仲間だと思われてんだい、私は。

 テヴェルはハッとしたように顔を上げた。


「そう、そうだよ、その何だかってヤツの幼馴染なら! フランは俺と赤い糸で結ばれてるはずだぞ!」


「や、ないわ」


「なくない! だって、ホラ!」


 周囲を示されて、私は不利を悟る。

 ポカンとした如月さん。

 警戒さなかのために顔色こそ変えないが、明らかにわかってないア、ラッシュさん。


 あー…。

 赤い糸って、そう言えばこっちで聞かない表現かもしれない。なんで赤いのか、糸なのかも謎だし。


「ね? 繋がってただろ。俺を理解できるのはこの世でフランだけ。そしてフランを理解できるのも、この世で俺だけ。これでハッキリわかったでしょ?」


 隠し通すのは無理だ。

 確信を抱いているテヴェルを口先で誤魔化しても、もはや思い込みの方が勝つだろう。


「…バレてしまっては仕方がない」


「ほら!」


「だが私はノーと言えるトリティニア人! 理解するもされるも、ない。誠心誠意お断りします!」


「な、…なんでぇー?」


 情けない声で呻いたテヴェルの脳内から、何かしら情報を得たらしい如月さん。

 余裕を取り戻した顔で、頷いた。


「そう。貴女も、テヴェルと同じ」


「同じじゃない」


 脊髄反射する私を、如月さんは面白そうに見た。

 これは、さっきまでの煽りに対する仕返しかもわからんね。


「異界の魂を持つ人間。テヴェルが常々いつか迎えに行くと言っていた貴族の娘が、貴女というわけなのね」


 げ。常々とか恐ろしすぎる。全く諦めてなかったのか。

 これだから嫌なのよ。正しさを勝手に思い込んで、他人のいうことなど受け入れない。私の意思も考えも、そんなものは無意味で無価値、自分には関係ないと切り捨てる。

 それなら私に構わなければいいのに!


 駄目だ、落ち着け。「フラン」を保たなくては。

 口の両端を無理矢理上げる。

 仮面が笑えば、気分もつられて上がるはずだ。


「…時間切れね。惜しいわ」


 しかし如月さんが呟いた。

 意図が掴めずに、私は黙った。


 時間切れ。何が?

 まさか植物が動かなくなるのに時間制限が…いや、違うよね。


 理解できないでいるうちに、如月さんの腕がキュッとテヴェルの腕に巻きついた。柔らかな感触を楽しんでいるらしい現金な男は、密着する身体に一気に鼻の下を伸ばしている。爆散すればいいのに。


 うーん、しかし一体何が…?

 考え込む間に、「時間切れ」の原因が姿を表した。

 ピカピカの鎧を身に付けた数人の男。何だと問うまでもない。騎士だ。

 鎧ではない男も数人いるな。


 あっ、小舅君!

 そちらに気を取られた隙に、テヴェルと如月さんは逃走する。逃げるなら私とラッシュさんの方だと思っていたから、呆気に取られて動けない。

 追うべき? それとも。


「追え!」


 小舅君が颯爽と采配を。

 あれ、私達は小舅君から逃げるべきなのか? 如月さん達が逃げたからといっても、敵の敵は潜在敵なんだから、別に彼らは私達の味方じゃないよね。


 ラッシュさんには特に焦った様子はない。

 私には何も疚しいことはないけれど…幼馴染に何か害が振りかかるのは困る。あの日、セレンツィオによる拉致だなんて誰も知らないまま、私達は城から出たのだから。


「…お久し振り? なぜここに?」


 馬上の小舅君は、私を見て嫌そうな顔をした。

 小舅君の選択はどちらだ。敵対か、懐柔か。

 もしも捕らえろと言われたなら、ラッシュさんをアイテムボックスにしまおう。それから全力のダッシュだ。身体強化チョモランマ盛りをすれば、私ひとりなら逃げ切れる。


「セレンツィオ・ディグロフ卿には国家反逆罪の疑いがあります」


 おや。王様チームにはセレンツィオが国家転覆を目論む悪者だということがバレてるみたいだぞ。

 ということは、ここにはセレンツィオを捕らえに来たのだろうか。


「ええ。そのようですが、本人はまだ戻っていないかと」


「キルロ・キーラン卿より、セレンツィオ・ディグロフ卿によって貴方達が城から拉致されたと伺っています。さて、それは真実か、答えていただきましょう」


 キラキラーン? なんで彼がそんなことを…。

 あっ、まさかキラキラーンは如月さんの協力者?

 ついこの前まではご自慢の顔で如月さんを落としてどうこうするって言ってたのに、さては逆に落とされたのか! そして、もしかしてセレンツィオをはめるための手駒として使われているのかもしれない。何という駄目な男。


 しまったな。キラキラーンが直接如月さんと会っていれば、付けた蟻んこも異常として知らせてきたかもしれないけれど…あれに複雑なことはできない。

 夜中にコソコソ出歩くとか、人目を避けるような行動に出ていればオルタン判定にひっかかっただろう。だが、もしも堂々と仕事中に手紙の遣り取りでもするような大胆さで挑んでいれば、蟻んこはそれを「怪しい行動」とは受け取らない。つまり、蟻からの連絡は、来ない。


「真実だ。だが、それを貴方は信じるのか」


 ラッシュさんがさっと前に出て、私を庇うように片腕を広げた。

 嬉しいけれど、否定と肯定、どちらが良いのかと考えてる途中だったのに。

 しゃーない、流れに身を任せよう。


「都合が良すぎないか、とは考えています。そもそも貴方達が城に入り込んだところから、何らかの策略だったのでは? 詳細に取り調べる必要がある」


「俺から見れば初めから、セレンツィオも貴方達もフランを利用しようとする策略家だ」


「ラッシュさん」


 どうした。相手を怒らせそうな物言いに、慌てて私は広げられていた腕を掴む。

 必ず連れて逃げて見せますが、バッサリやられるような行動は避けて下さい。予知夢のせいで、君が危機に陥ることに関して私はナーバスなのだよ。


「宝物庫は開けてもらったんだろう。これ以上、フランに頼ろうとするな。俺は、彼女が城に居なければならないような理由をなくすために、開錠することに賛成していただけだ。陥れても彼女を取り込もうとするならば、黙っている理由はない」


 いや、セレンツィオに与しているか疑われているのでは。怪しいから取り調べるって話じゃないの? なんでラッシュさんは王様が私を取り込もうとしていると思ったんだ。

 疑問いっぱいの私の前で、しかし小舅君は溜息を付いた。


「気付いていたのですか?」


「セレンツィオがフランと接触できたのも、そちらがわざと監視を緩めたせいじゃないのか? 反逆者に事を起こさせておいて、それをフランの非のように上げ連ねて、彼女の逃げ場を塞いで王家に取り込む算段だったのでは?」


 え゛。

 何それ、怖い。

 唐突に王様側の腹黒さの可能性を示されて私は動揺した。

 あれだけ威嚇したのだから、私のことなど最早欲しくはないだろうと思ったのですが。


「…そんな…。そういう嫌な人達だったんなら、死ぬほど困ればいいよね。よし、お城を物理的に破壊しよう。別にこの国で犯罪者になったところで欠片も困らないし、事が終わったら二度と来ないから人生に影響もないし。私、この世で斬れないものがない感じの剣、持ってるよ。伝説になれそうなヤツ」


「フラン…なんかそれ、昔イルステンに見せてしまった剣のことじゃないのか? 熊の魔物を倒したときの。一子相伝だか、使うと寿命が縮むだかっていう」


「ぅわぁ、覚えてたの? 恥ずかしい! まだ最大出力で斬ったことはないんだけどね、元が『宇宙船』の壁を斬れる想定だし、石だの鉄だのに負けることはまずないから、ちょっと今お城斬って来ようかな」


 黒歴史が健在であったことにキャッてなってしまう。

 乙女のように両手を頬に当ててしまった私を見て、ラッシュさんは困ったように微笑む。


「城を建て直すのに税金を使うだろう。良くないと思う」


「あ、そうだね。…まったく、馬鹿な権力者のせいで泣くのはいつも下々だよね」


 貴族令嬢と令息の会話とは思えないな。

 前世平民の私はまだしも、アンディラー…ッシュさんがそういうことを理解しているのは本当、彼の半分が優しさでできているからだと思います。

 見習いたまえよ、小舅君。


 そう思いながら見上げた小舅君は、なぜかドン引きの顔していた。




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