スキマライフ!~クズと私と、王子様作戦
困ったわねぇ。
目の前の現状は、私が立てた計画とは大きく違ってしまっている。
確かに私が引き込んだ共犯者ではあれども、こんな思い上がりをするようでは興醒め。
「地道な作業の方が、良い時間潰しになると思ったのに。用意した駒がどれも反抗的なようでは少し面倒ねぇ…」
セレンツィオは、もうダメね。
フランを捕らえたのはお手柄だけれど、それだけで私に勝てると思っているのだもの。
何よりダメなのは、それを信じて反旗を翻したセレンツィオの取り巻き。諌めるべきところだったわよ、そこは。
困ったわねぇ。
国を手に入れたところで、回す人間がいなければどうしようもない。テヴェルにはそんなこと、無理なのだもの。
散々苦労して王位に付けてあげたところで、革命ですぐに引っくり返る可能性もある。現在の王が正しかったと思われるのは癪。
各種の政務なんてそんなつまらないこと、私が代わってあげるのも嫌だわ。
日々書類仕事だなんてつまらないし、それが国民の生活のためというのも気に入らない。
どうして私が虫の面倒なんか見ないといけないのよ。最終的に巣を壊すにしたって、過程が細々しすぎるのよ。
けれども手を掛けたこの計画が、失敗として終わるなんてもっとつまらない。
最後には私が笑っているのでなければ、おかしい。この低位世界の虫けらどもが、この私よりも優れているみたいじゃないの。
「キサラギぃ、ねぇ、ケモミミ探しに行きたい。ここの女の子達、あんまりチヤホヤしてくんないんだもん」
「あら…生意気だからって植物を付けた娘はどうしたの? 怯えたり泣いたり、ようやく屈したってお気に入りだったじゃない」
「もう目も開けないから、人形遊びしてるみたいでつまんないんだよね。触り心地も悪くなってきたし。植物がチラチラ見えるとちょっと冷めるし」
『からかったり苛めたりも楽しかったけど、なんかこう、愛が足りないって言うか。やっぱ自らチヤホヤしてほしいじゃん? たまに見当違いなことなんかしてもさ、ご主人様のためになると思ったんですぅとか言われたら、きっとアホ可愛いよね』
…わからなくはないけれど、今は不確定要素はご遠慮したいわねぇ。
散々にテヴェルに計画を引っ掻き回された今、私にはアホ可愛い子を愛でられる気がしないのよね。
少し時間を頂戴な。退屈よりもずっとマシなのはわかっているから。
国の中枢に据える人間達を操ることも、できなくはないけれど。反抗心もなく、いがみ合いもなく、ただ政務をこなすもの達を管理するなんて、つまらないわ。人数に際限なく呪えるわけではないし、そういう遊びはとっくにやり尽くしたのよ。
ウェルカーに見つからないように隠れて、狭く深く食い破る…そうよ、昔のウェルカーはこうも無能ではなかったはずよ。
まるで刺激が足りない。
結局は私と同等のものなどいない世界で、蟻の巣を潰すような遊びをしているだけだと気付いてしまった日から。
あぁ、あんなに楽しそうに見えたのに。
所詮は低位の世界なの。
けれどもまだ、楽しめるはず。
私よりも高位の世界から落ちてきた魂が、2つもあるのだもの。
ウェルカーには見つかってしまったけれど…どうにでもできるわ。
来たら壊せば良いの。私達はそのくらいで死にはしない。けれど四肢をバラせばどう足掻いても動けない。
肉体とは便利なようでいて、とても不便なものなのよ。だからこそ楽しい。
それを理解していない今のウェルカーなど、敵ではない。
この世界での私達は、オモチャの身体に捕まっている。身体を細切れにしても、核の側からいずれは再生する。
核は上位世界の半霊物質。ここが下位世界である以上、現存する武器では何をしようが壊しようがない。
例えば私達の世界に持ち帰り、核と意識の融合を解いて処理しなければ、存在を消すことはできない。
次にウェルカーを捕まえたら核だけ抜いて、あとはどこかにバラバラに埋めておこうかしら。燃やしたりしてなくしてしまうよりも、部品を残しておく方が再生に時間がかかる。
近付ければくっついてしまう危険はあるけれど、身体は再生よりも部品を維持するために力を使うみたいだわ。
そうして時間を稼いでいよう。
異界の魂が押し寄せる私の世界の方が、きっと私よりも先に滅びる。そうすれば、私は自由だ。私を真に倒せるものなどいなくなる。
可能性があるとしたら、転生者の異能。
私達はそれを解析できるけれど、手には入れられない。
あれは、私達の埒外のモノが用意している。異界の魂が現れた理屈が私達にはわからないように、きっと上位世界の管理者か何かが与えているのだわ。
でも、大丈夫。
彼らは、わたしが恐れるようなそれを持っていない。
テヴェルは植物を使役することしかできないし、フランは身体強化でしょうね。魔法を使うところは見たことがないし、細身の身体で剣を振り回していた。
あとは、もしかしたら…「第六感」の(小)や「予知夢」の(微)くらいはあるのかしら。大切なものを聞かれるのは良くなかったと思ったみたいだから。
まぁ、転生者といえど異能は2つもあれば打ち止めのはずよ。私に敵うはずがない。
あら、テヴェルの持ってきた女は本当にもうダメね。意識もないし、魔力もない。
宿主の魔力がなくなれば、テヴェルの植物も枯れるだけ。通常ならば魔力を求めて他者を害するのでしょうけど、ここではおとなしくするよう改良してもらったから。
「可愛い女の子ならもうすぐ手に入るのだから我慢なさい。…セレンツィオがフランを閉じ込めているらしいわよ」
「えっ!」
一瞬だけ丸くなったテヴェルの目が、ぎゅうっとつり上がる。
そうよね、フランは自分の物だと、思っているのだものねぇ?
「フランがなかなか来ないと思ったら、あのオッサン…。やっぱり顔を見せたからだろ。年齢差も考えずに惚れちゃったんだ」
顔を見せたからというのは大きいかしら。
本物の忘れられた姫君。セレンツィオが裏切る可能性はこれでなくなったと思ったのに、うまく行かないこと。
「俺、助けに行く!」
『囚われのお姫様は、助けた王子様にゾッコンラヴ! 定番の展開キター!』
一転、何だか嬉しそうなテヴェルの心は聞くまでもない。でも、聞こえてしまうのを止める術はないのよね。
そんなものがあれば、能力が高いはずのウェルカーが実質迫害され、誰もやりたがらない異界の魂の管理なんて仕事に追いやられることもなかったのだもの。
…元の職場の事だもの、よく知っているわ。こちらを見下すばかりの無能が蔓延る、つまらない世界。
はやく、滅びれば良い。
「じゃあ、迎えに行っちゃいましょうか」
私も笑顔でテヴェルに返す。
私の可愛いお人形さん。私からの命令があったとでも言って足止めしたのでしょうけれど、顔を会わせれば当然、私からの命令が優先される。
簡単すぎてつまらないから、やりたくはなかったけれど…いいわ、現王を呪ってしまえば大体が簡単に済む。
セレンツィオは、もう要らない。




