ギョルニョッテは飛べない鳥でした…
結果的に言うと、計画は失敗だ。
幼馴染の防具を金属鎧へ変更することはできなかった。
そもそもアンディラートの防具は鎧ではなく胸当てで、しかもわりと強い魔獣の革を使って作られたものなのだとか。
つまり、ヴィスダード様が息子の成長を見越し、サイズ調整が出来る強めの防具を既に用意していたということだ。
がっくり。
でも、百戦錬磨の戦闘狂に、防具選びで負けるのは当たり前かぁ。私は一応、令嬢枠だもんね。
…だもんね…?(疑惑)
「家を出た辺りでは、まだ結構大きめだったから、鎧みたいなものだったよ」
そんな慰めを言うアンディラートさん。間違えた、ラッシュさん。
別に私は、鎧と胸当てを間違えていたことに落ち込んでいるわけではないのだよ。
いや、胸当てとかいう発想は確かになかったよ。身体を覆う防具は皆、鎧だと思ってましたもの。
でもね、そこじゃないの。
「どうして私はグレンシアで君の装備を探さなかったのだろう…」
この辺は魔獣の脅威がグレンシアよりもずっと少ない。
つまり、それなりの防具しか売っていない。
現在身に付けている以上の防具が、手に入らないのだ。
甘かったよ…幼馴染は優しくも私の提案を受け入れてくれたというのに。まさか、買い替えるべきモノがないとはね。
予知夢様は無情。
そもそも、金属鎧よりも強い革の胸当てとは一体。これが、ファンタジーか…。
一縷の望みをかけて、私は今一度提案を試みる。ここにないなら、あるところで買えばいいじゃない、という作戦。
受け入れられないだろうなとは思う。
思うけど、言ってみるだけはタダ!
「ダッシュでグレンシアに戻って探してくるというのは?」
「そこまでしなくてもいい。俺の防具は良い素材で出来ているのは知っていたし、防具屋でも証明された」
はい、終了。
タダだからって得になるとは限らない。
あろうことか、この天使。着てはいたけど、今までこの防具で直接、攻撃を受けたことがないという。
だから強度がどのくらいなのか、自分でもよくわかんないよ、と言うのだ。
そうだよね、訓練のときは訓練用の武器防具を使うよね。
ガチ装備では訓練しないよね。
だから防具屋で素直に「これより固い装備ください」って言ってみたのだが、あっさり「ねーよ」と冷やかし扱いを受けた。
どれが強いとかわかんないから、プロに聞けば確実だと思ったのに!
想定外だよ、ラッシュさん。
トリティニアはダンジョンもなければ、グレンシアのように冒険者が集まる土地柄でもない。そんなに良いモノは入ってこないと思うのに、ヴィスダード様はお取り寄せかなんかしたのかしらね。
そういや、ラッシュマントもただの布じゃなかったな。それもヴィスダード様が用意しているのだろう。
うーん、息子がこんな遠くまで来るとは思っていなかったろうになぁ。
さすが、戦にかける情熱が違うぜ。
ないものはないので、仕方がない。
私は防具屋で目を皿のようにして、他に役立つ物がないか見つめまくった。
鎖帷子とかどう?
あ、もう似たようなの着てるの。そう。
王様に怪しまれながら外出したというのに、ただのウィンドウショッピングで終わってしまう。焦る。
「あっ、ラッシュさん。あれ食べよう、君は飲み物を調達するんだ!」
「一緒に…!」
「平気、すぐそこ、すぐそこ!」
謎肉の丸焼き…かな。
屋台ではなくレストランで売ってるとは不可思議。しかし、内部席とお持ち帰り用の双方に向けて発信しているところを見るに、あれは人気商品だ。きっと美味しい。
「いらっしゃいませ!」
「2人分下さい。これ、何ですか?」
「名物のギョルニョッテ焼きだよー」
…ぎょ?
駄目だ、正体不明だった。
私は笑顔を取り繕ったまま、追求を諦めた。
お金を払ってから、両手に皿を持ち、幼馴染の元へ戻る。
どうやら私から目を話さないよう注意して買い物をしたらしいラッシュさんは、戻る私をホッとしたような目で見ている。
「オルタ、フラン、勝手に走らないで」
「すぐそこだったでしょ?」
「お願いだ」
「わかりました、ごめんなさい」
お願いならば断る理由は何一つないぜ。
というか、私の安全を心配してのことなのにお願いさせるってどうなのよ。
うおぉ、行動する前に気づかないところが…私のクズ!
悔しいが、ひとつひとつ地道に対応していきたい所存。長すぎる道のり。私、いつか普通の人になれますかね…。
でも、今生で無理なら、もう無理なんじゃないだろうか。来世は側に天使なんていないだろうし。
「こちら、この街の名物料理だそうです」
内心でしんみりしつつも、私は削ぎ落とされた焼かれ肉達を幼馴染に献上した。もちろん心持ち多い方をだ。
パァッとその表情が明るくなったのを確認して、そっとガッツポーズを取る。
成長期は、肉。間違いない。
天使のご機嫌が麗しいのはとても良いこと。きっとバタフライエフェクトで、行き倒れた人が助けられたりしているはず。
「美味しいな。これ、何だろう?」
「ぎょ…るにょって焼き?」
「…本当に何…?」
「わかんない。ぎょるにょって?」
ラッシュさんは一瞬不安そうな顔をしたが、まぁ、この辺に生息する魔獣の一種であろうと互いに頷き合う。
お肉を食べ終えたあとは、ついでに魔道具店へと赴いた。ラッシュさんはここに用事はないらしい。
ええ、私が護身具を諦められないだけなのである。鎧じゃなくてもー!
一度だけ攻撃を弾く魔道具とかないの?
ないか…そんな都合のいいものは。
あれ?
私、なんかそういうもの持ってなかった?
確か…雨具として使用していたアイツ。
大量の魔力を使うために見切り品扱いされていた、マント…!




